第9話 勧誘
高校の学食を使うのは久しぶりだ。100円でポテトフライとか買えたのでよく休み時間に食べていた。オッサンのときのようにカロリーなんか気にする必要なかったしな。とにかくなんでも安い。学生にとっては安さは正義だ。
ユキと2人で食堂に到着する。職員室に寄ってからここに来たこともあり、もう食べ終わったやつもチラホラいて談笑をしている。そういったヤツらには俺たち2人は格好の話のネタになるだろう。食堂は自動販売機で食券を買うスタイルだ。今日はきつねうどん160円と稲荷50円のしめて210円でいいや。
ユキは購買でサンドイッチを買ってきたようだ。周りのざわつきは無視し、席に着くとユキに企画書を差し出す。
「読んでみて。ユキも一緒にやってくれると助かるんやけど。」
集客的に。でもそういう不純な動機で来るやつもいるだろうから、やる気がないやつは辞めてもらうようにしないとな。
「…なるほど。うん、よくできてる。」
企画書を見ながらユキは呟く。
「で、この部活の先に何があるの?確かにこれは、軌道に乗れば学校に通っている人たちにはメリットがあるかもしれないわ。けど、あなたはその先に何を望んでるの?」
なかなか鋭い質問だ。確かに、ここで俺自身のゴールは設定されていない。ただ、今までにできなかったことをやりたかっただけで動き出しただけだからな。
「しょーもないところでうじうじ悩んでるのって時間の無駄やろ?俺へのメリットはともかくとして、マイナスにならんからよくないか?」
俺がこの先に何を望んでいるか、即答はできなかった。俺はこの先、またあの家庭を築く。それまでの間は好きにさせてほしい。今までにできなかったことを好きにやるんだ。そういえば、最近はめっきり子供の夢も見なくなった。
「成功する人っていうのは目標を持っている人らしいよ。おじいちゃんが言ってた。」
ユキの言う通りだ。目標は明確にしておくことでその目標に近づくための行動を無意識に取ったりするものだ。しかし、目標か…
「まだ俺たちは若いからまずは人脈を広げて将来の可能性を拡げておきたい。それでいいか?」
「うーん…自分がいいならいいんちゃう?」
ユキは不服そうだ。確かに、ちょっと逃げてるよな。若いからっていうのは確かだが、その先の自分の像を描いておくべきだ。俺の中にはすでに将来像はあるのだが。しかし、それなりに幸せだったからと言って、あの将来像でいいのか?««今なら何にでもなれるのに»»。
過去には具体的に考えなかった自分の将来像が今は現実感を持ってイメージすることが出来る。今からなら何にでもなれる気がする。俺には20年の経験がある。あるのとないのでは大きな違いだし、それが20年分だ。俺は将来を決まったものと思わなくてもいいのか?
「とりあえず、部は手伝うよ。私も一緒にやる。」
ついつい考え込んでしまったが、ユキは手伝ってくれるようだ。
「ありがとう。ほな、残りの人集めもせんとな。」
しかし、不思議なやつだな。この先を聞いてくるなんてあんまり思いつかない質問だと思う。
「あ、ユキはこの部活の先の目標はあるんか?」
「…内緒。」
「内緒なんかい。」
自分は答えないってなんだよ。まぁいいか。とりあえずは1人確保だ。あとはやはりアズサとリナにはここまでの経緯を知っているのと、まだ部に入っていないことから声がかけやすいので聞いてみよう。
と、思ってあたりを見回してみると、他の友だちと一緒に近くに食堂内にいた。そういえば、他の子達と一緒に飯を食うと言っていたな。こっちをうかがっていたようで目が合った。
「アズサ、リナ。企画書は無事に桑田先生に受け取ってもらえたから、多分あとは部員だけなんだ。良かったら手伝ってくれへん?」
「ユキちゃんもやるんかな?」
ユキは黙ってコクリと頷く。
「じゃあ、私はやろうかな。リナちゃんはどうする?」
「ん〜。ウチはもうちょっと考える。」
アズサは手伝ってくれるようだ。アズサはもともと帰宅部だったから別にいいと思うが、リナはこっちに来ると将来の結婚するラグビー部のヤツと疎遠になるかもしれないのであまりオススメできない。
2人入ってくれるだけでも十分だ。あとは地道な勧誘と部活紹介でなんとかしよう。
部活紹介への参加自体は桑田先生がなんとかしてくれるだろう。久々のプレゼンだ。しっかり準備をしないとな。
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