第8話 企画

自宅に着き、昼飯を食べ、落ち着いたところだ。


さて、企画書を書いてみよう。手書きで書くのは久しぶりだ。社会人になって慣れないうちはまずは紙でラフを書いてからPowerPointスライドに起こしたものだ。紙は方眼紙が使いやすいな。内容はタイトル、活動の目的、活動場所、活動頻度、予算、メンバーってことでいいだろう。目的のところがキモだな。いくら書いても実績がないため具体性がどうしても出せないのが難しいところだ。


タイトルは『相談部の創部』、と。活動の目的は、この高校で過ごす全ての人が、充実した生活を送れるようにすることだ。高校生活は人生80年生きるうちのたったの3年。たったの4%に満たない期間だが、ココロとカラダが成長するかけがえのない時間だ。


そのココロとカラダが健全に成長することを手助けする。80年のうちの3年のところは横軸に80年をとり、ライフステージを書き加えながら、いかに短く、重要な期間なのかを図示する。手で書くのは面倒だが、長く生きている先生方には刺さる内容だろう。


活動場所は、相談の受付、部員との話し合いのために空いている特別教室を1つ借りたい。相談内容に応じて、学校内はさまざまな場所で活動する可能性があることも明記しておく。活動頻度はレギュラーな活動としては週2回。


月曜日に先週の活動報告と今週の方針が立て、水曜日で報告と微修正をする。これでPDCAサイクルを回していく。予算は、紙とポストイット、ペン代があればいいので、少額の申請。メンバーは…ユキ、アズサ、リナが入ってくれればいいが、5人ということなので、それでも後1人足りない。


4月の中旬には部活動紹介があるはずなので、その場を使わせてもらえないだろうか。これは桑田先生に相談だな。一方で誰でも来てほしいわけじゃない。この時代はまだ2024年ほどプライバシーにうるさいわけではないが、それでも相談者の個人的情報を聞いてしまうため、口は堅いメンバーのほうがいいし、少数のほうが管理しやすい。5人で十分だし、Maxでも10人だろう。入部時に守秘義務について一筆書かせることも追記だ。


ラフに書きなぐっていたので、内容が完成してから清書をした。結局晩飯前まで時間を使ってしまった。パソコンが使えないのはめちゃくちゃ不便だな。スマホもないし、スケジュール帳の携帯は必須だな。ってか、部費でパソコン買えないかな。書かずに諦める道理はない。とりあえず書いておこう。


次の日、今日から通常授業が始まる。教室ではまだグループが定まっていないため、誰に話しかけようか迷っているようなそぶりを見せる人が多い中で、アズサとリナは随分親しげに話している。


今回も仲いいね、お前たちと思いながら席に着き、前に座るタクミに声をかける。

「おはよう。今日から授業楽しみやな!」

タクミは怪訝な顔をして返答する。

「え、お前授業好きなん?マジメか!」


なんて雑談をしていると始業のチャイムが鳴る。当時は正直聞き流していたのでよくわからなかったが、しっかり聞くと授業の内容はとても質が高いように思える。さすが進学校だな。いかに自分が時間を無駄にしてたかよくわかる。


そして迎えた昼休み。今日は食堂で飯にしようかと思うがその前に例の企画書を桑田先生に渡すために職員室に寄っておきたい。話している間に食堂も空いてくるだろう。アズサとリナ、ユキにも一応声をかけておくか。

「今から桑田先生のところに企画書出しに行くけどどうする?一緒に来るか?」


「もう作ったの!?でも、今日はクラスの子たちとランチの約束しちゃった!」

アズサとリナは先約があるらしい。まぁ必須ではないからいいだけどな。


「私は行く。」


ユキだけ付いてくるようだ。


またしても美少女を連れ歩く俺…そのうち刺されるんじゃなかろうか。もし同じ部活になったら余計に色々言われそうだな。職員室につき、中に入る。


「失礼しまーす。桑田先生いらっしゃいますかー?」

「おぅ。どうした、八代。まだ何か聞きたいことがあるんか?」

「いや、企画書作って来たんで見てもらおうと思って。」

「お。もう書いて来たのか。見せてみ。」


桑田先生に企画書を渡すとすぐに読んでいく。できるだけ図示することを心掛けたので読むのにさほど時間はかからないはずだ。


「必要なら説明しましょうか?」

「いや、いい。十分に内容は理解できる。よくまとまってるな。あー、顧問が抜けてるな。」

昨日は聞いていないが、確かに顧問の先生は必要だろうな。

「良かったら桑田先生お願いできませんか?」


とっさに依頼してみた。桑田先生は俺たちが卒業した次の年に教頭になる人で、影響力もそれなりに強いはずだ。

「俺か?そうだな、ちゃんと部員が集まったらいいぞ。特に担当している部活もないし、いい活動内容だと思うぞ。特にこの3年間がいかに重要かわかってないもったいない奴が多いからな!」


やはり、そこが刺さったか。あとは部員だ。

「確かもう少ししたら新入生集めて部活動の紹介をする会がありますよね?そこに紹介側で参加させてもらえませんか?」

「なるほどな。入学したてでそんなこと言うやつははじめてだが、別に制限しているわけじゃないしいいんじゃないか?話しておくよ。これ、コピーしていいか?」

「はい、お願いします。」


コピーを取ってもらい、原本は返却してくれた。書くの大変だから助かる。礼を言い、職員室を出た。ユキは特に出る幕もなく、今回もだんまりだ。

「別におもしろくもなかっただろ。付き合わせてすまんな。とりあえず昼飯でも一緒に行くか?弁当?食堂?」

「…食堂。」

「じゃあ、行くか。」


久しぶりの食堂だな!これは楽しみだ!

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