第7話 条件

「相談部ってどんなことやるつもりなん?」

別に問い詰めるというわけではないが、単純に聞きに来たようだ。


「えっと、岸本やったか?まぁ、端的に言うとなんでも屋かなぁ。いろんな悩みを解決するための相談所みたいなやつがあってもええなかなと思ってん。」


高校時代は短い。たったの3年間、150週しかないのだ。人生に悩み、打ち克つ力を自力で得ていくことは重要だが、時間をかけすぎるとあっという間に過ぎ去っていく。俺は過去にこの3年間を何も悩まず、あまり人に関わらず無為に過ごしてしまった。今回は目一杯人と関わり、高校とも関わり、充実した3年間だったと言えるようにしたい。


「私のことはユキでええよ。それっておもしろいんかな?」


「おもしろいこともあるかもしれんけど、結構めんどくさいことが多いんちゃうかな?自分で解決できないから相談にくるんやしな。ただ、課題解決ができるってのは社会に出てから役に立つと思うぞ。」


人と関わらないのは楽だ。だが、社会に出れば否応なしに人と関わる。人が集まればそこに利害がうまれ、課題が出る。それを解決する力を養うのは無駄にはならない。


「もう社会人になってからのこと考えてるん?なんかすごいな。ケイタくんって落ち着いてるし、大人びてるなぁ。」


「まぁ、そうかもな。ほな、部を作るための条件確認したいから職員室行ってくるわ。」

会話を切り上げて席をたつ。繰り返しだが高校生活は短い。今日できることは今日やるべきだ。


「私もついていっていい?興味あるから。」


ユキも来るようだ。そこにリナとアズサも現れた。

「ケイタくん、ウチもついていっていい?」

会話を聞いていたようだ。


「興味あるんやったら別にいいぞ。どっちにしろ部員は必要やし、興味を持ってくれるのは嬉しい。入るか入らないかはちゃんと考えて決めろよ。」


3人で教室を出て、仮設校舎を出る。職員室は本校舎にある。入学初日から美少女3人を連れて歩く俺...目立ちすぎではないだろうか。職員室に着き、ノックをして入室する。


「失礼しまーす。」


うちのクラスの担任、野田先生を発見し、近づいていく。他にも見知った先生はいるが、まずは担任だろう。


「先生、部を作りたいと思ってるんですが、条件ってご存知ですか?」

「あら、本気だったのね。ちょっと待ってね。」

野田先生は学年主任桑田先生に聞きにいくようだ。あの先生は覚えている。古典担当の気のいいおっちゃんだ。一緒に戻ってきた。


「部を作りたいんか?どんな部や?」

「あ、はじめまして、八代といいます。相談部って、生徒の悩みを聞いて解決の手助けをする部です。」


「桑田だ。確かにそんな部はないけど、具体的な活動がわからんな。部にするなら、活動場所と、活動頻度、具体的な活動内容と予算が必要なら予算も組んどけ。あとは、部員として5人必要だな。」


なるほど、まぁ想定内の内容か。特に具体的な活動内容はしっかり書いておくべきだろう。企画書でも書いてみるか。PowerPointを使いたいが去年Windows95が出たばかりで高価なのでパソコンは使えない。手書きでいこう。


「わかりました。一回資料にまとめますね。桑田先生に持ってくればいいですか?」

「おぅ、それでいいぞ。」

「わかりました。では後日、野田先生もありがとうございました。」


礼を言い、職員室を出る。知りたいことは知れたから長居は無用だ。ユキ、アズサ、リナは終始黙ったままだった。廊下に出て、リナが口を開く。

「ケイタくんってなんか堂々としてるってゆーか、動じない感じやね。」

アズサも大きく頷き、続く。

「ほんとに。生徒会でもやってたん?」


「あぁ、まぁ、中学では生徒会長やったよ。」

社会人を20年やってましたとは言えない。


知りたいことは知れたし、今日はまだ入学式のため、学食もやっていない。帰って昼飯を食べて、企画書を考えることにしよう。

「そんじゃ、また明日な。」

3人に別れを告げて帰路につく。リナは同じ方面だから一緒に帰ることもできるのだが、今知っているのは変だろう。


「で、アズサはケイタくん狙いなん?」

唐突にリナが尋ねる。

「うん…一目ぼれだったけど、中身もめっちゃかっこいい…」

うつむき加減にアズサは答える。そして、ハッとした顔でリナのほうを見た。


「もしかしてリナちゃんも!?」

「いや、ウチはタイプではないかなぁ。かっこいいとは思うけどね。部活に興味があるのはほんと。」

「よかったぁ。リナちゃん相手だったら勝ち目なさそうやもん。」

「リナでいいよ。いやいや、アズサに勝てる子いないっしょ。」


アズサはうつむきながら答える。

「そんなことないよ。リナみたいにスタイル良くないし・・・」

「なーに言ってんの!すぐ大きくなるよ。自信持ちなって!」

「だといいけど・・・改めてよろしくね。リサ。」

「こちらこそ、よろしくね。アズサ。」


会話を聞いていたユキはぼそっと2人に聞こえない音量でつぶやく。

「あの人はダメだよ…」


そこで、リナは黙って聞いていたユキに水を向ける。

「ユキちゃんはどう?ケイタくん。」

「私は、そういう対象じゃないから。」

「そっかそっか。なら3人仲良くやれそうやね!」


3人は談笑しながら帰路につく。

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