第4話 順風
「・・・さん、・・・おとうさん!」
夢で見たのは子供の夢か・・・しかし、顔がぼんやりとしか浮かんでこない。もしかして未来の記憶は薄れていく特性でもあるのか?
重要なイベントは覚えているうちに時間を見つけて書き出すのがいいかもしれないな。
俺はそれから様々なIFを試した。中学生の今でしかできないことだ。
俺に好意があると思われる子たちに思わせぶりに声をかけてみた。結果めちゃくちゃ距離が近くなったが、一定の距離以上は入らせない。体が中学生に戻っているからと言って、中学生に対して欲情はしないからな。
サナエとは友達ということで、普通に話をするようになった。聞いてみたかったなんで俺のことを好きになったかとか色々聞いてみた。バレー部はバスケ部の隣で練習していたから、練習中にずっと見ていたんだと。
こんな感じで女関係では波風が立たない程度にちょっかいをかけて回ってみた。ちなみに、やはり本命だった子は反応しなかった。
次に、当時はどちらかというと陰キャだった俺だが、生徒会長に立候補してみた。その当時はともかく、人前で話すことなんて社会人になってからの営業経験から慣れたもんだ。数百人の前でスピーチをしたこともある。もっともらしく演説をしたら当選した。
一応、他に候補がいたが、生徒や先生への根回しを含めて、ちょっと経験値が違いすぎる。すまんな。
ただ、生徒会長の仕事というのは存外退屈なものだった。よくアニメで観るような何かを決裁するというようなことなんて全くない。もちろん大きく校則を変えるような力もない。ただ、地域自治体やボランティア活動の学校の顔として立っているという感じだ。ここでももっともらしいスピーチをしたら、先生方からの株は爆上がりした。
生徒会長は体育祭や文化祭の実行の最終責任者でもある。プロジェクト管理もお手の物だ。動くのが中学生では小間使いぐらいしかできないが、しっかりそれぞれのアクションとタイムラインを決め、余裕で成功に導く。
あまり自らは手を出さないのがコツだ。マネジメントスキルだな。みんなを巻き込んで、自分自身が、成功させたという体験はこの時期には貴重な体験になる。イベント後には成功できたということでみんな喜んでいたし、涙ぐんでいる奴もいたな。こういう何か達成させるイベントはいつの時代でもいいもんだなと思う。
勉強は元々トップクラスだ。忘れていたところも少しやれば思い出す。大学受験をクリアしてきたことを考えると地方の公立中学校でトップを取ることぐらい簡単なことだった。この頃はやはり勉強のやり方ってのを知らなかったからな。
こうして、過去にただ成績が良い生徒だった俺は、学校内では誰もが知り、嫉妬と羨望のまなざしで見られる存在となった。後輩からも告白されるようなことが増えたが、すべて断った。同級生でも幼く見えるのに、年下はないだろう。
順風満帆の中学生活を過ごした俺は、過去の俺と同じ公立のトップ高校に合格。私立だと家の金がもたないからな。卒業式の答辞もつとめ、はたから見ると完璧超人のように中学校を卒業していった。
でも、俺は知っていた。俺ぐらいの人材は社会に出ればいくらでもいることを。でもこれだけちやほやされると勘違いしてしまいそうだ。一方で何十年という経験の差は学生時代に埋まることもない。
高校ではもっと今までできなかったことを試したい。生徒会長も多少は違いがあるかもしれないがもういいだろう。そして俺は何か新しいIFができないか考え始めた。
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