第3話 岐路
5月も終わりに近づいた。気温は上がり始め、木々の緑が濃くなる。梅雨の前はからっとしていていいよね。
なんとか生活リズムを掴み、当時の記憶を呼び覚ましてクラスにも慣れ始めた頃だ。
正直に言うと周りは子供すぎてなかなか会話を合わせるのは難しい。教室内では当時より無口でいることが増えたんじゃないかと思う。
しかし、ついにその時が来た。6時間目が終わり、部活がないので帰ろうとしたその時。
「八代、ちょっと音楽室の前まで来てくれへん?」
他のクラスの女子に話しかけられた。告白をしてくるのはこの子ではなく、別の子だ。この子はただの伝言係。しかし多分告白の瞬間は誰かどこかから見てたのではないだろうか。
今回は余裕を持って見回してみよう。
「おぅ、いいよ。今から?」
「うん。ありがと。じゃあ、音楽室ね。」
女子はそのまま去っていく。
俺はゆっくりと音楽室前へ移動していく。
音楽室は少し離れた場所にあり、人目につかず告白するにはいい場所だ。
想定通りのその子――サナエが現れた。
背は当時の俺よりやや高い。165cmぐらいあるだろうか。
髪は肩まででやや茶色がかったストレート。目はパッチリしていてまぁ可愛い子だと思う。胸はこの頃にしては大きいんだろう。あるのが制服越しにでもわかる。サナエは気の毒なほど緊張しているのがみてとれる。彼女の友達は――やはりいたか。廊下を曲がった蔭からこちらを窺う姿が見えた。
俺は落ち着いている。ここからが、分岐だ。
サナエがテンパった様子で言う。
「うち、八代が好きやねん。好きな人いる?」
というか、この時点で当時はこの子の名前すら知らなかったために俺も動揺してたんだよなと思いつつ。
「おらんよ。」
と答えた。過去にYESと答えたら、走って逃げられた。
ここからがいよいよ俺が知らない世界だ。俺も緊張しているのか、心臓がドクンと大きく跳ねた。
「な、なら、うちと友達になって!」
サナエが言う。ズッコケそうになった。友達かい!でも、その頃の中学生ならこんなもんだよな。もちろん人と地域にはよるのだろうが。
「うん、いいよ。」
端的に、俺は答える。
「えっと、あ、ありがと。」
サナエは真っ赤だ。
「正直言うと、キミのことよう知らんのやけど、これから教えてな。」
「あ、あ、ありがとう。うん。えっと、じゃあ!」
緊張に耐えきれなくなったのか、サナエは友達のいる方向へ走り去ってしまった。
いやいや、これからどうするんだよ。とは思ったが、この頃の中学生はこんなものだった。
学校内で表だって付き合っているやつはほぼいない。冷やかされるのが恥ずかしい年頃だったのだ。だから友達、なんだな。
かくいう俺もそう思うクチだった。最近の若い子はそんなことないだろうけどね...。ともあれ、俺は1つのIFをやり直した。
この頃の俺はそこそこにモテた。覚えている限りではあと二人、直接的にはアプローチがなかったが、俺を好きな子がいる。
彼女らはどんな反応をするだろうか。次は彼女らに逆にアプローチをしてみるのも面白いかもしれない。次はそのIFで行こう!
1人残された人気のない廊下を歩き、家路につく。ドクンと跳ねた心臓はまだ少し痛む感じがしていた。
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