第2話 試行

見慣れない天井だ…と、言ってみたかっただけで超見慣れた実家の天井だ。やはりこれは現実なのか。


ここから41歳の俺が住んでいた場所までは1時間ほどでたどり着けるが、行っても何かが変わるとは思えない。意味が無いだろう。


どうやら、一晩たっても状況は変わらないらしい。

そもそも、何がきっかけでこうなったのかもまるで思い出せない。


今は1995年の5月でGWが終わったところだ。時期的にとある大地震があったあとだったのは不幸なのか幸いなのか。まずは生活リズムを掴まなければ。


いつもの癖か、朝は6時に目が覚めた。特にやることもないから新聞でも読んでみるか。時代背景を思い出しておきたい。


とある真理教の宗主が捕まった、とある。この時期だったか…他の記事を見てもあまり覚えてないから知識チートとか使えなさそうだな。


中学校には8時に家を出れば十分だろう。歩いて3分だ。ノートを確認してクラスは3-6と確認できている。教室が何階かもわからんが、まぁなんとかなるだろう。ちょっと楽しみなのは、初恋の人と会えることだ。


本当にめちゃくちゃ好きだったのだが、その頃の俺は奥手で、正直脈もなさそうだったのがわかったので、何も言えずにいた。卒業後は1度も会っていない。当時は顔を見るだけでドキドキしたものだが、どうだろうか。


朝食はトーストとコーヒーだ。サクッと食べて準備をし、家を出る。


服装は制服だ。冬は学ランだが、今は長袖のシャツに黒ズボン。6月からは夏服に変わるんだったか。


天気は快晴。とても気持ちのいい朝だ。

しかし、体が軽い。体重が軽いのも多少はあるだろうが、とにかく体が動きやすい。やっぱ若いっていいな。

学校までの道をゆっくり歩く。


「よう、ケイタ。」

「お、トール。」

話しかけてきたのはトールだ。家もご近所なので、学校まででも遭遇率は高い。同じクラスなので、これで教室まで迷わなくて済むだろう。


ほどなくして学校に着いた。懐かしい面々がちらほら目につき、それにも増して、中学校に入る懐かしさがすごい。埃っぽい廊下、滑りやすい階段、バスケの練習で入り浸った体育館に1人感慨に耽る。


教室につき、友達と当たり障りのない挨拶をする。正直、全員を覚えてない…さすがにまずいので、早々に会話などから確認する必要があるだろう。


そしてついに『彼女』が教室に来た。3年では同じクラスだったのだ。

彼女の名前はミキ。同じバスケ部に所属しているので、友達ではあるが、3年生になってようやく同じクラスになれた。


俺の初恋の人である。あぁ、まだドキドキするんだ…懐かしい感覚だ。大人になるにつれてこのような感覚はなくなって久しい。


これはやはり思春期特有の感覚なのだろう。


だが、当時と違い、今の俺には強い自制心があるため、あの頃とはきっと違う態度になっているだろう。好きだなぁと言う感覚はあるが、今さら彼女とどうこうというのは考えていない。


むしろ、興味があるのは、これから他の子から告白をされることだ。

正確な時期は覚えてないがこの頃だったのではないかと思う。


あの頃は告白を受ける側もする側も余裕がなくてテンパって終わったが、その後、何度か妄想をした。あの時、違う答え方をしたらどうなっただろうか。だって、誰だって言い寄られたら気になるもんだろ?


彼女は俺を好きだと言い、続けざまに好きな人がいるのかと問うた。


それに対し、俺がYESと答えると、走り去ってしまった――


その後、元々彼女とは接点もなかったため、何がきっかけで俺が好きになったのか、世間話すらも話すことなく、中学卒業を迎え、会うことも無くなった。


今こそ、そのIFを間違えずに試そう。

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