第0話 〜霊性の目覚め〜

 人は、大地と近しい生き物だ。

 母体から産み落とされた赤ん坊は、寝そべったその頭部・四肢・体幹の全てから地核のエネルギーを余すことなく享受する。

 体幹を持ち上げるだけの力が備わると、今度は四つ足で這い進み、やがて自身のエネルギーが最も横溢する頃になると、上体を持ち上げ二足歩行をとる。

 そしてその身が衰え始めれば、地核のエネルギーを求めて徐々に地面へと身を寄せ、最後にはまた大地に横たわり、一つの生を終えるんだ。

 この星の生物が、大地とは切断不可能なパイプのようなものをすべからく各々の身に携えているのは、目視できないがしかし事実であると、僕は感じている。

 空もまた、巨大なエネルギーを帯びている事を忘れてはならない。

 無数の腕をのばして覆うように、そこにあるものを包み育んで癒そうとする地核のエネルギーに対し、空からのエネルギーはまるで降り注ぐ雨の如く、四肢体幹を打って発揚を促す。

 伸びよ。大地から身を起こし、自身のエネルギーを解放する道はこっちにある、と明示してくる。

 それら二つのエネルギーは、天と地の呼吸だ。

 生命を育む大地の呼吸は、太鼓を叩いた轟きに似た性質を持ち、宇宙から降り注ぐ呼吸は山頂から湧きだす清水よりも澄んでいる。

 立っている時も、地面に寝そべっている時も、上下双方からもたらされる底なしとも思える巨大な呼吸の調律を体の中心でとった時、僕の全ての感覚は解き放たれ、針のように鋭く研ぎ澄まされるんだ。

 初めてこの解放を味わったのは、いつのことだったろう。

 感じたのは、この身を満たす血潮のとめどない流れ。子宮の中で丸まっていた頃に記憶した最初の呼吸の、ゆったりとした不随意的な体内運動。それとともに、脊柱に並行して並ぶ、ランプの灯よりも柔らかい輝きを秘めた五つの光が、脳裏に視えた。

 次いで、腹の奥底で小さな太陽のように金赤の輝きを放つ球体の存在に気付いた時、その輝きは、僕にこう命じた。

 見つけよ、と。

 己の身だけではない。生きとし生けるものの体に存在する楔の位置を突き止め、取り除け、と。

 それは生命体がその身に備えた本来の駆動力を取り戻す術である、と。

 僕自身の血に備わった種族的記憶を通じてその命令が下された時、眠っていた霊性は目覚めた。目覚めた先に待っていたのは確信。この体が最後の呼気を落とし一つの生を終えるまで、僕はこの命令に従い続けるだろう。

 なぜならこれは、魂に刻まれた定めだからだ。

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