第13話 電車

彦徳は電車に乗り込んだ。


平日の朝7時ということもあり、とても混んでいる。


リュックを前に持ち、できるだけ人が密集しない所を探していると、

なぜか一つだけ席が空いていた。


こんなに混んでいるのに空いているということは、何か座れない理由が

あるのだろうな、と思って座席を見ていたが、汚れてもいなければ、横に変な人が

座っている訳でもない。


周りの人からも、さも全ての席が埋まっている、そんな雰囲気が感じられた。


しかし、特に変な所がないのであれば座らない理由はない。

彦徳は「すみません」と人の間を縫うように空いている座席へ座った。


もしかしたら座席が濡れているのでは、と思っていたがそれもなく、

本当にただただ座席が空いているだけだった。


目的地まで約50分あるし、少し寝ておこうと思い、目を瞑った。


「すぅ」と自分ではない息を吸い込む音が聞こえた。


目を開けるが周りの人の呼吸音ではなさそうだ。

音からして距離が近すぎる。


少し不思議に思ったが、また目を瞑る。


「コイツはだめだ」


喉から上の辺りから声がして、一瞬にして寒気がして体が動かなくなった。


呼吸だけはできる、呼吸だけはできる。


「次は渋谷です」


アナウンスの声が聞こえて目が覚めて体が動いた。


すぐに立ちあがりホームへ降りた。

初めて彦徳は怖いと感じた。







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夜にオムニバス 彦徳 @issomoguwai

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