第60話 幕間/考察と逃走


 私の中で次々と鷹臣たかおみへの黒い疑惑が形を成していく。よくよく考えれば、確かに伽藍胴殺人事件は異常だ。異常だが幕間の頁で書いたような、と困惑する程のことではないように思う。※幕間1


 困惑する対象はあくまで怨霊のようなに対してだけであり、事件自体の点と点は繋がっているはずだ。となれば、やはり繋がっていない点と点があり、それに対しての困惑ということになる。つまり警察は、鷹臣たかおみと女性警察官が行っていた犯行を駿我するがの犯行だと思い込み、と困惑しているということではないだろうか。


 そんな中、私がに取り憑かれて事件の真相を書き始め、それを自分たちの犯行がバレるかもしれないと、鷹臣たかおみと女性警察官は監視していたのではないだろうか。


 そこまで考えたところで、病室の扉が勢いよく開け放たれ、が飛び込んできた。女性警察官は苦しむ鷹臣たかおみを抱き起こして私を睨み、「鷹臣たかおみ君は悪くない! 巻き込んだのは私! お願いだから鷹臣たかおみ君を解放して!」と叫んだ。


 どうやら私の考えは当たっていたようだ。今この女性警察官はとはっきり言った。つまり鷹臣たかおみを巻き込んだということなのだろう。そんな女性警察官に対して私は「あなたがですか?」と、問いかけた。


 その問いに対して女性警察官が明らかな動揺を見せ、「な、なんであなたがそれを……?」と呟く。もうここまで来たら確定だ。私の心が黒い憎悪に支配されていく。あれほど信頼していた鷹臣たかおみに裏切られ、悲しみと怒りが私の中で渦を巻く。


 そんな中、「ぐぅ……」とくぐもった呻き声を上げ、鷹臣たかおみが口から血を滴らせながら立ち上がる。


「……だめだ雪人ゆきひと……君はまた勘違いをした。勘違いしたんだ。この人はなんかじゃあぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 鷹臣たかおみが言葉の途中で凄まじい叫びを上げ、その場に倒れ伏す。そのまましばらくのたうち回り、ふらふらと立ち上がった。立ち上がった鷹臣たかおみを女性警察官がしっかりと支え、その光景に私は胸が苦しくなる。最悪な形で裏切られはしたが、やはり私は鷹臣たかおみのことが──


 そう思ったところで、再び苦しそうに鷹臣たかおみが口を開いた。


「……くそ……進めるつもりなんですね……」


 何がなのだろうか。もはや考える余地など一つもないはずではないだろうか。鷹臣たかおみが眼鏡をかちゃりと上げる。これまで何度も見た、鷹臣たかおみが重要なことや決定的なことを言う際の仕草。ふらふらでいつものように歩き回ることは出来ないのだろうが、いったい鷹臣たかおみは何を言うつもりなのだろうか。


「……僕を信じろ雪人ゆきひと! 最悪なことに! 真実を伝えたいが、そうはさせてくれない! いいか雪人ゆきひと! 今は! 君が考えるべきことは背後で蠢くの真実だけでいい! それが本来のからの挑戦状なんだ! とにかく僕を信じて続きを書いてくれ! そうすれば君も真実に到達出来るはずだ! 続きを書いた上で僕を断罪すると言うのなら、僕はそれに従う! だがもう一度言うぞ雪人ゆきひと! 僕を信じろ! 僕は君が真実に辿り着くと信じているし、君も今までの僕をもう一度信じるんだ! 君は僕にとって大切な存在だ! その想いはいつだって変わらない!」


 鷹臣たかおみの「君は僕にとって大切な存在なんだ」という言葉が私に突き刺さる。私だって鷹臣たかおみは大切な存在だ。もしかすれば、友情以上の感情なのでは無いかと思い始めてもいた。そう、鷹臣たかおみはいつだって私を心配し、助けてくれていた。私が困っていればさりげなく助言をしてくれ、私が倒れそうな時は気付けば鷹臣たかおみが支えてくれていた。


 そんな鷹臣たかおみを私は心の底から信頼していたはずだ。その鷹臣たかおみが血を吐きながらと叫んでいる。私の中で鷹臣たかおみを信じる気持ちと疑う気持ちがせめぎ合い、それに反応するように鷹臣たかおみに纏わりついていた黒い影のようなが蠢き、鷹臣たかおみから離れた。と同時、女性警察官が鷹臣たかおみを抱えて病室を飛び出す。


 私はその逃げ出す後ろ姿を、追いかけもせずに見守った。一瞬──追いかけようとも思ったのだが……


 私は続きを書いてみようと思う。鷹臣たかおみを疑う気持ちは消えていないが、もう一度信じてみようと思う。それによって私が真実に到達出来ると鷹臣たかおみは言っていたのだから──



 ──幕間/疑惑、追求、考察、逃走(了)

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