第5話
Oさんと会った翌週の月曜日、PCを開くと、なぜか前田からのDMが届いていた。
(今頃かよ)
コンテストの応募が始まってから、かれこれ1ヶ月にはなる。動画編集にどれくらいの時間がかかるのかは、わからない。だが、さすがに1ヶ月はないだろうと思った。第一、今まで市ノ瀬に丸投げしていたくせに。よっぽど俺に逃げられてはまずかったのだろうか。それでも一応義理は通すべきだと思い、再度上がってきた動画を再生してみた。
確かに、今度は俺の「自己紹介動画」だった。だが、ナレーションは中学生の作文のようだし、あれほど俺がこだわって選んだ曲は、冒頭の1分間しか使われていない。これで「編集」とはよく言ったものである。
ジャンルが違うとはいえ、俺もプロの端くれだ。ありえないお粗末さに、これ以上付き合いきれないと感じた。
俺は、前田ではなく市ノ瀬に対して正式にコンテスト辞退の申し入れを行った。というのも、この前田、実は「切れやすい」「自分が気に入らないユーザーを恫喝する」という性格を、奴の投稿から何となく感じていたのだ。そこで、直接対決を避けるため、前田ではなく事務局員である市ノ瀬に連絡を入れたというわけ。まあ、「一方的に辞退宣言をした」という方が正確かもしれない。ただし、市ノ瀬には「通常のクライアントワークではありえない杜撰さだ」というのは、きっちり伝えた。
そして、なぜか俺の「辞退」に憤ったのが鈴木だった。というのも、意趣返しのためか、前田が俺のことを自分の投稿で罵倒していて、その中で俺の一方的な辞退に触れていたんだよね。
さらに、鈴木は前田の投稿のコメント欄で「前田さんがわざわざ労力を割いてくれたのに、それを無駄にするとかありえない」と書いていたらしい。滑稽なことに、一連の投稿については、これまたなぜか佐々木が大騒ぎして俺に伝えてきたのだが、正直、佐々木が騒ぐのも迷惑だった。お前に関係ないだろうに。そういう余計なことをしなくていいっつうの。
しかも鈴木は、前田の罵倒投稿をリツイートするというおまけ付き。その一方で、俺の投稿もリツイートしているのだから、本当に意味不明だ。多分、自分が「どれだけコネクションを持っているか」ひけらかしたかっただけだったんだろう。その一人がたまたま俺だったに過ぎない。そう思うと、義理の「好意」も冷め切って、潔くブロックした。余計な噂話のネタを持ち帰られるのも、聞かされるのもうんざりしていたからね。
自分が間違っているとはこれっぽっちも思わなかったが、さすがに鈴木や佐々木の意味不明な行動による精神的な疲労が大きく、俺はしばらくFreedomの投稿を休んだ。所詮、SNSでの付き合いに過ぎないし、これで縁が切れればそれまでの間柄に過ぎない。そう割り切った。
だが、ありがたいことに、昔から付き合いのある人たちは、俺の事情に理解を示してくれた。密かにDMをくれた人は皆、「どうか無理をしないでほしい」と言ってくれる人ばかりで、泣きそうになった。「逃げるな」と喚いたのは前田一味と佐々木位なものさ。今になって振り返れば、前者が「良識ある大人」の対応だったのだと思う。もちろん、Oさんも心配してくれたよ。そればかりでなく、Oさんなりに独自のリサーチと見解をまとめてくれたのだった――。
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