第2話
そう、問題となったのはその「先行応募者特典」だった。前田は動画編集も得意らしく、「5名に1分間の自己紹介動画を作成する」とFreedomで発表していたのを、後で前田の投稿で知った。
俺に「5名のうちの1人に選ばれました」と連絡を寄越したのは、サムズアップ出版社事務局を名乗る
ところでこの頃、俺は「鈴木」という人物と相互フォロワーになっていた。この鈴木もなかなか顔が広いらしく、前田のこともよく知っているらしかった。そこで鈴木は、俺に気になる話をしたんだ。
何でも、サムズアップ出版社からエッセイを出している沢井というライターがいるそうだ。この沢井が心酔している某画家の作品を、仲間内で「買うように」と皆に強引に迫り問題になっているという。
「へえ……」
俺が鈴木からその話を聞いたとき、ちょっと嫌な気がした。その画家が本当に自分の作品をそうして売ろうとしているのだったら、やり方が姑息だし、第一、いつ自分も沢井のターゲットにされるかわからないじゃないか。ただ、俺は鈴木と揉めたくなかったから、その時は深く追求しなかったんだ。
だが、疑惑は膨らんでいく。
同じ頃、市ノ瀬から再び連絡が来た。前田は多忙の身なので、音楽の編集はサムズアップ側に任せてほしいと言う。一応承諾したものの、モヤモヤしたものはあった。俺の自己紹介なのに口を挟めないって、おかしくないか?だが市ノ瀬は、「前田さんは天才なので、そのセンスを信じてほしい」と繰り返すばかりだった。
そして、最初に市ノ瀬から連絡を貰って半月も経った頃だっただろうか。ようやく、「試作品が出来た」との連絡が市ノ瀬からメールでもたらされた。その届いたメールのリンク先を開いて、俺は唖然としたよ。
リンクは、ある動画サイトの内部閲覧用リンクだったが、前田が作ったという動画は、俺の自己紹介ではなかった。よりによって、佐々木の作品だったんだよね。
以前にも述べたことがあるが、俺が得意としているのはパステル画。佐々木は劇画調のイラストで、テイストが全然違う。また、俺が選んだ曲はケルトミュージックで、リズムが少々特殊な曲だった。それに対し、佐々木はロック。選曲の趣向だって全然違う。
この杜撰さには、ほとほと呆れたね。当然、俺は市ノ瀬に抗議したよ。クライアントワークならば、間違いなく一発アウトで信用を失う失態だ。
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