詐欺師~Digital Tattoo2

篠川翠

第1話

 やあ、久しぶり。俺は宮藤くどう貴文たかふみ。以前、Freedomで佐々木と著作権を巡って争ったイラストレーターの端くれだ。あれから、イラストレーターとしての仕事は順調さ。アドバイスをくれたOさんは相変わらず頼りになるし、田中さんからも発注が来ている。それ以外にも、いくつかの会社から依頼が来たよ。

 ところで久しぶりに登場したのは、ネットニュースでまたしてもFreedom絡みの事件を小耳に挟み、思い出されたことがあったからだ。簡単に言えば「Kindle出版」絡みの詐欺事件なのだけれど、実は俺も危うく引っ掛かるところだったんだよね。今更ながらゾッとする話だが、誰かへの警告になればいいなあと思って、再び登場してみたわけだ。これからも同じような手口は登場する予感がしているしね。

 まあここは一つ、俺の与太話としてでも聞いてくれ――。

 

 俺がその人物とFreedomで知り合ったのは、2年半ほど前の話だ。

 彼は「前田」と言った。前田はクリエイターというよりも、本業はマーケターらしい。フォロワーも何千人もいて、ある意味、Freedomのカリスマとでもいうのかな。前田の方から俺に声を掛けてきて、そのときに「出版会社も運営している」と説明していたんだ。で、「弊社からイラスト集を出版しませんか?」と言うんだよ。

 ただし、その時の俺は本の出版に興味がなかった。なので適当にお茶を濁しつつ、義理の延長で「相互フォロー」していたわけだ。

 それからしばらくして、前田がFreedomで主催する「私的コンテスト」に応募してみないかと誘われた。

 その頃の俺はまだイラストレーターとしては知名度が今ひとつで、ある程度「名前を売る必要」も感じていた。今思い返せばバカバカしいの一言だけれど、自分の作品を多くの人に知ってもらうチャンスだと思ったんだ。

 そこで俺は前田の勧めに応じて、「第7回サムズアップ新人発掘コンテスト」に応募した。コンテストのテーマは「私の夢」で、俺が描いたのはテーマに相応しい、少女が大空へ飛び立つロマンチックなイラスト。確かあの頃、サムズアップ新人発掘コンテストはFreedomユーザーの間でも結構人気が高く、毎回50名位は応募していたんじゃないだろうか。だがら、まさか自分が「先行応募者特典」の対象に選ばれるとは思っていなかったんだ。

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