第369話

お猿さん(豊臣秀吉)が関白として北条家討伐を宣言した。

世に言う小田原征伐と言うやつだ。

既定路線的に決まっていたので速やかに準備が開始された。

しかし、大軍なので準備はそれなりに掛る。

その間に家さんの正妻となっていた朝日姫(駿河御前)が身罷った。

年末に病気となり、一月中頃の事であった。

勿論、豊臣家・徳川家双方にお悔みの使者を送った。

双方ともに秘していたようだけど、そんなの関係無いね!!

一応は、内密に使者を送る配慮はしたけどね。

彼女の人生は権力者となった兄であるお猿さんに振り回された様な人生だったと思う。

小牧・長久手の戦いで家さん(徳川家康)を屈服させることが出来なかったお猿さんは融和策に切り替えた。

どうしたかと言えば、当時、朝日姫は結婚していたんだけど、お猿さんに無理やり離縁させられた。

権力者となったお猿さんに逆らえる訳もなく、その旦那さんは泣く泣く離縁したそうだ。

そして、政略結婚として家さんの下に嫁がされた。

家さんは正室の築山殿を失って以来は正妻を置いていなかった。

そこに目を付けたお猿さんは自分の妹をそこに据える事で家さんと義兄弟となるという離れ業をやってのけたのだ。

家さんもこの政略結婚を受け入れざるおえなかったが、そんなものに使われた朝日姫の無念は如何程だっただろうと思う。

家さんは小田原征伐の準備中で、喪を秘して葬ったという。

小田原征伐が終わって落ち着いた後には改めて菩提が弔われる事となるんだろうけど不憫だと思う。

この事実を知り、気の毒と思ったので、家さんの方には香典として多目に包み、「弔う際には使って欲しい」と文で伝えたよ。

クソ猿には腹が立つが、秀さん(豊臣秀長)もそれを諫めなかったことは同罪と思うので叱責したが、流石に病人なのであまり強い事は言えなかった。

それでも秀さんは気落ちしていたよ。

彼女の冥福を祈るばかりだ。

そして、秀さんは病気と言う事で、留守居を命じられてしまったので、俺はお誘いあった孫七郎(羽柴信吉)の所に陣借りする事となった。

孫七郎は何と驚いたことに秀さんの代りに副将格として出陣する事となった。


「まさか蔵人様とご一緒できるとは!!」

「何じゃ?伊右衛門は面識あったのか!おっと、某は田中久兵衛吉政と申す。お見知りおきを!!」

「儂も名乗らせて下され!中村孫平次一氏と申す。孫平次とお呼びくだされ」


孫七郎の部下さんたちが我が我がと挨拶して来る。

伊右衛門殿(山内一豊)はあの馬の件以降も文のやり取りをしているから面識あるが、他の人々は初顔合わせとなる。


「これこれ、そう一遍に言うものでは無い!二位蔵人様に失礼であろうが!!」


そう言うのは茂助殿(堀尾吉晴)。

彼とは孫七郎のお供として挨拶を交わしているし、官職が帯刀長たちはきのおさという事で、「ご子息と同じ帯刀ですな~」などと言われたこともあり、印象深い人物だ。

実際にこの帯刀長というのは通称・帯刀先生とも言うらしいので、息子の羽(羽長)と同じ官職と言う事となる。


「そうじゃぞ!一遍に物申せば、聞き取れるものも聞き取れぬぞ!拙者、一柳伊豆守直末と申す。市助とお呼びくだされ」


ちゃっかりさんの市助殿(一柳直末)がそう言って更に皆を嗜めつつ、自分のご紹介。

そして、更にもう一人、孫七郎配下の武将が話し掛けて来る。


「市助殿、お主こそどさくさに紛れる様に自分を売り込みよってからに・・・お!これは失礼!愚生ぐせいは木村常陸介重茲しげこれと申しまする。お見知りおきを!隼人正はやとのかみとお呼びくだされ」


俺は矢継ぎ早に挨拶され、答える間もなく順番に挨拶されたので「丸目蔵人長恵

と申す・・・宜しくお願い致す」としか言えなかった。

長門守や美羽・春麗たちも順次挨拶を交わす。


「徳川様は御親戚だった北条を見限って我らにお味方することをお決めになったようですな」

「三男の長丸殿を人質として此方に差し出して来られたそうじゃ」

「しかし、殿下は即座に徳川様に送り返されたそうじゃな」

「何方に味方する方が利があるか考えれば火を見るより明らかであろう?」

「然り!流石に北条も慌てふためいておるらしいの~」

「慌てたからといってもう後戻りは出来ぬのにの~」

「天に唾吐けば己に返って来るのを思い知るであろう」


挨拶が終わると、早速とばかりに戦関連の話となった。

家さんの話題がやはりと言うか何と言うか、豊臣家としては気になっていた様で、その話が最初に出た。

豊臣家とも北条家とも親戚関係にある家さんではあるが、つい先頃、豊臣家から迎えた朝日姫が亡くなったので形としては豊臣家と縁が切れたともいえる。

しかし、その話題は流石に出ないが、そのことで家さんが北条に味方する不安もあったのかもしれない。

お猿さんは小田原征伐を決めると、「天道に背き、帝都に対して悪だくみを企て、勅命に逆らう(北条)氏直に誅伐を加えることにした」と諸大名に書状を認め送った。

それにより、多くの諸大名がこの大戦に参戦を希望し、豊臣家に味方することを宣言した為、大軍勢となり、土佐侍従殿(長宗我部元親)、孫六(加藤嘉明)といった四国の大名や毛利家も参戦するという。

九州勢は流石に遠方だし、肥後国人一揆の影響も残っているだろうと今回は動員されなかった。

虎之助(加藤清正)から「無念だ!参戦したかった!!」という様な内容の手紙が届いたが、俺に言ってもね~

まぁ戦大好きの彼からしたら祭りに参加できなくてショボ~ンて感じで愚痴りたかったのだろう。

逆に、又四郎殿(島津義弘)や弥七(立花宗茂)などは「遠方で出陣免除になってホッとした」的な内容の書状が届いたよ。

二人ともそうは言いつつも、「ご参加されると聞き及び候。無事戻られたなれば、土産話などお聞きしたし」だってさ~うん!戦馬鹿!!

先発していた家さんとこから遅れる事2カ月ほど、俺たちは3月頭に着陣した。


〇~~~~~~〇


いよいよ小田原征伐が始まる雰囲気ですね~

今回はまた新しいキャラ武将たちが登場です。

羽柴信吉の有力家臣として再登場した山内一豊は信吉が近江半国を与えられると附家老として派遣され、長浜城を与えられと云われます。

長浜の地は豊臣秀吉が信長から与えられて大躍進する切っ掛けとなった地なので、ここを任されると言う事はそれだけ重用されている証拠です。

信吉が尾張に移ると遠江国掛川城を任された重臣です。

田中吉政は元宮部継潤の家臣で、筆頭家老格として秀吉から信吉に着けられた人物で、内政のスペシャリストです。

後に筑後国主となる人物ですが、彼の息子の忠政が男子を残さなかったことで改易となりますが、忠政がキリスト教に寛容だったから潰されたとも云われています。

田中吉政は「バルトロメヨ」という強そうな霊名を貰ったそうです。

小田原征伐は参加していないようですが、筆頭家老なので出させて頂きました!!

いや、九州で大名になった人物だからということが大きいかも?

中村一氏はもう一人の渡辺勘兵衛とも言われる渡辺さとる(槍の勘兵衛と称される槍の名手)を配下に持つ人物で、信吉が尾張に移ると駿河一国を与えられた程の人物です。

(※渡辺勘兵衛さんは以前、石田三成の家臣として紹介しました。)

小田原征伐時には信吉隊の先鋒を務め一日で城を落としたと云われます。

堀尾吉晴は秀吉古参の配下の一人なのですが、信吉の附家老として派遣された人物で、小田原征伐時の活躍で豊臣姓を許された程の人物です。

九州征伐の際に正五位下帯刀長に叙任しています。

秀吉の晩年、中村一氏や生駒親正らとともに「三中老」に任命されたなどと云われますが、後世に作られた話とも云われ信憑性はありませんが、それなりのポジションにいたのは間違いない人物です。

一柳直末は秀吉の精鋭集団である黄母衣衆きぼろしゅう出身者で、武人としても評価高いですが、兵糧奉行や普請奉行なども行った万能タイプの武将です。

他の者たちと同じく秀吉から命を受け、信吉が近江半国を与えられると附家老として派遣された一人ですが、他の附家老は近江国内に領地を与えられたのに対し彼だけは隣国の美濃大垣城が与えられた人物です。

相談役的なポジションだったようで、信吉から近江国内にも与えた程重用した人物です。

中村一氏とともに先鋒を務めるほどの人物でしたが、小田原征伐時に戦死しています。

秀吉は直末討死の報告を聞いて「直末を失った悲しみで、関東を得る喜びも失われてしまった」と嘆いたとも、このことで秀吉は三日程不機嫌でその間誰とも口をきかなかったとも云われます。

最後に、木村重茲は千利休の弟子で、台子七人衆の1人として有名な人物で、秀次事件では秀次を擁護し秀吉に弁明しました。

連座の罪に問われ、摂津国茨木にある大門寺にて自害を秀吉より命じられたそうで、その地で自害しましたが、大門寺には彼の血染めの経帷子が保存されており、常陸大明神と記された墓碑があるそうです。

さて、勘の良い方、歴史に御詳しい方等々はもうお気付きか知っていると思いますが、羽柴信吉というのは後の豊臣秀次の事です。

主人公は知らないようですのでどうなる事か!!

因みに1585年の秀吉の関白就任に前後位には偏諱を受けて秀次と改名して羽柴秀次を名乗り始めていますが、この物語では主人公はそれ以前からの付き合いで「孫七郎」と呼んでいたので、彼が豊臣秀次である事をまだ気が付いていないと言う事としております。

何処かの報告書等で見ていると思うけど、主人公のチョンボ、見落としで気が付いていないものと・・・

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