第368話

お猿さん(豊臣秀吉)と北条家の因縁は根深い。

いや、お猿さんというより前政権の織田家からの因縁といっていいのかもしれない。

本能寺の変で織田殿(織田信長)が討たれると織田家は大混乱となった。

北条家は織田家に謀反を起こし織田領に攻め込んだ。

これを迎え撃った織田家家臣の滝川一益の軍を北条家は武蔵国で破ると上野・信濃・甲斐は大混乱をきたし、織田家はその三カ国を一時失う事となった。

そして、お猿さんが織田家を掌握し関白に上り詰める段階で主家織田家と立場が逆転した。

その頃から北条家に対して臣従と上洛を促していたが、北条家はその重い腰を上げず現在に至った。

名胡桃城奪取事件の勃発前には北条家当主・北条氏直家臣の板部岡江雪斎が上洛し、お猿さんに北条家が従属の条件としていた沼田城(沼田領)の割譲について裁定が行われた。

その際に北条家側は前当主の北条氏政が来年春か夏頃に上洛をしてお猿さんと会談することを提示したが、お猿さん側はこれを拒否した。

これを受け、北条家は年度中(師走頃)に現当主の北条氏直が上洛し、お猿さんとの会談を検討していたようだ。

そんな最中に件の事件が起こる。

さて、この事件は領土問題が複雑に絡む。

当時、沼田城(沼田領)含むそこら辺一帯は真田家が領有していた。

この時の真田家は家さん(徳川家康)とこの傘下に居た為、お猿さんが家さんに命じて事情聴取を行い、沼田領の内3分の2を北条に、残りを真田にと割り振られることとなった。

真田家は代替地として信濃国伊那郡箕輪を与えられて話は着いたのである。

この裁定は天子様から「一天下之儀」というお墨付きを委ねられた関白に就任していたお猿さんが取り仕切ったという形を取り、中には不満を持つ者もいただろうがそれを抑えて纏め上げたのだ。

話が付いた後、最低でも北条家前当主・北条氏政の上洛が無い場合、北条討伐の軍を関東に出馬させることを一部の者にお猿さんが漏らしていた最中、事が起こる。

喜兵衛(真田昌幸)は即座に家さんに連絡し、家さんもお猿さんに急ぎ連絡して、それを知ったお猿さんが大激怒という流れだ。

北条方からは弁明の使者として石巻康敬という人物が上洛し弁明しようとしたが、お猿さん側は関係者の引き渡し・処罰を求めた。

北条方はこれを拒否したことで決裂し、お猿さんは「北条氏政が上洛の意向を示したから、今までのことを許し、上野沼田領の支配をも許したのに、今回の名胡桃攻めをするとは関白である自分豊臣秀吉の裁定を覆す様なことだぞ!許し難い背信行為だ!!」と非難した。

簡単に言えば「激おこぷんぷん丸だから絶対許さん!!」と言ったそうだ。

え?そんな事書いてないだろうと?

いやいや、お猿さんの気持ちを代弁したんだよ。

焦った北条方の対応も悪かったんだよね~

何をとち狂ったのか「名胡桃城主が北条方に寝返った結果だ」とか「名胡桃城は真田から引き渡されて北条の物となっている城なので、そもそも奪う必要もなく、全く知らないことである」、「名胡桃城は上杉方が動いた為、仕方なく我が北条軍を入れたにすぎない」や「既に名胡桃城は真田方に返還した」等々の訳の分からない言い訳をしていたのが更に拙かった。

でもね~お猿さんサイドは狙ってたのか、はなから許す気無いようで諜報の調べでは事件が起こった段階でお猿さんは関東の領主たちに「氏政が11月中に上洛しない時は来春には北条討伐を行う」と通知していたし、色々と整えていたんだよね~

中々上洛しない北条側に愛想をつかしお猿さんたちは責める気満々で口実が出来るのを待っていた。

話長かったが、現在は小田原征伐の為に準備万端用意進行中。

我が家の立ち上げた廻船問屋も大儲けですがな~

運べば運んだだけ売れていくからね~ウハウハです!!


「長さんには最後の大儲けをさせて頂けるようですな!」


久しぶりの登場の宗さん(今井宗久)が悪い顔で囁く。

いい年して何言っているんだか・・・最近は大儲けの話があるとこういう事を言う。

毎回毎回、「最後の老い花を」とか今回の様に「最後の大儲け」とか言いながら事が終われば、「次の冥途の土産は何時ですかな?」とか言いやがるの、いい根性してるよね~

残念ながら、同じような事を言っていた天さん(津田宗及)は病気気味で完全に商人引退してこの場には居ない。

この間様子見行ったらどうやら大分悪いようで痩せていた。

商売することが大好きで、目をぎらつかせていた天さんが悟りを得たような顔でこちらを見詰めて来る。

恐らく寿命が・・・

しんみりしてしまったな。

話を宗さんに戻し、彼は隠居して店は次代に譲ったが、商人としては現役で、今現在は我が家の廻船問屋でその辣腕を振るってくれている。

そんなこんなで、顧問として頑張って頂いております。

名うての凄腕商人だからやはり大活躍ですよ。

齢70ではあるが、まだまだ衰えていないのは流石としか言えないね。

宗さんも天さんも茶人としてはお猿さんに重用されたけど、商人としては重用されなかった。

お猿さんが贔屓にしたのは立佐殿(小西隆佐)や与四郎殿(千宗易)たち。

まぁ宗さんも天さんも俺の方のグループに属し違う形で儲けているので権勢は衰えていなかった。

本来の歴史とは少し違うのかもしれないが、俺が元の歴史で彼らの権勢振りを

よく知らないので比較対象出来ないが、多分とはなるが良いものだと思う、いや、良いものであってほしいかな。

天さんの後継ぎさんの方は与四郎殿シンパなので残念ながらよく知らないが・・・

さて、俺は基本的に商売のことは全てと言っていい程に莉里や利(利長)たちに任せているので、小田原征伐時には秀さん(豊臣秀長)の所に陣借りする予定だ。

しかし、秀さんは病気に伏せっているそうで行けるかどうか噂では雲行きが怪しいらしい。

丁度、俺が見舞っている時に孫七郎(羽柴信吉)が同じく病気見舞いに来たと言う事で、秀さんが参陣できない場合は彼の所で陣借りしてはどうかと進められたが、俺はどうせなら秀さんとと思い、その提案を断り、秀さんの回復を待つこととした。

孫七郎(羽柴信吉)とは昔意外な所で面識があった。

彼は元々は秀さんやお猿さんの同母姉の息子さんで、二人とは叔父甥の関係らしい。

幼い時にお猿さんの与力の一人だった宮部継潤殿の養子となっていたそうだ。

しかし、偶々お猿さんの与力となったので甥が人質というのも無いという事で、6歳で木下家に復帰。

織田家に三好家が降り、すったもんだして、今度は三好家に養子に出され、三好孫七郎を名乗るようになった。

彼は三好家を一部率いる様になった。

俺って三好家と因縁あったもんだから、「無害だよ~」ってことで、勝三郎殿(池田恒興)が態々俺たちを引き会わされた。

孫七郎が勝三郎殿(池田恒興)の娘さんとご結婚していたから義理の息子として紹介された訳だ。

俺はここで面識を得て知り合った。

この時はお猿さん関係とは思っていなかったが、後に関係者と知る事となった。

さて、彼は何だか凄い巡り会わせなんだけど、清洲会議で勝三郎殿の宿老の1人として出席しており、お猿さんの多数派工作の一助となったというから面白い。

お猿さんが天下を取ると、羽柴姓を名乗り、天下人の甥としての身分を固めて行った。

へ~って感じだけど、「天下人の甥」とか聞くと何だかある人物を想像してしまうが、羽柴信吉とか前世で俺は聞いたことないから、恐らくはちょい役的な武将なんだろうね~

とりあえず、まだまだ時間があるし、秀さんの病気回復を待つこととした。


〇~~~~~~〇


今回は状況説明回的な感じとなりましたが、中々に重要なことや新キャラ的に重要人物も登場して来ました。

さて、小田原征伐が始まると思った読者の方々・・・申し訳ない!!

もう少しだけ小田原征伐の前話続きます。

さて、豊臣秀長の病気と暗雲立ち込めて来ましたが、歴史好きの方ならもう知っているという事実だろうと思いもう言っちゃいますね~

おっと、ネタバレ的な話でもありますので、知りたくない方はここで読むのストップで!!




さて、ネタバレ的な話でもOKという読者様しか居ないという事で、語って行きましょう!!




豊臣秀長は小田原征伐に参加していません!!

何故かと言えば、作中で書いている通り、病気が悪化してしまうからです。

1590年1月に軍事動員令が出され、2月には先鋒が出立したと云われています。

その頃、豊臣秀長は闘病中で、参加できず畿内で留守居を務めようです。

1590年2月~7月の期間に小田原征伐が行われました。

秀長は1月頃から病が悪化した為大事を取って留守居となりましたが、小田原征伐が終わった後も病が癒える様子はなかったようで、10月には作中に初登場した新キャラ羽柴信吉(孫七郎)が病気平癒の祈願を談山神社たんざんじんじゃで行っているようです。

談山神社たんざんじんじゃは、元々、多武峯妙楽寺とうのみねみょうらくじというお寺で、神仏分離(明治)の際に名を改め神社を選択しました。

ここの御祭神は大化の改新で有名な 中臣鎌足(藤原鎌足)で、国内最古となる惣社を創建したりと由緒正しき場所となります。

残念ながら祈願叶わず1591年2月に豊臣秀長は郡山城内で病死し、52歳で人生の幕を閉じました。

(※この神社さんの霊験が足りないとかそういう話では御座いませんのであしからず。)

あくまでも私の考えなのですが、豊臣政権において最も重要な人物の死だったと思います。


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