第357話

「これが宴で仰った芋ですか!」

「はい、馬鈴薯ばれいしょと申します」

「ばれいしょ・・・ですか・・・」

「はい、唐で馬に着ける鈴に似ていることからそう呼ばれているそうです。しかし、某はじゃがいもと呼んでおります」

「じゃがいも、そちらの方が何とはのう呼び易いですな!」


まぁ由来は知らんが、前世でそう呼んでいたから俺が呼び易いだけ。

どうせジャガナンチャラさんが持ち込んだとか、ジャガナンチャラと言うところから持って来たとか、ジャガナンチャラ・・・そんな理由で着けられた名前だろうと予想はしているが、気にしたら負けである。

さて、何故にここにじゃがいもを持ち込んだかと言うと、前世ではじゃがいもと言えば北海道というイメージがあったからだ。

じゃがいもは寒さに強く、冷害の影響が少ない芋として知られている。

探したら意外とすぐ見つかったらしいが、ヨーロッパでは驚いたことに観賞用の植物として広まっていたそうだ。

ヨーロッパに持ち込まれる前は小さなイモの原種が中南米に自生していたらしい。

スペイン人が新大陸のお土産としてヨーロッパに持ち込んで広まったようだが、原種に近いのかもしれないが、俺の知るじゃがいもより一回り小さかった。

まぁ味はそれほど変わらないのでそんなものとして食べている。

恐らくは品種改良されてあの大きさになっていたのだろうと予想できるので、将来的には俺の知るじゃがいもに近付いて行くのだろう。

さて、もう一つ持ち込んだ物がある。


「それで、そちらは何で御座いますか?」

「かぼちゃという野菜です」

「かぼちゃ・・・」


そう!かぼちゃも前世では北海道が有名だった。

漢字表記で「南瓜」と書くから南の方が作り易いイメージがあるかもしれないが、前世の日本では国内生産の半分が北海道生産という一大カボチャ王国が北海道だった。

かぼちゃは探すまでも無く、豊後で作られていたので速攻で種を分けて貰いMyHome切原野で栽培した物を今回持って来た。

かぼちゃはうちの女性陣も大好きで切原野でサツマイモとともに双璧を成す人気野菜である。

きのこたけのこ論争ならぬ、さつまいもかぼちゃ論争がなされたとかなされてないとか・・・

まぁ初見の野菜だし実食しないと良さなんて解らないよね~と言う事で、配下の藤林家の誇る料理部隊にお願いして色々と料理を作って貰った。

じゃがいもは定番の肉じゃが!!

牛肉じゃなく今回は猪の肉が使われている物が用意されている。

他にもフライドポテトとポテトチップ!!

コロッケもお願いしようかと考えたけど、再現するのが難しいだろうと今回は献立から外した。

代りに、じゃがいものきんぴらを作って貰ったし、じゃがいもメインの煮物も用意して貰った。

かぼちゃは煮物に天ぷらに素揚げ、かぼちゃの味噌汁にパンプキンケーキにかぼちゃプリンにと色々作って貰ったが、かぼちゃの真骨頂である素材の美味しさを知ってもらう為に繰り抜いて種を取った丸ごとのカボチャをゆっくり丁寧に時間を掛けて火を通した姿焼きも用意して貰ったよ。

これがほくほくしてて美味しいんだよね~焼き芋と双璧を成して女性人気が高い事高いこと。


美味うまし!!」

美味びみ!!」


一言発したが最後、蠣崎親子は先を争うように無心で料理に箸を進め平らげていく。

見ていれば解る、感触は上々だ。


「二位蔵人様!」

「何ですかな?彦太郎殿(蠣崎季広すえひろ)」

「お持ちされたじゃがいもとかぼちゃを是非ともお譲り頂き、作付けの方法などご伝授頂きたい!!」

「勿論、構いませんよ。そのつもりでお持ちしましたので」

「忝い!!」


蠣崎父(蠣崎季広すえひろ)が先にそう言ってじゃがいもとかぼちゃの栽培を請け負ってくれた。

息子で現当主の新三郎殿(蠣崎慶広よしひろ)は先に発言されたことで我に返り言う。


「父上!!それは私の言う言葉です!!」

「おう、それは済まなんだ!がははははは~」


新三郎殿は父親を嗜めた後、此方に顔を向け、改めてお願いして来た。


「二位蔵人様、是非とも宜しくお願い致します」


そう言って現当主も栽培を請け負ってくれたので安心である。


★~~~~~~★


数年後、蔵人の派遣した農業指導者の指示の下、じゃがいもとかぼちゃは蝦夷地に根付いた。

じゃがいもは元々の性質上、寒冷地でも十分に育つ作物だったことから毎年大豊作であったという。

かぼちゃも作付けに成功し、かぼちゃ自体も人気であったがかぼちゃの種も人気で、お茶請けにかぼちゃの種が供されることもあったという。


「松前殿(蠣崎慶広よしひろ)、これは栗では無いのか?」

「はい、大御所様、かぼちゃと申します」

「実に美味じゃ!それにこの芋?」

「そちらは、じゃがいもと申します」

「ふむ、この揚げ芋は美味じゃな!!こちらも大層気に入ったぞ!!是非ともまた献上して欲しいものじゃ」


慶長15年(1610年)に徳川家康に海狗腎オットセイとともに名産品として献上された。

松前藩初代藩主、松前慶広は蔵人に倣い、献上した際に料理して家康に振舞ったという。

海狗腎オットセイという珍品よりも好評で受けが良く、家康より大層褒められたことから毎年献上する事となり、その噂を聞いた者たちがこぞと買い求める様になり松前藩名産の代名詞となる。

丸目蔵人が伝えたという事で、生産地の一部ではじゃがいものことを蔵人芋と呼んだとも云われるが、全国的に普及した名であるじゃがいもの名に押され、時代とともにその名は消えていくが、蔵人が信仰したと云われる摩利支天・稲荷神を特に崇め、豊作祈願と収穫した際にはお供えをその二柱の神に行う事が通例となったという。

その風習だけは後々まで残ったようだ。


〇~~~~~~〇


じゃがいもは伏線を何となく入れていたのでこの流れを読んでいた方も居たかもしれませんね。

じゃがいもは諸説ありますが1600年前後位にオランダ人がジャワ島のジャガタラを経由して長崎へ持ち込んだことから「ジャガタライモ」と当初は呼ばれていたそうです。

日本人大好きの言葉を縮めて「じゃがいも」となりました。

18世紀末には、ロシア人の影響で北海道・東北地方に移入され、飢饉対策として栽培されたと云われますが、元々じゃがいもは南アメリカのアンデス山脈原産だったので寒冷にも強いというのもありますが気候的に栽培に適した地域として北海道は適していたので現在は一大生産地になったのかもしれません。

さて、かぼちゃは実際に全国の約50%の生産量を誇ると云われ全国1位の収穫量を誇ります。

16世紀頃にポルトガル人が九州に渡来する際に寄港地のカンボジアから持って来た野菜と云われており、ポルトガル人のカンボジアの発音が「カンボジャ」と言うらしいのですが、当時の日本人は「かぼちゃ」と聞こえたのかもしれません。

そのまま名前として採用されようです。

面白いのが、英語でのかぼちゃは「pumpkin《パンプキン》」と言いますが、古代ギリシア語ではパンプキンは「メロン」を指します。

北海道名産品の一つ、夕張メロンは一つボタンを掛け違ったら夕張パンプキンと呼ばれていたのかもしれませんね。

少し時期がズレましたが、ハロウィンのオレンジ色のカボチャは北米南部の乾燥地帯で栽培化されたポペ種で、ポペカボチャと言いますが、実はズッキーニの仲間なのです!!

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