第355話

立合い?サクッと終ったよ。

いや、正直言えば相手する意味あった?と思わないでもない。

一応は俺が勝ったら部下が話す的な事を言ったので政宗君と小十郎殿(片倉景綱)にも了解を得て立合いをした。

瞬殺の見本の様に瞬殺したんだけど、誰の指示で今回の事を起こしたかは傅役もりやくの小原縫殿助ぬいどのすけ殿しか知らなかった様で、首と胴が泣き別れした後では聞きようも無し。

まぁ上司責任で弟君(伊達政道)も裁かれることとなるらしいけど、結果、彼らの母様(最上御前)の嘆願で死罪は免れたようだ。

政宗君もママさんには甘いね~とか思ったよ。

さて、もう一人の傅役もりやくの粟野秀用は早々に伊達量を出奔していることが解った。

恐らくは無謀な計画に危険を感じて早々に戦略的撤退を決め込んで逃げたものと思われるが、政宗君たちの怒りは治まらないようである。

伊達家のお家騒動の件はこれで一先ず終幕となるが、お家騒動だけではなく夫婦問題まで持ち込まれようとは思わなかった。


「二位蔵人様、よう参られました!!」

「はあ・・・」


ニッコリ笑顔でお出迎え下さったのは伊達政宗の正妻、田村御前(愛姫)。

美羽・春麗・恵ちゃん(豊臣秀吉の子、羽長の妻)・セドナちゃん(春長の妻)が済まなそうにしているが、事前連絡の報連相は確りしてくれているから何を要求されるかは理解している。


「お願いがございます」

「承りましょう」

「はい、聞けば子宝を賜わる秘儀があるとか・・・」

「秘儀で御座いますか?」


まぁ報連相で房中術だと知っているので驚くのも様式美だ。

要は房中術に詳しい者の派遣を依頼とのことで、千代を派遣して欲しいとのことだが、現在、千代は淀殿(茶々姫)の許に派遣している。

ややこしい話ではあるが、お市さん(織田信長の妹)は前世が千代の姉に当たるらしい。

本人たちがそう言っていたので間違いないとして、そのお市さんの子は千代にとって姪に当ると言う事で千代は気に掛けていた。

そんな折、淀殿は狒々猿(豊臣秀吉)に嫁ぐ事となったと聞いた千代は大変心配した。

そして、淀殿が寧々さんが千代の房中術を学び恵ちゃんが産まれたことを知ると、お願いして来た。

それは千代にとって渡りに船だったのであろう、即座に俺に言って来た。

と言う事で里子もセットで淀殿の所に派遣したと言う経緯がある。


「出来ますなれば私もそれをお教え頂きたいのですが・・・」

「構いませんよ」

「誠ですか!!」

「はい、ただし、詳しい者は、現在、豊臣家に派遣しておりますので、その次にと言う事で如何ですか?」

「勿論!それで構いませぬ!!」


田村御前大喜びですね~

丸目家嫁さん’Sもホッとしている。


「一度、その者に了解を得てからとなりますが、某からも言い添えておきましょう」

「お願い申し上げます」


田村御前から深々と頭を下げられた。

嫁さんたちから彼女の経歴を聞いてはいるが、中々に大変だったようだ。

彼女は陸奥国田村郡(福島県田村郡三春町)て所にある三春城の城主の田村清顕きよあきの娘として生まれたそうだが、政略結婚で又従兄弟に当たる伊達政宗に12歳で嫁いで来たらしい。

ところが、暗殺未遂事件が起こる。

政宗君はこの事件に村田家が関与していると疑う。

実際に内通者として彼女の婚礼とともに伊達家にやって来た乳母と田村御前付きの侍女たちが死罪となった。

確たる証拠も無く裁かれたことや彼女の侍女の殆どが居なくなったことで彼女は夫の政宗君と不仲となってしまったらしい。

人間関係って一旦拗れると中々に難しいのでよく離婚しなかったな~と思うが、現在はお互いに歩み寄り夫婦仲の改善に努めている最中とのことだ。

夫婦仲を一気に改善するのに一番良いのは子を成す事なんだけど、現在、まだ子供は出来ていないとの事で彼女の最大の悩みの種となっているそうだ。

そんな時に訪ねて来て仲良くなった女性たちに子宝を授かる秘儀の話を聞く。

彼女はこのチャンス逃してなるものかといった勢いで俺に嘆願して来たと言う訳だ。

まぁ気持ち解るので出来るだけ協力する予定だ。

田村御前の面会の後、政宗君からも面会の打診があり、そこでも千代派遣の件を頼まれたので、早速、千代宛に手紙を出しておいたよ。


★~~~~~~★


蔵人より書状が千代の許に届いた頃、千代たちの方は淀君ご懐妊の慶事で忙しい日々を過ごしていた。


「千代殿、誠に感謝申し上げまする」


茶々が我に対して礼を言って来るが、最近顔を合わせれば直ぐに礼を言って来るので聞き飽きたのじゃ。


「それは、よいのじゃ」

「千代ちゃんは礼は良いから美味い物を寄こせと言っているよ~」


里子め、そう思っているが口に出して言う事ではないというに心を読んだように言って来よるのじゃ。


「里子、それは言わぬが花なのじゃ」

「あう~それは失礼」


我と里子の掛け合いを聞き、茶々たちが楽しそうに笑い、「菓子を用意せよ」と言い、「飛び切りのじゃぞ」と付け足して侍女に指示を出しておる。

うむ、美味い菓子が貰えるようなので良しとしておこう。


「なんじゃ?楽しそうじゃな」

「これは殿下!!」


時の関白、豊臣秀吉がやって来た。

最近は自分の子を茶々が身籠ったと言う事でご機嫌じゃ。

ここによう顔を出す。

茶々の目を盗んでは我や里子にちょっかいを掛けて来ておったが、子が出来たと判ってからは鳴りを潜めておる。

そうじゃ!丁度良いので義兄上(蔵人)の打診の件を話しておくか。


「忘れぬ内に申し上げる」

「ん?何かな?千代殿」

「兄、丸目蔵人より書状が届き、伊達家のお内儀も子が出来ぬ事を気に病んでおるそうです」


一瞬嫌な顔をしたな。


「ほう、それは気の毒な事じゃ」

「そうですね・・・義姉上たちが見兼ねて私を紹介したいとの事で、そろそろお暇を考えておりまする」

「何~?・・・それは罷りならぬ!!」

「何故で御座いますか?」


面倒臭い狒々爺、いや、狒々猿じゃ。

どうせ産まれた後も面倒を見て欲しいとか何とか言いそうじゃな。


「まだすてが産まれておらぬし・・・」

「ほう!すてとはお子の名ですかな?」

「そ、そうじゃ!!」


周りの者は固唾を飲んで我と狒々猿の問答を聞いておる。

子の事を話して機嫌が一瞬良くなったがやはり我が言った「お暇」が気に入らぬようじゃ。


「子を孕まれたので依頼は達成で御座いましょう?」

「いや、だがの~7歳までは神の内と言うがー」


焦ったりして感情が揺れると方言が出る様だ。

今、狒々猿は考えに考えて我をここに押し留めようとしておる様じゃ。


「それは産まれてからも七年も私をここに縛ると言う事で御座いますか?」

「いや・・・だが・・・」


チラリと茶々の方を見るが、茶々は我に恩義を感じておるから我の好きにさせると思うぞ。

実際に子を成すまでと言うのが茶々との取り決めで、子を成した後は我の自由なのじゃ。


「関白の命である!」

「おい!猿よ何を言おうとしておるのじゃ?」

「ぐっ!」


阿呆の狒々猿が関白という権力をかさに着てとんでもない事を言おうとしたおる様なので、神気・覇気・殺気を威圧に込めて睨み付けてやった。

狒々猿の小姓どもは腰を抜かしたが、顔を歪め絶えたのは流石は天下人になった人物と言うだけはある。


「我がここに来たのは茶々の頼みだからじゃ!我の善意に付け込んで何か企むようなら・・・」

「解った!解ったがー!!」

「解ればよいのじゃ」


言質を取ったので威圧を止めたら息を吹き返した小姓どもが騒ぎ出した。

五月蠅いの~

狒々猿は早々にその場を去って行ったが、後に彼の息子が7歳になるまでは私を他家に派遣しないようにと裏で手を回していたことを知る。

その事で一悶着あるが、それは又別の話。


〇~~~~~~〇


淀殿(茶々姫)ご懐妊!!

1589年(天正17年)の5月27日に豊臣秀吉の長男として茶々姫の間に子が生れたと云われます。

名をすて棄丸すてまる)と名付けられ、鶴松つるまつの名で知られますが、武運長久を祈り八幡太郎とも呼ばれたそうです。

子供が出来たことを大層喜んだ秀吉は茶々姫に山城淀城を与え、そこで鶴松つるまつは生まれたと言われています。

秀吉が53歳の時の子で、当時は高齢の為、子を成す事が難しい年齢とされていました。

男性は最高齢96歳で子を成した事例があるそうなので可能なのかもしれませんが、後に生まれる秀頼と同じく、秀吉ではない種元があるのでは説があります。

この鶴松には不名誉な逸話があります。

1590年、小田原征伐の年に朝鮮使節が秀吉と会見をしたそうなのですが、その際に、秀吉が中座して鶴松を連れて再度現れ、鶴松が使者の前で小便を漏らしたそうです。

秀吉は笑ったそうですが、使節を憤慨させる結果となりました。

鶴松がというより秀吉が起こした出来事ですが、翌年には夭逝しますのであまり逸話の残っていない人物となります。

伊達家の件はやっと終わり次は新たな場所に行くこととなります!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る