第351話

「小次郎様(伊達政道)、如何なさいますか?」

「藤八郎(粟野秀用)何かよい考えはないか?」


二位蔵人様を一泡吹かせてやろうと策を弄したが、上手く行かず、逆にやり込められた思いじゃ。

傅役もりやくの二人と顔を突き合わせて論じている。

次にどうするかという事を聞いて来たのはその一人、藤八郎であった。

彼に何か良い案が無いかと聞き返すが特に無いようで「むーーー」と言いながら頭を捻っておる。


縫殿助ぬいどのすけ(小原定綱)、そちは何かないか?」


もう一人の人物に声を掛けると聞き返して来た。


「小次郎様は二位蔵人様を如何されたいので?」

「如何とは?」

「亡き者にしたいのですか?」

「亡き者・・・いや、そこまでは考えておらぬ!」

「ではやり込めたいと?」

「うむ・・・」


そう、儂は恥を掻かされたことを根に持っておるからこそ、かの御仁をやり込めたいのだ。

殺めようなぞ微塵も思ってはおらぬ。


「甘いですな」

「小原殿!!」


縫殿助は儂の事を「甘い」という。

それを咎める様に藤八郎は叫ぶ。

甘い・・・そのような事は・・・

そう思っていると、縫殿助は言う。


「既に二位蔵人様からは舐められているのですぞ。舐められたのであれば・・・」

「な、何じゃ?」

「二位蔵人様の殺気をお受けになって居るのに解りませぬか?」

「解らぬか?とはどういう事じゃ・・・」

「武士は沽券が大事で御座います。虚仮にされたのであれば後は命のやり取りでは御座らぬか?」

「そ、それは・・・」

「ああ、小次郎様は何もお知りにならなかった」

「え?」

「何もお知りにならなかった。良いですな」

「あ・ああ・・・儂は何も知らなかった・・・」


縫殿助はニッと笑い頷き、「某にお任せくだされ」と言って立ち去って行った。

儂はそれを見送ることしか出来なかった。


「小次郎様!!よいのですか?」

「儂は何も知らぬ!!」


藤八郎は困惑した顔で儂を見詰めて、縫殿助の後を追って行った。

何が起こるか恐ろしゅうてその場から動けなかった。


★~~~~~~★


儂の執務室に小十郎(片倉景綱)と藤五郎とうごろう(伊達成実)がやって来た。

小十郎は苦い顔で、藤五郎は何か面白そうなことがあったとでも言うように、二人の顔色は対照的で何を話して来るか構えてしまった。

恐らくは良い知らせではないと儂の勘が囁く。


「二人ともなって如何した?」

「藤次郎様、実はご報告が御座います」


小十郎が報告があると言うて来た。

報告は藤五郎が行う様で、話始める。


「今朝、二位蔵人様と立合い稽古を行いました」

「ほう!」

「いや~流石と言うか何と言うか、お強い!!」

「それ程までか?」

「はい、百余名ほどお相手された後にお願いしたのですが、立合いというより指導ですな」

「ほう!流石は日ノ本一の剣豪じゃな!!」

「はい、剣聖と呼ばれないのが不思議にて御座います」


そう、二位蔵人様は「日ノ本一の剣豪」と呼ばれている。

本来であれば、「剣聖」と呼ばれてもおかしくないお方なのに何故そう呼ばれないのかというと、「剣のみに専念していないから」らしい。

以前招いた剣客がそう言っておっと。

日ノ本一の富豪ではないかとも呼ばれる二位蔵人様に対する妬みから「剣聖」と呼びたくないのであろう。

しかし、藤五郎曰く、間違いなく強いと言う。

三百余名の相手を行きも切らさずに行い、掠りもさせなかったと言う。


「儂もご指南頂きたいものじゃ」

「明日も朝稽古を行われるそうですから、藤次郎様も来られては如何ですか?」

「おお!では明日は早起きせねばならぬな!!」


藤五郎と明日の事で盛り上がっておると、藤五郎に対し小十郎が注意する。


「本題を忘れておるぞ」

「ああ、そうであった!小次郎様が二位蔵人様に難癖をつけておられました」


本題は弟の小次郎が二位蔵人様に失礼を働いたと言う。

儂が図書殿(春長)、帯刀殿(羽長)と和解している間に小次郎が勝手に動き二位蔵人様を怒らせたと聞いた。

小次郎は「覚えておれ」など戯言を吐いて逃げ去ったと報告を受けておったが・・・

また要らぬ事をしたかと思いきや、今度は二位蔵人様を立合いにて任してやろうと策を弄したが、見事返り討ちにあったと言う。


「あ奴は何がやりたいのじゃ?」

「恐らくは藤次郎様を代りに取り返してやろうと動かれたはいい・・・いえ、良くないですね・・・要らぬこと」


小十郎が辛辣に弟をなじる。

そして言葉を続ける。


「正論で言い負かされて逃げ帰り、今度はその仕返しですな・・・藤次郎様には申し訳御座らぬが、身内の恥ですな」

「おい!小十郎、言い過ぎじゃ」


藤五郎が小十郎を窘めるが顔が笑っておるので本気で思っていないのであろう。

そして、藤五郎が言う。


「小次郎様は大したことが御座いませぬが、傅役もりやく方がちと厄介ですな」

「動くと思うか?」

「勿論」


聞いてはみたが儂も恐らく動くと考えている。

小十郎もそう考えているようで、「何方が動かれるか・・・」などと言っておる。


「二位蔵人様にご迷惑を掛けぬ様にといっても聞かぬであろうな・・・今日、お会いする際にご注意しておこう」


折角和解できたのに気が重い事じゃ・・・


〇~~~~~~〇


伊達家のマイナー武将登場です!!

伊達家といえば片倉景綱、伊達成実、鬼庭良直(左月斎)、鬼庭綱元、遠藤基信、遠藤宗信、中野宗時、その他多くの勇将が居りますが、今回登場した小原定綱、粟野秀用はご存じでしょうか?

マイナー武将なので知る人ぞ知る武将だと思います。

両名共に伊達政道の傅役もりやくとなった人物です。

傅役もりやくというのは教育係にして後見人となる人物で、当主の息子に着けられる傅役もりやくともなれば家中でも認められた人物が就く事が多い役職でした。

そういう理由からも誉と考えられましたし、傅役もりやくをした人物に仕えるような形となるのは自然でした。

さて、小原定綱はマイナー過ぎてネット検索しても探すのに苦労するような人物ですが、親父の小原宗綱は伊達稙宗(政宗の曾祖父)の家臣でそれなりに活躍?した人物なので名前や多少の経歴は出て来ると思います。

定綱は政宗により政道が誅殺された際に殉死したと云われています。

粟野秀用ひでもちはある程度知る方も居るのかも?と思える位にはある程度の経歴が追える程度にはある人物で、政宗により政道が誅殺される以前に伊達家を出奔し、豊臣秀吉に仕えたと云われています。


四国にも秀吉旗下で従軍しているので史実ではこの時伊達家には居ませんが、伊達政道の陣営はマイナーな者たちばかりでしたので敢えて歴史改変的にこの時伊達家に残っている事として話を書かせて頂きました。

政道が誅殺されてから出奔したという訳の分からない説もある為、この物語ではそのように致しました。

この事に気づいた方居るかな?

さて、秀吉の下で軍功を上げ四国攻めの際は10万石を与えられ、従四位下木工頭にも任じられておりますので大名になった人物と言えます。

秀吉の許に居ることを知った政宗は秀吉に引き渡しを願い出ますが、秀吉は自分の家臣となり功を上げ扶持を与えていることを理由にこれを却下したようですが、政宗も天下人にそう言われたら黙るしかなかったようですし、却下後はそのまま放置をしたようです。

粟野秀用ひでもちはその事を知ると秀吉に対し益々忠勤したと云われていますし、四国攻めで大活躍して大領地を得ていることを考えるとマイナーだけどマイナーではない人物とも言えます。

そして、豊臣秀次の重臣の一人となったと云われています。

しかし、秀次事件の連座で京の三条河原にて斬首された一人となります。

秀次の無罪を訴えて自害したとも云われますがどちらにしてもこの事件が原因でこの世を去ります。

彼には子も一族も無く、お家断絶となりますが、最終は15万石の大名だったので秀次事件が無ければ時代を代表する有名な武将の一人となったいたかもしれません。

因みに、秀次事件の際に伊達政宗が疑われたのは、この粟野秀用が元伊達家の家臣であったことからなどと云われています。

伊達政宗にとってはいいとばっちりですが、関係性が中々に面白い武将です。

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