第345話

「無礼ですぞ!!」

「春!落ち着け!!」


源五郎殿(最上義光)・典膳殿(鮭延秀綱)と鮭談義に花を咲かせていると何やら息子たちの方から不穏な声が聞こえて来る。

春(春長)が伊達政宗をキッと睨み、それを羽(羽長)が押さえている?そんな感じである。

その様子を見ていると、源五郎殿が言う。


「藤次郎め、酔っておるな・・・」

「あ~小十郎殿が間に入った様ですので、その内治まるのでは?」


典膳殿が言うには現在、伊達政宗の右腕と言える片倉小十郎(片倉景綱)は彼の両親が幼少時に相次いで亡くなったことで異父姉である喜多に養育されたという。

そして、喜多きたという女性が正宗の乳母うばになり、正宗と小十郎は幼き頃は兄弟のように育ったそうだ。

小十郎は幼き頃より賢く、功績を挙げたことで輝宗(伊達正宗の父)の徒小姓となったという。


「そして、その才は当時の伊達家重臣の不入斎殿の目に留まったのです」

「小十郎殿は優秀なのですね」

「優秀も優秀、姉の喜多殿が文武に通じて女子おなごにしておくのは惜しい程に優秀でしてな、その薫陶を得た小十郎殿は驚く程優秀にでしてな・・・」


典膳殿は小十郎の優秀さを更に語られた。

不入斎というのは遠藤基信のことで、外交手腕に優れていたらしく、諜報部の方でも名前が挙がって来るほどの人物だったようで、織田殿(織田信長)・家さん(徳川家康)などとも頻繁に書状のやり取りをしていたようだ。

正宗の親父の代は宿老の一人で大活躍し、正宗の代も活躍したが、残念なことに数年前に鬼籍に入った。

その不入斎が才を見出し、次世代の伊達家を支える人材としたのが片倉小十郎で、不入斎は政宗の近侍として推挙したらしい。

直ぐに頭角を現し正宗の腹心として知られるようになったそうだ。

そして、正宗が家督を継ぐと重臣として伊達家を支えているという。


「本当の事を言って何が悪い!!」

「と、殿!!」


揉めてる内容は解らないけど、一度お開きにして話を精査した方が良いようだ。

源五郎殿・典膳殿との話は面白く、もう少し話したいのは山々ではあるが、このまま放っておくと問題が拗れて宜しくないと思い、介入することとした。


「源五郎殿、典膳殿、話は尽きませぬが、あちらを放置する訳には参りませぬ故、名残惜しくは御座いますが、宴席は閉じさせて頂きますね」

「仕方無いですな」

「う~残念で御座る」


俺は二人に挨拶を交わすと、伊達政宗と息子たちの許に行き、この場を収める事とした。


「皆も宴席を十分楽しまれたことで御座ろう!ここら辺でお開きと致しましょう!!」


そう俺が言うと、片倉小十郎がこれ幸いにと乗っかって来た。


「おお!そうで御座いまするな!皆さま方本日はお開きに御座る!!」


宴会参加者は皆、その場の空気を読んで立ち去って行った。

残るは俺と息子たちと伊達政宗と片倉小十郎に小姓さんたちや近習さんたち位となった。


「羽、状況説明しろ」

「父上!」


一番冷静そうな羽に状況確認をしようとすると春が何か言いたそうに意見して来る。

春を手で制止て「言い分は後で聞く」と伝え、羽に状況説明させる。


★~~~~~~★


「ほう!図書権助ずしょごんのすけ殿(丸目春長)の奥方は外つ国の・・・」

「はい、これから妻の里に一度戻ることとしております」


和やかに話は進み、俺と春は藤次郎殿と身の上話などしながら酒を飲んでいた。

父上(丸目蔵人)は最上殿とその家臣の鮭延殿と楽しそうに何やら魚の話で盛り上がっているようじゃ。

そう言えば、三河守殿(徳川家康)を通じて鮭の育成方法などを各地に知らせていたなと言う事を思い出した。

三河守殿は顔が広いので父上が自分の面識のない方などには三河守殿を通じて情報を伝えたりしている。

少しそんなこと考えている間に話の雲行きが怪しくなって来た。


「そう言えば、二位蔵人殿も外つ国の方を奥に迎えた方でありましたな」

「はい、母上方は日ノ本の生まれでは御座いませぬ」


有名な話なので特に如何と言う事は無いが、酒の勢いでそう言われたのかは定かではないが藤次郎殿の目の怪しい輝きこの時見落としていたのかもしれぬ。


「元奴隷であったと」

「そ、そのように聞き及んでおります」


話の向きが怪しくなって来た。

そう感じたのは片倉殿(片倉景綱)も同じだった様で彼と一瞬目が合った。


「二位蔵人殿も日ノ本では外つ国の方のような者ですから」

「ような者?」

「ああ、失礼、元は隼人、古く熊襲くまそと呼ばれる末裔ではないかと思いまして」

「そ、それはどういう意味でご座いますか?」

「元を辿らば朝廷に逆らった一族で、外つ国と同じ様な」

「何ですと?」

「ああ、同じ外つ国のような者ですから婚姻も問題な

「無礼ですぞ!!」


そして、俺は慌てて春を止める。


「春!落ち着け!!」


向こうも向こうで片倉殿が藤次郎殿を慌てて諫めている様子だ。

その話を父上に話した。


★~~~~~~★


あちゃ~伊達政宗も何か思う所が有ったんだろうね~

隼人はやとというのはある種の侮蔑の言葉と言える。

古代日本においては大隅辺りに住んでいた人々で朝廷に従った人々を指して言う。

逆に熊襲くまそとは九州南部で朝廷に歯向かった者たちをそう呼んだ。

前世で筑前国風土記では球磨囎唹くまおそ等とも呼ぶらしいと聞いたから俺のルーツを辿ると熊襲くまそかもね。

間違いではないと思うが、侮蔑の意味で使うのは違うと思うぞ。

春は怒ったのも無理はないね。

親父を侮辱され、母親も侮辱され、嫁さんも遠回しに侮辱されるとなれば我慢できなかったんだろうね。

羽が冷静だったのは朝廷などに行った際は多少は馬鹿にされたりあるだろうからそれで慣れ手入れうのかもね。

成り上がり者の息子と言う事で、朝廷では馬鹿にする者は居るだろうしね。

さて、どう治めるかだが、喧嘩相手の伊達政宗も酔っぱらって出た言葉であろうが、本音だろうから質が悪い。

彼らの方を見れば片倉小十郎が顔を青くしつつ諫めている。

伊達政宗は酒乱の気でもあるのかな?顔を真っ赤にして「叔父上たちと懇意にし儂を蔑ろにした者に何の遠慮が要ろうか」など言っている。

うん、原因はそこか・・・

取り合えず、今のままでは宜しくないと判断し、早々にこの場を立ち去ることとした。


「片倉殿、すまぬが我らはこの場を失礼させて頂く」

「それは・・・はい、殿の失態、誠に忝く・・・」

「そうですな・・・まぁこの場は引きますので失礼をば」


そう言って荒ぶる春を引っ張りその場を退去した。


〇~~~~~~〇


政ちゃんがやらかしました!!

さて、伊達政宗は幼名を御幣ごへい(梵天丸ぼんてんまる)と言い、元服して伊達藤次郎政宗と名付けられました。

父親の伊達輝宗が伊達家中興の祖と云われる9代目当主の大膳大夫政宗の名を用いて諱を正宗としたそうです。

前話で伊達藤次郎政宗の方を中興の祖と表現しました。

間違いでもないのですが、一般的には自分でピンチを招き自分で何とか解決して乗り切った感じなのと、仙台藩初代藩主や英傑と呼ばれることが多く中興の祖のイメージは薄いようですので書き換えました。

因みに、中興の祖というのは名君と称される君主や統治者が危機的状況後に担当して危機から回復したり、安定化や維持に多大な功績が歴史的評価値すると認められた者に着けられる称号のようなものです。

伊達政宗はマッチポンプ的なピンチとチャンスで伊達家に多大な功績を残しますのでそう言えなくも無いのですが、何方かというと英雄的なポジションが強いですね。

実際、亡くなった後には神号が贈られます。

神号とは神に対する称号ですが、人で生前の功績が認められると朝廷より神号が贈られたようです。

織田信長は「建勲神たけいさおのかみ」という名を賜っていますし、豊臣秀吉は「豊国大明神」(神話に登場する日本の古名「豊葦原中津国」が由来)を賜り、徳川家康は「東照大権現」を賜っています。

伊達政宗も「武振彦命」という神号を賜っています。

宮城県仙台市青葉区青葉町にある青葉神社の御祭神で、この神社は1874年に創建されました。

1831年頃に政宗を祀る神社を建てる許しを仙台藩12代藩主の伊達斉邦なりくにが朝廷から得たらしいのですが何故か中止になり後々にやっと建立されたようです。

当時は諸藩の藩祖を祀る神社の創建申請が相次いだようで、ある種の流行でもあったようです。

そう言う訳で推し偉人の保科正之も会津藩初代なので「土津霊神」という神号を得ています。

更に、推し武将である立花宗茂も「松陰霊神」、奥様の誾千代は「瑞玉霊神」、義父の戸次道雪(立花道雪)も「梅岳霊神」という神号を賜っています。

話を変えもう一つ、熊襲くまそについてですが、九州南部の原住民で朝廷に逆らった人々を指すと云われたり、熊曾国(襲国)という国が元々この地域にありそれを指した等色々云われますが、「日本書紀」にて熊襲くまそと表現されているのは九州南部の土着人を指した言い回しで熊と襲は本来は別々であった説などもあります。

球磨→熊となったとか何とか・・・

ここら辺も中々に面白く、資料を穿り返すと服属神話やヤマトタケル伝承で熊襲建くまそたけるの征伐物語等々が出て参ります。

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