第334話
高山殿が自分の話したかったことを話し終えると、次に弥九朗(小西行長)が話し掛けて来た。
「ジュスト(高山右近)の話を聞いて頂きありがとう御座いまする」
「気にするな」
「はい、お言葉に甘え気にしませぬ。しかし、ジュストはこれで思い残すことも無いでしょう」
何だか死に行く者に対するような言い草の様に思えて聞き返す。
「何だか今生の別れみたいないい方だな」
「そう聞こえましたか?・・・」
「如何した?言いたければ言ってみい」
「実は殿下(豊臣秀吉)の命にて後日、ジュストは前田家の預かりとなります」
「前田家ってことは加賀か?」
「はい・・・」
どうやら切腹を命じられたとかではなかったようだ。
しかし、前田家預かりとして加賀に行くのに何を悲観することがあるのか?と思ったのが顔に出ていたのであろう、弥九朗が追加情報をくれた。
「加賀にはキリシタンは居りませぬ」
「ああ、一向宗の事があり宗教に対しては厳しいと聞くな」
加賀は少し前まで一向宗が押さえる国であった。
世に言う加賀一向一揆で国を奪い、約90年間程、加賀の本願寺門徒は国を支配していた。
彼らを中心に国人と農民による守護不在統治の為、惣国一揆とも呼ばれた。
石山本願寺が織田家に対して降伏したことで、金沢の拠点であった尾山御坊(金沢城に改修)が陥落し、拠点を失った一向宗は抵抗虚しく鎮圧された。
しかし、そんな宗教戦争のあった国なので未だに統制は厳しい。
その上、キリスト教信者が居ない所に送られるのだ悲観もしようというものだろう。
「そうか・・・前田家か・・・又左殿(前田利家)や孫四郎(前田利長)に頼んでおこう」
「
そう言って歩きながらなので目礼でお礼を述べられた。
まぁあまり深刻に話すと晴れの日を汚すと思っての事であろう。
それに、俺的にはそんな苦労する事ではないのである意味安請け合いも出来る。
頼むだけなのだからね!!
その後は欧州の事などを聞かれた。
弥九朗は元商人で、水軍も任されている。
海の向こうの異国と言うのに興味津々の様で、色々と話題に欠かなかった。
特に興味を持ったのはスペイン・ポルトガルの現在かの国を表す「太陽の沈まぬ国」というものであった。
「そのような版図の国があるのですから、我が日ノ本も・・・」
物騒ではあるが武将的な考え方でもある。
得られる土地があると言う事を夢想するのであろう。
実際にお猿さん(豊臣秀吉)はそんな野望で朝鮮出兵を手始めとして世界侵略を目論む。
実際は朝鮮での戦いが長引き、世界侵略は1国目で頓挫する事となるのだが・・・
そう言えば、弥九朗はその朝鮮出兵の最終段階頃に和平交渉を主導する。
え~と・・・確かお猿さんにばれて怒りを買い、切腹寸前まで行って又左さんとかの取り無しで事無きを得るんだったな・・・
朝鮮出兵か・・・まだ少し先の話であるが、そんな徒労に終わる様な戦に関わりたくないものだ。
「実に面白きお話、拙者も仲間に入れてくだされ!!」
そう言って虎之介(加藤清正)も話に加わって来た。
そうそう、虎之介の虎の字を見て春(丸目春長)の武勇伝を思い出した。
白熊か虎が見たくて海を渡り、白熊と死闘を行い、嫁さんをGETして来た。
虎之介の食付きが凄く白熊の事とか色々聞かれたが、白熊なんて前世で動物園で見るかアイスの絵柄の物しか知らんので、「詳しくは春に聞く様に」と言っておいた。
虎之介は他にも、スペインの軍について興味を示した。
と言っても、騎乗槍についてで、ランスと呼ばれる騎乗槍を片手に持ち敵に突っ込むと言う部分に感銘を受けたようだが、既に廃れた戦法で、現在のスペイン・ポルトガルの主流は鉄砲によるものなのだが、虎之介の興味はランス片手に敵に正面から突っ込んで薙ぎ倒す部分であった。
まさかと思うが、そんな事に金掛けないよね?
一応、既に廃れているが騎士の嗜みとして一部残るのみであることも伝えたので大丈夫だよね?
まぁ後は知らん!!
~~~~~~~
加藤清正はランスを出入りの商人に所望して手に入れるまでに留まったが、今は仲良く話す小西行長とは朝鮮の役(文禄・慶長の役)で対立する。
和平交渉を独断専行で行った小西行長は秀吉の命令を無視してでも和睦を結ぼうとした。
それに対し、加藤清正は粛々と秀吉の命に従い和平交渉を行おうとした為に小西行長と対立する事となる。
小西行長は加藤清正が講和の邪魔になるとみて、清正が豊臣姓を勝手に名乗り、独断専行したとして秀吉に訴えた。
この事により清正は京に戻され謹慎となる。
戦争継続は不利と考えた石田三成が行長を支持したことなどから起こったことで、
増田長盛らが石田三成や小西行長と清正を和解させようとしたが、清正は断ってしこりを残す事となる。
この時、仲良く談話する二人が激しく対立するとはこの時誰も知る由は無かった。
いや、丸目蔵人が前世で歴史をもう少し詳細まで知っていれば・・・
歴史において、「もしも」というのは浪漫もあるが、実際には「もしも」はない。
この世界線でも同じことが起こるかは神のみぞ知る所である。
いや、もしかすると、神すら知らぬ事なのかもしれない。
~~~~~~
楽しく海外談義をしている間に自宅に到着。
宴会用の大広間に皆を通し、いよいよ披露宴の大宴会が始まろうとしていた。
花嫁たちはお色直しを行う為に一時、場を離れる。
そうそう、このお色直しだが、俺が口を滑らせたことで実現した。
息子の婚儀なのであるが、この時代は当主が手配する。
当主と言う事は俺の仕事だ。
勿論、手配はするが決めるのは女性陣が中心になって行う。
家の内向きの仕事の取り仕切りは女性の仕事らしい。
まぁ結婚式の披露宴は前世でも女性の意見が大きかったので俺的にも違和感はない。
と言う事で、取り仕切りを任せていたが、そこで意見を求められた。
何気なく、「お色直ししないの?」と俺が言ったことで、女性陣の追及にあい、実現した。
前世の昭和~令和の結婚式では定番のお色直し(衣装替え)はここ安土・桃山時代では異彩な事だったようだ。
でも、婚礼衣装を変えて披露するというのは女性陣にウケた。
まぁ当たり前だがお色直し(衣装替え)となると婚礼衣装が最低2枚は必要となるので予算が嵩む。
しかし、俺の「予算は気にするな」の一言でこのプロジェクトは実行に移された。
恵ちゃんは流石は天下人の娘で、そんなド派手な事は慣れているようだが、一般人のお香とセドナちゃんは恐縮していたが喜んでくれている様なのでホッとしたよ。
あ!恵ちゃんも何だか嬉しそうなので慣れていようがいまいが関係無いようだ。
~~~~~~~
丸目家で行われたこの日の婚儀が切っ掛けで、結婚で贅を凝らす一例として「お色直し」が大名や豪商などの富裕そうに定着する事となる。
江戸時代の倹約令に「お色直しは贅沢にて禁止致す」の一文が加わる事となるがそれは又別の話。
〇~~~~~~〇
今回は前回うんちくで少しだけ書いた部分なので予習ばっちりでしょう!!
さて、加賀一向一揆(惣国一揆)ですが、1474年~1582年の約90年間の時期を総称してそう呼ばれます。
惣国一揆と言うのは一国規模の一揆の事で、加賀以外では紀伊・伊賀など畿内周辺で多く見られました。
加賀一向一揆以外で惣国一揆として有名なものとしては山城国一揆・伊賀惣国一揆が有名です。
加賀一向一揆は文明の一揆と言う守護の富樫家の争いに介入をすることから始まります。
真宗高田派門徒を中心に富樫幸千代という人物を擁立し富樫政親を加賀より追い出します。
富樫政親は浄土真宗本願寺派門徒(一向宗)などの援助を受け加賀国内の武士団の支持を得て、再度、富樫家の当主の座に就いたと云われます。
富樫政親の要請を受けて動いいて敵対勢力を追い出したその一向宗の実力を危険視して富樫政親が一向宗の弾圧を始めます。
本願寺の蓮如は吉崎御坊を退去し、加賀の門徒は政親に追われて越中に逃れますが、今度は越中でも富樫政親と結んだ石黒光義が門徒弾圧を始めます。
理由としては彼の治める土地に瑞泉寺という寺があり、そこに門徒が逃げ込んで一大勢力となった事でそれ恐れての事なのですが、その事が引き金で越中で一揆が発生し、石黒光義が一向宗に討ち取られます。
その時期に富樫政親は将軍家から加賀の一国支配を容認して貰おうと9代将軍・足利義尚の行った六角征伐に従軍します。
一国支配というのは、加賀北半国守護に任じられた赤松政則から加賀北部を取り戻す為です。
この六角征伐を長享・延徳の乱とも呼びますが、問題となるのは第一次の通称、鈎の陣と呼ばれるもので、富樫家はそれに伴う戦費の拡大で国人に無理を強います。
その事で国人は反発し越中から帰還した門徒とともに決起します。
その一向宗との戦いで富樫政親は息子と共戦死します。
そして、家督は大叔父の富樫泰高の手に渡る事となります。
ここら辺の家督移動がややこしいのですが、富樫泰高は富樫家17・19・24代当主で、政親(21代)→幸千代(22代)→政親(23代)という感じになります。
富樫泰高は自分が当主に返り咲く為に一向宗と組んで富樫政親を攻め滅ぼしたのですが、これを長享の一揆などと呼ばれます。
足利義尚は一向一揆の討伐を検討しましたが、幕府の実力者である細川政元の反対にあったことと、義尚の死により一向一揆討伐と六角高頼遠征は中止となりました。
この頃から加賀に宗主代理の一門衆を置く様になったのですが、それにより一向宗の現地支配が強まります。
一向宗の門徒の多くが農民だった為、以降、織田信長に敗れるまでの約90年間「百姓の持ちたる国」等と呼ばれるようになりました。
加賀一向一揆のあらましの話でした。
そういう背景もあり前田利家は加賀支配の上で宗教に対しては厳しかったようですね。
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