第331話
石田三成が去ると、慶さん(前田慶次)と与六(直江兼続)が寄って来た。
慶さんがニヤニヤとしながら寄って来た。
与六の方は呆れ顔だ。
「大分、石田殿をお叱りの様でしたな」
与六が言って来た。
そして、ドカリと俺の前に慶さんが座り、ニッと笑い酌をして来る。
「天下人を猿呼ばわりするのは長さん位だが、皆にとって中々に耳の痛い話をされておったな」
「慶さんこそ、お猿さんとの会見で猿真似したと聞いておるが?」
「わははははは~まぁそのお陰で傾き御免状を頂いた」
「ははははは~又左さん(前田利家)が青い顔をされておったと聞き及んでおるが?」
「わははははは~それこそ面白い物でったぞ」
「慶さんも叔父を揶揄って遊ぶのはどうかと思うぞ?それに、天下人を揶揄うとか命懸け過ぎ」
「いや~傾奇者を見たいと所望じゃしあれでよかったのであろうし、見世物として配下を指し出す主なぞ主じゃない!しかし、分別ある儂は揶揄う位で許してやったのよ」
慶さんは手酌で酒を水の様に煽りながら自分の叔父の又左さんの事を茶化す言動をする。
確かに、あの何事にも豪快に対応しそうな又左さんの青い顔は見物だったかもしれないし、部下を指し出す上司なぞ上司の風上にも置けない。
うん、他人のふり見て我がふり直せだ。
長門守たちに対してそのような事をしないように注意しよう。
慶さんは現在、前田家に所属している。
お猿さんが慶さんの傾奇者としての噂を聞き面会を又左さんに所望したらしい。
頼まれた又左さんは甥として慶さんの性格を知っているので、見世物の様な事をされてただ大人しく会見に応じると思っていなかったようで、戦々恐々としながらも会見を受けざるをおえなかったらしいからな、流石に天下人に逆らう愚を犯す事は出来なかったようだ。
慶さんも慶さんでそんな叔父を気遣って会見を受け入れた。
諸大名が居並ぶ中での会見で、慶さんは猿面冠者とよばれるお猿さんに会見の場で猿真似をして揶揄った。
流石は傾奇者といったところだろう。
でも、傾奇者ではあるが、彼は中々に
慶さんはこの時代を代表する傾奇者ではあるが、高い素養を備えた文人武将でもあり、風流にも精通しているし、行儀作法も中々の物である。
そんな慶さんの事だから思う所はあっただろうけど自分の命を懸けて自分の尊厳をも守ったのであろう。
お猿さんもそこまで覚悟を決められると受け入れるしかない。
笑って誤魔化して猿真似されたことは苦々しく思いつつも許して傾き御免状と言う免罪符を与えたのであろう。
恐らくは詫びの意味もあるのだろうね。
「越中少将殿(前田利家)は気が気でなかったようでしたが、このような破天荒な方が家来だと気苦労が絶えないでしょうな~」
与六はそう言って慶さんの横に座った。
即座に慶さんが与六に酌をする。
仲良いな。
あれ?確か将来的に慶さんって上杉家に仕えるんじゃなかったかな?慶さんの破天荒の行動を将来的に制御するのは与六となるのだが、知らぬは本人ばかり・・・いや、知っているのは前世で結果を知る俺だけ・・・まぁいいか。
ワイワイと話していると、今回の主役が入場して来た。
「本日は
羽(丸目帯刀先生)が上座より皆に挨拶をする。
そして、式が厳かに・・・
いや、既に出来上がっている者も多いので賑やかなドンチャン騒ぎが始まった!!
そして、新婦の恵ちゃんが俺にご挨拶しにやって来た。
「長叔父様、いえ、長義父様、それに、美羽義母様」
おお!何か良い!!
そう思っているのは美羽もだったようで、俺の横で身悶えしている。
まぁ気持ちは凄く解る!!
「恵ちゃん!!」
「義母様!!」
美羽が感極まって恵ちゃんと抱き合っております!尊い!!
次は俺の番だな!!
準備万端で手を広げて待っていると、羽が俺の肩に手を置く。
「父上!・・・恵に何をしようとしておられるのです?」
「え?次は俺の番かと・・・」
「父上の出番は御座いません!!」
「左様か・・・」
羽は中々に嫉妬深いようだ。
まぁ嫁さんを大事にするのは良い事だ。
そして、更なるカオスのドンチャン騒ぎが始まった。
★~~~~~~★
「よう参った!!」
「はっ!!」
娘の恵と共に帯刀(丸目羽長)が儂の所にやって来た。
京にて祝言を挙げたが、祝言に儂も参加したかった・・・
佐吉(石田三成)に「殿下が参加されますと騒ぎとなります」と言われ、小一郎(豊臣秀長)に親族代表として行かれ、こっそりと参加しようと思ったが、寧々に止められた。
夫婦となった二人が儂に所に挨拶しに来ることで折り合いを付けられてしもうた。
「恵、幸せそうで安心しました。羽さん、恵の事宜しくお願い致します」
「はい、恵の事は幸せに致します!!」
寧々が二人に声を掛け、帯刀がそれに答えちょる。
恵の幸せそうな姿を見ると、何とも言えない気分となるがー。
「帯刀」
「何でしょうか?」
「恵を泣かせた許さんがー」
「はい。泣かせるような事は致しませぬ」
「ほんとけ?じゃが、約束を破らば覚悟するぎゃ!!」
そう言って睨み付けた。
そして、頭の後ろに衝撃が・・・
「本当にごめんね。この禿鼠の事は気にしないでね」
寧々に後頭部を叩かれたがー。
寧々に「何するが」と文句を言うと、キッと睨まれた。
逆らうと後が怖そうじゃから大人しゅうすることとした。
「恵、帯刀が泣かせるような事があれば何時でも戻ってくがね」
また衝撃が走る・・・
寧々にまた後頭部を叩かれた。
〇~~~~~~〇
京の祝言回は終了!!
次は地元での披露宴!!
さて、前田慶次郎
現在の彼のイメージはやはり、隆慶一郎先生の小説「一夢庵風流記」を原作とした原哲夫先生の漫画「花の慶次」の主役の前田慶次でしょう。
直江兼続との親交が有名で実際にその縁で上杉家に仕官します。
そして、叔父である前田利家とは不仲だったとも云われますが、実際にはそういった記載は特にないようです。
何方かというと、前田利家の息子で嫡男の利長と不仲だった説あります。
しかし、叔父の利家を水風呂に叩きこんだり、叔父の所有する名馬を乗り逃げしたりと中々の事を行っているようです。
水風呂に関しては創作とも云われますが・・・
さて、豊臣秀吉から傾き御免状を貰った逸話は有名ですが、史実ではもう少し先の話となります。
豊臣秀吉が多くの大名を招き夕宴を開いた際、前田慶次がそこに紛れ込み、猿面をつけ手拭いで頬被りして猿踊りを舞ったと云われています。
座興ですから誰も咎めなかったようです。
秀吉は自分の事を猿と馬鹿にする者を許しませんでしたが、この時は許し、御免状を与えたと云われます。
その際の別エピソードとして、並んでいる大名たちの膝の上に次々と腰掛けて揶揄って回ったようです。
座興なので誰も怒ったり咎めたりしませんが、上杉景勝の番になると彼を避けて次の人の膝の上へと乗っかったと云われます。
前田慶次は後にこの事について語ったそうで、「天下広しといえども、真に我が主と頼むは会津の景勝をおいて外にあるまい」と考えたのはこの時のこの行動で見定めたそうです。
この時の上杉景勝の威風堂々とした雰囲気を醸し出していたのかは解りませんが、慶次は景勝の膝の上に座る行動に躊躇した為避けたことも語っているようです。
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