第320話
★800達成です!!
★で評価頂きました皆様感謝です!!
記念に一話献上!!
暇つぶしに糧にどうぞ~
◇~~~~~~◇
「お見事なお手前で!!」
「関白様の手ずから茶を頂けるとは末代まで自慢出来ます!!」
「茶碗も素晴らしく感動いたしました!!」
儂の茶を飲んだ者たちからの賛辞が止まらぬ。
気分良く茶を点てた事で何時も以上に出来の良い茶になっておる様な気もする。
しかし、流石に疲れた・・・
多くの者に振舞おうと少し気張り過ぎた。
「よし!次の組で今日は最後じゃ」
そう言って茶を点てる事を終わらせる。
次は茶を点てる者たちを見て廻ることとする予定じゃ。
予め決めていたことなので係の者も次の組を案内する前に御触れを出してくれた。
終わらせてから一休みして供を連れ見回りをして歩くこととした。
長さんの所は・・盛況じゃ・・・正直悔しい。
いや、多分儂の所よりも多くの客を捌いて居るように感じる。
どの様にして捌いておるか気になるが、悔しいので儂自ら身に行くのは躊躇われ他を見て廻ることとした。
係の者からの報告で儂の用意した金の茶室も好評を博しているという。
三匠の所も好評ではあるが宗易(千利休)の所は特に好評じゃと言っておった。
今回は宗易が茶湯で天下を取れと命じているのでこれ位してもらわねば困る。
さて、他も見て廻ることとしよう。
「あれは何じゃ?」
野点の一角に朱色の大笠を差して茶席を設けている者が居た。
その傘はひと際目立ち目を引いて興味を持ちその茶席に着く。
「お出でやす」
「うむ・・・」
その場には襤褸を着た翁が茶を点てておる。
道具を見れば高価な物は何一つ無く、全てがみすぼらしい。
然も、茶を点てている茶碗は少し欠けていて三度見してしまった程だ。
しかし、それ故にか手前が洗練されていることが際立っている。
三匠、特に巷では茶聖等と呼ばれ始めている宗易と見比べても遜色ない程にその手前が見惚れるほど素晴らしく見える。
「粗茶ですが、どうぞ」
「うむ・・・うみゃ~!!」
驚いた!!
茶道具はともかくとして、一流の者たちの茶を日頃より啜る儂ですら美味しく感じる。
興味を持ち彼に理由を尋ねた。
「実に美味じゃった!これほどの茶じゃ、さぞかし有名どころの茶葉でも使ったのであろう?」
「庭で取れた茶葉を自ら摘み、丁寧に仕上げ、朝一で自ら臼挽きはしましたが・・・特に高い茶葉でも御座いませぬよ」
「な、何と!!そんな茶葉で?」
「お茶の風味を最大限に出せば普通の茶葉でもこれ位の味は出せますがな」
何を言っておるのかと思うが、自然体にそう言っておる。
それに、儂が理解していないと思うたようで少しだけ考えてから言う。
「ああ!そう言えば、窯の湯が少し熱くなったので水を差して適度な熱さに調整したのが良かったのかもしれませぬな~」
「さ、左様か・・・」
そう言えば、そんな動作をしておったな。
確かに宗易や他の三匠たちも湯だったままに茶を点てると風味が飛ぶので適度に調整するのが美味しい茶を点てる秘訣の一つと言っておった。
無造作過ぎて見落としておったが、他にも工夫がありこれほどの茶を点てたのであろう。
「お主・・・名を何という?」
「儂ですかな?」
「そうじゃ」
「
「ほう!名は初めて聞くがお主の様な者が野に埋もれているとは・・・」
「うへへへへへ~関白様も面白い事を言われる。儂なぞただの爺ですじゃ」
「いや、ただの茶葉で三匠と劣らぬ美味き茶を点てる者がただの爺では無かろう?」
そう儂が言うと、
「そうか、そうか、そんなに美味しかったですかな?」
「うむ!絶品であったぞ!!」
「あ~もしやすると・・・」
「何ぞあるか?」
「へぇ、そこな窯で雑炊も作りますから良い出汁が出たのかもしれませぬな~」
実に面白き爺じゃ。
儂はその何者にも囚われぬ様なそんな素振りも含めこの者が気に入った。
「お主に諸役免除の特権を与えよう!!」
儂がそう言うと周りで様子を見ていた者たちがどよめく。
儂を楽しませた褒美として諸役免除の特権を与えたがその日はこの者一人にだけこの特権を渡す事となった。
しかし、特に嬉しがる訳でもなく、儂の空の茶碗を見て再度茶を馳走してくれて言う。
「そんな事よりもう一杯如何ですかな?」
「うむ!頂こう」
その事を後日、宗易に話すと、宗易の知人であることが分かった。
名医師・曲直瀬道三の姪婿で、医師を生業としていたが、今は隠居して山科の地に庵を構えて質素に暮らしているという。
宗易の師でもある武野紹鴎の門下で茶を修め、宗易も認める程の手前の持ち主だという。
宗易が言うには中々に面白い男の様で、ある日、彼の許に行けば落とし穴に落とされ泥だらけにされたという。
そして、沐浴させて新しい着物を供してから茶を振舞われたという。
その際に、「朝から穴を掘るのが大変じゃった」と宣ったという。
実に人を食った様な仕儀じゃが、宗易は言う。
「異風なれ共、いさぎよき侘数奇にて、清貧の中で客を如何にもてなそうかと創意工夫して楽しませようという心意気は私も見習うこと多き事にて、彼の庵を訪ねるのは私の楽しみの一つで御座います」
そう、楽しげに語っておった。
儂の知らぬ宗易の一面を見て成程と感心するばかりであった。
そして、宗易は言う。
「殿下の人の見る目は素晴らしく、御見それいたしました。知る人ぞ知る人物を見出されるその眼力に私は脱帽いたし、首を垂れるのみにて御座います」
宗易が珍しく感情を表に出し、喜ぶ様は実に良いと気分を上げる事となった。
〇~~~~~~〇
作中にうんちくを結構盛り込んだので書く事少なく・・・いや!あります!!
北野大茶湯の野点においてその名を知られるようになった伝説の茶人です。
この人物の面白いのは、作中でも書きましたが大きな朱塗りの大傘を立てて茶席を設け、目立ったことで秀吉の目に留まったと云われますが、その他の道具がみすぼらしく、磁器をも持たずに秀吉を木の椀でもてなした等とも云われます。
また、欠けた椀や安価な椀とも云われます。
兎に角、茶湯の狂人たちの宴ですから皆が皆、自分の手持ちの中でも特に逸品とも言える茶道具を揃えてこの場に挑んでいるのに、有触れた品々で客をもてなしたその度胸も凄いです。
その一風変わったもてなしを秀吉は気に入り、丿貫が諸役免除の特権を賜ったと云われます。
さて、この諸役免除の特権とはどんな物かというと、夫役・軍役や本年貢以外の租税を免除されたことを意味し、かなりの優遇処置となります。
作中で「異風なれ共、いさぎよき侘数奇~」という
原点というのは利休のことで、利休を極限にリスペクトした人物で、利休正風を真仰として「真仰状」なるものを創始しました。
さて、話を戻し、
鹿児島に丿恒石という塚があるそうなのですが、丿貫の名残だと云われます。
また、現代ではお坊さんや夏祭りで履いている人など見掛ける事のある
次回も丿貫の話予定です。
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