第318話
その後も大名・武士では家さん(徳川家康)や家さんの家臣たちや久さん(堀秀政)、虎(加藤清正)、市兵衛(福島正則)、黒官に細川幽斎殿、等々の仲の良い者たちや顔見知りが来てくれた。
公家さんたちからは竜様(近衛前久)は解るが、飛鳥井雅春、今出川晴季、他にも甘露時何とかさんに観修寺何某さんに一条、二条、三条に九条に・・・兎に角多くのお公家さんが訪れた。
商人も、角倉了以殿を筆頭に多く訪れてくれた。
貞清(神屋宗湛)と茂さん(嶋井宗室)も来てあれこれ聞いて帰った。
貞清はリクエストのモンブランケーキが無かったのを残念がったが、栗の渋皮煮を出してやると「これも良い!!」と言って喜んでいた。
そん大勢の方々の中に紛れて珍しい人物が来ていた。
「これはこれは・・・」
「丸目様、自分で茶を点てず人任せでおられるとか」
「いや、形は問われなかったのですが?」
「そう・・・ですか・・・」
石田治部こと石田三成と・・・左近殿(嶋清興)?
「やあやあ!蔵人殿ご無沙汰しておりました」
「左近殿もお元気そうですね」
「うちの殿が済みませぬな~石田だけに石頭で」
あ~そう言えば石田三成に彼は仕えているんだっけ。
自分の主なのに茶化す様に言い、それを聞いた石頭、いや石田三成が渋面を晒している。
「殿!決まり事に違反しておられないのにお小言を言うは失礼ですぞ」
「う・・・スマヌ・・・」
「殿!誤る相手が違います!!」
うは~テンプレの文言だけど、立場が逆での文言だと何だか新鮮で面白い。
左近殿が窘めたことで石田三成が俺の方に改めて謝罪の言葉を口にした。
「丸目様、失礼をば致しました。しかし、皆は貴方様の茶湯のお点前を見たいと願っておりますれば、何卒、宜しくお願い致しまする」
一言多い御仁だけど、悪気は無く、率直な皆の意見を汲み上げての提言だったので一応は自分の意見も口にしておこう。
「石田殿、某の求められているのは午後茶という新しき茶湯の在り方を皆に見せる事と存じますが?」
「そう・・・ですね・・・」
「某の茶の手前をお求めと言われますが、某より優れた者などごまんと居ります。それよりも大事な事はこの場を設け午後茶を知り、茶湯を楽しむことかと存じますが如何に?」
そう俺が言うと、少し考えてから居住まいを正し、謝罪して来た。
「丸目様、拙者の浅知恵で意見し、誠に申し訳御座いませんでした。丸目様の考えは最もだと感じました。改めて、午後茶を満喫させて頂きますので、ご教授くだされ」
意外で驚いた。
石田三成には結構嫌われていると思ったんだけど・・・いや、違うな。
嫌いな相手でも、相手の意見をしっかりと聞き、聞いた上で判断しているのであろう。
後世の歴史研究家が彼の事を官僚肌と言ったと聞いたことがあるが、成程、こういうところだろう。
「では、和解も終わりましたので、早速、堪能致しましょう!!」
左近殿はそう言って石田三成の背中を押しながら掘っ立て小屋に向って行った。
うん!中々の良いコンビだと思う。
石田三成は無難に煎茶におはぎチョイスだった。
左近殿は、サンドイッチにスコーンに、
★~~~~~~★
丸目様の取り仕切る場に足を踏み入れると、早速とばかりに丸目様が現れた。
「これはこれは・・・」
珍しい物を見たという様に驚いて居られるが、何がそんなに驚くことがあるのか?
まぁいい、早速とばかりに用件を伝える。
「丸目様、自分で茶を点てず人任せでおられるとか」
「いや、形は問われなかったのですが?」
「そう・・・ですか・・・」
確かにこの茶宴の決まりには自分で必ず茶を点てろなどとはしていないが、もてなす側の亭主が客に茶を点てて振舞うのが常識では無いのか?
しかし、そう提示していない以上は確かに丸目様の言い分も・・・
そう思っていると、左近が私に意見して来た。
「殿!決まり事に違反しておられないのにお小言を言うは失礼ですぞ」
「う・・・スマヌ・・・」
「殿!誤る相手が違います!!」
左近の言は正しいので謝ると、「相手が違う」とまた注意された。
確かにその通りだ。
丸目様の方に向き直り、改めて謝罪を口にした。
「丸目様、失礼をば致しました。しかし、皆は貴方様の茶湯のお点前を見たいと願っておりますれば、何卒、宜しくお願い致しまする」
しかし、納得できなかったので、謝罪しつつ意見する。
横に居る左近の顔が少し見えたが、渋面をしておる。
また一言多いとでも思うておるのやもしれぬ。
しかし、言い分を言わねば人は理解せぬ。
「石田殿、某の求められているのは午後茶という新しき茶湯の在り方を皆に見せる事と存じますが?」
「そう・・・ですね・・・」
「某の茶の手前をお求めと言われますが、某より優れた者などごまんと居ります。それよりも大事な事はこの場を設け午後茶を知り、茶湯を楽しむことかと存じますが如何に?」
最もな意見でぐうの音も出ない。
改めて謝罪することにしたが、この方に謝るのは・・・
いや、自分の間違いを指摘されたのであるなら、謝るべきじゃ。
「丸目様、拙者の浅知恵で意見し、誠に申し訳御座いませんでした。丸目様の考えは最もだと感じました。改めて、午後茶を満喫させて頂きますので、ご教授くだされ」
丸目様に頭を下げ謝罪し、頭を上げると、丸目様は驚いた顔をされておられる。
私が謝らないとでも思われたか?
少し不機嫌になりかけたところで、左近が言う。
「では、和解も終わりましたので、早速、堪能致しましょう!!」
そう言って、左近は私を後から押し先に見える小屋へと向かわせる。
並んでいる間に作法は習っておる。
先ず、小屋で自分の好きな茶を選び、作る。
そして、横に併設されている茶請けの販売所で購入して席に着いて味わう。
「殿はおはぎですか」
「左近は・・・沢山選んだな・・・」
「はい!蔵人殿の所の食べ物はどれも美味ですから、実は楽しみにしておりました」
そう言えば、丸目様と左近は交流があった聞き及んでいる。
その時に御呼ばれしたのであろう。
「!!」
「如何されました?」
「美味いな・・・」
「でしょ!!」
左近は自分の手柄と言う様に誇らし気に私に言う。
上品な味わいでいて甘く、しかし、甘すぎず。
茶を啜れば実に合う。
「丸目様は恐ろしい方だな・・・」
「殿?」
「剣術では今や日ノ本一ではないかと噂されておる」
「そうですな~上泉殿もお亡くなりになりましたし、恐らくは」
「それに、朝廷での貢献も大きく、更には財をも蓄え、文化にも精通しておる」
「然り然り!!しかし、ご本人殿はそんな事は鼻にも掛けられぬ」
「そう言うところが・・・」
「如何されました?」
「いや・・・何でもない・・・」
そう、威張り散らさぬ聖人君子の様な方じゃ。
そういう部分が敵を作るのではないか?
最近、殿下(豊臣秀吉)は何やら丸目様をやり込めようとお思いのご様子。
表立ってそのような行動は・・・いや、伴天連どもの追放の件などで殿下と対立した。
意見を聞けば、成程とも思うし、殿下の言い分には少し無理があった。
しかし、天下人に普通は逆らう者などいない。
いや、いるな・・・先頃、高山右近殿が殿下に意見して追放された。
本来、天下人に逆らう者の末路は哀れなものだ。
しかし、丸目様は逆らっても・・・
いや、考えるのはよそう。
私は午後茶を堪能し、その場を後にした。
〇~~~~~~〇
今回は石田三成回でした。
さて、石田三成は意外と茶湯のエピソードの多い人物です。
秀吉に見いだされたのも茶湯です。
しかし、石田三成の茶湯のエピソードで最も秀逸なのは、大谷刑部(大谷吉継)との話でしょうか?
大坂城で催された茶会での出来事だと云われていますが、お茶が入った茶碗をひとり1口ずつ飲んで、次の人に回すという作法で回し飲みしていたのですが、この当時大谷刑部は業病を患っていたと云われます。
業病とは当時の仏教観で前世に大きな罪業がある者が罹る病気と言われいました。
そういう点でも忌み嫌われていたのですが、容貌が変質し、肌が膿んだりすることからも嫌がられていました。
現在で言うところのハンセン病だったと云われています。
組織壊死もあった為梅毒説もありますが、大谷刑部は顔を白い布で隠さないと見れない程に相貌に著しい病変があったようです。
さて、そんな大谷刑部がお茶を飲む際に緊張して汗が落ちたなど言われますが、そもそもの話、未知の病気とも言える様な業病を患っている者の啜った茶を後の者は飲みたくないというのは誰しもが思うことかもしれません。
そんな時、大谷刑部の持つ茶碗を取り、石田三成はその残りの茶を全て飲み干したと云われます。
他の者が忌避している中の行動で、大谷刑部は石田三成に対して言葉では言い表せない程の気持ちになった事は間違いないと思います。
現に、関ケ原の戦い前の挙兵には大谷刑部は大反対したのです(三度も止める様に言ったと云われます)が、結局は石田三成に協力して西軍として戦っております。
友情とよく言われますが、それ以上の感謝の気持ちからの行動だったと私は思っております。
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