第316話
その日は晴天で野外での催し事をするには絶好の日であった。
多くの者たちはこの日を楽しみに待ち、北野の地に集った。
朝早くから茶道具一式を揃え意気揚々と場所を陣取り、開会を待ち切れずに茶湯を始める者や、初日の目玉となる関白・豊臣秀吉や三茶匠の千宗易(利休)・津田宗及・今井宗久たちの点てる茶を味わおうと列を成す者等々の茶湯の祭典を楽しむ為に多くの者が日も登らぬ朝早くから集まり賑わっていた。
時の関白・豊臣秀吉の開会宣言と共に、一番の賑わいを見せた場所がある。
「結構なお手前で」
「うむ!儂自慢の天目茶碗で飲む茶は格別であったであろう?」
「はい、関白様の点てられた茶は誠に格別で御座いました」
「そうかそうか!わっははははっは~」
ご機嫌で客の相手をする天下人は満足そうに笑いながら、機嫌よく次々に茶を点てていく。
午前中の注目はやはり、天下人自らが点てた茶を飲みたいと思う者たちが多いようで、秀吉の列は長蛇の状態で終わりが見えない程であった。
同じく、秀吉の命で
「宗易師匠!陣中見舞いにお伺いいたしましたぞ!!」
「おお!織部様」
「某は宗易師匠の弟子なのですから様なぞ不要で御座いますぞ!」
「あははははは~私の弟子とは言え、従五位下織部助で大名である貴方様を呼び捨てなどとだだの商人である私が出来る訳御座いませぬよ」
「またまた~謙遜されましても~此方が恐縮するばかりです、なあ!」
そう言って連れの者たちにも意見を促す彼は千宗易の優秀な弟子の中でも後に
そして、連れの者たちも彼の言葉に合わせる様に「然り然り」と言う。
「宗易師匠」
「何で御座いますか?
「今回の茶宴で師匠が注目される様なお方はいらっしゃいますか?」
千宗易に質問した人物は同じく
宗易は少し考えてから、秀吉と残りの茶匠の名を挙げて、最後に丸目二位蔵人の名を挙げた。
「ほう!午後茶の創始者とのお噂の!」
「あ~あの邪道茶湯か?」
宗易の言葉を聞き意見したのは、同じ利休七哲に数えられる茶狂い、牧村兵部と芝山宗綱であった。
「蔵人様は風流人だし、南蛮等では午後茶は普通らしいし、邪道とは言えぬと思うが?」
芝山宗綱の意見に異を唱えたのは同じく利休七哲に数えられる前田利長で、父が前田利家であることからここに居る者の中では唯一、蔵人と面識があり、蔵人の息子の丸目利長と名が同じと言う事で懇意にしていたことで肯定的に捉えて意見したが他の者たちの同意を得られないようで、皆が苦笑いでその言を聞く中、最後の一人がその言を受けて言う。
「何事も経験じゃ、あの御仁の茶湯を見に行けばよかろう?」
そう意見したのは同じく利休七哲の一人、蒲生氏郷であった。
残念な事にここに集まった6名の高弟以外にももう一人、利休七哲が居るが、
秀吉の勘気に触れ追放された為、この場には居ない。
「おお!某は以前から少し興味を持っていた御仁じゃし、会ってみたかったのよ!!」
「
「
そう古田重然が言うと皆が頷いて同意を示したので、師の茶を堪能した後は皆で丸目蔵人の茶湯を見に行くこととなる。
千宗易は「私も時間があれば行きたいのですが・・・難しそうですので、皆様で見て来られて、後程、その様子をお聞かせくだされ」と言い皆を見送った。
★~~~~~~★
「いらっしゃいませ!!」
「お、おう・・・」
皆と一緒に丸目二位蔵人様の取り仕切る場へと向うと、もう列が出来ておる。
急ぎ来たが目敏い者は早々に殿下や茶頭方の茶湯を経験するのを諦めて此方に足を運んだ者もいる様で、既に多くの者が列を成していた。
その列に並ぶと、我らの前に並んで居たの者から立札を渡された。
その立札には「最後尾こちら。丸目蔵人」と書かれておった。
待つ事一刻程で順番が回って来たのであるが、元気良く美しき
「ほう!峠の茶屋に見立てておるのか?」
「はい!父・・・当店の店主、丸目蔵人が申すには、峠の茶屋を彷彿させる作りにしているが別物だと思うております」
「ほう!別物とは?」
「はい、説明させて頂きます!!」
美しき異国の風貌の女性はてきぱきとした言葉でこの場での作法を語ってくれた。
曰く、その女性の指す先にある掘っ立て小屋で茶を自分たちで用意し、その横にある茶請け販売所という場で好みの茶請けを買いこの場に戻って自由に堪能するという。
「ドリンクバー形式とセルフサービス形式を参考にしたと蔵人は申して御座います」
「ど、どりんく?場?・・・せ、せる?・・・・」
摩訶不思議な言葉で直ぐには理解できなかったが、教えて貰った通りに先ず掘っ立て小屋に入り、茶を用意しようと思っていれば・・・
「何になさいます?」
「何とは?」
また美しき女性が聞いて来た。
仕儀を聞けば、色々なお茶を堪能できるという。
日ノ本の点茶・煎茶は勿論、唐(中国)で好まれる烏龍茶と言う茶や、南蛮でよく飲まれる紅茶も飲めると言う。
更に、薬草茶に花茶等の色々な珍しき茶も用意しているというではないか!!
丁寧に案内してくれたその女性にお薦めの茶を聞き、儂は紅茶を試すこととした。
「何じゃ?佐介は紅茶か?」
「与一郎は・・・点茶か」
「おう!自分で用意するならば一番得意なこれと思うてな」
それぞれに好き勝手に茶を用意して隣りの茶請けを買いに向かうと、見たことも無い物が並べられておった。
実に珍妙!!
儂は興味を持ったが、数名は顔を歪めておる。
丸目様の手技を拝見したいと思っておったが、各々が茶を用意しては見れぬ。
そのことが残念に感じたり、邪道と思っての事であろう。
「何にするのじゃ?」
「儂は・・・これを・・・」
「ほう!お主!中々に目敏いの~」
「え?どれも見掛けぬ物にて適当に選んだんじゃが・・・」
「ふん!なんじゃ~そうかや・・・しかし、良い選択なのじゃ!!」
「へ~因みに、これは何じゃ?」
「よくぞ聞いてくれたのじゃ!!これはお稲荷さん!!」
「お稲荷・・・さん?え~と稲荷神と関係あるのか?」
「そう!稲荷神の好物!稲荷寿司じゃ!!」
その女性は妖麗な笑みを讃え熱くその食べ物について語って聞かせてくれた。
聞いておると涎が溢れそうじゃ!!
席に戻り、早速、茶を入れて啜る。
中々に美味し!!
ホッと一息つき、稲荷寿司とやらを食す。
黄金色の衣の中は飯が詰まっており、甘じょっぱい中々に好みの味付けで気が付けば全て食してしまっておった。
この稲荷寿司は点茶に合いそうじゃが紅茶には他の物が合いそうだと思いながら落ち着いて茶を味わう。
そして、今、己が握る器を改めてみれば白い!!
純白と言っていい程に白い!!
場に呑まれて気が付くのが遅れたが、実に高貴に感じる白き陶器の茶器に見入る。
「紅茶に稲荷?凄い組み合わせを選ばれましたな・・・」
気が付くと眼光鋭き武士が儂に声を掛けて来られておった。
〇~~~~~~〇
北野大茶湯本番が始まりました。
幾つかの出会いや何人かとのふれあい書きたいと思っているので長くなるかも?
さて、初っ端は利休七哲の登場ですが、中でも古田重然のメインの話を最初に持って来ました!!
古田重然は、古田織部とも言いますが、漫画「へうげもの」の主人公として注目を浴び、一気に知名度を上げました。
山田芳裕先生の漫画なのですが、アニメ化までした作品で、私も当時は漫画もアニメも楽しんだものでした。
さて、古田重然は利休七哲の中でも筆頭格と云われる人物です。
千利休の後継者とも云われる程の人物なのですが、利休の死後、天下の宗匠と呼ばれたことから来ているのですが、千利休とはまた趣の違う茶湯を展開しました。
博多の豪商神屋宗湛に茶会に招かれた際に古田重然の用意した茶器を見てかの豪商は驚愕し、自分の日記に「セト茶碗、ヒツミ候也。ヘウケモノ也」と書き記し、その斬新さを褒めたと云われております。
この言葉が山田芳裕先生の漫画「へうげもの」のタイトルになったとも云われます。
さて、千利休は弟子たちに「人と違う事をしなさい」と常々言っていたそうで、七哲もそれぞれ色々と自分の好みと個性を凝らして独創的な茶湯を行ったようですが、織部は「破調の美」と言われる完全なもの・整ったものよりも、歪んだり・崩れたりしたものを善しとする美意識を前面に出した様式美を好んだようです。
師匠である利休の静謐さと対照的な感覚で表現して行ったのが実に面白いです。
利休の静謐さを好み自然の美を活かす仕様を利休好みなどと呼ばれましたが、古田重然のスタイルは織部好みなどと呼ばれたのですが、利休の死後は茶の湯界のトップリーダーとなり、徳川幕府でも活躍した彼は将軍・大名の茶湯の式法を制定した人物となりその作法を織部流と呼ばれたそうです。
加藤唐九郎という昭和期の陶芸家が彼の事を利休と比較する形で下記のように評価しています。
「利休は自然の中から美を見いだした人だが作り出した人ではない。織部は美を作り出した人で、芸術としての陶器は織部から始まっている」
凄い評価の高い意見ですね~
しかし、この加藤唐九郎という人物は新設された重要無形文化財(人間国宝)には認定されなかった人物として有名です。
永仁の壺事件という昭和最大級の古陶器の贋作事件の当事者です。
でも、贋作を作ったことで人間国宝には成れませんでしたが、本人が言わないと見分けられない程の精巧な贋作を作る技というのは凄味があり、それはそれで凄いと思います!!
さて、話を戻し、古田重然のエピソードで面白いのは師の利休がある時、ある橋の
この思い立ったが吉日的に行動することを利休は大変驚きながらも評価したと云われますが、私も目から鱗的にこの人物の行動力に感銘を受けました。
この人物は是非とも主人公と絡ませたい人物と思い登場を秘かに待っていた人物でもありますので、今後、主人公と絡むことも多いかも?
ファーストコンタクトのこの話はまだまだ続きます!!
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