第311話
「日ノ本の者も外つ国の奴隷を所持している者も居ますよね?」
「それは・・・いや、お主こそ!奴隷を」
「はい、多くの奴隷たちを雇っております」
長さんの下には多くの奴隷が居り、嫁たちも元奴隷だと言う事は本人たちが隠すことなく言っておる事実だ。
その事を突っ突き
それに、天正遣欧使節の者どもより聞き及んでは居るが、多くの日ノ本の者が南蛮に連れて行かれて家畜の如き扱いを受けていたと聞く。
その事を嘆き奴隷となった者たちを助けたい一心で伴天連の僧侶の代表者であるコエリャを問い詰めた。
帰って来た答えは「日ノ本の者が売りに来るから買っただけ」という此方が一方的に悪いような言い分であったことで怒りを覚え追放を言い渡した。
長さんは伴天連の者とも親交が深い事から頼られたのであろう。
先日、長さんにやり込められたのでこれは良い仕返しにもなるかもと思った・・・
長さんは言う。
「売った者も買った者も悪い」と、それに、「某は外つ国に赴いた際に多くの売られた者たちを買い戻しましたが、豊臣家では売られた商品を欲しいからと買い戻すのではなく取り上げると言う事ですかな?」と言われた。
確かに金を出して手に入れた物を権力に任せ奪うは外聞が悪い。
しかし、話を聞けば途方もない金子が掛かる話であった。
「二万人取り戻すとして一人五両として十万両といった金額が最低掛かる事となりますな」と言われた時にはあまりの金額の多さに一瞬言葉を失った。
長さんの試算でそう言ったが、そんな莫大な金子を用意するのは難しい。
それに、二万人というが、それ以上の者たちが居たとすれば・・・
「流石にそんな
「へ~では、如何される心算で?」
「そ、それは・・・」
言い淀んでいると、周りの視線が気になる。
長さんの事をやり込め、その姿を大名・武将たちに見せるつもりが、このままでは拙い。
関白としてこのままでは沽券に関わる。
「直ぐには難しいが・・・買い戻す様にいたす・・・」
「そうなると奴隷たちの買戻し金額も上がる事となりますね」
「何故じゃ?」
考えてみれば直ぐに判る事であったが、余裕が無かったことで思考が追いつかず、言われるまで気が付くことも無かった。
奴隷となった者どもが食事を取ればその分金額は上がる、遠くに運ばれても同じく金額が上がる。
奴隷を気に入り、手放したくないと思う者が現れれば、金額を上げて交渉するよりない。
交渉すればその苦労に見合う手間賃を上乗せせねばなるまい。
そうなると、一人が幾らに成る事か・・・
「そうよな~
そう言いかけると、殺気にも似た多くの視線が儂を射抜く様に見詰めて来る。
考えてみれば、諸侯は遠方よりの出陣で多くの戦費を出している。
勿論、それに見合うだけの金銭を渡しておるが、諸費用がどうしても掛かることから彼らの懐事情もあるので、彼らに金子を、今、求めるのは反感を買う。
「いや、商人でもに・・・」
「商人に無理を言われるので?」
「それは・・・」
★~~~~~~★
お猿さんは、現在、日ノ本統一事業で金を湯水のように使っているので、流石に奴隷たちを買い戻す金を用意することは難しいと思っていたが、予想通りだった。
元々はここに居並ぶ大名・武将の中にも乱捕りで人を捕らえ、人買いの者に売った経験がある者も居るだろう。
その者たちに支払わせることは出来るだろうけど、それやると間違いなくお猿さんに反感を持ち、統一事業もままならないだろう。
現在、下に着いた大名たちに求めれば間違いなく反感を買うだろうから、命令するのは感嘆でもその後が難しいことになるだろう。
「某も買戻しをしておりますので、そちらの出来る範囲で行われては?」
「そうか!そうさせて貰おう!!」
うわ~あからさまにホッとしたような顔で俺の提案に乗っかって来た。
まぁ、懐事情もあるだろうし、それに、実際に俺の知る史実の豊臣秀吉っていう人物は人の命、特に、自分に敵対した者なんて容赦なく殺しまくっているイメージであるから、奴隷は口実だと思う。
何方かといえば、キリスト教をやり込めるのが目的だと思う。
態々キリスト教の宣教師の代表を呼びつけて商人の事を何とかしろとか言っても意味無い事位は解っていると思うんだよね~
そうじゃなければ、何か誤解していると思う。
更に言えば、人買いというのは国内の日本人にもいる。
日本人が良くて外国人が駄目とする事は無いと思う。
いや、そもそもの話、外国人奴隷OKなのに日本人奴隷がOUTというのがそもそもおかしいのだ。
いや・・・現代人感覚で考えてる?
いやいや、普通に人買い自体が違法でないのなら問題無い筈だし、商人を規制すれば南蛮貿易に障りが出る。
多少の障り位なら許容するだろうけど、完全に貿易をしないというのは無いだろう。
まぁもし、完全鎖国を行うとしても、俺は貿易をする予定。
幸いなことに、国内では天子様のお墨付きを頂いているし、海外ではスペイン・ポルトガルの王(フェリペ2世)にイングランド国王(エリザベス1世)にお墨付きを頂いているので、やるしかないっしょ!!!
「では、宣教師たちの追放は解いて頂けませぬか?」
「それは・・・」
「買戻しをする上で、あの者たちからの協力は大きいので、何卒よしなに」
俺はそう言って頭を下げた。
まぁ頭下げるの位は俺もするぞ!!
頭下げるなんて前世の世界では基本だ。
頭下げるだけで事が治まるなら何て事はない。
そして、お猿さんとの会見は恙無く終わった。
★~~~~~~★
丸目蔵人が何事もなく終わったと思っていた会見だが、また、しこりが出来たと思う人物が居た。
少し時は戻り、丸目蔵人と豊臣秀吉の会見の数日前の話である。
「忌々しい事じゃ!!」
「殿下、如何されました?」
「官兵衛か・・・」
「殿下のご懸念は丸目二位殿の事ですかな?」
「そ、それは・・・」
「あははははは~解ります!」
「解るがー?」
「解ります!殿下が天下人になったにもかかわらず、未だにあのような呼び名で呼ぶは頂けませぬしな。それに、彼は力を持ち過ぎだと以前から懸念しておりました」
「そうか!そうか!して、官兵衛よ、主にどぎゃな試案あるがー」
「はい、実は」
天下人・豊臣秀吉とその軍師・黒田孝高(官兵衛)の悪だくみは秘かに行われたが、何がこの場で語られたかはその場にいる二人しか知らない。
〇~~~~~~〇
主人公が奴隷購入する流れとなります!!
既にかなり購入していますのでまたの機会にそこら辺の話も書いて行くと思います。
さて、伴天連追放令の話は308話・309話の二回書きましたが、今回もその件について語りたいと思います。
伴天連追放令は外交政策と言えます。
禁教令→鎖国→キリシタン迫害へと繋がった反キリスト教の宗教政策となって行きます。
これは、為政者たちにとってキリスト教の教えが不都合だったことが基となっていると思います。
教えとして不都合な部分と言うのは、神が一柱のみの一神教で、その神の言葉こそが全てであるという部分だと思われます。
そして、何より、その神の教えを異国の宣教師たちが語ることも問題視たと思えます。
特に信者にとっては神の教えと言うのが王・皇帝よりも上に来ることが問題だった様で、日本の場合は一向宗などの過激な宗派を連想させるものだったからと思えます。
しかもその大元が国内ではなく、他国というのが特に大きかったと思います。
さて、秀吉はキリスト教に対抗して、吉田神道に傾倒して行ったと云われます。
この吉田神道というのは京都にある吉田神社の神職・吉田兼倶(鎌倉時代の人)という人物が提唱した神道の一流派です。
仏教・道教・儒教の思想を取り入れた、総合的な神道説でその教えの中でも「宇宙起源説」という物を秀吉は気に入った様で、伴天連追放令の後の書簡ではそれを引用したりしたようです。
吉田神道の考え方は反本地垂迹説といったものです。
ここで簡単に本地垂迹説と吉田神道の考え方である反本地垂迹説を説明します。
本地垂迹説は仏本神迹説とも言います。
神仏習合思想の一つなのですが、日本の神々である八百万の神々は仏教の仏の化身として日本に現れた神々であるとするもので、これを「
両部神道や山王神道が代表的です。
吉田神道の考え方である反本地垂迹説は鎌倉時代中期に考えられたもので、本地垂迹説とは逆に仏が神の権化で、神が主で仏が従う立場の様な見方をします。
神道サイドからすれば神道が仏教に組み込まれたような流れとなって来ていたので仏教から独立しようとして考えられたものと思われます。
反本地垂迹説は、元寇以後の価値観である、日本は神に守られている「神の国」であるとする神国思想の塊のような考え方なので統治するのにも都合の良い考え方だったのかもしれません。
吉田神道は、仏教を「花実」、儒教を「枝葉」、神道を「根」と位置づけたようで、それぞれを木の部位に例えて根本は一緒と言う事を提唱している部分が面白いです。
他にも中々に考え深い考え方なので、機会があればもっと突っ込んで語りたいところです。
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