第310話
人権問題とか意識高い系ではないのに俺が天下人と交渉する事となった。
キリスト教の交渉役?・・・俺、キリスト教徒ではないのですが?・・・ああ!一応聖人だったな。
仲の良い者に頼まれたら断れないので引き受けてしまった。
一応はプライベートではないので、仕事的に交渉で関白に会うと言う事で正式に会見を申し込んだ。
「宣教師たちへの追放令の撤回を求めて」という事で申し込んだのだが、何故か・・・
大名たちや武将など日本を代表するお歴々の方々がサイドを固め、上座を見据える形で対面に座して待つ。
見渡せばそのお歴々の中には知人が多く含まれる。
割と仲の良い人物たちを上げると、秀さん(豊臣秀長)に家さん(徳川家康)に又左さん(前田利家)に、隆さん(小早川隆景)、彦(蜂須賀家政)、久さん(堀秀政)、黒官(黒田官兵衛)に・・・お!弥七(立花宗茂)も居るな~他にも居るがめぼしい知り合いはそんな所か?
知り合いたちに目線で投げ掛けつつお互いに会釈で挨拶して後は少しの間の時を待つ。
「殿下のおな~り~」
声の合図で、ドシドシと足音を響かせてお猿さんが上座に現れた。
合図とともにお歴々が上座に向かって頭を下げる。
俺も一応は頭を下げて「皆の者、面を上げよ」の合図で頭を上げる。
うん、相変らずの猿顔の小男が此方を楽しそうに見ている。
何か企んでいるのかな?悪い顔をしている様な気がするのは気のせいか?
「丸目二位殿、伴天連の宣教師どもの追放の件で来られたとか」
「はい、仲の良い宣教師に頼まれましたので、意見を言いに参りました」
凄いだろ?エッヘン!!これでも権力者たちと渡り合ったので、ちゃんとやろうと思えばやれるのだよ!!
敬語使った位で偉そうにするなだと?
?更に言うか?何時もやれと?・・・そんなもの疲れるだろ?今の俺はTPOを弁えた状態。
それでご勘弁をだ!!
「して、意見とは?」
「はい、宣教師の・・・宣教師の・・・え~と・・・関白殿に詰問された・・・」
ど忘れした・・・会った様な気もするが、そうでもないよね?
アタフタしているとお猿さんが俺の様子を滑稽と思ったようで笑いながら教えてくれた。
「わははははは~コエリョかな?長さん」
「あ~その人!」
何か一気に砕けた感じとなった。
そして、本題に入る。
「そもそもの話、乱捕りが認められている以上、人も乱捕り対象でしょうから売られるのです」
「それならば、大丈夫じゃ!儂が天下人として日ノ本の支配者であるからには、日ノ本から戦わなくなる」
「ああ、それは頑張ってください。しかし、今まで乱捕りされた者どもを売ったのはその乱捕りした者どもです。そして、その者たちを売っているから買ったのは商人どもですが、そもそもの話、売る者も買う者も悪いと思うのですが、売られた側だけを攻め立てるのは不平等では御座らぬか?」
「そ、それは・・・」
言い淀むお猿さん。
そして、その乱捕りを許し、人買いに捕虜を売っていたのはここに居並ぶ諸将・大名なのでざわつきが凄い。
「乱捕りは戦国の世だから許されたとしてもこれから取り締まられるのでしょ?」
「勿論じゃ!!」
「しかし、今回の問題は、以前売られた者たちの事ですよね?」
「そ、その通りじゃ!!我が日ノ本の民を取り返さねばならぬ!!」
その取り返す方法が間違えていると思うぞ。
お猿さんの方法としては、買ったものを無条件で返せと言っている。
「某は外つ国に赴いた際に多くの売られた者たちを買い戻しましたが、豊臣家では売られた商品を欲しいからと買い戻すのではなく取り上げると言う事ですかな?」
「物と人は違う!!」
うわ~まさか戦国時代の人間にそう言われるとは思わなかった。
平成~令和の日本人がそれを言うなら理解できる。
しかし、お猿さんは今まで仲良くして来たが、そんな平和ボケした様な価値観持ちだったか?
あ~天下人になった事で、日ノ本の民は自分の民とでも思っているのか?
「人と物は違いますが、商人にとっては人も物も売れるなら商品です」
「だから、それがおかしいと言っておる!!」
うわ~本当にお猿さんは戦国時代を生き抜き最も出世した立身出世のバーサーカーじゃなかったのかよ!!(違います!!)
まぁそれはいいとして、お猿さんの問題は、自分達の事を棚上げして他人を責めている所。
「では、こう致しましょう!!」
俺はお猿さんに提案した。
日本人奴隷の買戻し計画だ。
簡単な事である。
商品として売られたのであれば、商品として買い戻せばいい。
人であろうと、商品であろうと同じことだ。
それを提案したが、勿論、莫大な金が掛かる。
流石に俺の試算を聞いてお猿さんが驚愕した。
単純計算での試算で「2万人×1人5両=10万両」あくまでも、前世の世では大阪城の建築予算は800億と聞いたことがある。
1両が30万として、10万両は30兆と言う事となる。
あくまでも、その金額は最低価格だと思う。
実施すれば凄い金額が掛かることと成る事だろう。
それを掛けてまで取り返したいのか?
「金の問題では・・・」
「金の問題だ!!」
あ~敬語忘れちゃったよ・・・まぁいいか~
俺は更に言う。
「日ノ本の者も外つ国の奴隷を所持している者も居ますよね?」
「それは・・・いや、お主こそ!奴隷を」
「はい、多くの奴隷たちを買い取り雇っておりますよ」
俺は自信を持ちそう言い放った。
人として取り扱っているのでうちの奴隷たちは特に不満も無いし、そもそもが奴隷とは思っていない。
解放してもいいのだが、何故か皆が頑なに嫌がるんだよね~「良い主人を得た」とか「奴隷のままでもあなたに仕えられるなら問題な」など言われるんだよね~
満足度は重要だし、本人たちが良いというのでもう気にしないこととしたけどな。
さて、俺の意見は言い終えたと思うが、これ以上の干渉をする予定は無いのでそろそろお暇伺いしたいところだが、如何なる事か・・・
〇~~~~~~〇
奴隷商によって外国に連れて行かれた日本人の数は約5万人と云われています。
長崎港がポルトガルに開港されたのが1570年の事なので、伴天連追放令が出されたのが1587年となり、江戸幕府がスペイン船の来航を禁止したのが1624年となり、そこまでは秘かに日本人女性の身売りが行われたいたようです。
最盛期は1570年~1587年なので、17年間で8割の奴隷が売られたと考えると、「5万人×八割(0.8)=4万人」と言う事となりますので、作中での換算では2万人でしたが実際にはその倍以上掛かります。
さて、そもそも何故奴隷ビジネスがキリスト教の布教とセットのように語られるようになったかを考えてみましょう。
実は1452年に当時のローマ教皇であるニコラウス5世が、ポルトガル人に対して「異教徒を奴隷にする許可」を与えたそうです。
それにより、奴隷貿易は正当化されました。
教皇という宗教トップの言ですから、宣教師たちもそれに倣いますし、奴隷たちは労働人員ですから宣教師たちも奴隷を使っております。
そして、原住民を奴隷にしようと考えてアフリカやインドで原住民を奴隷化した最初の人物ではないかと云われるのはあの有名なコロンブスです。
彼、クリストファー・コロンブスは探検家として有名ですが、奴隷商人としても有名でした。
途中立ち寄った場所で水や食料を提供してくれた原住民の純朴さと均整の取れた体を見て「良い奴隷になる!!」とでも思ったのか、立ち寄った翌年に軍隊と軍用犬を満載し再来して原住民の村々を徹底的に破壊ししたと云われています。
略奪・殺人・放火・拷問・強姦などの悪逆の限りを尽くしたようです。
その惨劇の地は西インド諸島のサンサルバドル島と云われています。
コロンブスと同じく大航海時代の頃からスペインのやり口は略奪からの奴隷&植民地化の嵐でした。
そんなスペインが小さな島国の日本を植民地化せず、自ら奴隷狩りを何故しなかったのか?
実は距離の問題で兵力の派遣が難しいというのもありますが、安土桃山時代から江戸初期の日本の鉄砲所有数は、世界有数、いや、下手をすれば世界一だったかもしれません。
軍事力が小さな島国にしては恐ろしく高かったからだと云われています。
そりゃ~戦国時代という修羅の国で育ったウォーモーガンの群れですから更に躊躇しますよね。
現にアステカ王国やインカ帝国という日本よりも間違いなく大きい国であったにも関わらず滅ぼされました。
当時の日本の強い軍事力が、武力制圧を企図させない抑止力となったのは間違いない事実です。
しかし、戦国時代だから日本国内の奴隷商も活発でスペイン・ポルトガルの奴隷商と結びつき、長崎が一大出荷港となったのは皮肉ではありますが、軍事力があったのでもっとひどい事にならなかったのは間違いない事実です。
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