第303話

お猿さんが去った後も話は続いた。

千代曰く、三姉妹の中にも母であるお市の方の妖狐としての力が眠っているという。

お市の方は前世で悪行を行ったことで仙術の力を失ったが、妖狐としての力は覚醒していなかっただけで残っていたと言う。


「お主たちが望むのなら力を貸すのじゃ」

「妖狐としての力・・・ですか?」


代表して茶々が質問すると千代が説明を続ける。


「うむ、妖狐としての力の使い道を教えることは可能じゃが如何じゃ?」


急に「如何じゃ?」と言われてもな~と思いつつ聞いていたが、三人ともそれぞれ考え込んでいた。

うん、急には決められないだろうから、必要なら俺宛に連絡するようにと言う事でお開きとなった。

お猿さん(豊臣秀吉)と「後で話そう」と言っておいたけど、結局は浅井さん姉妹との会見の後に終わったことを伝言として告げたが、お猿さんからの返事は特に無かったのでそのまま帰途に着いた。

まぁ話たければ又別の日にでも声掛けされるだろうと思い、そのままにしておいたが、あるお誘いが俺の下に届いた。

それは又別の話。

そうそう、初姫って京極マリア?と思ったが違うみたいだ。

俺の聞き方が悪かった為に変な勘違いが生れた。

どんな感じで勘違いが起こったかと言うと、


「浅井の姫で京極に嫁に出た者でキリスト教に入信した人物の名前って解る?」

「お調べします」


そして後日、


「先日、蔵人様より御下問ありました件ですが」

「おう!如何だった?」

「はっ!京極マリアと呼ばれる姫が居りました。洗礼名はドンナ・マリアとの事で御座います」

「お~助かったよ!!」


そんなやり取りがなされた。

何故間違えに気が付いたかと言うと、また後日、俺が京極マリア=初姫と思って話していれば、話が食い違う。

再度、聞けば、京極マリアと呼ばれる人物は他に居た。

何と浅井長政、初姫の父の姉に当たる人物で、これから嫁ぐ京極高次の母に当たる人物だった。

うん、聞き方が本当に悪かったと反省したんだけど、それを知った藤林家の現在のトップである長門守が言う。


「蔵人様・・・面目も御座いませぬ」

「え?何が?・・・」

「先日、お問い合わせされた京極へ嫁いだ浅井の姫君の件にて御座います」

「え?それは俺の聞き方が悪かったんだけど・・・」

「いえ、配下たる者、主の間違いに気が付き聞き返せば、蔵人様に恥をかかせることな」

「な、長門守待った!流石にそんな俺の聞き方の間違いまで配下のせいにしないぞ?」

「何とお優しきこと。我らももっと精進致します!!」


いや~何か俺の聞き方の悪さから起こった問題なのに藤林の諜報網が更に変な方向に強化されそうになって焦ったよ。

話は一応俺の聞き方が悪いということで一件落着!!


丸目蔵人は勝手に自己解決したが、藤林の諜報に携わる者、彼の近くに使える者はこの事を教訓として更なる磨きをかけ、更なるスキルを身に着けるべく静動した。

静かにそして確実に彼らはそれを身に着け、気が付いた時には蔵人の多少の間違いなど問題にしない程に意を酌む技を身に着けて行った。

後に、多くの優秀な意を酌める人材を輩出する事となる。

それにより、多くの権力者たちの側近くに草として仕える者が徐々に増えて行き、藤林の諜報網は更なる躍進を遂げる事となったが、切っ掛けを作った丸目蔵人がそんな事は知る由も無かった。


「流石は蔵人様!!わざと我らにさり気無く知らせてくれたのであろう」

「ほんに!蔵人様の為さり様は何気ないのに後で効いて来るからの~」

「誠に、誠に!!今回もあえて自分の落ち度とされ我々を庇われたそうじゃ!!」

「本当に主の鏡じゃ!!」


そんな会話が藤林一門の間でされたことも丸目蔵人の知る所ではないが、求心力は更に上がり、彼への忠誠心は鰻上りとなるがそれもまた丸目蔵人の知る所ではなかった。


★~~~~~~★


どしどしと不機嫌そうな足音を響かせて殿下が茶を求めてお出でになった。


「宗易!!」

「此方を」

「うみゃ~!!流石よの~お主の茶を飲むと荒れた心も落ち着くがー」

「何か心荒れる事でもございましたかな?」


殿下(豊臣秀吉)から事の経緯を聞けば、丸目蔵人殿が茶々様方を訪ねて参ったという。

殿下と丸目殿は旧知の仲なので殿下も久しぶりに彼に会いたいと思い、その場に行かれたと言う。

その際、彼の息子である丸目帯刀先生様に対し茶々様が秋波のような物を飛ばしているように感じてしまい、殿下は嫉妬して、丁度、その会見の場に丸目蔵人殿に伴っていた彼の妹の千代という娘に嫁に来ないかと打診したそうだ。

美しい娘だったのでこの件が無くても殿下は声を掛けただろうと告白される。

しかし、その娘から飛び出した言葉は殿下をなじる内容だったという。

殿下に向かって「五月蠅い」だの「お主程度」、「滑稽」だのと信じられない言葉の数々を口にしたという。

更に、殿下の事を「猿公えてこう」とのたまう事までしたという。

己が発した言葉ではないが、最後の言葉を聞き恐怖し身震いした。

殿下の事を「猿」呼ばわりした者の末路は哀れなものだ。

殿下が今、最も嫌うのが、「猿呼ばわり」ではないかと予想している。

そう言えば、殿下の事を「お猿さん」と丸目蔵人殿が言うと聞いたことがある。

勿論、天下人となる前の話であるが、未だあの者はそう呼ぶという話も殿下自らがされた。


「それは・・・」

「何じゃ?宗易と儂の仲じゃ、忌憚無き意見を言っても赦すがねー」

「されば、殿下に対してその物言いは失礼極まりないかと存じます」


殿下の雰囲気が変わった。

変わったなぞ生温い、一変した。

天下人が私をジッと見詰め身動ぎすら出来ない程の緊張を強いられて、一気に喉が渇く。

あまりの事に言葉が出ず静寂が部屋を包む。

不意に殿下が言葉を発し続きを促された。


「続けよ」

「は、い・・・」

「宗易そう硬くなるでにゃ~よ、ほれ、自分で点てた茶でも啜って落ち着くがー」


言葉が詰まり上手く言葉が出なかったのを殿下は咎めることもせず、落ち着くように促され、提案通りに落ち着く為にもお茶を点てることに集中し、我ながら美味い茶を点て己で啜る。

美味い!!

己で点てた茶に自画自賛しながら心を落ち着け一息つき、その間に考えを纏め、喉も潤ったし落ち着いたので続きを話す事とした。


「殿下と丸目二位蔵人殿は旧知の仲かと存じますが、物言いは失礼極まりなく、改めるべきかと具申いたします」

「ほう!それで?」

「先ずは殿下の現在の凄さを知らしめるべきかと」

「わははははは~実に面白い!続けよ!!」

わたくしめが殿下にご協力できることと言えば」


そう言ってお代わりの茶を素早く点て、殿下の前に差し出す。

殿下はニヤリと笑いながら、言われた。


「そうよな~今年は大茶会を開く予定じゃて、お主の主戦場だがね~そこで先ず、長さんに見せつけて貰うかの~」

「はっ!殿下の仰せのままに!!」

「宗易、期待しておるぞ!!」


殿下は来た時とは打って変わり、楽しそうに茶室を後にされた。


「うははははは~望む所である!!午後茶なぞと呼ばれる丸目流など叩きのめしてくれる!!」


私は心の内に秘めた思いを誰も居ないその茶室で呟いた。

私は闘志を漲らせその大茶会に望むこととなった。


その後、後々に世に言う北野大茶会と呼ばれる茶の湯の最高峰の祭典に丸目蔵人が著名な茶狂いたちに交じりその名を並べる事となるのであるが、まだその事を知るのはここに居る二人のみであった。


〇~~~~~~〇


主人公の知らぬところで反主人公の動きが静かに動き出しました!!

北野大茶会は少し先になりますのでそれをお待ち頂く事となります。

さて、前話で京極マリアと初姫の同一人物視した主人公に何人程の方が違和感を感じられたでしょうか?

既にそれについて訂正のコメントを頂きましたが、謎掛け的にわざと放り込んだ話でした。

わざと間違えのようなことを書いて話を膨らませた確信犯的な内容でした。

今話を読めば解ると思いますが、京極家は実は二代続けて浅井家より嫁を貰っていたのです!!

そう言う訳で、作中にもそこら辺は少し書いておりますが、京極高吉という人物に京極マリア(浅井長政の姉)が嫁ぎ、その二人の子である京極高次に初姫こと後の常高院が嫁いでいます。

京極マリアは夫の京極高吉と共に安土城城下でオルガンティノ神父より洗礼を受けたと云われている人物で、作中で書いている通り、洗礼名はドンナ・マリアとなります。

「どんなマリア?京極マリア」の語呂合わせで覚えましょう!!

因みに、「ドンナ」と言うのはイタリア語で「女性の意」です。

日本語に直すと「女性のマリアさん」って意味ですが、男性のマリアさんが居るんですかね?

彼女は伴天連追放令の後も信仰を捨てず貫いたのですが、娘の1人、竜子以外の娘たち(養女1人含む3人)もキリスト教に入信した程のキリスト教にド嵌りした一家です。

そして、ここで凄い事実が・・・京極高吉は洗礼を受け数日後に・・・帰らぬ人となりました。

この突然死は人々には仏罰として語られたとか何とか・・・

神罰はあっても仏罰は無いとも言う人々も居るのに不思議ですね~

それは置いておき、何とこの夫婦は入信する決め手となった説法を四十日間続けて聴きに行ったそうです。

因みに息子で長男の京極高次もこの夫婦はキリスト教に入信させようとしたらしいのですが、親父が入信して数日後の急死ですから入信していません!!

同じく、そんな夫に嫁いだわけですから、初姫もキリスト教には入信していません!!

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