第294話
「海賊が出たぞーーーー!!」
船旅は順調だ。
船の速度は速いので通常よりも恐らくは速いのだろうけど、先の先、ずっと先の未来である昭和・平成等でクルージング等を経験したことのある俺からすると、まぁこんなものか位の速度だけど、この時代感覚で言うと速い。
そして、大きい船なので目立つ。
新造船で綺麗で大きいと言う事は、多くの積み荷を積んでいるだろう、等と獲物を狙う輩には映るのだろう、海賊に度々狙われる。
今日も元気にどこぞの海賊がこの船を狙って襲撃しようとしていた様で、それを見つけた船のクルーが大声で知らせて来る。
この船の移動速度は他の船より速いとはいえそれなりの日数を船上で過ごす事となる。
そんな長い船旅だ、皆が皆、暇を持て余しているから、海賊船討伐も良い娯楽だ。
今日も皆が俺の合図を待って居るように、此方を見詰める。
船足が速いから簡単に躱すことも出来るんだけど、そんな理由で見つけた海賊船は悉く討伐して日ノ本を目指している。
「お頭~何時でも戦えますぜ」
「誰がお頭だ、おい!」
幾つかの海賊船を討伐した頃か、船員たちが俺の事をお頭とか呼び出した。
船員は丸目家の配下になって日が浅いからか、俺の事を丸目様とか呼んでたんだけど、打ち解けて来た頃に海賊船の討伐を俺がするかしないか決めていたことで、船長以上の存在と認識された為、そのような呼び名で呼ばれるようになった。
しかし、「お頭」とか屈強な水夫たちが呼ぶとどっちが海賊だか解らんだろ!!
「お頭呼びは止めろと言ってるだろ!」
「でも~お頭・・・」
「はぁ~~・・・もういい・・・近付いて何時もの様に有志で襲え」
「了解です!お頭!!」
奥さんに里子もやる気だし、任せて俺はボーっと海賊船で繰り広げられるであろう戦いを眺めることとした。
今日も海賊のアジトに寄り道することになりそうなので、臨時収入があるかもしれないけど、その分航海日数は伸びる。
でもね、意外にも人材確保などにもなりお得だし、つい討伐を指示してしまう。
人材と言うのは海賊に捕まっていた人々で、海賊のアジトに行くと何故か数人は牢屋に入れられていたりしているんだよね~
助けた恩返し的に1~2人が仲間になる。
何だかゲームの様な感覚に陥るが、リアルで、意外にも捕まっている者はそれなりの能力があるのである。
まぁ能力があるから仲間に引き入れようと取り合えず牢屋に放り込んでいるのかもね。
海賊の事情なぞ知らないけど、優秀な人物を引き入れられるのは有難い。
それとは別に俺の本能が囁くのかもしれない。
野盗・海賊等の人の物や命を奪う存在は見つけ次第駆除する事は小さい頃から染み着いた習慣だ。
何と言っても俺の初陣は夜中に家に忍び込もうとしたコソ泥だしね。
さて、今日の先発は美羽と春麗の様だ。
二人して飛んで船に降り立ち、船の接舷しての進入路を確保する役目を担う。
接舷後は大体一方的に海賊船を急襲する形となる。
歯向かう者は撫で斬りし、それ以外は捕虜として捕まえて補給に寄った港で引き渡しとなる。
しかし、殆どが2~3人を残して討伐されることが多い。
問題無いのであるが、今回は前の港を出てから既に4隻の海賊船と遭遇し戦闘して捕虜の数も10人位となっているので、そろそろ打ち止めとなって欲しい物だ。
人が増えればそれだけスペースも水も食料も要るので、そろそろ打ち止めにしたいところだ。
この船の船長曰く、後十日程で次の港に寄港するとの事なので、それまで後どれくらい増える物か、悩ましい事だ。
お!今回は中々の手練れの者が乗っていたようだ。
美羽が一合二合と斬り結んでいるから、恐らく相当強いはず。
今までの海賊たちは美羽たちの初太刀で斬られるからそれを考えると手練れで間違いない。
今回はお留守番の里子が「美羽母様良いな~」とぼやいている。
とんだバトルジャンキー娘に育ったものだ。
誰に似たことやら・・・え?俺?・・・まぁ・・・そうかもしれない。
「お!春麗のお相手も中々使えそうだな」
「あ!本当だ」
そんな里子たちと気の抜けた会話をしつつ眺める。
春麗の投げる棒手裏剣を上手く得物で落としているし、春麗が小太刀で間合いを詰めても上手くいなして一進一退のような攻防が続いている。
春麗が珍しく薄ら笑いを浮かべているので余裕はあるが、気の抜けない相手である様で、此方は此方で楽しそうに斬り結んでいる。
まぁ両者ともに相手方の船に居るのが二人だけの状態だからこそ手古摺っている感じになっているが、それはそれ、状況を踏まえて楽しんでいるのであろう。
もう直ぐ接舷するし、こちらの人数が増えれば何時ものお約束の蹂躙が始まる。
一人二人の手練れなぞ意味を持たない。
船の乗組員は戦闘力も考慮に入れて人選されている。
聞いたところによれば、長門守が俺や奥さんたちに里子が乗る船だからと選抜を行い、精鋭部隊のような人選をしたという。
その分、お行儀は少し悪い様だが、度が過ぎて悪い者は居ない所を見ると、そこら辺も線引きされた人材なのであろう。
船に関する技術も一流ではあるが、剣術等の戦闘技術か忍術や医療といった得意分野を持つ猛者の乗る船である。
でもね~・・・ガラが悪いぞ。
俺の事を「お頭」等と呼ぶからな。
まぁ海の上限定の無礼講と言った感じなのであろうし、陸ではしっかりと丸目様とか蔵人様と呼ぶから俺も命令までして呼ぶのを止めさせようとはしないからこその「お頭」呼びなのである。
そうこうしている内に戦闘は終わり、捕虜を見れば、最初に美羽と戦っていた男が縄で縛られてそこに居た。
接舷後はやはり一方的に蹂躙されたけど、この男は生き残ったようだ。
興味を持ち話し掛けてみる事とした。
「この船には美人が多く乗っておるな」
同行した莉里を見てそう呟いた。
男が話した言葉はスペイン語だったので、俺も理解出来たので、そのまま話してみる事とした。
「そう思うか?」
俺が聞き返したことで男は俺の方を驚きながら見据え、俺の問いに答えた。
(スペイン語の会話です)
「ああ、そちらの
「褒めて貰って何よりだ」
「はぁ?お前を褒めてないぞ?」
「両者とも俺の奥さんだ」
「な!・・・な、何だと?・・・」
春麗の事も俺の奥さんだというと目を剥いて更に驚いている。
男は驚愕して俺の顔をマジマジと見て、小さな声で「世の中間違っている」と囁いた。
おい!如何いう意味だよ!!
確かに俺が美男子とは自分自身では思っていないが、そんなに釣り合わないかな?
まぁ、絶世の美女の二人に可愛らしい春麗が俺の奥さんか・・・うん、周りから見れば不釣り合いに見られるのは仕方いと諦めて、開き直り、男に言い返す。
「良いだろう!!俺は男の中の男だからこんな美人の奥さんたちを得られたのだ」
そう言いながら莉里の腰に腕を回し引き寄せる。
珍しく莉里が驚いて「キャ」と可愛らしい悲鳴を上げた。
「男の敵め、いや、女の敵か?」
「何とでも言え」
男と睨み合うが、男が諦めて俺に言う。
「揶揄いに来たのではあるまい?」
「まぁ中々の使い手だったからな興味を持った」
そう、美羽と斬り合いして生き残っているのは実に素晴らしい。
そう思って男を見れば、苦虫でも噛み潰したような顔で、言う。
「途中で逃げて生き残ったのよ・・・」
「ほ~逃げたのか?」
「ああ、元々が雇われの傭兵だしな」
聞けば海賊が人員確保で傭兵を雇うことはよくあることで、非合法なので給金も良いらしい。
それに乗っかって海賊稼業するのもどうかとは思うが、人には色々な理由があり、信念を曲げてでも行うこともあるので、中々の使い手である彼が海賊の仲間でもよくある出来事なのであろう。
しかし、袖振り合うは何かの縁だ。
何故海賊に身を窶して居るのか聞いてみた。
興味を持ったからという部分が大きいのは否めない。
「その腕があれば他にも仕事があったんじゃないか?」
「まぁ・・・」
「何か理由があるのか?」
男は言いたくないのか、口を重くした。
そんな時に、海賊船に斬り込んだ乗組員が俺に知らせて来た。
「お頭!!」
「だから・・・お頭と呼ぶな!!」
「へぇ、お頭」
諦めて話を進める事とした。
「何かあったか?」
「実は海賊船に不釣り合いな女が乗っておりやして・・・」
「へ~攫われたのかな?」
「宜しければ、莉里姉さんに通訳をを願いしたく」
「解った、連れて来い」
「へい!合点でさぁ!!」
連れて来られた女性は確かにむさ苦しいであろう海賊船に不釣り合いな薄幸な見た目の美人さんだった。
〇~~~~~~〇
日本に戻る途中の話です!!
さて、この時代は世界的に見ると大航海時代と言われる時代で、船で商品を運ぶために行き交う船乗りは多くいた様で、時には海賊行為する事さえあったようで、専業海賊も多い半面、輸送船が海賊船に早変わりすることも多かったようです。
特に、仲の悪い国同士なら普通に海賊行為を行うことも多かったようです。
特にそのような場合の海賊行為はイギリス、スペイン、オランダ、ポルトガル、フランス等の当時のヨーロッパ列強の交易や植民地を巡る衝突の結果起こる事が多かった為、スペイン・ポルトガルの覇権世界ですからそれに対するイギリス、オランダ、フランスに起源を持つ人物が海賊として活躍していたようです。
まだこの物語の時代はスペイン・ポルトガルの力が強い為、そこまで大っぴらではありませんでした。
しかし、1650年頃になると海賊の黄金時代と呼ばれる時代がやって来たそうです。
主人公が「海賊王に俺はピ―――」の決め台詞を言う国民的人気漫画のモチーフとなったであろうとも言われる時代で、バッカニア時代・海賊周航時代・スペイン継承戦争以降の時代の三期に別れると言われます。
バッカニア時代はカリブ海を中心に活動する海の無法集団「バッカニア」が活躍した時代で、海賊本人達は「沿岸の義兄弟」を称していたようです。
この時代で有名なのはフランスのバッカニアであるピエール・ル・グランという人物で、有名な話として1隻のボートに28人の乗組員を乗せ、獲物を求めて航海し、スペイン船(ガレオン船)を襲い奪ったそうです。
その船の船長が襲う前に使われたボートを捕虜となり見詰めていた時に「ありえん」と言ったとか。
海賊周航時代はバッカニア時代に割を食ったイギリス人やアメリカ人の船乗りが海賊として活躍した時代で、財宝と言う名の他の船を求めてカリブ海の外に目を向け始めた時代です。
某物語の様に
ヨーロッパでの相次ぐ戦争でスペイン・ポルトガルが疲弊し、スペイン領の主要植民地が消耗していたことが大きかったようで、海賊がその植民地を襲うなどもあったようです。
勿論、イギリスも疲弊しており、特に数度にわたり航海法を公布が財政難を呼んだ様です。
そういう状況ですから海賊は普通の事の様に横行したため、ある植民地の役人は自分の管理する地に金を落とす海賊を保護したりする者が現れるような時代だったようです。
さて、最後のスペイン継承戦争以降の時代は読んで字のごとく、スペイン継承戦争以降の時代で、この戦争も終結するとイギリスの非正規戦闘員だった私掠船員は軍務を解かれた為に困窮し、海賊と成り果てました。
訓練済みの水兵ですから手際よく海賊行為に勤しみ多くの被害を出しました。
この時代は戦時中に放棄されていたニュープロビデンス島のナッソー(現在のパナマの首都)に海賊の基地が建造される程、海賊が幅を利かせた時代だったようで、そこは多くの海賊の拠点にもなったそうです。
流石にイギリスも不味いと思ったようで、ウッズ・ロジャーズが総督として派遣され沈静化を図ったようですが、その派遣前の3年間で多くの新人海賊を輩出する一大拠点だったようです。
黄金期は少し先ですが、丁度主人公の時代も海賊は多く居て、特に日本に向かう航路は新航路だった様なので特に多かったようですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます