第290話

「何と素晴らしい!!」

「ほんに見事な!!」

「これまた見事な品で」


私への称賛の声が絶えない。

茶会を開き、客をもてなしながらその様を窺う。

皆が出された物一つ一つに感動し、「見事」「素晴らしい」と感嘆の声を響かせる。

そう、今、茶の湯は社交の道具ではなく、趣味として富裕な者の心を魅了している。

考えればこの流れの始まりは今は亡き織田様の下で茶匠として召し出された頃から一気に開花した様に思える。

今はそれすら昔、茶の湯全盛期と言ってもいい程に文化の華を咲かせておる。

私は今現在、幼馴染で商人仲間である、彦八郎(今井宗久)、助五郎(津田宗及)と共に茶湯の天下三宗匠と呼ばれるようになり、天下人の関白様(豊臣秀吉)にもご支持頂き、側近に取り立てて頂き、商いも好調。

現に、今目の前で茶の湯の席で私の入れた茶を啜りながら、出された茶器を物欲しそうに愛でる客たち。

ここに居る何人の者が幾らの値を付けて買って行くか楽しみな程である。


「茶匠様」

「何で御座いましょう?」

「拙者、この器が気に入り申した」

「それはそれは、良い出会いを成された」

「出会いですか?」

「茶の湯とは一期一会で御座います。その茶器と貴方様が出会えた奇跡に感謝せねばなりますまいて」

「か、感謝ですか?」

「はい、出会えなければ手に入れる機会も御座いませぬ」

「な、成程・・・して、此方のお値段は・・・」

「この席で金子の話は野暮に御座いまする、後日、店の方にお出で下さいませ」


笑いが止まらぬ。

目の前で差し出した茶を入れた器を物欲しそうに見るかの者は、間違いなく、後日、店の方に現れるであろう。


「某もこの茶器が」「身共はあの掛け軸が」「拙僧はそこな茶釜が」


この場にある全てが欲望の対象となる。

最近は私の好みが世間の好みとなった様で、今風と言えば宗易好みとまで呼ばれるようになり、わび茶が巷で持て囃され、私の事を茶聖とまで呼ぶ者たちもいる程となった。


「白き器は無いのですか?」

「白とは白磁はくじの、宋代の景徳鎮産のお品、それとも、李朝白磁

のお品ですかな?」

「いえ・・・舶来の品ではなく、の品です」


その者の前では笑ってやり過ごしたが、歯ぎしりして地団太を踏みたくなる程に怒りを覚えた。

最近、限りなく白で薄いが丈夫という白磁の器が出回った。

九州で作られたというその品は特殊な製法で作られており、白磁を好む者たちを魅了した。

調べてみれば、丸目二位蔵人殿が関わる品と言う。

かの者が関わっているというだけで一気に興味が失せた。

私の好みは黒かこげ茶の器で、これが鮮やかなお茶の緑に合う風合いで、わびやさびを感じる。

それに対し、白はお茶との色合いが花やいで見え、実に風雅ではあるが・・・


「生憎と、当方では取扱無き品にて・・・」

「左様ですか・・・実に残念なことです」


「残念だと?」・・・今、目の前にある素晴らしき品々を見てそう感じる感性を疑う。

しかし、私も商売人の端くれぞ、欲しい品を用意する、又は、買える所を紹介して次に繋ぐは当たり前のこと。


「白、特に竜骨白磁がお望みであれば、納屋と天王寺屋が取り扱って居るようですので、ご紹介いたしましょう」

「宗易殿!忝い!!」

「いえいえ、良い器に巡り合えることを祈っております」


私は心を落ち着かせ、そう目の前の御仁に告げた。

それにしても、私の茶の湯に対して、丸目殿が考案したとも云われる茶の湯が一部の者に好まれある程度の広がりを見せておる。

茶の湯に対してなのか、お茶会や喫茶、午後茶等と呼ばれている。

午後の丑の刻から虎の刻1時~5時位の時間に軽くお茶を飲むというもので、茶よりもそれに添える添え物の菓子等に重点を置いた茶である。

牡丹餅、大福餅、桜餅、博多餅博多ぶ〇ぶら加須底羅カステラ薄餅パンケーキ、黒棒等々の美味な「おやつ」と呼ぶ添え物が茶よりも主となる。

中でも一両軽餅パウンドケーキと呼ばれるその一切れで一両程掛かるとも言われる高級な菓子は美味で、お茶を凌駕するほどの品であった。

茶を脇役にする様なあの思想が許せぬ。

茶会も滞りなく終わり、客の帰りを見届けて、一人、草庵に戻り後の片付けをしながら考える。

現状で茶の湯の主軸は私の完成させたわび茶であろう。

少しずつ、ほんの少しずつ、茶の湯を嗜む者たちの好みを黒やこげ茶、赤茶等の白とは真逆の色を最上として祭り上げて行けば・・・


数年掛りで皆の志向を誘導した。

竜骨白磁は日ノ本ではうけが悪くなり、一部の者のみの道楽程度の品として落ち着いた。

しかし、「午後茶」は人気で、駆逐することは叶わなかった。

計画が上手く行ったのは丸目殿が日ノ本に居ないことも大きいだろう。

目の上のたん瘤の様な存在だで、居なくなって清々しておったが、どうやら近い内に戻って来るという。

噂では、南蛮の大国で官位を得たとか・・・

鬼・怨霊を祓ったりしたことによりその地位を得たとも聞くが、真偽の程は解らぬ。

しかし、面倒な事となる。

あの者が日ノ本に戻れば・・・

いや、今や天下の茶聖とも呼ばれる私があのような品性に欠ける者に負ける道理が無い。

だが、突拍子も無く、奇天烈な者は理解を超える行動と思考で此方の領域を犯して来る。


「戻って来たら・・・」


考えるのは止めた。

考えてもせん無き物じゃ。


〇~~~~~~〇


茶聖が黒い!!

主人公サイド以外の歴史的偉人の第一弾は茶聖・千宗易(利休)でした。

色々と伏線も回収しております!!

解り易いのは「ボーンチャイナ」でしょうね。

「龍骨白磁」という名にしました。

骨はそのままに、中国と言えば「龍」でしょ!!

と言う事で、「龍骨白磁」という名で売り出ししたこととしましたが、暗黒茶聖様の邪魔で国内での需要は下火な為、海外にその販売先を求めてイングランド王室御用達となった感じです。

話的に前後した形ですが、中々の商流的な話だな~とちょい話的にしては中々に良く出来てると自画自賛?

「午後茶」は、勿論、アフタヌーンティーのこと!!

アフタヌーンティーは午後に紅茶と共に軽食やおやつを楽しむもので、ヨーロッパなどでは貴族の社交の場の一つとして活用されました。

主人公観点から言うと「三時のおやつ」です。

主人公が広めたというより、主人公の周辺の人物たちが交流と共に気に入って自分の生活スタイルに取り入れたのですが、宗易さんには忌々しい人物が自分に対抗して広めた的に解釈。

アフタヌーンティーも茶の湯も社交が目的で、昼間に行うことが多かったので立場的にライバル関係でしょうから、色々拗れていそうです。

さて、アフタヌーンティーのお供と言えばケーキ!!

一両軽餅パウンドケーキと名付けておりますが、実際のパウンドケーキをこの時代に作ろうとしたら恐らく一両では作るのは無理でしょう。

ちなみに、パウンドケーキはフランス・イギリス発祥の家庭向けのケーキで、別名「カトルカール」とも呼ばれます。

17世紀頃が発祥と言われ、作り方は小麦粉・バター・砂糖・卵の4つの材料を同量ずつ混ぜ、それぞれが1ポンドパウンドづつ使う事から「パウンド」の由来と云われています。

同じパウンドケーキなのにレモンピールで風味を与えた物などは名前が変わったりと中々に面白いケーキです。

その内、シフォンケーキなども登場させたいのでそれのうんちくとかも語りたいですね~

食べ物好きなのでうんちくの優先度は日本史<世界史<食べ物<<それ以外になっていることに自分自身で最近気が付きました・・・

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