第288話

大蔵助おおくらのすけ帯刀先生たちはきのせんじょうよう参った」

「「はっ!!」」


大蔵助おおくらのすけは利(利長)のことで、帯刀先生たちはきのせんじょうは俺(羽長)のことだ。

京に来た際に、竜様(近衛前久)に呼ばれ父上たちの不在時の事についての話をされた際に、利が莉里母様の代理として朝廷への寄付等を取り仕切ることを継げ、丸目家全般の事については俺が取り仕切ることを告げると、何故か官位を貰える事となった。

若輩者なので遠慮したのだが、「長(父上)の代りじゃ」と言われ、無理やりの様に官位が授けられた。

両方とも名ばかりの官位だからと言われたが、俺たちに従五位の官位を授けるのは少しおかしいのではないかと思うが、朝廷内では異を唱える者は居ないと言われ、官位・官職を名ばかりだが頂いた。

春(春長)にも授けられる予定であったようだが、官位を授けようとした矢先に行方不明となった為、一時棚上げとなっているという。

ということで、対外的には俺は丸目帯刀先生たちはきのせんじょう羽長を名乗る事となった。

親しい者は変わらずに「はね」と呼ぶが、多くの者は俺の事を「帯刀先生たちはきのせんじょう」もしくは「帯刀たちはき」と呼ばれる様になった。

そして、利が丸目大蔵助おおくらのすけ利長を名乗っている。


「羽よめぐみとは会うて来たぎゃ?」

「はい、関白様(羽柴秀吉)より先に会って参りましたよ」

「わははははは~そうか、そうか!!儂より先に会うて来たか!!」


今日は利と共に定期的な参内の後に大坂に赴く事となった。

俺と利は連れだって関白様にも挨拶に伺った次第だ。

父上と関白様は大の仲良しの間柄で、昔より気に掛けてくださる。

俺にとっては将来は義理の父になる方だ。

そういう関係上、俺が代表して関白様と話すこととなる。


「それにしても・・・関白様か・・・昔は「猿の小父ちゃん」と親しんで呼んでくれたのにの~」

「いえ、流石に今そんな事を言えば、誰かに斬られるかもしれませんし・・・」

「わははははは~その方たちならば殆どの者を返り討ちにするであろう?」

「いえ、人数で仕掛けられれば不覚を取ることもありますし、そもそも、返り討ちにしても問題で御座いましょ?」

「わははははは~よいよい、その方たちに無体をする様な者は斬って捨てることを許すがー」

「有難き仰せですが、出来るだけ穏便に済まします」

「なんじゃ?長さんなら「じゃあその際はお猿さんが尻を持つて事で斬り捨てるね」と言うだろうに、息子の方は真面目じゃの~」


父上も流石に・・・いや、父上ならそれ位の事は言うかもしれない。

父上が何時頃戻るかを聞かれたので、確認することを告げその日は退去した。


「関白様も相変らずだな」

「そうだな」

「さて、俺は再度京に戻り、色々やることがあるが、羽は如何する?」

「そうだな~俺は少し石舟斎殿(柳生宗厳)に稽古を付けて貰ってから戻る」

「そうか、では次に会うのは切原野でとなるな」


そういうことで、俺は柳生の里にて石舟斎殿に剣の稽古を付けて貰いにやって来た。

石舟斎殿は父上も認める剣豪の一人で、俺はよく剣を教えて頂いている。

父の剣術より石舟斎殿の剣術が俺には合う様で、父上の教えを守りつつも石舟斎殿に一部師事をしておる。


「おお、帯刀殿(羽長)よう来なさった」

「はい、今回もお世話になります」

「ははははは~帯刀殿が来れば門弟どもも良い刺激になるで何時でも来られい」

「そうさせて頂きます」


石舟斎殿に世話になっていたので、ほんの少し前に柳生家の窮地を救ったことで、俺の事を訝しく思う者も可成り減ったと最近感じる。

何をしたかというと、小一郎様(羽柴秀長)が大和を治める様になったのであるが、見地の際に柳生の隠し田が見つかり、所領没収になりそうになった。

俺はその事を知って直ぐに動いた。


「小一郎様、少しだけ私情も含みますが、進言いたしき儀が御座います」

「ほう、帯刀殿が進言を」

「何時もの様に羽とお呼びください」

「相分かった。それで、進言とは?」

「柳生の事に御座います」


俺は剣豪である柳生石舟斎とその一門を細事で失う愚を説いた。

小一郎様は直ぐにそれを理解し聞いて来た。


「しかし、法を犯した者を許せば、許せなかった者と比べ不平等となろう?」

「その通りです。だから、関白様に対し「表裏疎意無く奉公する」事を誓紙で誓った物を提出させます」

「ほう、そうであれば、今回は目をつぶろう」


実はこれには前例があり、石舟斎殿は竜様にこの誓紙を送った事があるので、再度今度は現在の関白に送る形を取る形となる。

事前に竜様にお伺いし、石舟斎殿にも話をし、両者から了解を取った上で、小一郎様に話を持ち込んだという流れだった。

そして、柳生家は事なきを得た。

殆どの者が恩義を感じてくれたが、中には反発した方も居た。

特に俺の行動が気に食わないと思った人物の中でも当たりが強い人物は石舟斎殿の息子、新左衛門殿ではなかろうか?

同世代と言う事で、対抗意識を持たれているのやもしれぬ。

石舟斎殿からは「息子の癇癪など気になさるな」と言って頂いて居るが、そう言った部分でも反感を持たれているのであろう。


〇~~~~~~〇


色々と国内情勢が出て来ましたが、注目は柳生新左衛門と言う人物でしょうか?

これからちょくちょく出て来ることとなります。

さて、息子たちも官職を得る形となっております。

忘れているかもしれないので確認の為に言いますが、羽長は主人公と美羽の息子です。

美羽は先の関白、近衛前久の義理の娘でとなっているので、羽長は近衛前久の義理の孫という立場です。

利長の方も莉里の息子ですので天皇の義理の孫となります。

そう言った関係と丸目家との兼ね合いで朝廷としては媚を売りたい家となっていたので、これ幸いにと主人公の不在中に官位を渡したといった感じです。

ここで帯刀先生という官職ですが、実際に在った官職です。

「たちはきのせんじょう」と読みます。

決して「たてわきせんせい」ではありません!!

時代劇等で「帯刀」という名前が偶に出て来ますが、この官職の事で、「たてわき」と読ませたりもします。

この官職は帯刀舎人たちはきのとねりと呼ばれる律令制の武官があります。

帯刀舎人の隊長の事を「帯刀先生たちはきのせんじょう」もしくは、「先生せんじょう」と呼んだそうです。

戦国時代~江戸時代には、正式に帯刀舎人の官職を持たない者が、武官名として通称を勝手に「帯刀(たてわき)」と名乗ることは多かったようです。

武官なので結構人気の通称だったので、時代小説等でよく見かけることが多い名前なのもそうゆう理由なのかもしれません。

よくある名なので、羽長の場合はあえて古い呼び名の「たちはき」と呼ばせることとした次第です。

次話は、勿論、問題の人物、柳生新左衛門の初登場!!

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