第286話

「春、おはよう」

「セドナ、おはよう」


あまりにも自然な挨拶であった。

当たり前だからこそ気付くのが遅れたと言えよう。

それに、これから聞く内容が突拍子もない物で、そちらに気を奪われて気付くのが遅れたのやもしれぬ。


「昨夜、夢の中で春の父上、長義父様ながとうさまにお会いしました」

「え?夢の中?父に会った?」

「はい、神々の招きにより、神界にてお会いしました」

「神々?神界?・・・」


セドナは俺の様子を見て、「信じられませんよね?私もあれが夢か誠か・・・」と言っており、自分が話している内容なのに半信半疑といった様な感じだ。


「いや、父上の係わる事じゃ、神が関与しても不思議に思わぬぞ」

「そうなのですか?」

「おう!」


俺はその後、「神饌」という神に捧げる事で加護を得た不思議な酒の話や、耳の生えた仙狐の叔母の話に、父の愛刀で神に与えられた脇差、それに、天狗様に教えられたという簿記に、数々の美味しい食べ物。


「父の考案した食べ物は特に美味いぞ、恐らくは神にでもた食べさせてもらった物を再現しておるのであろうよ」

「確かに、神々に祝ってもらった際に食べたお食事は大変美味でした」

「やはりそうなのか?」


セドナに聞けば、セドナも古き神の末裔で、その彼女と同じ名の神に招かれて神界と呼ばれる場所に誘われたそうじゃ。

セドナは父上と共にその祝宴に招かれたという。

その宴には数柱の神がいたそうじゃ。

摩利支天様、稲荷神様、セドナ神にオーディン呼ばれる神。

何でもオーディンという神の連れた二頭の神狼の片方が俺のご先祖様だという。

その後にセドナ神の神話も聞いた。

何でもセドナ神は父親の命でイヌと結婚したという。

イヌと結婚したセドナ神に、神狼の末裔の俺と結婚したセドナ・・・運命を感じる話ではあるな。

ふと、セドナの話しぶりにふと気づく。


「セドナ・・・此方の言葉が流暢だな」

「はい、神より加護を得て、言葉には不自由しなくなりました」

「言葉の加護?・・・!莉里母様の様なものか?」

「あ~その方の事は長義父様が神々に聞かれておりましたが、違うらしいですよ」

「え?違うのか?」

「はい、加護ではないのに言葉の理解が速いのは凄い事ですから、長義父様も今の春の様に大層驚かれて居られました」


その後、セドナにはご先祖たるセドナ神の加護が基から有り、海ではセドナが乗る船が沈まないらしい。

それを聞いた父上はセドナと俺の為に船団を作ると言っていたそうだ。

それが本当なら、父上が日ノ本に帰って来てからが忙しくなりそうじゃが、それもまた楽しそうじゃ。


「父上が此方に戻られたら忙しくなりそうじゃな」

「そうですね」

「セドナはその船に乗り何処に行ってみたい?」

「何処にでも」

「何処にでも?」

「春が行く所であれば、何処にでも」


そう言って見惚れるような笑顔で微笑むセドナはとても美しかった。


★~~~~~~★


「麗華、剣筋がまだまだ甘いぞ」

「はい、お師匠様」


私は上泉伊勢守様の弟子になった。

父とは兄弟弟子となるのでしょうね。

女性の身で剣術などと言われるかと思ったけど、お師匠様はそんな事は全く無く、普通に剣術を教えてくださる。

考えてみれば、母様たちもお師匠様に学んだという。

父上から学んだいたので、基礎以上に剣技仕上がっていると言われ、更なる高みをお師匠様は私に授けてくださろうとしている。

ここに来て、多くの学びを得た。


「麗華よ」

「何でしょうかお師匠様」

「蔵人と別れてから研鑽した儂の技を全てお主に伝えるから心せよ」

「はい、元よりその心積りです」

「ああ、それならよい、儂もそう長くないであろう」

「何の、まだまだお師匠様はご健勝であられます」

「わははははは~儂も年寄りぞ、何時お迎えが来てもおかしくはない」

「そのような・・・」

「よい・・・お主は儂の最後の弟子となるであろう。心して儂の最も研鑽を積んだ技を引き継げ。そして、蔵人にでも教えてやってくれ」

「はい、承りました」

「蔵人なら、儂以上の高みに至るだろうし、直接の教えではない技など不要と、新しき道を模索するかもしれぬがな」

「あ~・・・父上なら「娘に教えを乞えるか!!もっとすごい技を編みだし教えちゃる!!」とでも言いそうです」

「わははははは~儂以上に娘の方が蔵人の事を知っておる様じゃな。よい、そう言うならそう言うたでそれはそれ、面白そうじゃ。どれ、蔵人が高見に至ってあちらの世で儂に披露してくれるのを楽しみに待とうか」

「はい、もし父上が私の予想通りの言葉を申されたら、今日のお師匠様の御言葉をお伝えさせて頂きます」

「そうか、頼む」


お師匠様はお亡くなりになる前日まで私に剣を指導してくださった。

私はお師匠様を荼毘に付してから故郷に戻った。

故郷に戻る途中、堺に再度寄り、弟の話を聞いた。


「おお!麗華ちゃんいらっしゃい!!」

「はい、今回は此方にお世話になろうかと思い参りました」

「おお!そうかい、そうかい、嬉しいね~前回は彦八郎(今井宗久)の所だったからね~」

「はい、(今井)宗久そうきゅう小父様が次回は此方にと・・・」


私が苦笑いしながらそう告げると、(津田)宗及そうぎゅう小父様が愉快そうに笑い、「そうそう、平等にするのは重要だね」と言われた。


「そう言えば、大分前になるけど、春坊がうちに泊まったよ」

「春ですか?あの子は虎か白い熊を見るんだとか言っておりましたが、日ノ本に戻って来たのですか?」

「ああ、嫁さんを連れてね」

「嫁!!」


春に嫁ですか。

従者として後に控えている供の者が少しざわつく。

中でも、とび(鳶加藤の子、加藤鳶蔵とびぞう長飛ながとび)が「春様に嫁!!」と言って驚いている。

そして、そちらに目を向けると、鳶が要らぬ一言を言う。


「お嬢、先越されましたね」

「鳶~何が何に何を先越されたのです?」

「いや、けっこ・・・」


そこで、私以上の年上の従者の殺気で鳶は口を閉じた。

さて、戻ってからは春に色々と聞こう。

それに、義理の妹が出来た。

楽しみな事だ。


「小父様、良い情報を有難う御座います」

「何の何の、それより、上泉殿は逝かれましたか」

「はい、眠る様に逝かれました」

「麗華ちゃんが上泉殿の技を全て引き継がれたのですね」

「お師匠様は亡くなる前日に、全て授けたから好きな時に出て行くがよいと言われました」


そして、印可諸々を宗及そうぎゅう小父様にお見せした。

その中の一つ、印可の一つ「新陰流総伝」と書かれた物を見て驚かれた。


〇~~~~~~〇


「新陰流総伝」!!勿論、本来の歴史上でそんな印可ありません!!

上泉信綱発行の印可状で有名なのは、当主人公に与えた上泉伊勢守信綱の名で「殺人刀太刀」「活人剣太刀」の印可状や、柳生石舟斎に与えたという「新影流目録」や「一国一人印可」等々でしょうか?

「総伝」=「全部教えたよ」と言う事ですから、新陰流正当後継者を名乗りそうな輩にとっては是非とも欲しい肩書ですね。

さて、上泉信綱の没年は1582年と言われています。(諸説あります)

大和の柳生谷で亡くなり墓があるとか・・・供養塔ですけど、関連各地に彼の供養塔があるので実際の墓は何処かよく解っていません。

晩年は故郷の上野国に戻っていたとも言われますので、本当の墓の場所は意外と現在の群馬県前橋市上泉町辺りにある可能性は高いかもしれませんね。

さて、「新陰流総伝」を得たのが年頃の女性であることも今後何かありそうだと思いますよね~

勿論、何かを起こす予定なので後々お楽しみ頂けると幸いです。

剣豪ものなので修行での剣戟を!!

とか思いましたが、そうなると子供編が異常に長くなりそうなので割愛しました。

まぁ本編も剣戟?何それ美味しいの?物語のスパイスです!!隠し味です!!程度しか書いていないので、予想していた読者様も多いと思いますが・・・

さて、次は故郷に凱旋!!

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