第284話

堺を後にし、船で九州を目指す。

博多にて挨拶した後は、また船で八代の港を目指した。


「セドナ、次の港からは陸路で俺の故郷に向かうぞ」

「そうですか・・・」

「如何した?疲れたか?」

「はい」


セドナは初めての旅だと言うし、もう少しゆっくりとすればよかったかなと考えたが今更だ。

港に着き、そこで宿を取り、次の日の早朝から向えば、ゆっくりと歩いても故郷の切原野は2日程で到着する。

八代の港もある程度、うちの者が押さえているので、顔なじみが居り、声を掛けて来る。


「春様、久しぶりだな」「何処行って来なさった?」「切原野に戻られるので?」


多くの者に声を掛けられたので、挨拶しつつ、今日の宿を目指す。

常宿としているのは藤林の者が抑えているこの地の拠点である。

先触れで猪(猪助)を使いにやっているので、ゆっくりとそこへ向かった。

常宿と言いながらも商家で、藤屋と言う廻船問屋である。

一夜泊まった後に移動し、芦北で一泊し、次の日のお昼過ぎに遠めに大平神社が見えて来た。


「セドナ、あの向こうに見える建物の近くに俺の実家がある」

「あの御殿のですか!?」

「御殿じゃなく神社だな」

「ジンジャ?」

「神を祭っている場所だ」


久しぶりに見える故郷を懐かしみつつ、セドナに色々と話しながら実家を目指した。

「神を祭る場所」と言う事がセドナの琴線に触れた様で、色々と聞かれた。

イヌイットにも神居り、崇拝しているという。

セドナたちは神を祭ると言う事はしないらしいから不思議がり、また、興味を示したようだった。

家での挨拶が終わった後にでも神社に連れて行ってやるか。


★~~~~~~★


初めての旅ではしゃぎ過ぎて疲れた。

夫の春(春長)が心配して声を掛けてくれた。


「セドナ、次の港からは陸路で俺の故郷に向かうぞ」

「そうですか・・・」

「如何した?疲れたか?」

「はい」


心配してくれるのが嬉しいが、ここは正直に話しておこう。

春たちの実家に行けば春の兄弟や父母に会う事となる、疲れた顔など見せられないだろうから、今の内にしっかり休み、体調を整えておく必要があるだろう。

それにしても、見る物全てが珍しく、はしゃぎ疲れた。

幸いにその日は港近くで泊まることが出来、十分な休息が取れた。

しかし、春は一体何者なのだろうと疑問に思ってしまう。

港に着けば多くの者が声を掛けて来る。

まだ言葉が理解できている訳ではないが、歓迎されていることは解る。

春にその事を聞けば、「親の御蔭」と言う。

確か春の父親はこの国のそれなりの地位を持つ者だと聞いていたが、よく解らない・・・

一つ言えるのは、多くの者に親しみを持って貰える様な者であると言う事だろうか。

船を降りてから二日後の昼過ぎに春の故郷が遠めに見えて来た所で春に教えられた。


「セドナ、あの向こうに見える建物の近くに俺の実家がある」

「あの御殿のですか!?」

「御殿じゃなく神社だな」

「ジンジャ?」

「神を祭っている場所だ」


春は色々と教えてくれた。

眼前に見えるあの煌びやかな建物は神が祭られているという。

この国の神だけではなく、他の国の神すら祭られているという。

不思議だが面白いと感じ、是非連れて行って欲しいと懇願した。

ワクワクしているが、それよりも義父様・義母様や春のご兄弟に挨拶することを思い出して緊張して来た。

春の故郷に近付いて行けば、会う人会う人が春たちに声を掛けて来た。

「お帰り」「ただいま」の挨拶は理解できるが、それ以外はまだまだ理解できないが、皆が春に好意的なことは解る。

そして、「嫁」として紹介される度に「ハジメマシテ、ヨロシク」と覚えたばかりの言葉と共に笑顔で挨拶した。

皆が「ベッピンサン」と言って来るが、如何いう意味なのか。

悪い意味ではないと思うが、後で聞いてみよう。


「ただいま~」

「お~春お帰り~」


少し浅黒い肌の男と親し気に春が話している。

もしかして春の兄弟?

見れば少し面差しが・・・似て無いな・・・

一段落したようで春が紹介してくれた。


「俺の兄弟の羽(羽長)だ」


似ていないが春と兄弟で間違いなかったようだ。

確か、春は異母兄弟が数人居ると言っていた。

その内の一人が目の前の彼のようだ。


「ハジメマシテ、ヨロシク」

「初めまして、よろしく」


私に合わせてニコニコと笑顔で挨拶を交わしてくれる彼は良い人物だろう。


「春よ・・・」

「何だ?羽」

「えらい別嬪さんを連れて来たな」

「おう!熊倒したら嫁に貰えた!!」

「意味解らん」

「まぁ色々あって嫁に貰った。詳しくは後ほど話すわ~」


その後も多くの方に会った。

利(利長)と言う名の春の別の異母兄弟や、その妻。

春の家に仕える人々や春の祖母等々に挨拶をさせて貰った。

残念なことに、義父や義母に同腹の妹と異母姉には会えなかった。

少しだけホッとした部分もあるが、別の機会にまた挨拶をすることとなると考えると少しだけだが気が重い。

それにしても、春の実家は大きな家であった。

私たちの国の大族長でもこんな立派で大きな家には住んでいないことを考えると、春の父はやはり凄い人物なのであろう。

旅の疲れがあるだろうからとその日は早々に寝る事となった。


「春!!」

「ん?」

「この敷物は何だ?」

「布団か?」

「フトン!!」


横になっただけで解る!!

これは素晴らしき物だ!!

この感動を春に伝えたが、流石に私の言葉全てを理解出来る程ではなく、春も私の言葉をある程度しか理解できなかったようで、この感動を全て伝える術はなく、残念ではあるが、気持ちは伝わったので今回はこれで満足しておこう。

それに、この寝る時に上に掛ける物がまた素晴らしい!!

一瞬にして寝落ちしてしまった。


★~~~~~~★


白い空間にまたやって来た。

振り向けば見知った神と、見知らぬ神が卓を囲んで飲み会のような様で此方を見ている。

見知った神とは摩利支天様に弁天様にお稲荷様に、二匹の犬を連れたオーディン神。

そして、新顔の神は人魚の様な姿形をした美しい女神様だった。


「よう来た!!」

「あ~はい、今回は何用で?」

「目出度きことがあっての~それでお主に知らせると共に祝ってやろうと我らが揃ったのじゃよ」


そう摩利支天様が言う。

目出度い事?何だろうか?

思い当たる節は無く、首を捻れば、オーディン神が言う。


「そちの息子にして我が飼い犬の子孫の春長が嫁を娶った」

「ほ~それは確かに目出度いですね~」

「「「「「おめでとう」」」」」

「ありがとうございます」


神々が祝福してくれる。

神の加護とか発生しないか怖い所だ。

それにしても・・・春が嫁をね~確かに目出度いけど、俺も年を取るはずだ。

それは取りあえず置いておき、もしかして・・・


「お!察しが良いですね」

「もしかして、その嫁さんと言うのは貴方様の子孫とか?」

「その通りです」


新顔の神様である人魚の様な格好の女神様が満足そうにそう言う。

神の名はセドナ神と言うらしい。

イヌイットの神話に出て来る海を統べる一柱だそうだ。

知らない神様だけど、春の嫁さんのご先祖神か・・・

春は何処でそんな人物と知り合ったのか不思議だが、帰ったら春に直接聞いてみよう。

もしかすると春が面白い話を聞かせてくれるかもしれないな。

本当に神との縁が多い事だ。

そして、神との宴席が始まるかと思いきや、今回はサプライズがあるようだ。


〇~~~~~~〇


サプライズ!!

さて何か起こるか!!

春長編では是非とも行いたかったサプライズをここでする予定です。

オーディン再登場ですが、今回の主役はオーディンの飼い犬で春長のご先祖様に当たるお犬様とセドナ神です。

オーディン神の飼い犬はゲリとフレキと言う二匹ですが、犬ではなく狼です!!

さて、この二匹は「貪欲なもの」と言う意味で解釈される神狼です。

オーディンはワインだけを飲み出された他の供物(食べ物)は全てこの二匹に与えると云われています。

このゲリとフレキの二匹、実は北欧神話を伝える「詩のエッダ」と呼ばれる書物にとして描かれているそうです。

書かれているのは「ヒュンドラの歌」と呼ばれる巨人女性のヒュンドラが歌う様にしてオッタルの家系の数多くの名前を羅列した部分に登場します。

この「ヒュンドラの歌」でのフレキ兄弟はオッタルの祖先として語れます。

オッタルと言うのは北欧神話に登場する人間の男性で愛の女神フレイヤの愛人の一人で、多くいる愛人の中で最も寵愛した者と云われています。

何故ヒュンドラがそれを歌ったかの経緯やオッタルという人物等々はとりあえず置いておき、今回重要なのは「巨人女性」と言う所。

巨人族というのは古き神とも云われます。

色々な神話で古き神・古き種族の人々等として語られることが多い様で、大昔は巨人族が世界を支配していたとも云われる種族です。

この巨人たちは色々な神話の中で登場し、魔法すら取り扱う存在だったようで、神として描かれるものも存在しますので本当に神の様な存在だったのかもしれません。

そんな巨人ですが何とギリシャ神話にも登場し、オリュンポスの神々と戦います。

ギガース(ギガス)と言う名で呼ばれ、複数形でギガンテスと呼ばれ、ゼウス率いる神々に戦いを挑む存在として描かれています。

山すら簡単に投げ飛ばす怪力を武器にしたとギリシャ神話では語られています。

そんな巨人の中にエウリュメドーンという「海の支配者」と呼ばれる存在が居ます。

エウリュメドーンはギガースの王で、ペリボイアという女性の父です。

ペリボイアはポセイドーンとの間にパイアーケス人と呼ばれる人族初代の王ナウシトオスを生んだと云われます。

ギリシャ神話の中でのエウリュメドーンは驕慢な性格の持ち主で、無法な民を破滅させ、自らも破滅したと存在として語られます。

イヌイットの神話と結構告知していますね~

ペリボイアをセドナ神に当て嵌め考えると・・・ギリシャ神話が全ての神話の原点と云われる理由が何となく解りますね~似てい過ぎて怖い位です。

話が逸れそうですので話を戻し、実はイヌイットの神話にも古い種族の人々として巨人族が語られます。

イヌイット神話の神であるセドナ神はこの巨人族の娘だったと言われます。

今回、春長と(人間の)セドナが結ばれましたが、これで思い出されるのは、数話前に書いたセドナ神の話ではないでしょうか?

セドナ神は彼女の父によりイヌの妻として与えてしまった存在です。

まさに歴史は繰り返される?

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