第276話

ストレス発散重要だね。

最近は貴族令嬢の様にドレスでお茶会や夜会に出ていた里子が嬉々として木刀担いで中堅クラスの闇組織の溜まり場となっている酒場に特攻した。

酒場の中には大凡50人位チンピラがたむろしていた。

里子に遅れること少し、俺とお目付け役の美羽とがその場に入ると里子が流暢なスペイン語で啖呵を切っていた。


「悪党ども、成敗してやるからかかって来い!!」

「何だ貴様!!」「お!可愛いな~お兄さんたちが可愛がってあげよう」


殴り込みなので殆どのチンピラたちが殺気立つ中、里子の容姿を見て舌なめずりするような者も居る。

うん、数人は顔覚えたので後で俺が特別に尋問することを決定した。

里子には丁度良い実践になるだろうと敵を順に違う技で倒して行くように指示している。

実力差も有るのでそれ位しても余裕の余の字だろうけど、里子はゲーム感覚で嬉々としてその指示通りにするようだ。

今一人目のチンピラが燕飛えんぴ(技の名称)を食らい、その後の袈裟斬りをもろに食らい倒れ伏した。

一番最初に習う基本の型である燕飛えんぴは里子の熟練度が実に伺える一撃で、恐らくはこの場でその太刀筋を捕らえられたのは俺と美羽と他いるかな・・・まぁそれ程までに鋭く早い。

型を順に試して行くように言っているので次々と違う技が繰り出されているので見ていて楽しいが、十人位倒すと相手の目の色が変わった。


「何だこの女!!」

「丸目里子よ」

「名前を聞いているんじゃない!!」


コントか!!

そう思う程に何だか滑稽なやり取りが繰り広げられている。

その後も戦いは続き、嵐勢らんぜい(技の名称)を食らい最後の一人が倒れたのを確認して此方を驚愕した顔で見詰めていた者たちを見上げる。

丁度2階がエントランス状になっている様な作りの酒場で、その2階の奥から4人程の者が此方を窺うように見ていた。

う~ん、年齢的に見てここのボス?よく解らないので里子に目が行っている間に気配を断ちその者たちの後ろに立つ。


「何だこれは・・・」

「頭・・・恐らくは殴り込みでしょうが・・・」

「女一人でか?」

「え~と・・・」


どうやらここを任された「頭」なのかな?

「他のアジトに応援を頼むか・・・」とか言っているので此奴らの組織はまだ他にもねぐらとしている場所があることが判明した。


「場所を教えてくれたら出向くぞ」

「何奴!!」


後から声を掛けると「頭」と呼ばれた男以外がナイフ片手に襲って来た。

面倒なので速攻で3人を片付けた。

残る「頭」に聞く。


「他の拠点教えて」


ニッコリと微笑みながら言ったら震えられた。

後は気持ちいい程に低姿勢で色々と組織の内情を話してくれたよ。

残りは2拠点だったので手分けして潰した。

丁度俺の方に組織のボスがいたので色々吐かせて、序に関わりのある他の組織も幾つか潰した。

いや~嫁さんたちも里子もいい気分転換になった様で、次の日は夜遅くまで動き回ったと言うのに晴れ晴れしい顔だったので本当に良い気分転換になったようだけど、何故か王様(フェリペ2世)に呼び出しされて、「程々にな」と言われた。

他国で少しヤンチャが過ぎたようだ。

丁度良い機会なので諜報部のヨーロッパ支社を作ることとした。

日本でも行ったことなので立ち上げて現地採用の育成プランを藤林家の面々が作ったよ。

佐助と絹がそれぞれに諜報部門のトップに就任した。

歩き巫女とか居ないので絹にどうするか聞いたところ、当面は潰した組織と繋がりある娼館を取り込み人材育成していくそうだ。

情報を得やすく成った段階で権力者たちに打診して情報を売ることとしているようで、豊さん(式田豊長)が王様に売り込む予定としている。

まぁ俺の家令的に最近は思われているので王様と大分面識の出来た豊さんなら大丈夫だろう。

後は任せるより無いし、連れて来た面々もそのつもりだった様だけど、計画が早まったことで嬉しい悲鳴を上げている。


★~~~~~~★


「なぁ三平・・・」

「何だ佐助」

「少しづつ人材を集め教育を施す予定だったよな?」

「本来の計画はな・・・」


俺は蔵人様の無茶振りに振り回されて、今、途轍もなく忙しく成る事を予見した。

事の始まりは十鬼とき様が街の散策にお出かけの際に助けた女から始まる。

絡んでいた破落戸ごろつきどもと揉めた際、才蔵が話を着けて後ほど挨拶に伺うと言う事で話を纏め戻って来た。

挨拶と言っても討ち入って武力交渉するんだろうな~と思っていたけど、案の定、蔵人様は里子様と奥様方の気晴らしにと使われた。

後々調べてみればあまり良くない組織だったので潰すのは問題無いし、後々ぶつかることになったであろう。

問題は予定が一気に大きくせざる負えなくなったことであろう・・・

次の船で頭領(藤林長門守)に事情説明の文と人員を此方に送ってもらう打診をしなければならない。

当面は・・・潰した組織の中で真面な奴を見繕い使うより無いだろうが・・・

そう考えていると孤児院という物を十鬼様が助けた女が教えてくれた。

聞けば十二歳未満の身寄りの無い子供たちが預けられる場所だと言う。

早速とばかりに計画を練り蔵人様にお伺いを立てた。


「良いと思うよ~身寄りの無い子供たちに手に職を付けられるしね。佐助は中々に篤志家だね~」

「とくしか・・・ですか?・・・」


篤志家とは何だろうか?

その場で聞いておけばよかったが、今更聞けないし、蔵人様からは了解を得ているので早速とばかりに孤児院に忍募集をした。

忍びと言っても諜報員で、文字の習得や計算を覚えさせて組織運営の下地を作るので、当面は教育が基本となる。

その事は孤児院を任されている者にも話しているが、何故か感激されて「子供たちを宜しくお願いします」と言われた。

忍び育成の為にある程度の土地が必要となった為、蔵人様に相談した。

忍の里を作る必要があると判断してのことである。

蔵人様は何故かこの国の王に村を一つ作りたいと懇願されたと言う。

確かに上の者が認めれば問題無いのは確かだが、一国、それもこの世で最も大きいと言われる国の王に直接言う事だろうかと思ったが、王はお認めになったと言う。

聞けば、王家所有の土地の一部にその村を作ることが許されたと言う。

話が動き出すのが早すぎる・・・

蔵人様に相談すると火に薪でもくべた様に火の勢いが強まるかの如くに話が大きくなり加速する。

焦りを覚えつつも絹と共にその準備に取り掛かった。

忙しいが実に楽しい事じゃ。

幼い頃は食うに困る程の有様で、七つを迎えられるかと言う程に困窮していたが、蔵人様と知り合ってからの藤林一門は変わった。

三食を食べ、修行も正式に剣術等の指導は付くし、算式等の高等な教育を受ける事にもなった。

恐らくは遠い地からとなるが、この地より蔵人様方の助けになれるよう働こうと心に誓う。


〇~~~~~~〇


ここ数話に登場して名前の出て来た佐助さすけ才蔵さいぞう三平さんぺいきぬたえの5人は153話に登場した藤林一門の子供たちです。

忍びの海外進出!!

中々の胸アツですね~

さて、世界で最初に広域で大規模な諜報機関を作り上げたのは徳川家康と云われております。

2代目服部半蔵の正成を頭に広域の諜報組織を立ち上げたのですが、3代目服部半蔵の正就の代で没落します。

諜報機関は柳生宗矩の預かりとなります。

実は柳生宗矩は服部半蔵とは別口の諜報を担っていた様で、家康からも命じられて行っていたようです。

柳生宗矩が立ち上げた諜報とはどんな物かというと、廻船問屋経由の諜報網と兵法修行者の諜報網と云われています。

中でも兵法修行者の諜報網が秀逸です!!

兵法修行者は僧侶の修行者や山伏等と同じく移動の制限が殆どありませんでした。

更に、兵法修行者として各地を巡り場合によっては行き着いた先の大名家に仕えたりと内部に入り込んで行ったようで、忍者の諜報で言うところの「草」をそのような行為で行っていたようです。

「草」と言うのは忍者の地方での呼び名としても有名です。

忍者は「草」以外にも「乱破らっぱ」「素破すっぱ」「奪口だっこう」「かまり」等々の呼び名で呼ばれたそうです。

しかし、忍者用語で「草」と言うのは任務の一つで、素性を隠して家族で現地に移住して住み込み、地域に溶け込み情報収集をすることだったようです。

武士として大名家に仕えるのですから得られた情報も有益な物だったと思われます。

柳生宗矩が出世したのは何だか解る気がします。

柳生家は忍術も心得ていた家ですから「草」を思い付き実践したの解る気がしますが、思いついたのは流石としか言えませんね。

まだこの作品では登場していない人物ですが、この物語で忍者と言うのは中々のウエイトを占めるキーパーソンでもあるので、度々登場する事となる人物ですので登場を楽しみにお待ちください。

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