第275話

274話をUP忘れていたのに気が付きましたので、本日は2話目UPです!!

九鬼澄隆の回想話となります。


◇~~~~~~◇


これから、いや、会う前から主と決めていた丸目二位蔵人様にお会いした。

叔父(九鬼嘉隆)や父(九鬼浄隆)と同世代のと聞いておったがそれよりもかなり若く見える。

二十後半程にも見える程に若々しいが、かなり年上の、そう、五十はとうに過ぎた者の様な貫禄じみた翁の様な雰囲気もある。

何と言い表せば良いやら迷うが、不思議な雰囲気を纏った方であるのは間違いない。

挨拶を済ませた後は早速とばかりに、日ノ本より南蛮までの航海について聞かれた。

形だけではあるが、船長として今回の船旅を差配した。

嵐にも途中で会い、大海原で死を意識する程の出来事として記憶したし、巡って来た国々の何と異質な事かと言う感嘆の気持ちを伝えたが、丸目様に上手く伝わっただろうか?

そんな私の話を楽しそうに聞く丸目様は本当に気さくな方で、話している途中で「蔵人様」と呼ぶことを許された。

不思議と身の震える思いとなり、始めたお会いする方なのに愛着とでも言うような何とも懐かしい気持ちとなった。

もしやすると、父上が生きておれば・・・


「今後もやれそうですか?」

「はい、是非とも今後ともよしなにお願い申し上げまする。丸目様は拙者の主になるのですから敬語は不要にて」


主と見定めた方に何時までも敬語を使われるは憚りがある。

敬語不要を言えば、直ぐに改めてくだされた。


「わかりま・・・解った」

「それと、九鬼家は捨て申した。九鬼左馬佐澄隆は死んだ者とし、新しく生まれ変わったとして新しい苗字や名を名乗りたいと存じます」


藤林殿(藤林長門守)が申されておった。

元の経歴が知れると不味い方も蔵人様の配下には居り、新しき名で仕えている方も居ると聞く。

それを聞いた際、是非とも私も心機一転、名を変えてお仕えしたいと思うた。


「え?いいの?」

「はい、勿論!つきましては新しい苗字や名を主より頂きたく存じます」


少し食付き気味であっただろうか、蔵人様は少し顔を引き攣らせならが「解った」と言い、試案され出した。

待つ間に手元の茶を飲む。

美味し!!

nigrum tea紅茶と呼ばれるこの茶は存外自分に合う飲み物のようで、最近はこの茶を飲むのが楽しみだ。

傍らにある茶請け・・・見たことが無い・・・蔵人様の横で静観して話を聞いている女性は蔵人様の奥方とのことだが、日ノ本の人間ではないようであるが噂に聞く「弁財天の莉里様」だろうか?

日ノ本の商人に間で、特に大商人で彼女を知らぬ者は居ないと聞く。

切原野の地に滞在中に出入りの商人たちに教えて貰ったが、商才は計り知れず、蔵人様の財力の源とも言える人物だと聞いた。

美しい方と聞いていたが、本当に美しき方だ。

ニッコリと笑い、茶請けの菓子の事を教えてくれた。

何でも「まかろん」と言うらしく、南蛮の菓子らしい。

外はカリッとしており、中はふんわりと柔らかい?いや、もっちりと柔らかい。

噛むと今まで味わった事無き独特の甘さが広がる。

そこに茶を飲む・・・美味し!!

幾らでも食べていられると思った。

三個目の「まかろん」を食べ終わった頃に蔵人様が仰った。


十鬼とき主馬しゅめ澄長すみながなんてどう?」

「良き名を有難う御座いまする!!」


聞いた瞬間に背筋に稲妻が迸る様な衝撃が走り、歓喜で即座に礼を言った。

九鬼以上に成れとの思いからか「十鬼とき」と言う苗字を頂戴した。

更に官名は主馬寮からであろう、「主馬しゅめ」というものを頂いた。

恐らくはこれも叔父の九鬼嘉隆を遥かに超える人物となれという思いが込められているのではないかと推察した。

そして、「澄長すみなが」と諱の一字の「長」をくだされた!!

感動して泣きそうに成る程に歓喜した瞬間だったのではないだろうか?

しかし、諱の「長」を後付けするのは何故か解らぬが、主の事じゃ何か考えがあるのであろう。

(※賢明な読者の皆様にはお解りと思いますが、主人公はもっと仲良くなり「長さん」とか呼ばれるようになれば、「同じ「長さん」呼びはし辛いよね」位の軽い気持ちで名付けています)


「追々生活に慣れ、先ずは南蛮の文化を知られよ」

「解り申した!!」


蔵人様は先ずはこの地の文化を知れと言われた。

文化を知るには市井の者に関わるのが一番と思い、通訳を連れ街に繰り出した。

活気ある国で、「太陽の沈まぬ国」とまで言われる広大な領地を持つ世界一の大国と聞いておったが、街に出て圧倒された。

人でごった返しており、道行く者たちの顔を見れば、活き活きとしておる。

少しずつ街に様子に慣れ、三日程の時が経つ。

何時もの様に街を散策しておると、若い女子が数人の男に絡まれておった。

(スペイン語の話となります)


「おい、女!!お前がぶつかったせいで俺の大事な服が汚れちまったじゃないか」

「ふん!!何さ!!そっちからぶつかって来たじゃないの!!」

「何だと?」

「な、何よ・・・」


まだ言葉が解らない為、通訳に教えて貰いながらやり取りを見入る。

通訳曰く、若い女子が数人の柄の悪そうな男の一人にぶつかり、その拍子に男の服を汚してしまったらしい。

恐らくはわざとぶつかってそう仕向けたのであろうと言う。


「この落とし前は付けてもらう必要があるな」

「い、幾らよ」

「そうだな~この服は相当に高いし・・・」


男は耳打ちするように金額を伝えたので此方には聞き取れなかった。

しかし、その後の女子の態度を見れば法外な金額を吹っ掛けられたのは解る。

見ておれず声を掛けた。


「何だお前は?」

「この方はさる伯爵家の従者の方です」


通訳が何やら交渉をしてくれている。

その間に女子に手振りで逃げる様にと伝えた。

女子は少し躊躇った様だが、逃げる事とした様だ。


「おい!逃げたぞ!!待ちやがれ!!」


柄の悪い男たちは女を追おうとしたが、人混みに消えた女を見つける事は出来なかった。


「おい!代りにお前たちが落とし前を着けてくれるんだろうな?」

「後日、落とし前を着けさせて頂きます」


通訳が何か言い、指定の場所を聞いているようだ。

お世話になって早々に問題を引き起こして悪いと思いつつも通訳に詫びると

(日本語での会話となります)


「あ~主馬様、大丈夫ですよ~」

「しかし、蔵人様に仕え始めたばかりなのに迷惑をかけて・・・」

「あ~・・・恐らくですが、あのやくざ者どもはきっと後悔しますよ~」

「後悔?」

「はい、恐らく・・・いえ、間違いなく組織ごと潰されますね~」


蔵人様が付けてくれた通訳の若い男は「才蔵さいぞう」と言う。

何でも蔵人様の御息女である里子様の御付きの一人だったという。

航海時に船旅が気に入り後々は儂の手助けをする為に船に乗り込んでくれるという者だ。

語学も堪能で、将来は丸目家の重臣になるであろう彼は言った。


「里子様に知られたら、嬉々として潰しに向かわれるでしょうけど・・・先に蔵人様か奥方様方にお伝えせねばなりますまいが・・・結果は同じかと」

「そうなのか?」

「はい、そうなります」


才蔵殿はニッコリと笑いそう答えた。

後日、才蔵殿に聞けば、里子様を中心に有志で殴り込み、蔵人様の奥方たちも加わって大捕物をした。

その様を蔵人様と共に眺めていたが、「良い憂さ晴らしの提供になったな」と蔵人様は言われた。

何でも悪徳貴族とも繋がっていた組織で、この国王に許可を取り、潰したと聞くが・・・

この国の王と誼を持つ蔵人様の底の知れぬ威光に脱帽した。


「この間は助けてくれてありがとう・・・」


街を歩いていると、先日助けた女子が近寄って来てそう言った。

「何かお礼をしたい」と言われたが、特にお礼は・・・

街を案内して貰うこととした。

その後はあれよあれよという間に恋に落ちた。

彼女ともっと話したいと思い、一生懸命に言葉を覚えた。

存外才能があった様で、少しずつ言葉を覚えて行き、「アナ」と普通に話せる様になったのは一年位して後だった。

滞在から一カ月ほど過ぎた位に、蔵人様に「紹介したい女性がいます」と言ったのは良い思い出だ。

蔵人様に女たらしとでも思われたのかもしれぬが、儂はアナに惚れたのだ。

時は関係なく、何時の間にか好きになっておった。

「運命の女性」と言うと才蔵殿がアナに通訳したらしく、頬を染めていた。

実に愛らしいことじゃが、才蔵を通さずにアナと語りたいという思いが言語習得に力を与えたのは間違いなかろう。

その後、アナの伝手で孤児院等を知る事となる。

何故かアナの伝手を蔵人様が大層喜ばれた。

聞けば、使用人などを探す予定だったそうで、この国に伝手が無い為、全ての使用人を奴隷で賄うかどうかを検討していたと言う。

アナの紹介によりこの国の者が多く蔵人様に仕える事となる。

貧民街と呼ばれる貧しい者たちの住む所からも多くの者を採用した。

アナもここに居を構えていたが、付き合いだして早々にそこを引き払わせていたが、久しぶりに戻ったアナを彼女の友人という者たちが心配していた様で会いに来た。

その際にも多くのその友人たちを蔵人様と引き合わせて雇うことになった。

日ノ本に居た時に感じた鬱屈とした日々はもう無い。

これからは明るい先しか無いように感じる。


後々、このスペインを中心に欧州にその名を轟かせる諜報組織の誕生する前段階はこの時だったと語られる一幕となった。

丸目蔵人が潰した組織はそれなりの規模の組織で、闇社会の組織としては中堅上位の組織であった。

その組織を潰した波紋は小さい物では無かった様であるが、半年も経つと落ち着いた。

そして、代わりに黒目黒髪の者がボスとなった組織が台頭したと言う。

組織の名は特に無いが、組織の上の者を襲っても返り討ちにあう始末で、まるで陽炎を相手にしているように感じた者たちが「Neblina de calor陽炎」と勝手に呼ぶようになった。

組織は徐々に拡大して行き、10年後にはスペイン国内で最大の組織となったと言うが、トップの姿を見た者は居ないと言う。


〇~~~~~~〇


回想話回でしたが、海外の闇組織をGET?

ヨーロッパのやくざ者と言えば「マフィア」を想像します。

私は映画「ゴッドファーザー」でその名を知りました。

「マフィア」のトップを「ゴッドファーザー」と言います。

「マフィア」と言うのはイタリアのシチリア島を起源とする組織犯罪集団を指して言います。

起こりは19世紀で意外と歴史は古くないのですが、やくざ者と言うのは何処にでも居ました。

特に中世ヨーロッパは大小様々な組織が乱立していたようです。

実はこの「マフィア」の前身となる物はイタリアとスペインの歴史が関係するとも云われています。

丁度、フェリペ2世の頃はシチリアはスペインの統治下だったようです。

そうなると、スペイン系の貴族が所領を経営し、在地のイタリア人はよそ者スペイン系の貴族の搾取に苦しみます。

そんな中で自分たちを守る為に組織化されたとも言われます。

当初はそんな自分たちを守る為の自警団的な意味合いを持った物が後々に約4,000人の構成員を要する組織になって行くのですから、不思議ですね。

元は外国人支配者に同胞を売り渡さないと言うシチリア人の気質から起こり、長く外国人支配下にあった記憶からシチリア人には統治者への強い不信感が根付き、19世紀に一気に大組織化したようです。

意外にもシステムは日本のヤクザ・暴力団組織に似ており、親子分・兄弟分の契りを交わす儀式があるなど、類似点が多いようです。

人間が考える事ですからどうしても似て来るんでしょうね~

この物語のスペインで誕生した組織は主人公とあまり関係なく勝手に育つ予定です。

日本国内に主人公たちが戻ると話にあまり出て来なくなると思いますが、影での権力基盤強化となります。

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