第273話

俺は夢を見た。

気が付けばお馴染みの空間に一人立っている。

もう慣れたもので、落ち着いてその時を待つ。

何回も来たことで解るが、神と邂逅する場所、神域とでも言うのかな?ここは。

清浄である場所、しかし、何も無く白いただ広いだけの空間で味気ないとも言える。

しかし、その時が来た。

後より声がする。


「よう、初めて会うが、我が民の為に動いてくれてありがとよ」

「わははははは~お主中々面白いな」


振り向けばそこには二柱の神が居た。

恐らくはケツァルコアトル神とシウテクトリ神だろう。

昨日、名前を使わせて貰ったので、もしやと言う直観めいたもので会うんじゃないかな~とは思っていた。

さて、風貌を眺める。

解り易いのは緑の冠に蝶の首飾りをした神、恐らくはそちらがシウテクトリ神だろう。

そう思った瞬間に、「正解」と言い、何かを飲むシウテクトリ神。


「そして、私が、ジャジャジャジャーン!!ケツァルコアトルです!!」


すげ~ノリの良い神様だ~

白人系の男神でインディオみたいに鳥の羽の帽子を被り、右腕に金の蛇の飾り物を着けている。

カードゲームの様な仰々しい格好ではなく至ってシンプル。

そう考えていると、ケツァルコアトル神が言う。


「何時も何時も飾り物だらけだと疲れるしね~それに、神は変幻自在」


シンプルに思考を読んで回答して来る神様(ケツァルコアトル神)。


「対話したいなら口で言えば良いじゃん?」


此方の神(シウテクトリ神)もナチュラルに思考を読んでそう言って来るので思考するのではなく思ったことを口に出すこととした。


「え~お名前借りましたことお詫び申し上げます」

「わははははは~意外と律儀じゃの~悪用しなければ良しじゃ」

「そう言って頂けるなら・・・助かります」


そうして彼らと語り合う。

流石は神と言うべきか、俺が転生者で先の未来から来た者だと言う事を知っていて、話の流れからテキーラを飲ませてくれた。

飲ませてくれたのは、勿論、プレミアムテキーラだった。

テキーラには種類がある、基本的には2種類で、プレミアムテキーラにミクストテキーラだ。

ミクストテキーラは名前で解ると思うが、唐黍とうきび由来の糖蜜やブドウ糖、等の糖分が加えられ、比較的飲み易くしたもので、竜舌蘭由来の糖分を51%以上使用して作られた物を指す。

比較的にリーズナブルで、日本で流通している物の殆どがこれであった。

一方、プレミアムテキーラは名の如くプレミアなテキーラで、竜舌蘭由来の糖分100%で作られた物を言う。

品質が高く、高級テキーラなのは此方の物が多い。

雑味が少ないので香りと味が良いのが特徴だろう。

さて、そんなテキーラは熟成期間での区分けでも5種類あると言われている。

まぁ今は恐らくないのかもしれないが、将来的にはそうなるのだろう。

ブランコ(熟成期間0~2ヶ月未満)は日本語で「白」を指す。

透明な見た目から「シルバー」とも呼ばれるそれは、熟成期間が短いので癖が殆ど無く、蒸留酒としては若いが、それはそれとしてストレートなフラッシュな味わいが楽しめる。

レポサド(熟成期間2ヶ月~1年未満)は「休ませ」の意味で、軽い甘みとフルーティー差が特徴。

アネホ(熟成期間1~3年未満)は「熟成」の事で、樽に仕込み、樽のサイズは600L以下で作られていることが条件とされており、樽由来のまろやかな甘みが特徴。

エクストラアネホ(熟成期間3年以上)は気温が高いメキシコでの貯蔵樽は蒸散が多い事から、3年以上の熟成は貴重な原酒とされている。

勿論、熟成期間が長い程に樽の風味も相まって味わいは強くなる。

熟成期間3年以上となると樽の個性が強く表れ、奥深い味わいと成るのが特徴。

この様に熟成期間ごとに名前が変わる。

そして、ホベンまたの名を「ゴールド」と言うランクもある。

ブランコに、他のクラスの熟成したテキーラを混ぜて作るクラスで、香りや旨みを調整して作り手の好みを出しやすいのが特徴だ。

熟成期間での区分けは上記5種類となる。

酒談義はこれ位にしておこう。

全てをテイスティングと称して飲んだが、今回特に楽しんだのは、蒸留酒の醍醐味、熟成期間の長い物、エクストラアネホを特に楽しんだ。

ストレートも良いし、ロックも中々の味で凄く楽しめた。

酒のつまみもタコスなどメキシコ料理で実に美味しかった。

何より良いのがここで飲んだ物・食べた物は直会なおらい(神事の最後に供物やお酒を飲食すること)の様なものであり、夢の中で食べた物なので体には残らず、悪影響が全く無く、好きなだけ食べられ、お酒なら楽しく酔えるだけと言うのがたまらない!!

さて、神たちからは凄く感謝されて、貴重な情報を頂いた。


「丸目よ」

「ケツァ様何です?」

「お主は何時の間にかカトリックの洗礼を受けたことにされておるぞよ」

「え?受けてませんよ~」

「聖人となった際に勝手に洗礼されておるぞ」

「まさか~そんなことあるんですかね?」

「まぁ戻ってから調べてみよ」


そして、現実世界に戻ってから調べてみると・・・「パウロ・マルモ」と言う洗礼名が勝手に名付けられていた。

何じゃそりゃ~!!

驚いて問い合わさると、聖人は必ず洗礼を受けて貰わないと困ると言う事で勝手に付けていた模様。

うん、それを知った王様(フェリペ2世)に教皇様(グレゴリウス13世)は大激怒、どっちでも良かったんだけど、勝手に行動したとしてカトリックのお偉いさんが降格人事に・・・

まぁ俺の知ったことではないので見なかったことにして、「どの宗派にも所属する気は御座いません」とはっきりと言っておいたよ。

俺の願いは叶えられたかどうかは先の未来で証明されることとなるだろう。


★~~~~~~★


20XX年、某日、某所にて歴史的な偉人、丸目蔵人のをまとめた展示会が模様された。

剣豪、豪商、外務官、投資家、料理人、趣味人、etc。

多くの顔を持つ彼の痕跡を後世の人々に広めようと言う展示会であり、彼の残した色々な品や彼に関わる品々が所狭しと展示された一角に、カトリックとの関りを示す展示がされていた。

そこには「聖人」としての彼の痕跡が書かれており、人々に驚きと共に伝えられていた。

そこには、「聖パウロ・マルモ」と言う洗礼名が記載されており、彼をキリシタンだと言う説の裏付けとなったとの記載があったと言う。

しかし、その反面、どの宗派にも属さず、多くの神々と対話をしたと言う話も残っており、真実は定かではないともされているが、彼の起こした奇跡の一端として「神の啓示」というものが語り継がれている為、彼を「神のメッセンジャー」と言う者も多い。

その為、特定の宗教に肩入れしなかったとも云われる。

しかし、神との対話など眉唾物と思う者も多く、色々と意見が分かれているのが現状である。

ある書物の中には「丸目蔵人は生前にカトリック教徒でない唯一の聖人として列せられた人物」と書かれてもいる。

多くの説があり、未だ解明されていないが、彼がカトリックで「聖人認定」受けたことだけは間違いないようである。

カトリックの洗礼を受けたというのは事実でないとしたら、宗教のエゴなのかもしれないが、多くの謎を残しつつも「聖人認定」をも踏まえて現在では洗礼を受けたということが現代の人々には認知されている。

未だ多くの謎を残し、彼の半生を追う歴史探究者も多いのでこの認知が覆ることも・・・


〇~~~~~~〇


お約束の神様登場回でした。

ケツァルコアトル神とシウテクトリ神とはどのような神か?

ケツァルコアトル神はアステカ神話でメジャー中のメジャーな神なので知っている方も多いでしょう。

アステカ神話の文化神・農耕神・風の神・平和の神・として知られています。

また、創造神の一柱にも数えられる神です。

マヤ文明ではククルカンと言う名で崇められる神様で、マヤ神話の至高神・創造神として3回の人類創造に関わる神と云われています。

四元素(火・水・土・風)を司る神でもあり「翼のある蛇」の姿で描かれます。

さて、この神様の面白いのは物語で、ギリシア神話のプロメテウスの様に人類に火を授けた神として知られます。

そして何より面白いのが、平和の神と崇められることとなったストーリーが秀逸です。

アステカでは神に生贄を捧げる人身御供の文化がありました。

人身御供を人々に止めさせた神なのですが、その事で人身御供を特に好むテスカトリポカ神(アステカの神の中で最強の力を持つ神)の恨みを買います。

テスカトリポカ神はケツァルコアトル神に罠を仕掛けます。

罠の内容としては、プルケと言う現地のお酒があるのですがその酒にテスカトリポカ神がある呪いを掛けケツァルコアトル神に飲ませようとします。

勿論、呪いの酒とは知らないケツァルコアトル神はその酒を飲んでしまいます。

狂ったケツァルコアトル神は妹・ケツァルペトラトルと肉体関係を結んでしまいます。

その事が原因でアステカ(トルテカ帝国)の地を追われます。

ケツァルコアトル神は自分の罪を嘆き、自分の宮殿を焼き払って財宝を埋めた後自ら生贄となり果てます。

そして、火葬された灰が何羽もの美しい鳥となって空へ舞い上がったと云われます。

それは金星に姿を変えて天に帰ったと云われ、金星の神とも云われるようになったそうです。

まぁこの話には元ネタがあり、ケツァルコアトルを名乗っていたトルテカの王が、人身供犠に反対してトルテカの首都を追い出された事件が元と云われていますので、後々の創作と云われますがこれが中々面白く、何故その話が盛られる様になったかというのが数話前に取り上げたコンキスタドールと関りがあります。

アステカ帝国を征服したコンキスタドールであるエルナン・コルテスと言う人物が居ますが、その征服後に人身御供に反対する神話が作られた様ですから、もしかすると統治の為の・・・

この神について調べて面白い記事を見つけました!!

代々木公園にケツァルコアトル神の像があるそうです。

1990年にメキシコ政府より送られたそうで、当時の大統領夫人来日記念だったそうです。

シウテクトリ神も「夜の九王」の一柱だったりと掘り下げると面白いのですが、別のうんちく語りたいので知りたい方は頑張ってお調べください!!

さてさて、語りたいうんちくと言うのは、「パウロ・マルモ」についてです。

マールメ・マルーメ伯爵辺りでツッコミ来るかな~とか思ったのですが、中々無いのでネタばらし的に話を入れます。

実は丸目蔵人佐長恵は洗礼しています!!

史実では「パウロ・マルモ」と言う洗礼名を持っていたそうです。

イエズス会ポルトガル宣教師によって洗礼を受け、その名で本部のイエズス会総長へ報告が成されたそうです。

その時の報告内容には医者、文化人、剣豪と言う記載があったそうです。

意外にもカトリックと関わりあるんですよね~そして、西洋医学を学び、「保寿剣」の哲学に辿り着いたのではないかと云われています。

「保寿剣」と言うのは修行と道理を説いた考え方で、タイ捨流の基本となる考え方の柱の一つとも云われる考え方のようです。

殺人刀の技法で弱よく強を制するという事を念頭に剣術と体術を調和して活人剣とすると言う師である上泉伊勢守直伝新陰流の旨とも云われる「懸待表裏けんたいひょうり(懸かる心を秘めて待つことや、表から攻めると見せて裏から攻めるなど変幻自在に事を成し、敵の攻めに従って臨機応変に対応すること)、一隅を守らず」という価値観が一つの柱となるのですが、「保寿剣」とは読んで字の如く、「寿(長命)を保つ剣術」の考え方です。

剣術を含め修行というものは時間が掛かるもので、長生きしないと中々に辿り着けないものなので寿(町名)を保ち剣を極めて行きましょうと言ったところでしょうか?

タイ捨流の価値観の一つ懸待表裏の教えと被る部分もあるのですが、心の自在さを失ってはならないことや、物事に固執して心身の柔軟さを失わないように等々の事が述べられているそうです。

「健全なる精神は健全なる身体に宿る」とはよく言われますが、そう言った事についても恐らく書いてあるのかもしれませんが、全文を通して見たこともないので定かではありませんが、西洋医学を学び辿り着いたということを考慮すると、他にも何か色々あるのかも?

それにしても、タイ捨流の何事にも囚われない「捨」を地で行くような丸目蔵人佐の価値感は良いですね。

そして、キリスト教含め神道・仏教等も学んだことにより、晩年には開墾事業等の社会奉仕や人材育成に務めたと云われます。

知れば知る程面白い人物ですし、主人公ですのでまたの機会に主人公の掘り下げうんちくをば語りたい所です。

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