第271話
酔いも醒め、次の日に早々に王様(フェリペ2世)から呼び出されたんだけど・・・
酒のせいであまり記憶が無いが、奥様達が確りと出来事の様子を教えてくれた。
奥様たち曰く、テキーラと「神酒 神饌」の事を聞かれるのではないかとのことだ。
「テキーラとは何か」と言う御下問があったのに対し、俺は「スペイン人大好きだよね」って返したらしい。
うん、前世ではメキシコの酒だけど、後々にはラテン系の人々のよく飲むお酒の一つになる。
スペインがアメリカ大陸のメキシコ辺りを植民地化してそこで地産地消する為に作られていたお酒と記憶している。
うん、何か酔った勢いで色々と言ってしまったようだが、途中で酔いが一気に醒めて雰囲気から何か拙いと思ったのを思い出される。
そこからは記憶がある。
「クランド!酔いが醒めた様じゃが?何を飲んだ?それに、先程の話は何処で知り、その酒をどこで飲んだのじゃ?」
「えっと・・・神・・・」
「神?」
「そう!神に飲ませて頂きました!!そして、神よりお話を伺いました!!」
「何と!!」
とっさにまた「神様」を使ってしまった・・・
王様の追及逃れに封印していた神頼みを焦って使ってしまった。
最近は使わないように気を付けていたけど、焦って使った後は、大騒ぎとなった。
ポーカーフェイスで何食わぬ顔をしていたが、心の中では如何言い逃れるかを思案していたが、王様が「後日、酒に酔っていない状態で聞く必要がありそうだな」等と言われていたからその呼び出しだろう。
仕方ないので呼び出し通りに午後一で王様に会いに行く。
招待状には「昼食を振舞うのでゆっくり話そう」と書かれていたよ。
文章からは解らないけど、状況的には只ならぬ雰囲気を感じるね。
案の定、伺えばニコニコと笑顔の王様・・・胡散臭い。
いや、もう諦めてテキーラについて話したよ。
どうやらまだ本国には情報が届いていなかった様で凄く疑われた。
「クランドは情報通であるな」
「いえ・・・偶々知り得ただけです」
「ほう、神に教えられたのか?」
あ~「神様」の名を出して利用すると何かとんでもない事に毎回なっている気がするが、咄嗟の言い訳には便利なので勝手使いしている感が否めないんだよね。
だけど、それで自分の首絞めている気もしないではない・・・多分、いや、間違いなく、天罰なのであろう。
「アステカの神に振舞って頂きまして・・・」
「ほう、現地の神か・・・何という御名の神じゃ?」
恐らくは情報を精査する為の探りかな?
ここで間違った名を出せば信用失墜するかも?
まぁ現地のお酒見つかるだろうし、それを蒸留してテキーラ作れるから問題無いと思うけど、今後の関係からも疑われるのは宜しくないだろう。
「え~と、ケツァルコアトル神とシウテクトリ神と言う神に飲ませて頂きました・・・」
「ほう、異教の神が二柱か・・・」
「はい・・・」
定番のカードゲームの知識です。
アステカの神様たちも前世で遊んだカードゲームには登場してたよ。
神だけに
覚えているので言えば、ケツァルコアトル神は蛇神で、蛇っぽい顔に沢山のお飾りを付け、羽も生えていて何とも言えない様な風貌で描かれていた。
風属性だったのを覚えている。
シウテクトリ神は緑石の様な冠を被り胸に蝶の入れ墨、火の蛇を操り戦う様が描かれていた。
火属性のカードであった。
取り合えず名を挙げたが特に意味はない。
知ってたから言っただけの神だが、王様は「フム」と言い何か思案しているようだ。
「その神々は何か言っておったか?」
え~とそこまで聞かれると思っていなかったけど、「コンキスタドール」と言う言葉がある。
スペイン語で「征服者」を意味する。
スペインのアメリカ大陸征服者、侵略者を指し示す言葉で、片手に十字架、もう片手に鉄砲を持って侵略と虐殺を繰り返し、アメリカ大陸の固有文明を破壊し、黄金を略奪したとまで言われる存在であった。
まぁ現時点では征服完了段階で、王様(フェリペ2世)の治世時では反乱等も可成り少なくなり、スペイン十八番の副王制をはじめとした行政機構に組み込まれたと記憶している。
「はい、土地を荒し、在地の者を虐殺をこれ以上行えば神罰をくれてやると陛下に伝えておけと・・・」
「か、神がそう言ったのか?・・・」
「はい・・・」
これを言ったからどう変わるかは知らないけど、少しは現地人が平和に暮らすことを願い王様に少し脅しをかける事とした。
原住民のインディオが少しでも安寧な暮らしをして、先の未来に文化が残るといいかもね。
軽い気持ちで取りあえず言ってみたけど、王様たちの政府側の方針ともマッチすだろうからそれなりに叶う事かもね。
「クランドよ」
「何で御座います?」
「現地でこれ以上無体をしないよう通達しよう・・・」
「それが宜しいかと」
神の名を借りたけど、信奉する先住民の助けになるし、名を借りた神様方、許してね。
そして、「神酒 神饌」についても聞かれた。
丁度、念の為にと此方に少し持ち込んでいた。
勿論、毒殺されないように解毒剤的にではあるけどね。
「その酒はどんな酒じゃ?」
「そうですね~神より年に少量の生産が認められた酒です」
「神が認める?」
「はい、摩利支天様と言う私の奥のご先祖の神が居りまして、その神と数柱の神に捧げた酒がこの酒になります」
そう言って聞かれるだろうと思って用意していた酒をお見せする。
王様は興味津々でその酒を見る。
カトリックの熱狂的な信者であるが、為政者らしく神については否定しない。
まぁ呪詛とか経験しているから信じないで痛い目を見たくないのかもしれないけどね。
「その酒は酔いを醒ましたな?」
「そうですね・・・」
「美味いのか?」
興味深そうに食後の茶を飲みながらの御下問だ。
百聞は一見に如かずである。
俺は酒の封を切り、用意して来た湯呑サイズのコップに酒を注ぐ。
毒味を兼ねて少しだけ俺が飲み、「毒味終わりました」と言いつつそのコップを王様へと渡す。
嘗める様に先ずは飲み、味を確かめているようだ。
一瞬固まり、眉毛を跳ねさせた。
恐らくは美味いと思ったのかも?
「実に味わいある酒だな」
「米の酒で我が国独自の酒なので、「日ノ本酒」とでも言う酒ですかね」
「ほう」
「澄み切った酒ですので澄酒と呼ばれます」
「成程」
飲み終えた王様は残りの酒も物欲しそうに見ているので、残りは後で差し上げるこことしよう。
「その酒はどの程度手に入れる事が可能じゃ?」
「あ~少量の為、この銘柄の酒は手に入れるのは中々に困難ですよ」
「ほう、しかし、生産をしているのはその方の手の者なのであろう?」
何か情報を得ているのかもしれないが、入手困難なのは事実だし、大量に出す事は出来ない。
交渉が始まったような雰囲気になり、喉が渇いたので茶を啜る。
王様はジッと此方を見て出方を待つような仕草だ。
「少量でしたら・・・」
「おお!流石はクランドじゃ」
ご機嫌になった王様はやはり交渉で喉が渇いたのであろう、茶を美味しそうに飲まれている。
おっと、効果も言っておかないとな。
「毒に侵されてもこの酒を飲めば死ぬ前なら解毒できますので」
「ブッ――――!!」
王様が飲んでた茶を盛大に吹いた。
汚いな~そう思ったが権力者には流石に言えない。
布巾で口元を拭きつつ、「何だその酒は!!」と言うので「神の与えたもうた酒です」といったら相当驚いていた。
落ち着いた様なので話を進める事とした。
「先程飲まれた量で十日寿命が延びるそうです」
「ブッ――――!!」
王様がまた吹いた。
油断して茶飲んでたんだろうね~わざとじゃないよ。
「ゲホッゲホッ・・・何じゃその酒は・・・」
「だから、神が与えたもうた酒で、私の生きている間に限り生産を許された酒です」
「神が・・・クランドとは今後とも仲良くしたいものじゃ」
王様はそう言うけど、俺も権力者とは出来るだけ事を構えたくない。
勿論、此方に敵対すれば考えるけど、出来るだけ穏便にしたいのは俺だけでなく誰でもそうだろう。
長い物に巻かれるのは基本です!!
その後、2升を此方に貿易船が赴く際には王家に卸す事となった。
そして、「神酒 神饌」は王家秘蔵の酒となり、それを知った高位の貴族たちに日本酒ブームが訪れたのはまた別の話。
〇~~~~~~〇
主人公の権力基盤強化が進んでいます。
さて、コンキスタドールの話をするかアステカの神の話をするか迷いましたが、今回はコンキスタドールの話と致します。
作中で少し書きましたがコンキスタドールとは現地人のとってはスペインからの侵略者を意味します。
1521年にアステカ王国を侵略したエルナン・コルテス、1533年にインカ帝国を侵略したフランシスコ・ピサロが代表格でしょうか?
現地の人間をインディオと呼びました。
彼らの生命財産を脅かし、女性に対し強姦・暴行を行った者も多数居たのですが、コンキスタドールの活動はスペイン王の認可を得てのものであることや財政的援助が無く個人資産で行ったことから黙認されていたようです。
しかし、あまりにも残虐で非道だったので従軍した宣教師の中には中南米での虐殺・虐待を告発した者も中には居ました。
本当に少数ではありますが、バルトロメ・デ・ラス・カサスと言う宣教師はその最たる人物です。
現地のアステカやインカは大軍で相手を退けようと戦ったようですが、銃火器等の装備そのものに差があった為、少数にしてやられたようですが、先住民同士の内部対立も上手く利用された様で、現地人を兵士として使ったようです。
勿論、戦いですので、侵略者側だけが勝った訳ではなく、フロリダ遠征は失敗したりもしています。
しかし、侵略は徐々に進みました。
アステカの場合には宿命的な迷信が戦意喪失につながった云われています。
予言でこの侵略によるアステカの滅びがあったそうです。
どうせ負けるだろうと戦意喪失した者は多かったようで、如何にこの当時の人々が予言などに左右される存在だったかが解ります。
征服完了後にその時得た戦利品を王家に五分の一治める事を義務付けしていました。
これをキント・レアルと言います。
これに異を唱え反乱した人物たちもいます。
フランシスコ・ピサロもその一人だったようです。
スペインがアメリカ大陸やフィリピンを植民地支配する上で採用した植民地住民支配制度をエンコミエンダ制と言いますが、その制度の一部がキント・レアルです。
この制度内容の中には侵略された者たちを保護しキリスト教徒に改宗させることを義務付けることなども含みました。
エンコミエンダ制には現地民に強制労働をさせたりなどがある為、奴隷制度と勘違いされますが、それとは異なったようです。
しかし、建前はどうであれ奴隷の様に現地民を使うので、後々に先住民の奴隷化を禁止などを含む法案が出来、エンコミエンダ制は衰退して行きます。
当物語の時代頃には既に衰退しており、インディオ自体が少数になっていたようです。
しかし、先住民であるインディオがマイノリティになれば力が弱まるのでそこでまた迫害が生れていたようです。
歴史が残虐な部分の一例ですね。
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