第267話

フランス王アンリ3世、違う意味でヤバい奴だった!!


「ああ何て素晴らしその瞳、その笑顔。まるで女神のようだ!!」


通訳をしてくれれている莉里に近付き、手を取り、その手の甲に口づけを落とし、人の奥さんを口説く(多分)・・・ホモセ、同性愛者じゃなかったのか?

混乱して俺も莉里も動くことが出来なかったぞ。

その混乱を利用して、莉里の可愛いお手てに口づけしやがった!!

あれ?文化?いや、多分違うはず。

その場では何て言っているか、勿論、フランス語がまだ解らない俺には理解できなかったが、口説いているというのは何となくだが雰囲気で解ったぞ。

驚いて行動できなかったが、思考が追い付いて来ると怒りが湧いてきそうだ。

一応王様なので我慢できた俺って偉いよね?

しかし、俺の奥さんに秋波しゅうはを飛ばすとは・・・

うん、此奴斬ろうか?いや、斬るべきだよね?・・・刀を取って来ないと。

そう思っていると、莉里がこのナンパ王から洗練された動きで離れ、諭す様に何かを言う。


「陛下、お戯れが過ぎますよ」

「いや、私は有りの侭の率直な感想を述べたまでだ。嘘偽りは無い!どうだ?莉里、私と愛を育まないかね?」


うん、何を言っているかは本当に解らない、フランス語がまだ聞き取れないし話せない為、何をほざいているかは解らないが、莉里を賛美し、ろくでも無い事を言っているのは何となく解る。


「私には、長様という立派な素晴らしい旦那様がおりますので、御断り申し上げます」


莉里もフランス語で何を言っているかは解らないが、ニッコリと蕩ける様な美しい笑顔で、俺の腕にギュッと抱き着き、何か御断りを言っている。

多分、口説かれたのに対しての御断りだろう。


「ああ何て素晴らしい貞淑な、益々気に入った!!その笑顔、まるで女神のようだ!!」


うん、何か諦めず口説こうとする雰囲気、此奴やっぱり斬ろう!!

俺が殺気を迸らせようとすると、声掛けする者が。


「王よ、お戯れが過ぎますよ」

「母上・・・」

「クランド、御免なさいね。それにリリも・・・この子は美しい女性を見ると直ぐに口説こうとするのよ」


うん、何を言っているかは、勿論、解らんが、カトリーヌさん(カトリーヌ・ド・メディシス)が息子さん(アンリ3世)を窘めたのであろうことは雰囲気で解る。

そう、今はプライベートなお茶会の席で、カトリーヌさんと楽しくお話していた所に乱入者(アンリ3世)がやって来て、少し話したかと思えば莉里を口説き始めた。

カトリーヌさんに何か色々とお小言を言われているようで、バツの悪そうな顔をしてナンパ野郎(フランス王です)は去っていた。


「残念、無粋な邪魔が入ってしまったね・・・」

「邪魔とはわらわの事ですか?」


おっと、カトリーヌさんの殺気が漏れだしそうだ。

雰囲気であるがそんな感じがする。

イテマエ!!カトリーヌさんファイト!!


「うふふふふふ~母上、私が母上の事を邪魔者扱いするはずないじゃないですか」

「おほほほほほ~それなら無粋な邪魔とは誰の事かしら?」


何か睨み合いになったけど、恐らくは所構わず女性を口説こうとするようなド畜生ナンパ野郎(フランス王です)が母に怒られ肩を竦め、それを見たカトリーヌさんに恐らくは更に注意され、言い訳している。

カトリーヌさん行け!!れ!!地獄に叩き込め!!


「おっと、公務が御座いますので・・・これにて失礼」


ナンパど腐れ発情男(フランス王です)は去って行った。

カトリーヌさんからは謝罪されたが、勿論、水に流したよ。

カトリーヌさんが悪い訳じゃないしね。

その後、お茶会は続き、カトリーヌさんとは色々話した。

奥さんが複数いる事を話すと、何だか心配された。

う~ん、普通は正室側室問題とかあるんだろうね~ハーレムや一夫多妻で問題になるのはそこだろうしね。

誰でも愛する者から一番を勝ち取りたいし、自分の子供の将来もそこで左右されることが多い。

家はそこら辺の問題が無いから良いけど、余所様は違うし、普通はそこがネックになる。

あ~そういえば、カトリーヌさんはフランスに嫁入りした際に旦那の愛人と争っていたんだっけ・・・

心配するよね~自分が経験していることだし。

俺と莉里は奥さんたちの仲も良い事を伝えて、カトリーヌさんを安心させた。

他の奥さんととも会わせることを約束し、またそのお茶会では。


「ああ!リリも美しいが、まさに女神たちの共演だ!!」


うん、万年発情ど腐れ好色ナンパ男(フランス王です)が今日も調子の良い事を言っている。

里子にまで手の甲にキスをして、「お嫁に来ないか」と囁いたのでマジで斬ってやろうかとおもっぞ。

何かを察した奥さんたちに止められ、カトリーヌさんがドラ息子を注意してくれたので何とか思いとどまったけど・・・


★~~~~~~★


「ああ!リリも美しいが、まさに女神たちの共演だ!!」


クランドの奥方たちは実に美しい。

つい口説いてしまうが、その度に殺気を迸らせる情熱的なクランドも見ていて楽しい。

国内も国外もカトリックとプロテスタントとの激しい対立構図で相争い、平和的解決を願う私としては悩ましい日々が続いている。

母上と共にこの難局にある国政を指導しているが、複雑な権力関係が新たな火種を生む為、心休まる時等は極僅かだ。

私は多くの愛人を抱えているがその美しき女性たちとの逢瀬が唯一と言っていい安らぎの時であろう。

しかし、最近はクランドたちと関わる時も安らぐ時となっている。

殆どは母と彼らの茶会の時を狙い私が政務の休憩がてらにその場に乱入しているのであるが・・・

クランドの奥方たちは実に美しい。

根っからの女好きの私も納得の美しさで、彼女たちを愛でるだけでも楽しいのであるが、彼女たちに愛を語るとクランドが嫉妬の火を燃やし、私を射殺すかのように睨んで来るのも最近は楽しみの一つだ。

何だかゾクゾクして新しき門を開きそうである。

しかし、彼の娘に囁くことは控える必要がありそうだ。

愛を囁いた瞬間、背中に嫌な冷たい汗が流れた。

根源から来るような恐怖を一瞬感じた。

これ以上揶揄えば命の危険が本当にあるのかもしれない。

暗殺未遂を何度も経験した私でもここまで危険を感じたことは・・・

今日も母とクランドたちのお茶会へと乱入し、一時の安らぎを得る。


〇~~~~~~〇


イタリア男は情熱的と言われますが、フランス人男性も負けていません。

文化的な物なのでしょうが、感情表現が豊かで、喜怒哀楽をはっきりと表現するタイプが多く、女性をお姫様と思う様なプリンセス思考を持っていて、気が合えば初めてのデートでキスやベットインもOKで、むしろ、初めてのデートでキスされないとかだと、自分には魅力が無いんじゃないのかとフランス女性はショックを受ける程だと言います。

勿論、人によりますけどね。

しかし、そういう文化であるようです。

アンリ3世はフランス人とイタリア人の間に出来た脳内恋愛体質の男です。(知らんけど。)

実際のアンリ3世がどのような性格の人物かは私は知りません。

同性愛者と言われたこともあると前話うんちくで語りましたが、基本は多くの愛人を抱えた程のハーレム体質の男性だったようです。

そんな彼は王族であり為政者となった人物なので甘くはないでしょうが、宗教内戦の平和的解決を願う国王であったと知られています。

しかし、その反面、王に就く以前にアンジュー公(領主)となった当時の彼は宗教戦争が勃発すると国王軍の司令官としてジャルナックの戦い、モンコントゥールの戦い等に参加し勝利を収めています。

サン・バルテルミの虐殺と言うフランス国内で起こったカトリック教徒がプロテスタント教徒を大量虐殺した事件にも直接ではないにしろ関与ししたと云われます。

宗教内戦の平和的解決を願う国王とは思えない前歴ですが、小さい時は更に過激だったようです。

自分の事を「un petit Huguenot《小さなユグノー》」と呼び、カトリックのミサに出る事を拒み、妹にカトリックからプロテスタントになる様にと宗旨替えを説き、聖パウロの聖像に対して悪戯をしたと云われます。

とんだ宗教(プロテスタント)かぶれの悪ガキだったようですね。

成長するに従ってそういう行動は無くなったようですが、名ばかりのカトリック教徒となったようです。

ある意味では彼の価値観として無宗教だったのかも?とも思います。

幼少時はプロテスタント信者の様な行動しているけど、一時的にど嵌りしたから何となく?て感じの幼少期特有の行動で本人にとってはあまり意味が無かったのかも?とも思います。

そんな彼が宗教戦争に嬉々として参戦するとは思えませんが、為政者としては普通に内乱等あれば鎮圧に参加しますから普通の事なのでしょうけど、サン・バルテルミの虐殺とかに関与したというのは少し疑問でもあります。

まぁ色々あったのでしょう。

しかし、その後に宗教内戦の平和的解決を願う国王となったのは何故か?

あくまでも私の考察です。

実はアンリ3世はフランス国王になる前にポーランド国王となりました。

彼はカトリック勢力の支持を得てポーランド王となった様で、当時のポーランドも宗教対立で揺れていたのですが、国の方針としては宗旨を問わないこととしてアンリ3世の王になる条件の一つに宗教寛容体制を認める統治契約が有ったと云われます。しかし、それを無視してポーランドの国内貴族から反感を買ったようです。

まぁ支持母体がカトリックですし・・・

また、アンリ3世は当時のヨーロッパで国際語として使われたいたラテン語をほとんど話せない人物だったようで、ポーランド人貴族には殆ど近づかず、フランスより連れて来た側近ばかりと付き合うことも問題視されるようになり、徐々に反感は大きくなったようです。

ポーランド貴族とあまり話せない上にポーランドのお国事情をよく知らない彼はポーランド貴族内の複雑な派閥関係を理解していなかったようで、任官人事も派閥間の勢力バランスを欠いたものだったようで、それも反感を買った要因です。

要はやることなすこと上手く出来ず、最終的にポーランドから逃亡して擦った揉んだありポーランド王を降ろされます。

しかし、アンリ3世は死ぬまでポーランド王を名乗ったそうです・・・

まぁこの経験が活きたのか、フランス王を継いでからは意外と頑張ったようですが・・・

フランス国内には母であるカトリーヌ・ド・メディシスと言うリアルチートが居たのも大きかったとは思いますが、ポーランド時代の偏ったことはしなかったようですが、それでもフランス統治は四苦八苦したようです。

ある意味、彼が色々と苦い経験等を積み宗教に偏りの無い考え方を持つようになったからこそ調停役になって宗教内戦の平和的解決を願う国王となったのではと考察しております。

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