第261話

時は屋敷を貰う前に遡る。

俺たちの常宿は俺が連れて来た人員だけの貸しきりとなっていた。

今後の事を考えてと言う事で王様(フェリペ2世)は俺に屋敷を与えると言い本当に大邸宅をくれた。

大邸宅だったので連れてきた人員だけでは管理する者が足りず、今まで管理していた者たちもそのまま管理を続ける形で話は落ち着きそこに住み始めた。

あ~多分、この管理する者の中には王様が間者の様な者を潜ませているだろうことは織り込み済み。

だってさ~俺たちは未知の他国の者だよ、監視くらい着けたいよね~

街に繰り出した際も見えない位置で護衛とも監視ともつかない様な気配は感じていたしね~

そんなこんなで、名目上、大邸宅を俺に渡す形で間者を忍ばせて来たと言う訳だ。

だからこそ、間違いなく王様(フェリペ2世)の諜報員の一部がここに紛れているだろうね~とは想像していたよ。

現に「プリンアラモードを食べたい」という何処から情報を得たか疑わしいご所望が届き、俺が宮廷の厨房でそれを作る事となった。

隠す気あるの?

まぁそれは置いておこう。

更に問題と思うのが、他国の者を厨房に入れて、尚且つ、デザート作らせるとか如何なの?と思わないではないが、俺が暗殺とか・・・あ~何か毒味とか要るし、俺が王様暗殺はメリットが無いだろうからという説明が・・・現在の世界のトップの王様が出す要望は何とか叶えられた。

勿論、厨房に行ったけど、作り方をレクチャーして料理長?が俺の指示で作り上げた物を王様たちにお出しする形だから食材には一切手に触れてないのは言うまでも無い事だろうけどな。

そして、口伝の様に伝えたプリンアラモードの出来は中々のもので、味見したけど美味かったよ。


「クランドよ」

「何ですか?」

「お主は中々の美食家の様じゃな」

「まぁ食にはある程度拘りありますな」


昭和・平成を生き抜いた日本人を舐めるなよ!!

あの時代の美食と言えば日本人だよね~気軽に食べられる牛丼チェーン店ですら海外の旅行者たちを魅了した食の国である。

確かに、宮廷晩餐会とかで出される料理も美味いよ。

でもね、歴史の重みが違うんだよね~

恐らくは日本に限らず世界中の料理が今の時代よりも何歩も先に居る状態だろうね。

王様たちは「美味い美味い」言いながら、この小規模な茶会の席に呼ばれた者たちとプリンを頬張っている。

おじさんたちがプリンアラモードにむしゃぶりついているという誰得映像が目の前に広がっております。

うん、そんな俺的にはどうでもいい光景を見飽きての何となくの興味本位だった。

人間って手に入れた玩具(道具)は使ってみたくなるだろ?そんな軽い気持ちで使ってみると・・・

日本からやって来た俺が呪詛を飛ばされるような国だから、ずっとこの国に居る者たちはどれ程のものなの?って気になるよね?

早速とばかりに気を練り目に集中させる。


「ブッー!!」

「クランドよ汚いぞ!!お主の吹いた紅茶が我がプリンを凌辱したらなんとする!!」

「し、失礼した・・・」


プリンを大事にし過ぎじゃね?・・・まぁいいそれは取り合えず棚上げしておこう。

うわっは~少なくとも周りのおっさん連中を見渡せば1人1体はあの黒い何かを付けている。

王様は・・・七体・・・

普通は三体位付けていると体に不調が出て来るらしい。

五体超えると寝込む程度には調子を崩す・・・

一番多くの黒い何かを付けている王様は健康でいられるのが不思議だが、そう言えば色々と教えてくれた千代が言っていたことを思い出す。

敬虔に神を信じたり、それなりのその国に居る中枢の存在達は呪詛に対してある程度の抵抗が出来るという。

神を敬えば御利益的に、中枢の者たちは代々に渡り呪詛されるのはデフォなので免疫の様なものが出来上がり、ある一定守られ健康な内はそれにあらがえるらしい。

あくまでも個人差があるのでその人次第だが、明確な、今、目にしている様な呪詛ものは少なくとも十体を越えれば死の危険がある程と教えられたのだが・・・七体・・・

勿論、放っておけば一体でも危険。

病気などをして身体的な免疫力などが落ちると、それに伴い体内を巡る気も落ちる。

そうすると、この魔とも呼べる存在に付け入る隙を与え、体内に呪詛が侵入して来るらしい。

そうなると・・・言うまでも無いだろう。

さて、世話になっているし、一応言ってみるか?


「あの~陛下・・・」

「何じゃ?プリンは儂の物じゃ」

「いえ、その手元のプリンは陛下の物ですから取りませんよ・・・そうではなく、信じて頂けるか解りませんが・・・」

「ん?如何した?何を信じるのじゃ?」

「え~と・・・」

「はっきり申せ!!」

「あ~はい、陛下呪われてますよ」


場の空気が一瞬にして凍った。

瞬間冷凍ってこんな感じなのかもね。

さっきまで皆が皆和気藹々と仲良くプリンを頬張り明るい雰囲気だったのが嘘の様に雰囲気が一変した。

皆固まり事の成り行きを見守っているように此方を凝視している。

王様もさっきまでの弛緩した様な安穏とした雰囲気ではない、鋭い目付きでじっと此方を見ながら先を言えという様に顎をしゃくる。


「実は先日面白き技を身に着けまして・・・」

「ほう、どの様なものじゃ?」

「はい、気を操り目の能力を高めます」

「目とな?それで何が見え、何が解る?」

「はい、呪いなどの悪しきモノを見ることが出来ます」

「成程・・・今それを使ってみたと?」

「はい」


王様に七体の呪詛の悪しきモノが着いていることを説明すると、顎を撫で思案しだした。

異様な緊張感が辺りを包み皆が黙り王様の一挙手一投足を逃すまいと皆が王様を凝視して言葉を待つ。

勿論の事、俺も王様の発言を待った。

考えが纏まったのか王様は俺に聞いて来る。


「クランドよ」

「何でしょう?」

「そのような大それたことを口にしたと言う事は、何か対処法などあるのであろう?まさか無いとか言うまいな?」


流石と言うべきか、天下人や目の前の王様などの大人物と呼べる人物たちは頭の回転も速く、此方が言う前に察するようだ。

でも、俺が呪っている訳ではないのだし、俺にドス効かせて凄むのは止めろよな。


「勿論」


俺は早速とばかりに色々と説明し、俺の愛刀で斬り祓えることを言うと、早速、祓う様にと依頼された。

その話を聞いていたその場の者たちは皆驚いているが、1人が青い顔をしているのだが・・・

俺がマジマジとそれを見ていると、その目線に王様も気が付き、その者を見詰める。

その者は俺と王様の目線に気が付き益々顔を青ざめさせる。

そして、周りの者たちもその様子からその者の顔色の悪さを悟り、その者から皆距離を取る。


「そう言えば・・・そなたを先月会議の場で叱責したな・・・」

「はい・・・しかし・・・いえ・・・わた、私は陛下に、の、呪いなど・・・」


震え声でぼそぼそと言うから最初の「はい」以外何言っているかよく解らん。

王様とその者の会話は続かなかった。

王様は会話する気が失せたという様に俺に早く行う様にと指示を出す。

王様は脇差の神刀での処置を頼まれた。

預けていた刀を取って来て、断りを言い神刀を抜く。

その輝きに一同が凝視し固唾を飲み事の成り行きを見守る。

早速一体を斬り捨てるとその場では何も起こらなかった。

王様たちは視えないから俺が刀を頭上で一閃しただけにしか見えないかもね。

様子を見ていた皆が忘れていた様に止めていた息を吐く。

そんな感じで皆が安堵の表情を見せたのが雰囲気から察せられる。

二体目、三体目と斬り祓って行き、四体目を斬った時、異変が起こった。


「う・・・くそ・・・」 バタリ


先程、猜疑の目で見られていた者ではなく別の者が胸を抑え苦しみだしたかと思うと、倒れてしまい、王様のお付きの兵士が確認すると、息を引き取ったようだと伝える。


「あ~こ奴は去年であったか?多くの者の面前で叱責したことを覚えておる・・・理由は忘れたが間違いない。おい、こ奴の屋敷を調べろ」


お付きの兵士に指示を出した。

うん、恐らくは呪詛ってたのね・・・まぁ何かしら出て来るかも?

その様子を見ていた先程の者は、嫌々してその場に泣き崩れ「陛下、お許しください」と叫ぶ。

うん、こっちも呪詛ってたようだね。

王様に目を向けると、手で制して来て「少し待て」と祓うのを待てと言って来たので一旦そこで止め、様子を窺う。

一応にとばかりに王様は聞いて来た。


「魔を祓わなくても儂は大丈夫なのか?」

「今は大丈夫ですね。ただし、病気したりして体が弱ると付け入る隙が出来ますので、後日にでもご依頼あれば祓えますよ。早めに行うことをお薦めしますけどね」

「相分かった」


その後、その崩れ落ちた者は御付きの騎士さんたちに連行されて行ったよ。

後日、王様の許を訪ねると、呪詛の影は全て消えていた。

呪っていた者は慌てて呪いを解いたのか、はたまた・・・

確認した結果を王様に伝えると、ホッと溜息を吐いた後ニヤリと俺に笑みを向け、「大儀であった」と言いながら、一旦、居住まいを正し言う。


「クランドよ、褒美として爵位を与えよう」

「有難き幸せ?」


貰える物が貰っておく?貰って良いかは知らないけど、断れる雰囲気ではないのは確かだしね。

俺はスペインの伯爵位を手にし、「マルメ伯爵」となる。

皆、「マルメ」って発音し辛いのか「マルーメ」と呼ぶのだが・・・前世で読んだ読み物の中に登場した中佐を何故だか思い出したよ。

太陽系艦隊とか率いて無いからな!!


〇~~~~~~〇


主人公が退魔師に!!

なってませんからね!!

さて、日本でも呪詛というものはあったようですが、日本の場合は呪術師のカウンターパートとして陰陽師と言う存在がありました。

同じく世界でも呪術で呪うというのはあるあるだったようで、黒魔術と呼ばれた存在だったようです。

さて、黒魔術ですが、呪術で悪霊・悪魔を使役して相手を呪う手法がポピュラーだったようです。

西洋においての黒魔術とは自分に不都合な魔術は殆どが黒魔術とする分類だったようで、厳密な区分けは無かったようですが、黒に対して白と言う魔術をカウンターパートとして区分けしていたようです。

こういったことも含めて、白魔術と黒魔術は表裏一体なのですが、使う用途で区分けされたようです。

白が善で黒が悪と言う概念は黒人差別と同じ思想で差別を助長するという指摘もあり、現代では黒魔術・白魔術という言葉はあまり使われなくなってきているようです。

キリスト教ではこの呪詛的なものを悪魔とし、悪魔祓いが行われたようです。

カトリック教会の悪魔祓いと言えば「エクソシスト」でしょう。

映画などの影響でしょうけど、「エクソシスト」と言うのは悪魔祓いのスペシャリストみたいなイメージを皆様はお持ちではないでしょうか?

実際の「エクソシスト」は洗礼時に行われる悪霊の追放の儀式を執り行うことや、改宗の補助が主な職務だったようです。

現在は教会制度の見直しにあたって廃止された存在ですが、昔は多くの「エクソシスト」が存在しました。

その中には映画等で描かれているような「退魔師」「祓魔師ふつまし」の様な存在がいたかもしれませんが、映画等の様な事を行ったかは定かではありません。

しかし、1973年に映画「エクソシスト」が公開されると、「悪魔憑き」や「悪魔祓い」に対する世間的な再認識がなされ、世界各地で悪魔祓いを求める声が上がったというから中々興味深い事ですが、映画等で描かれている様な職業では無いのは確かです。

現在のカトリック教会では、洗礼式の時に悪霊を拒否する誓約があるそうで、洗礼を受けると悪魔を遠ざける的な価値観であるようです。

元々「エクソシスト」自体は宗旨替えした際の信者のカウンセラー的要因が大きかった様なのに映画の影響で「悪魔祓い」の専門家みたいなイメージを持つ方が多くなりました。

また、今は存在しない職種でもあります。

「私はエクソシストやってます」とか言う怪しい人がもしも現れたら、上記を踏まえよく考えて・・・いえ、考えるまでも無くそれは危険人物なので近づかないよう気を付けましょう!!

序に序に、話はガラッと変わり、プリンアラモードの「アラモード」は「最新の流行の」を意味するフランス語で、「最新の流行のプリン」と言う事となります。

何と神奈川県横浜市にあるホテルニューグランドさんのカフェが元祖で、太平洋戦争終結後にGHQ接収後のこのホテルにて米軍高級将校の奥様・娘様方に提供することを念頭にして考案されたスィーツらしいです。

日本発祥のスィーツだというのも驚きですが、意外な物が日本発祥のものあるので、その一つとしてこのプリンアラモードは現在では多くのレストランやカフェ等で広まりました。

しかし、一応、名前は違ったようですが原型のプリンはフランスらしいです。

それで日本ではフランス語の「アラモード」を付けた様ですけどね~

そして、「アラモード」と言うのは日本ではプリンのイメージですがフランスでは幾つも「アラモード」と付く料理・スィーツがあるようです。

「最新の流行の」と言う意味なので「さもありなん」ですね。

プリンアラモードだけに両方うんちく乗っけちゃいました!!

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