第258話
俺が暗殺にも動じないというのが解ると、手を変えて品を変えって感じで俺に迫って来るって本当に阿保ちゃうか?
「クランド公、そなたの奥方たちや娘御には魔女の嫌疑が掛けられておる」
「あ~そうなの?」
「「あ~そうなの?」では無いわ!!助けて欲し」
俺は此奴に助けて貰おうなぞとは思わないし、最後まで言わせるつもりもない。
何時もの様に嫁か里子寄越せとか何か便宜図れとか言って来るのであろう。
「一応言っておくけど、ローマ法王より福者として列せられているよ?キリスト教徒でも無いのにだよ?この意味解る?」
批判して来た貴族が少し後ずさるみたいな感じになった。
「それは・・・」とか言っているけど、知らなかった?まぁどうでもいいけど。
さて、追い打ち。
「更に言っとくけど、我妻たちは神の末裔だったり、天狗ガブリエルと同じ天狗の末裔だったり、仙人の末裔たちだよ?」
「神?天狗?仙人?・・・」
まぁ神は解るだろうけど、天狗と仙人関しては理解すら及ばないかもしれないけど、こういう事は勢いで言っておくもの!!
神と同列視した感じかなんか知らんけど驚愕しているのでそのまま話して追い込む。
「我妻の一人が母国で暗殺者に殺されたのだがな。その暗殺者と首謀者の末路を聞きたい?聞きたいだろ?」
「ひっ」
逃げる様に去って行ったぞ。
いや、逃げたが正しいな。
しかし、阿保は諦めが悪いというのは相場なの?
そう言えば、魔女狩りの最盛期は15世紀から18世紀と中々に長い。
ヨーロッパ全土で推定4万人~6万人が処刑されたと確か前世の何かの書物?雑誌?ネット?・・・何かで読んだな。
魔女狩りの根は深く、俺の居た日本では恐らくは無かったけど、インドとかアフリカ、アジア一部地域等では21世紀に入っても魔女裁判に掛けられた事で、殺害・暴行・迫害を受けた女性も多かったと聞く。
魔女裁判と言っても本当に公的な物ではなく私的な物で、私刑で行うとか普通の事の様に行ったというから恐ろしい。
まぁ今の時代だと、公的に魔女裁判を行うんだけど、「魔女っぽい」とか「怪しい」で裁判に掛けられる。
裁判に掛けられると十中八九どころか、殆ど全てが魔女認定されるという恐ろしい裁判だ。
勿論、権力者等の一部の者たちは権力で握り潰したりするし、まともに取り調べする検察官もいるから無罪となる者も一定数は要る。
問題は、拷問で自白させようとするような輩もいて、耐え兼ねて認めれば火あぶりとかなんだぜ。
そりゃ~死人の山築くはずさ。
しかし、今回の阿保もカトリックの教会に訴え出た。
そして、福者として認定された者を貶める行為と言うのは天に唾吐く行為に等しい。
1回目は教会の者とグルであったけど、伝手を頼り難を逃れた。
その教会の者も何時の間にかいなくなってたし、訴え出た阿呆は今はお墓の中だ。
阿呆なのか狡猾なのか、一部民衆を煽り扇動したから罰が重くなったのだろう。
ここ最近は当主・嫡男等のそれなりの立場の者が行っうではなく、次男三男と言った者たちの蛮行?裏に誰か居そうではあるがそんなのは知らん。
そう言う者たちはいつの間にか消える。
お家御取り潰しまでは至らなかったが、訴え出た阿呆は逆に破門され、その家からも追い出された。
追い出しただけでは事が治まらないのがこの世界。
キッチリと賠償が行われ、何もしていないのに俺の手元にはお金が入って来たよ。
何か知らんけど、敵対した者たちを相手するだけで最近はお金が入って来るんだよね・・・何これ?こわっ!でも、もらえる物は貰っておくよ。
「あははははは~お主も災難よの」
「いや、災難と言うか、この国含めキリスト教圏の国々は魔女狩りとか阿保ですか?」
「ほう・・・」
キリスト教批判と取られ兼ねない言葉に目を細める話し手さん。
敬虔と言う名の宗教狂いは多いので、仕方ないね~
「それは教義の批判か?」
「さぁどう取られても知りませぬな~しかし、罪無き者を殺すことは教義に反しないのですか?」
「・・・」
「然も、我妻は異国と言えど神の末裔もおりますよ?」
「ほう、異教徒の神か・・・」
「その者を不当に貶め、殺して神罰が下らないとでもお思いですか?浅はか過ぎてお笑い草ですな。母国で妻の一人が暗殺者の凶弾に倒れた際、妻のご先祖に当たる神はお怒りになり、天より神罰の刃を落とされましたよ。その者はある宗派を代表する者でしたがね。同じ轍を踏む阿呆は居ないと信じたいのですが、何分にも母国ではないので、知らない者も多いようですしね」
「偶然ではないのか?」
「いえ、直接神に聞きましたから間違いないですな」
「それは誠なのか?」
「信じる信じないはお任せしますけど、その時になって助けてと言われても神仏の為さることですからね・・・」
助けることは難しいだろうと匂わせると絶句しているね。
俺が異教徒なのにも関わらず「聖人」認定されるに至った1つがこの神との対話らしい。
まぁ神と話せる者を畏怖しての事でもあるだろうけど、天狗ガブリエルとか、故郷に神社建てる序に教会設立にも少し協力したのとか、諸々もあるからね~
「・・・左様か・・・噂として広めておこう」
「よしなに。まぁ怖い物見たさで襲って来ても神の手を煩わせる気は無いですな~己が手で返り討ちにしますよ。二度と我が妻や娘を害することはさせませぬ」
ある種の誓いだ。
真里の犠牲はそれ程に大きかった。
一年間の猶予を貰ったことを
彼に睨みを効かせても意味は無いが、あの時の事を考えると自然と殺気が漏れ出す。
おっと、話しているのは同世代位?のラヌッチョ1世・ファルネーゼと言う人。
それなりに仲良くなった爺様、パルマ公アレッサンドロ・ファルネーゼの息子さん。
意外と親子揃って気が合うので偶にこうして話しながら茶をしばいたり、酒を飲みかわすこと、屡々だ。
まぁ降りかかった火の粉なので気になるだろうと、彼らはこうして色々教えてくれたよ。
魔女狩りの大元は旧約聖書に「女呪術師を生かしておいてはならない」と言う一文があるんだって。
キリスト教の権威者たちは非キリスト教的な思想を嫌った。
これについては仏教でもある。
我が国日本でもどこぞの宗教が他宗派を批判したりなぞあるあるなので何処も変わらない。
しかし、この魔女狩りの恐ろしいのは根拠が「怪しい」とかでも裁かれる。
俺含め奥さんたち娘の里子は仙術使うし、周りから言えば「超人」だろうし、怪しく見えるかも?「魔女」と言われても不思議では無いのだろうな。
しかし、常識ある者は俺たちを訴える事など先ず無い。
訴えれば身を亡ぼすのは訴えた者だというのが実例で既に数名出たのだからな。
先般俺に妻たちの事を「魔女では無いのか?」と言って来た阿呆はまだ可愛い者だ。
実際に教会に訴え出た者は数名居て、宗教狂いの王様(フェリペ2世)の手によって処断されたと聞く。
腰の重い王様が速やかに動いたのには訳がある。
何故かと言うのはその内語る事に成るかもね。
奴隷制度と並び、この魔女狩りと言う物は中々に根が深く、今の時代は常識として成り立っているのであるが、外から来た俺からすれば馬鹿なことだと思うし、前世で先の未来を知る者として見てもナンセンスの塊だ。
社会制度を批判しても仕方ないので、火の粉が飛んでこなければ蓋をしておこう。
「そう言えば、面白い物を考案したと聞いたぞ」
ラヌッチョが話題を変えて俺に言って来る。
そう、俺はヨーロッパに来て思い出した。
ヨーロッパと言えばプリンだ!!
発祥は・・・イギリス?
イギリス発祥の伝統料理「プディング」の一種?亜種?
前世の記憶ではあるが5月25日がプリンの日だったはずだ!!
前世の俺もこよなく愛したスィーツだ。
来る途中に思い出して欧州来たらこの時代の本場で食えるとか秘かに期待していたんだけど・・・出て来ない!!
宮廷晩餐会とかでデザートとして出されるイメージを勝手に持っていた俺は血眼で探したぞ。
無かった時の落胆した気持ち・・・解るだろ?
しかし、無いなら作れと俺の魂が叫んだ。
プリンは意外と簡単!!
と言うより、日本で茶碗蒸しを既に作っているし余裕です。
牛乳・卵・砂糖で出来る素晴らしい食の革命!!
カラメルソースも勿論の如く上手に出来、富士山の如き山が皿の上にそそり立った。
うん、凄く絶賛されました。
今やスペインの社交界ではプリンが一世を風靡している。
俺も大好き、家族も大好き、貴族も大好き、と皆大好きである。
完成形のプリンを知る俺が作ったので既に洗練されたプリンが出来上がり、我が愛しの愛娘・里子も大絶賛してくれたよ。
日本に戻ったら日本に残った愛娘・麗華たちにも食べさせてあげたいものだ。
「時に、クランドよ」
「なに?ラヌッチョ」
「他に美味な物を知っておるか?」
「まぁそれなりには?」
うん、生姜焼きとかも教えて食わせたんだけど・・・宮廷晩餐会でメインディッシュ的に肉料理でなんちゃって生姜焼き出てきた時にはご飯が恋しくなったよ。
〇~~~~~~〇
プリンの日、5月25日は日本記念日協会と言う謎の秘密結社に認定されております。
(※日本記念日協会はちゃんとした団体です。知らんけど。)
制定されたのは意外と近年、2010年に制定されました。
オハヨー乳業さんのプリンを食べれば「にこっ」と笑顔が広がる素敵な日として毎月25日がプリンデー的な感じで広められたので、25日とし、5月は
プリンが日本にやって来たのは明治時代と言われます。
実は丁度、主人公の活躍した戦国時代頃に世界は大航海時代で、船乗りが余った食材(卵など)の処分に困り有効活用する為に考案したと言われています。
もともとは「プディング」が起源で、主成分は動物の腸詰めの肉料理だったというから驚きですね~
茶碗蒸しみたいな感じですかね?
さて、魔女狩りに魔女裁判は本当に根の深い問題で、奴隷制度と並び黒歴史として語られますが、現在も世界の何処かでは魔女狩りが未だに行われているそうです。
12世紀以降キリスト教会の主導で行われた魔女狩りですが、不倫などをした女性は魔女として裁かれた様で、それ以外のも些細なことで訴えられ、数百万人が犠牲になったと云われています。
近世の魔女狩りは教会や世俗権力ではなく民衆の側の圧力にあり、15世紀~18世紀にはヨーロッパ全土で推定ですが4万人~6万人が処刑されたとされています。
先に述べましたが、現代でもまだ魔女狩りは残っており、インドでは21世紀に入ってからも約三千人程の人が殺害されているそうです。
勿論、公的な物ではなく、私刑での殺害ですが・・・
中世の話ですが12世紀のカタリ派の弾圧・テンプル騎士団への迫害以降にローマ教皇庁の主導によって異端審問が活発化したと云われています。
教会主導の魔女狩りの全盛期となります。
作中に今回登場させた、ラヌッチョ1世・ファルネーゼも魔女狩りに関わる人物です。
彼にはマルゲリータ・アルドブランディーニと言う正妻の奥さんが居ました。
結婚は12歳で行った関係上だと思いますが、結婚後10年間、子供が生まれなかったそうです。
敬虔なクリスチャンで迷信深いラヌッチョは、この公爵夫人が妊娠できないのは呪詛や魔術のせいだという噂を信じ込み、元愛人の1人クラウディア・コッラとその母のエレーナ・コッラを告発し魔女裁判にかけて火刑に処したそうです。
かなり酷い話ですが、この時代の常識だったのですから恐ろしいですね。
1581年には水審と拷問が復活と、丁度、現在、主人公が居るヨーロッパは魔女狩り全盛期です。
流石に言いがかりとかの冤罪も多々あり、無実の罪で裁かれることが横行した為、17世紀末になって急速に衰退したと云われます。
この急速な衰退は色々な説があるのですが、私の仮説としては行き過ぎたことに対しての揺り戻し的な物ではないかと思っています。
まぁ未だに一部残っているので、何だかな~とは思いますが。
この件も1回のうんちくで語れるようなものではない位中々の闇ですが、お知りになりたい方は是非自分でお調べください!!
中々に闇も深いですが、歴史的にも興味がそそられるお題ですよ。
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