第256話

スペイン滞在中は王様のフェリペ2世と何度かお会いして、話す機会があった。

何だか気に入られた様で、色々と聞かれる。

(※スペイン語の会話です)


「ほう!クランドは戦いが苦手か?」

「はい・・・一度の戦で軍人としては落第との烙印を押されました」

「わははははは~軍略は苦手か?」

「そうですね・・・代りに優秀な配下を得ておりますし、今ならば軍略もその者に任せて大戦功をあげられるやもしれませぬが・・・」


うん、今は軍師美羽に天才莉里もいるし、何より豊さん(式田豊長:元・武田信豊)が居る。

武田の副将を務めた程の人が味方だしね、早々負ける気がしないよ。


「ほう!クランドの家来には優秀な者が居る様じゃな」

「はい」


そう言って俺の後ろに控えている豊さんを見やる。

ニヤリと笑ってからぺこりと頭を下げてそのまま後に控えている豊さん。

うん、何かカッコいいぞ。


「陛下」

「何じゃ?」


王様の後に控える者の一人が発言を求める様に言葉を掛ける。


「クランド公が優秀な配下が居ることは解りました。しかし、我が軍も負けては御座いませぬ」


うん、対抗心?いや、先日の宮廷伯さんの様に俺たちを歓迎しない者なのだろう。

挑発的な敵意に満ちた目で此方を見詰めて来る。

恐らくは軍人さんかな?

引き締まった体で、帯剣をしているし、何より胸に勲章がいっぱい。

軍部のお偉いさんなのかもしれないね。


「彼らの実力を観たいと申すか?」

「出来ますれば」


そして、俺の方を見詰めて来る王様・・・

OKOK、ご要望承りましたよ。

(※ここだけ日本語です)


「豊さん、模擬戦で軍略の実力観たいって言っているけど出来る?」

「さて、少し軍の様子を観ねば私が扱えるかどうか・・・」

「まぁそれ位は大丈夫じゃない?」


俺は率いる軍の実力を確かめた上で戦うのなら戦えそうと豊さんが言って居る事を伝える。

(※スペイン語に戻ります)


「嘗めたことを!!いいだろう、一個連隊をお主たちに率いて貰おうか!!」


え~~この軍人のお偉いさんは自分から喧嘩吹っ掛けて来たような物言いしたのに、こっちが応じると嘗めてるとお怒りモードで言い放って来やがったよ。

まぁ俺たちに直ぐに従うはずも無いから相当嘗められてるのは間違いない。


「クランド公、我がスペイン帝国の兵の強さを御見せ致そう!!」


いや、いや、俺たちに貸し出す一個連隊(三千人程)も同じスペインの兵士だからね!!

それに、うん、出来ると言ったのは俺が言ったんじゃなくて、豊さんが言ったんだけどね・・・


「はい、是非とも見せて頂きます」


取り合えずニッコリ笑顔でそう返したけど、お気に召さなかったようだ。

更にお怒り?になったよ。

結果、豊さんの軍略で圧勝したよ。

いや~まさか啄木鳥戦法を生で見れると思わなかったね~

敵軍を挟み撃ちにして一網打尽にした豊さんスゲエ!!

その後、豊さんは「ジェネラル・ロク」と呼ばれるようになった。

豊さんが率いる兵士たちと2カ月程一緒に生活したんだけど、豊さんは最初に「六郎次郎」と名乗ったんだけど、此方の人間が名を覚えられないので略して「ロク《六》」と呼ばせた。

言葉も何かどんどん上達して俺の通訳要らない程に意思疎通も出来る様になった。

1ヶ月ちょっと過ぎ始めた頃から兵士たちが豊さんを敬い始めたから、やはり軍を率いるのにはカリスマって重要だと思ったよ。

さて、負けたお偉いさんと言えば。


「軍略では負けたが、兵士の勇猛さでは負けぬ!!」


と申しております。

いや、いや、軍略見たいって言ったよね?今度は勇猛さかよ・・・

喧嘩売って来た軍のお偉いさんがそんな事を叫んだので、その勇猛さ見せてせて頂こうと、今度は俺が立合いを所望した。

一瞬驚かれたが、ニヤリと笑われ「お怪我されても知りませんよ」等と気持ちにも無いセリフを吐き、俺と腕に覚えのある兵との戦いが始まる。

俺は普通に何時ものなりで鎧なぞ着込まないで木刀片手に兵士と睨み合う。

兵士は完全武装で木剣に鎧を着込み、盾まで装備の重武装。

兵士たちも俺の事を嘗めている雰囲気が伝わって来るが、豊さんの下に付いた兵士たちはそうではない。

実際同じ様な事をした。

豊さん曰く最初に格の違いを見せる事で兵は従うようになるとのことだ。

だからさ~初日に模擬戦してボコボコにして上下を教え込んだ。

一人目が意気揚々と俺の前に現れた。


「始め!!」


合図が掛かり1人目との試合が始まる。


「よう、ペテン師、そんな薄着で大丈夫か?」

「気にするな」


うん、何か凄~く嘗められてるな~俺・・・

まぁあのお偉いさんが何か言い含めているのだろうね~

早速とばかりにゲームで言うシールドバッシュみたいな形で盾を前面に押し出し突っ込んで来た。

うん、この戦法は既に経験済み。

俺たちが一時借り受けた兵士との模擬戦で結構これをする奴多かった。

軽装だからぶちかましは有効だろうと踏んでなんだろうね~

俺はと言うと前進しながら斜め横に避け、盾を持つ手に一撃。

盾を取り溢して慌てている所に一撃を入れて意識を刈り取った。

フルプレート来てるので発勁の要領で木刀に勁を流し込み、首の後ろに打撃を与えると、あら不思議、一瞬で白目向いて倒れちゃいます!!

あ~死なない、死なない。

脳震盪起こす感じかな?死なないように発勁時に調整してるよ。

ハイ次ハイ次と言う感じに30人ばかり倒すと相手方の顔色がどんどん悪くなる。


「1人づつだと面倒ですな」

「え?」

「そうですね~どうせなら千人対私一人でどうでしょう?」

「な、な、な、舐めるな!!後悔しても知らぬぞ!!」


お偉いさんは青い顔していたけど、その言葉を聞いて一瞬で赤い顔になり、その申し出を受けてくれたよ。

いや~一騎当千とか聞くけど、試してみたかったんだよね~

うん、いい鍛錬になった。

その内機会があれば万夫不当できるか試してみるか?

早速とばかりに模擬戦闘は始まるのだが、俺が木々の間を駆け回り、徐々に兵士を削って行く。

流石に仙術で色々出来る様になったと言えど、漫画やアニメ・ゲームじゃないんだからビーム打ったり光の玉でドカンとか出来ないからね!!

そこは地道に敵を倒して行くしかないよ。

半数以上倒した時点で止めが入って殲滅は出来なかったよ。

う~ん、残念。


「お前は・・・いえ、貴方様は何者ですか?」


お偉いさんの軍人さんに聞かれたけど、「剣豪です」と答えておいたよ。


★~~~~~~★


我が国の軍部の高官の者がクランドに噛みついた。

面白そうなので話に乗ることとした。

クランドは家来のシキタという者が軍才があると言った。

己にはそれが無いからそれを補う為に雇ったか?

まぁ良い。

軍の指揮を臣に委ねるのも上の者の在り様じゃしな。

儂も軍の指揮なぞは将軍たちに任せておる。


「クランド公、我がスペイン帝国の兵の強さを御見せ致そう!!」

「はい、是非とも見せて頂きます」


如何なるか見物じゃ。

クランドたちは2カ月ほど率いる予定の兵たちと寝食を共にしているという。

頃合いかと思い打診すると、「何時でも戦える」との回答を得た。

実際の野山を戦場に見立てて戦う事となる。

安全面に考慮して銃やボーガン等の遠距離武器は使用しない事となった。

当然と言えば当然であろう。

半日にも及ぶ模擬戦の決着はクランドの配下のシキタこと「ロク」が勝った。

あの軍略は何だ・・・兵を2つに分け、片方に奇襲を仕掛けさせるように迂回させ敵の後に配し、頃合いを見て挟み撃ちにして敵を一網打尽にした。

初手の戦闘では後手に回ったように見えたのに、気が付けば包囲して殲滅・・・何たる軍才じゃ!!

その後も実に驚くことが続いた。


「軍略では負けたが、兵士の勇猛さでは負けぬ!!」

「その勇猛さ、是非にも観たいものです」

「ふん!お怪我されても知りませんよ」


クランドが興味を持ち立合いとなったが、30人連続で着の身着のままのクランドが完全武装した兵を薙ぎ倒して行った。


「1人づつだと面倒ですな」

「え?」

「そうですね~どうせなら千人対私一人でどうでしょう?」

「な、な、な、舐めるな!!後悔しても知らぬぞ!!」


クランドがまた煽る様に言葉を紡ぐと、青い顔をして居ったのにまるで熱いお湯にでも浸かった様に一瞬で顔を赤く染めた将軍はその言葉通りに千の兵を用意した。

流石にこれはと思うたが、頃合いを見てクランドが死ぬ前に止めれば良かろうと思い見守ることとした。


「と、止めよ!!」


何と驚いたことに、数時間の戦いので半数以上の兵を刈り取ったクランドは儂の声に従い立合うを止めた。

見やれば少し汗ばむ程度でまだまだ余裕がありそうじゃ・・・


「益々もってクランドを家臣にしたいものじゃ」


言葉が漏れるが、その場の異様さで儂の周りの者もその光景に釘付けで儂の言葉を聞く者は居なかった。

その後、シキタことロクは「General Rokuロク将軍」と呼ばれるようになり、クランドも「Mil Kurando千のクランド」と呼ばれる様になっておった。

更に後日、驚いたのはクランドが銃で暗殺されそうになったという。

しかし、その暗殺者が放った銃弾をクランドが何時も腰に下げた短剣で斬り裂いた等と言う。

暗殺者は即座にクランドの配下の者に取り押さえられたが、隙を見て毒を煽り死したという。

遺留品から暗殺者の身元は解らぬが、貴族の配下で間違いなかろう。

国賓を何だと思うておるのか頭の痛い事じゃが、この機に馬鹿者どもの首を挿げ替えるチャンスかもしれぬな。

その後、兵の練兵所でクランドが自分に向けて何発もの銃弾を浴びせられるように撃たれたのを避けたり斬り落としたりする様が目撃され、話題となる。

「狙撃なぞしても殺されぬぞ」とでも言いたいのであろう。

しかし、驚いたことに同行した者の中にも同じような修練をする者が現れた。

報告では、クランドの奥方たちと娘と妹と聞くが・・・

何でも大変に美しいと聞く。

今度、クランドに頼み会わせて貰おう。

やはり、何としてでもクランドの手に入れたいという思いが胸を過る。


〇~~~~~~〇


大分チートが目立って来ましたね~

さて、ここまでの人材だと直ぐにでも配下に加えたいと思うでしょうね~

しかし、FⅡフェリペ2世は「慎重王」と云われる程慎重な人物です。

さて、「慎重王」と言うともっと有名な人物が居ます。

フランス国王のルイ11世です。

この人物はあまりにも慎重で外交や政治的な陰謀によって国を治めたことから政敵たちに忌み嫌われ「遍在する蜘蛛」という異名で呼ばれました。

1400年代の人物なのでこの作品で登場することはありませんが、中々に良いキャラなので出せたらよかったのにとは思います。

さて、FⅡの書類決済システムが革新的だという話をしたと思いますが、アラゴン王国にあった副王制を採用しスペイン帝国全体を統治したようですが、その各地に副王を配置し、中央集権体制を整えたそうです。

これって日本の幕藩体制に似てますね~

そして、このFⅡが凄いのが、国土の中央に位置するという理由だけでバリャドリッドからマドリードに宮廷を遷したそうです。

この時、スペインの首都が初めて確定したと云われています。

宮殿の中から殆ど動かず、「太陽の沈まない国」とまで言われる広大な領土へ命令を発したそうですから本当に優秀ですね~

その事から先述した「書類王」という呼び名でも知られるようになったようです。

何時も書類と睨めっこしているので中々良いネーミングですね。

7つの海を制覇したと云われるスペイン帝国では、新大陸を含む様々な国や地域から珍しい物が沢山流入して来ました。

中国の磁器やアメリカ大陸の金銀宝石、日本の刀剣類、等々、ありとあらゆる物が集まった大国家でした。

しかし、FⅡはそういったものにあまり関心を持たなかったと云われます。

性格なのでしょうが、豪華な物にはあまり興味を示さず、更に、他国のモノにあまり興味がなかったようです。

スペインの食べ物、スペインの文化を最も愛したと云われる愛国家で、スペインのタラベラ焼きという陶磁器に支援をしてスペインらしい品だったようです。

この当時は、ヨーロッパの王侯貴族が愛したマイセンやセーヴルのような豪華さが主流だった様なので、それに比べるとスペインの家庭のぬくもりを感じさせる様な素朴な陶磁器であったようなのですが、ある種、わびさびに通じる部分がある様な気さえしてきます。

中々にFⅡは優秀で数回のうんちく位では語り尽くせない人物なのですが、母国愛に溢れる人物であったのは間違いないですね。

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