第255話
ローマでは少しやり過ぎたのかな?
成行き上、嘗められるよりまし!!
ローマでの俺たちの武勇伝は噂となり諸外国に伝わった。
元々使節団が会見する予定だったスペイン・ポルトガルの国王にもあったよ。
スペイン・ポルトガルの国王はフェリペ2世と言う人物で、この時代の世界的なトップの権力者の一人で、太陽の沈まない国とまで呼ばれる程の広大な領地を持つ人物だ。
スペイン・ポルトガル国だけではなく、他にも幾つもの王位・爵位を持つ人物で、確か俺の知る前世の知識から今はスペイン帝国の最盛期と呼べる時期だと記憶している。
そんなフェリペ2世だが、カトリックの盟主とまで呼ばれる程の宗教狂いとしても有名であったな。
だからなのかもしれないが、使節団の少年たちは何だか凄く温かく迎えられたとの噂を聞いた。
俺は宗教使節団ではなく便乗した日ノ本代表の国使として別日に会う事となったんだけど、宗教はね・・・
俺の価値観はどうかと言うと、「特に贔屓にしている宗教はありません」と言える程のコテコテの昭和~令和に掛けての一般的日本人の精神性である。
神社にお参りに行くし、お墓参りは仏式で、キリスト教の行事であるクリスマスなどは普通に楽しむという感じで、もうガラパゴス過ぎてどの宗教も取り入れる柔軟さ?それは適当とも言うのかもしれないが、そんな前世での価値観を引き摺っているというのもあるが、複数の神と邂逅したことで神の存在を信じているし、「神も居るなら仏も居るだろうね、それならばどの宗教も侮れない」と言う独自の価値観を持ってしまった。
だけれども、スペインはバリバリのキリスト教徒の国だ。
そこでの価値観は、「キリスト教以外は認めない」なので、俺のそのような価値観は異端とも言えるし相いれないのだ。
しかし、そんな俺なのに「聖人」と言う称号が意外とここで役に立つ。
おいそれとは無下には出来ない称号なのだ。
天使じゃないけど、天狗ガブリエルの弟子と言うのも大きいのかも?
「ガブリエルの使徒」とか「ガブリエルの英知を知る者」何て言われることもあるそうだし・・・絶対、天狗じゃなく天使って思ってるよね。
まぁそれはもういい、それなりの敬いはしてくれるようだし。
形だけかもしれんがな・・・
この王様に会った時の話だ。
(※スペイン語の会話です)
「その方が聖人マルか」
「丸目蔵人・・・いえ、長恵・蔵人・丸目と申します。祖国では従二位の位を頂いております」
便宜上、クランドと呼んでもらうこととした。
俺は官位も名乗り従二位と言う物を取り合えずこの国の爵位としてどういう物かを説明した。
従二位と言うのは爵位で言えば侯爵以上であるだろう。
天子様(天皇)の義理の娘婿なので公爵?・・・まぁ例え話なので、その位の所にしておく。
「公爵の地位にあり、皇帝(天皇)の娘の婿とな!!」
「はい・・・」
うん、間違っていないよね・・・
それを言えば、また見方が変わるようで、王様の目付きが変わる。
「クランド公よ」
「はい、何でございましょう」
「その方は奇跡を使うと聞いたが誠か?」
奇跡って何じゃらほい?・・・!、多分、やらかしだろう。
俺はローマ滞在中の武勇伝を聞かせる事とした。
「陛下!!」
何か偉そうな人物が王様に物申す。
「何じゃ?」
「発言をお許しください」
王様が頷くとデブ・・・恰幅のいい紳士が話し出す。
俺に敵意ある目を向けて来ているので何言うかな~とおもったら、何となく予想していてことを言う。
「この者の話では、目の前から消えた?空を飛んだ?などと、まるで魔法使いか奇術師ではないですか」
「であるな」
「魔法など無き物にて奇術で御座いましょう」
「ふむ・・・」
うん、術だね~仙術と言う名の術だけどね。
仙術は奇術とも言えるから間違いてはいないね。
「そのような者の言う事を鵜呑みにしてはなりませぬ」
まぁそう言うよね~だからこそ「百聞は一見に如かず」と言う諺がある。
「では、御見せしましょうか?」
俺はそう言うと王様は興味深そうに、デ、恰幅のいい紳士は鼻で笑いながら「見せれるものなら見せてみよ」と言う。
この人物は宮廷貴族で伯爵位を持つ人物と後ほど知る事になるけど、他国の人間に対して、それも官位持ちで此方で言う所の公爵位位の立場を名乗る俺によく上から目線で物言えたものだと思うけど、日ノ本を嘗めている証拠だろうね~
それに、格好も・・・俺がちょっと余所行きの恰好をしているけど、此方の貴族連中と見比べれば地味だよね~だから嘗めてる?恐らくそうだろう。
現に、「地味」「貧相」等々の声が聞こえるしね~
民族衣装なの~お国により違うんだからそこは考慮しろよと思うけど、まぁ最大版図のスペインの貴族だし高飛車なのかもね~と思って話を進めた。
「クランドよ、良ければ見せてくれ」
「はっ!お心のままに!!」
俺は早速とばかりに瞬間移動のような形で、デ、恰幅のいい・・・もういいやデブ伯爵の間合いを詰め、胸ポケットのハンカチ?を掠め取り、元の位置に戻る。
「如何した?早く陛下に御見せしろ」
デブ伯爵がそう吼えたので、「もう終わりましたよ」と言ったら鼻で笑われた。
「陛下!ご覧ください!奇術師でもなくただのペテン師だったようで御座います」
おいおい、解らなかったからって何言うかな~
王様は俺を見据えて来るので掠め取ったハンカチを広げヒラヒラと振る。
「な!!」
「あ~お返ししときますね~」
俺は今気が付いたと言う様に絶句する彼に今度はゆっくりと近付き、胸ポケットにクシャリと丸めたハンカチを突っ込んだ。
「クランドよ!!」
「はい」
「何をしたのじゃ!!」
王様は興味津々で聞いて来た。
俺は瞬歩で間合いを詰めハンカチを掠め取り元に戻っただけなので、そのまま説明。
「間合いを詰め、ハンカチを奪い、元の位置に戻っただけに御座います」
「何と!!今の一瞬にか?」
「はい」
何か、さっきまで騒いでいた周りの者すら言葉を失い絶句している。
やっぱり、見せる方が早いみたいだね。
その後は他に何が出来るか聞かれたので、壁を走って登ったりは場所があればできるからその事を伝えた。
★~~~~~~★
儂の名はハプスブルク家当主、フェリペ2世。
スペイン国の王にして多くの支配地域を治める者だ。
本日は海の彼方の島国から来訪した少年たちに続き、その帝国の高位の者が朝貢して来たと言う事で会う事となっておる。
現れた人物は黒髪に頭の髪の毛を一つに纏めた変わった髪型の人物であった。
黒い衣で何とも貧相に見えるが、報告ではその国の民族衣装と言う。
顔はのっぺりとしておりが眼光鋭き人物で、報告の通り、流暢に我が国の言葉を話す。
「その方が聖人マルか」
「丸目蔵人・・・いえ、長恵・蔵人・丸目と申します。祖国では従二位の位を頂いております」
巷では聖人マルとも呼ばれておると聞きその名で呼ぶと、聞き馴染みの無い発音のフルネームを名乗る。
儂が首を捻らば「クランドとお呼びください」と言った。
クランドは皇帝の娘の婿で、この国の公爵位に相当する程の高位の貴族だという。
報告では戦士・騎士の様な身分と聞いておったが、どうやら少し違う様だ。
クランドはローマに滞在中に多くの奇跡の御業を見せたと聞き及んでいた。
その殆どが耳を疑う物ばかりであったことから、実は今日の会見を楽しみにしておった。
機会あれば披露して欲しいものじゃ。
クランドは地方の小さな領の領主の息子として生まれたという。
色々あり、剣士として修行をし、気が付けば今の公爵位と同等の立場に登り詰めたという。
成り上がり者だと自負した発言ではあるが、有能なのは報告書からも見て取れた。
早速とばかりに儂は奇跡の披露を所望した。
「クランド公よ」
「はい、何でございましょう」
「その方は奇跡を使うと聞いたが誠か?」
クランドが返事する前に伯爵位にある者が意見して来た。
「陛下!!」
「何じゃ?」
「発言をお許しください」
何か言いたいことがあるのであろうが、何であろうか?
取り合えず聞くこととして、頷く。
「この者の話では、目の前から消えた?空を飛んだ?などと、まるで魔法使いか奇術師ではないですか」
「であるな」
「魔法など無き物にて奇術で御座いましょう」
「ふむ・・・」
奇跡の御業ではなくペテン師などが使う奇術とでも言いたいのであろう。
確かにその通りじゃ。
魔法の様な奇跡の技では無く、大道芸人かペテン師の使う奇術・・・まやかしの類と忠告したいのであろう。
私が顎に手を当てて思案して少し、伯爵がタイミングを開け更に言い募る。
「そのような者の言う事を鵜呑みにしてはなりませぬ」
まぁそうであろう。
詐欺を働くような者の技となれば捨て置けぬと思うのが必定。
しかし、クランドが普通の調子で言う。
「では、御見せしましょうか?」
疑われても動じぬとは・・・実に面白きかな。
伯爵が疑わし気に「見せれるものなら見せてみよ」と言いながらクランドを睨み付けておる。
その時、クランドの体が一瞬だけブレたように感じたが気のせいか?
先程と変わらずただこそに立ち尽くしておるようにみえるが・・・
「如何した?早く陛下に御見せしろ」
伯爵が苛立ち、早く見せるようにとせっつくが、あれ?クランドが手に何か持っておるわ。
クランドは徐にその布を広げヒラヒラと揺らす。
刺繍が入ったハンカチの様じゃが・・・何処かで見おぼえがあるような?・・・!
「な!!」
「あ~お返ししときますね~」
伯爵も気が付いた様で驚きながら青い顔をしよる。
確かに恐ろしい事じゃ。
一瞬の間に胸ポケットのハンカチを抜き取る技・・・間合いもそこそこに離れておった。
もし彼が暗器で刺したとしても誰も気が付くまい・・・身震い?
背中に嫌な汗が流れる。
恐ろしいと思う反面、素晴らしいとも思えてしまうから不思議じゃ。
興味が顔を覗かせていたのが解ったのであろう、クランドは技の説明を始める。
「間合いを詰め、ハンカチを奪い、元の位置に戻っただけに御座います」
「何と!!今の一瞬にか?」
「はい」
訳が解らんが、これは剣士の技であろうことは何となくだが理解できる。
一代での上り詰める様な人物じゃ普通ではないと思うたが、普通じゃないを通り越して抜きに出ておる・・・いや、それ所ではない、奇跡の御業じゃ。
その御業は小手先のものと言うように、次々と他にも色々な奇跡を見せてくれた。
人が壁を走り登るなぞ・・・登った!!
人とは空が飛べるのか・・・飛んだ!!
まだまだ何やら隠しておる様な気がするが、見せて貰った御業だけでも素晴らしいの一言じゃ。
儂はクランドをどうしても家臣にしたくなった。
「クランドよ」
「何でしょうか?」
「儂に仕えぬか?」
「あ~国でも宮仕えが無理と判断され、勝手使いで依頼を引き受けてはおりますが、基本は特に仕えている訳ではないのですよ」
「国に仕えておらぬのか?」
「はい、仕える・・・と言う訳では御座いませぬ」
不思議な事ではあるが、このような素晴らしき者を野放しに出来ず高位の爵位の様な物を与えたのは理解できる。
この者を繋ぎとめるのも苦労しておるであろう様が目に浮かぶようじゃが、ふむ、クランドの生国に倣い形だけでも爵位を与えるか・・・
さて、如何様にクランドとの縁を繋ぐか・・・少し考えてみようか。
〇~~~~~~〇
フェリペ2世登場!!
世界史では必ず名前が出る程の人物ですね~
スペイン帝国の黄金世紀とも呼ばれる最盛期に君臨した国王で、絶対主義の代表的君主の一人と云われます。
絶対主義と言うのは絶対王政のことで、君主(王)が絶対的な権力を行使する政治体制を指す言葉でもあり、絶対君主制とも呼ばれます。
この人の治世は国の絶頂期に当たり、ヨーロッパ・中南米・アジアに及ぶ大領地を支配し、地中海の覇権を巡ってオスマン帝国と争い、それを退けて勢力圏を拡大したと云われます。
実はポルトガル国王も兼ね、イベリア半島を統一すると共にポルトガルが所有していた植民地も継承しており、本当にこの時代のトップ国と呼べるような存在でした。
作中でも書いておりますが、その繁栄の規模から「太陽の沈まない国」と形容されたそうです。
さて、この
本文中に書きました、「カトリックの盟主」と言うのもその一つです。
彼の宗教観を表す名言と云われるのが、「異端者に君臨する位なら命を百度失う方が良い」という言葉です。
ガチの宗教家的な言葉ですね~
行動としてもフランスのユグノー戦争(内戦で40年位に渡った宗教戦争)に介入したりと、カトリック同盟を支援したそうです。
さて、他にも「書類王」等とも呼ばれたようです。
作中で「報告の通り」とか「報告書」とかの言葉を使いましたが、実はこれわざと。
勿論、「書類王」と云われる人物らしさを表そうとわざと書いて部分となります。
ほとんど宮殿に籠って政務に専念した人物として知られ、FⅡさんが作り上げた官僚主義的な書類決裁システムは、当時のヨーロッパでは可成り先進的で、彼の引退後にスペイン王国でこのシステムはあまり上手く機能せず、フェリペ4世の寵臣で首席大臣となったガスパール・デ・グスマン(公爵)位しか使いこなさなかったというからどんなシステム?とその事を知った時に思いました。
このガスパール・デ・グスマンは、主君のフェリペ4世からサンルーカル・ラ・マヨール公爵位を与えられたのに、公爵ではなくオリバーレス伯爵を名乗り続けたそうです。
どんな拘りなのか・・・
実はオリバーレスと言うのはフェリペ4世から伯爵位に「グランデ」の特権を付与されたそうです。
「グランデ」とは特権保持者のことで、爵位の上下よりも重視されるほどの名誉なことなので公爵位を持つにも拘らず「グランデ」付きの爵位であるオリバーレス伯爵を名乗り続けたようです。
作中に登場したのはオリバーレス伯爵では無いのは確かですし、出番もありませんが・・・
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