第253話
惟任殿(明智光秀)の希望により、自害の介錯をした。
信長さんに続きの介錯で何だか感慨深い。
能天気な俺でも少しは感じ入るものが・・・う~ん、無いな。
前世であればもっと何か違う感想が出たのかもしれないが、伊達に30年位の戦国ライフで俺の感性も変わってきているようで、切腹の介錯とか普通に出来るわ~
前世の感覚であれば介錯=自殺幇助と思うかもしれないし、恐らくは怖くてそんなことできなかったと思うけど、今は人生最後の舞台に花を添える様な感覚?とでも言うのかな・・・介錯を依頼されるというのは凄く名誉なことで、天下人・織田信長と謀反人ではあるがその名を轟かせた名将・惟任日向守(明智光秀)の介錯をしたことが凄く誇らしい。
「穏やかな顔をされておりますね」
「そうだな」
美羽が言うように惟任殿の死顔は少し笑っているように見える穏やかなものだった。
悔いは残っていると思ったんだけど、以外に割り切られていたのかもしれないな。
俺が考え事をしている間に、美羽が丁寧に惟任殿の首を布で包み込んでくれた。
さて、惟任殿の首は本人さんのご希望通り俺の誉とさせて頂くこととしよう。
特に褒美が欲しいとか言う訳でもないけど、貰える物は貰っておこう。
俺たちはその首を持ちお猿さん(羽柴秀吉)に会いに行くこととした。
お猿さんは上洛を果たし現在は京に居ると言う事で、そこまで探す必要も無かったよ。
「長さん!謀反人の手柄首を持って来たと聞いたがね~」
「まぁ・・・そうだな・・・」
「欲しい物が有れば何でも言ってちょーよ」
「欲しい物か・・・特に無いな。それより惟任殿の御印を丁重に埋葬して欲しいかな」
俺はお猿さんたちに惟任殿の首を丁重に
「丁重に」
お猿さんが何か言おうとしたのを遮る様に黒官さん(黒田官兵衛)が言う。
「丸目殿、申し訳ないがそれは出来ぬ」
「官兵衛(黒田官兵衛)!!」
「藤吉郎様(羽柴秀吉)、お解りと存じますが、惟任日向守(明智光秀)は謀反人、上様(織田信長)の敵に御座います」
「いや・・・そうだな・・・長さん、申し訳ないがその願いは叶えられぬ」
まぁ道理でもある。
特に俺は少し関わったし介錯したから丁寧に弔らって欲しいと思っただけだが、世間がそれを許さないようだ。
「丸目殿、申し訳ないが、惟任日向守は落ち武者狩りの百姓に討たれた事とさせて頂きたい」
あ~成程ね、これは俺でも解る。
黒官さんは惟任殿の名を少しでも落としたいのであろう。
自害してそれなりに名の知れた俺が介錯してその首を持ち込んだとするより、名も知られていない様な農民に討たれたとしたいのであろう。
俺的にはもうどうでもいいので「ご随意に」とだけ答えてその場を去ったよ。
惟任殿もこうなる事が解っていただろうしね。
★~~~~~~★
丸目殿が謀反人・惟任日向守の御印を持参したという事で藤吉郎様への御目通りを希望された。
儂も藤吉郎様に付き従い会見に望む。
藤吉郎様と丸目殿は仲が良く、「長さん・お猿さん」と呼び合う仲であるが、藤吉郎様が幾ら猿顔と言っても失礼である。
上様も「猿」と呼んでおったが、そのようなことが許されるのは上様のみの話なのに・・・
「長さん!謀反人の手柄首を持って来たと聞いたがね~」
「まぁ・・・そうだな・・・」
丸目殿は「謀反人」の言葉に一瞬反応されたので、何やら含むことでもあるのであろうか?
あったとしても特に問題することでもないかと思い直し、その持参首を眺める。
天下を手中に収めることが出来なかった者と思えぬ程に穏やかな顔じゃ。
儂が同じ立場で道半ばで果てたとして、このような顔で逝けるだろうか?
いや・・・考えてもせん無き事じゃな。
「欲しい物が有れば何でも言ってちょーよ」
「欲しい物か・・・特に無いな。それより惟任殿の御印を丁重に埋葬して欲しいかな」
藤吉郎様は丸目殿の機微など委細関係無いという様に大喜びで、欲しい物は何だと尋ねられた。
尋ねられた丸目殿は「丁重に埋葬」をと希望された。
欲の無い事じゃが・・・癪に障る・・・
それに、それは出来ぬ相談じゃ。
しかし、藤吉郎様はうんうんと頷き、その事をお認めになろうとされておる。
「丁重に」
「丸目殿、申し訳ないがそれは出来ぬ」
間におうた!!
主の言を遮るは無礼ではあるが、最後まで言わせてはならぬ一言であった。
「官兵衛(黒田官兵衛)!!」
案の定、藤吉郎様は儂を非難めいた目で見られておる。
ご自分でもお解りであろうが、莫逆の友とも呼べるほどの間柄じゃ、その友の願いなので叶えたいとでも思われたのであろうが、これに関しては引けぬ。
「藤吉郎様、お解りと存じますが、惟任日向守は謀反人、上様の敵に御座います」
「いや・・・」
藤吉郎様は何かないかと考えられたようであるが、思い当たらなかった様じゃ。
「そうだな・・・」
儂の方に何か無いのか?と言う様な目を向けられるが、謀反人の首は晒して万民に知らしめる必要がある。
謀反人に情けは無用じゃ。
儂が首を横に振り、何も無いと言う事を示すと、藤吉郎様は丸目殿に向き直り済まなそうに言われた。
「長さん、申し訳ないがその願いは叶えられぬ」
藤吉郎様はそれ以上の言葉を言われなかったので、代りに儂が言葉を引き継ぐ。
「丸目殿、申し訳ないが、惟任日向守は落ち武者狩りの百姓に討たれた事とさせて頂きたい」
丸目殿は結果が分っていたのであろう、一度目を瞑りまるで惟任殿の首に詫びるような仕草を見せた後、一言だけ述べてその場を去られた。
「ご随意に」
惟任殿の首は上様の自害された本願寺に数日間晒し、後日、家臣の斎藤殿(斎藤利三)の屍とともに京の粟田口(京都府京都市東山区)に晒し、万民に謀反人の末路を知らしめた。
これにより、丸目殿への借りが出来た事となる。
大きな借りじゃ。
しかし、あの者がこれを貸しとは思っておらぬであろう・・・実に癪に障る事よ。
手柄を上げたことを誇れば良いものをと思うが、あの者は誇らぬとはな・・・何様じゃという思いが頭を過り、この際なので誉を与えない事とする為に「惟任日向守は落ち武者狩りの百姓に討たれた事とさせて頂きたい」と言ったが、それについても特に何かいう事も無かった・・・実に不愉快じゃ。
名誉を望む儂との違いを見せつけられ、やはり相容れぬ存在じゃと再認識した。
〇~~~~~~〇
黒官が黒いです!!
秀吉は謀反人である惟任日向守(明智光秀)の一族は根絶やしにする勢いで攻め立てたようです。
その結果、細川家に嫁に出されていた光秀の三女のたま(玉子・珠子とも云われます)以外は殆ど皆亡くなってしまい、一族殆ど全てが誅されたことで明智家は滅亡しました。
たま(ガラシャ)は本能寺の変後にキリシタンとなるのですが、関ケ原の戦いの少し前に石田三成に人質になるようにと要求されそれを拒否、その事で攻められ亡くなっています。
キリスト教は自害(自殺)はタブーなので、ある程度戦った後、家老の小笠原秀清がガラシャを介錯し、遺体が残らないようにと屋敷に爆薬を仕掛け火を点けて自刃し屋敷諸共爆破したと云われています。
辞世の句は「散りぬべき、時知りてこそ、世の中の、花も花なれ、人も人なれ」というもので、誇り高さが伺える句で、私的には可成り好きな句です。
「花も花なれ、人も人なれ」と言うのが実に良いです。
この細川ガラシャと言う女性は実に波乱万丈の人生を送りますが、私はそこにも魅力を感じます。
ガラシャと言うのは「Gratia(グラツィア)」というラテン語で
本名の「玉・珠(たま)」が「
今の所、この作品での出番は無さそうなので、ここでうんちく語りしちゃいました。
さて、明智光秀(惟任日向守)の墓が高野山の奥之院にあります。
これは珍しい事ではなく、歴史の偉人がここに墓を持つ事はよくある事です。
織田信長・豊臣秀吉(羽柴秀吉)・徳川家康(徳川家の墓)・石田三成・伊達政宗・武田信玄・上杉謙信・等々、多くの者の墓が安置されています。
特に戦国武将の墓多いです!!
勿論、本当の墓ではなく分霊墓となります。
ここで明智光秀(惟任日向守)の墓に纏わる不思議な事象があります。
彼の墓石は何故か割れるらしいです。
過去、私もこの地を訪れた際に多くの偉人の墓を見学させて頂きました。
そして、この明智光秀(惟任日向守)の墓も見せて頂きましたが、云われる通り斜めに大きくひび割れが入っておりました。
「その悲痛な思いで」ことごとく割れるといった通説がります。
これが不思議なのですが、墓石を交換しても数年の内に割れたそうで、現在は諦めてそのままの割れたままで置かれているそうです。
さてさて、この高野山の奥之院を中心に多くの分霊墓が安置されています。
弘法大師(空海)の御廟がある奥之院には約20万基と言われる墓が犇めいておりますが、何故そうなったのか。
弘法大師が即身仏となりこの奥之院の最奥に居られます。
これを
弥勒慈尊ですが、釈迦が入滅した56億7千万年後に仏となりこの世に現れ、釈迦の教えで救われなかった人々を救済すると伝えられている弥勒菩薩と言う仏様です。
その仏様が現れるまでの期間、人々を救済する為に弘法大師は即身仏となられたと云われています。
そして、弥勒菩薩が現れた時に三度の説法をすると云われていますが、その説法会場の一つが高野山と言われています。
要は戦国武将たちや多くの偉人は釈迦入滅より56億7千万年後のその日の為に弘法大師御廟前の参道で席取りの様な事をする為に墓を構えているのです。
それを知り墓石群を眺めるとまた面白いですよ~
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