第251話

俺が「月が綺麗ですね~」と言った後、藪からはピタリと息遣いが消えた。

いや、既に隠れていること解っているから今更だろうと思うが、急に声を掛けられて驚いた?

まぁ気配を断って近づいてから気配を戻し声を掛けたからね~

もう一度声を掛ける。


「惟任殿(明智光秀)、もう隠れている意味無いでしょ?」

「丸目三位殿、数日振りですな」


藪から顔を出しこちらを確認している。

月明かりで俺の顔が見えた様でばつの悪そうな顔をされた。

まぁ指名手配にはされなかったけど、家さん(徳川家康)に指名手配掛けたんだから普通に俺も危険だよね~それもあるのかどうかは知らないけど、今度は逆の立場。

しかし、俺の声が穏やかなので少し警戒しつつも藪からこちらに出て来る。

俺も用があるので出来るだけ安心するようにと穏やかな口調で話しかける。


「はい、前回が今生の別れかとも思いましたが、またお会いしましたね」

「ははははは~そうですな・・・」


惟任殿は致命傷とまでは行かないが、結構な怪我をしていた。

頭に包帯、脇腹に出血の痕があるし、「はぁはぁ」と荒い息遣いで、やっとと言った感じで藪を掻き分けて出て来た感じだ。


「手柄首を取りに参られたか?」


手を真っ直ぐに首にその手を落とすそうなジェスチャをされそう聞いて来る。

そして、惟任殿は警戒しつつも諦めた様な目で此方を見詰める。

俺は特に首とか手柄が欲しい訳ではないので、それを伝える。


「いえ、特に貴方の首なぞ要りませんよ。手柄も特には欲していませんね~誰かに仕える気など毛頭ありませんし」

「左様か・・・では、何をしに参られた?」

「はい、聞きたいことがあり、伺いました」

「聞きたい事?・・・先日会った折に聞けば宜しかったのでは?」

「いえ、本音を聞きたかったので惟任殿がお一人になるのをお待ちしましたよ。本音は余人を交えずに聞いてこそ出るのでしょうから」

「・・・」


訝しげな顔で此方を見詰める惟任殿。

竜様(近衛前久)のガードマンとして会った時には周りには数名の者がいたからね、本音を隠すかもしれないと思い聞かなかった。

もしかしたら、その時に聞いたら語ったかもとも思ったけど、俺は聞かず、今聞こうとしている。

俺は怪しまれようと関係ないと言った感じで普通に再度促す様に聞く。


「いえ、そんなに難しい事を聞きに来た訳ではないですよ?」


少し考えるそぶりを見せる惟任殿。

難しい事じゃないのに今聞くか?て所か?

後が無い所まで追い込まれていた方が本音言いそうと思ってのことと言うのは内緒だけどな。

惟任殿は諦めたという様に俺に言う。


「何を聞きたいので?」

「何故、織田殿を裏切られたので?」


そう、俺が聞きたかったのはあれだけ重用されていた惟任殿が何故裏切ったのか知りたかった。

特に理由はない、ただの好奇心ではあるが、織田殿を看取った者として聞く義務がある様にも感じたから今回はここまで出張って来た。

まぁ興味本位と言った感じではあるけどな。


「ふははははは~そんな事ですか」

「はい、そんな事ですよ」


何を今更と言う様に笑いながら、惟任殿はそう言われた。

何だか警戒心が一気に無くなった様で、惟任殿はその場にドスンと腰を下ろされた。

立っているのもしんどい程だったのであろう、座って緊張感が無くなると荒い息を吐かれている。


「見限ったのですよ」

「見限った?」

「そう、裏切ったのではなく、

「どう違うので?」

「同じ様な事ですが、裏切るとは相手に背くことです」

「裏切るは相手に背く?ですか・・・では見限るとは?」

「見限るとは相手を見捨てる事ですよ」


言葉遊び?

言葉の意味は解るけど何が言いたいかが俺の脳みそではよく解らん・・・禅問答みたいなことは止めて欲しいものである。

俺が理解してないと判断したのか要約してくれるらしい。

流石はチート!!言わずとも解るとは流石です!!


「拙者は上様(織田信長)にほとほと愛想が尽きましてな。だから見限って謀反を行いました」

「愛層が尽きたのですか?」

「はい、あの男(織田信長)は妻に無礼を働き、身内とも言える者にも迷惑をかけた、それに・・・私の矜持をも潰しました・・・」

「恨みからの犯行だと?」


言いたいことは何となく解った。

裏切りは我欲や利害とかでも起こすけど、見限りとは愛想尽きて見捨てるから起こるとでも言いたいのであろう。

俺の理解であっているかは解らないが、惟任殿はこれ以上の説明はしない様だし、話も変わったのでそちらに乗っかるか~

それにしても・・・

うは~恨み言と言うものは時に理性を吹っ飛ばすけど、信長さんは私怨で殺されたのか~とか思っていると、惟任殿は軽く笑いながら「それだけではありませんよ」と言う。

俺の心読んで言ってる?言ってるよね?・・・チート恐るべし!!


「他にもあると?」

「勿論、私怨だけで天下人で自分の主君である方に謀反を企てようなど、馬鹿のすることです」


え?チート武将だけど私怨で謀反か~馬鹿だな~と思ってごめんよ~

でも凄い本音聞けそうで少しワクワクしてしまう。

では、思いのたけを語って頂こう。

促すまでも無く空気を読み語りだす惟任殿。


「武士にはご恩と奉公と言うものが有り申す」

「ですな・・・」


概念は知っている。

これでも一応武士だ!!

ご恩とは保障と見返り。

土地などを仕えるに当たってお給料的に保障して、手柄などの功績を上げたらそれに報いて見返りとして褒美を渡し、主となる者は家来に恩を売る。

家臣がその保障と見返りを得る事で恩を買う。

その買った恩を担保に主に尽くすことが奉公。

でもね~よく滅私奉公と言うけど、自分を滅するまでの恩って何なんだろう?と俺は思うが、それは取りあえず置いておこう。

権力欲とか色々欠けている俺にはもしかしたら理解できない部分なのかもしれないしな。

うん、でも何となくでも解ると言う事で、返事として頷いておいたよ。

しかし、何が言いたいのか・・・まぁ今のは前振りだろうな。


「上様のごおんよりごおんまさったのですよ」


やっぱり私怨か~い!!と、思ったけど、話は続くらしい。

惟任殿が凄い憎々しい顔をされているのでそのご怨とやらを思い出されているのであろう。


「上様の為さり様では天下統一など夢のまた夢」


う~ん、また話が飛んでよく解らんが取り合えず聞くこととしよう。

惟任殿は俺の脳みそより半回転速い脳みそお持ちだからなのかな?

話が飛び飛びで着いて行けるのと思ってしまうのは内緒だよ~


「拙者が謀反を起こし上様を討ち滅ぼしましたが、上様に謀反を企てた者は拙者の前にも何人もおります」


まぁ結構居るね~俺の知るのは霜台爺さん(松永久秀)、荒木何某に本願寺にetcエトセトラ

本願寺は少し違うか?でも権力者に従うとか言う教えあるのに逆らうとかこれ如何に?うん、謀反だね~

それに、将軍様(足利義昭)も形は違うけど現在進行形で敵対していた。

形は違うけど信長さんの御蔭で将軍になったし、信長さんは奉公したけど、将軍様はそれに報いたのかな?

報いたかどうかはさておき、傀儡なのにそれに抗って信長さんの手を噛んだんだから、謀反したのと似た感じではあるね~

まぁ足利家のお家芸でもあるけどね。

他にも結構裏切られているかもね~その多くは知らんけど・・・


「上様の為さり様では何時までも天下は纏まらぬのですよ。相手を押し込めて言う事を聞かせても、上様が少し目を離せばすぐに不満のある者は歯向かいましょう」


まぁ解ると云えば解る。

それ解っていたから信長さんは何度裏切っても条件付けて許した者も居る。

霜台爺さんがまさにそんな感じ。

信長さんほどの人なら自分でもそこら辺は解っていたと思うけど、どうなんだろ?

信長さんなりに何か策は考えていたと思うけどね~

俺はそう思ったけど、とりあえず、惟任殿の続きの意見も気になるし、取り合えず頷いて返事代わりとした。

それを見て惟任殿は話を続ける。


「だから代わりに天下を貰い受けたのですよ」


でた、何かこの発想ってエリートの意識高い系の人が言いそうなセリフ。

あ!織田家随一の出世頭エリート才知、深慮、狡猾さに長けた人物意識高い系だったよ・・・

いるよね~こういう人。

興が乗って来たのか惟任殿は熱く語り始めた。


「上様の為さり様ではこれから先に行くは無理があり申した」

「それで代ろうと?」

「はい、運の良い事に天下が転がってもおりましたし、拙者ならやれると判断しました」


うは~元就爺さん(毛利元就)の計画で隆さん(小早川隆景)のプロデュースかと思いきや何か違う様な気もして来るな~

でも、元就爺さんがこの資質を見抜いていて利用したと・・・有り得そうで怖いわ~

どっちもどっち、本当にチートたちは怖い怖い。


「織田殿(織田信長)ではこれ以上の天下統一は難しいと思っての犯行と?」

「まぁそんな所ですが、もう少しご怨が少なければ・・・」


まぁ今更言っても仕方ない事とでも思ったのかそれより先は言わなかった。

ご恩とご怨を天秤に掛け、量ってご怨に傾いたからと言うのもあるんだろう。

まぁおれはシンプルだけど解り易い。

それに加えて、天下統一の合理性を求めたか。

これだからエリートは・・・

合理主義者過ぎんか?とも思うが、ガチガチの合理主義者だからこそ理想を目指し突き抜けて織田家随一の出世頭となったし、短い期間とは言えクーデターを成功させて天下を取ったその実力から言えば、もっと運が良ければ事を成したのかもねと思える。

それ位、目の前の惟任日向守(明智光秀)と言う人物は優れていると思う。

エリートはエリートでも叩き上げで合理主義者でもあり、有言実行の人だ。

運の天秤が少し有利に傾けばあるいは・・・

ただし、運の要素で言えば、俺的には右に出る者ないと思える人物を知っている。

その人物と戦う羽目になった目の前の人物には「お気の毒」としか言いようが無いね。

まぁ言わないけど。


「何となくは分りました・・・理解は出来ませんが・・・」

「理解が及びませんか・・・」

「はい、天下なぞ某は狙っておりませぬで、何方どなたが天下人となろうともそれはそれ、某や某の身内と思うの者たちに害が及ばぬ限りはどうでも良いという所ですよ」

「左様ですか・・・我儘な生き方ですね」


そう、我儘な生き方ではあるが、一般庶民の考え方でもある。

一般庶民のその日暮らしをする様な者が考えそうなことだ。

その日暮らしの者にとって天下人?何それ美味しいの?である。

誰が天下人であろうと生活が変わる訳ではないと高を括っている。

実際は政治の最高責任者が変われば下々の生活までもが変わるけど、そんな事は誤差程度に考えている。

その考えは気楽でもあるから俺はそうしているけど、俺くらいの官位持ちの人間がそう考える事は普通では無いね・・・まぁそれを我儘と言ったのだろうね。

それなりの立場なんだから考えるのが恐らく普通、でもね~変える気も無いし、それで今の所うまく回っている。

だからこそ変えないし、俺は胸を張って言い返せる。


「我儘ですけど、それを犯されない限り、誰に対しても人畜無害ですよ」

「あははははは~何故あなたが多くの力のある方々に気に入られるか解った様な気がします」


まぁその権力者たちは俺の領分を犯さないかわりに俺を上手く使っているよね~

惟任殿も皮肉交じりの発言だろうけど、俺はそのまま惟任殿にその事を伝えた。


「都合の良い道具として勝手使いされているだけですよ」

「あははははは~それは実に使い勝手が良いのでしょうね」

「さぁ、どうですかね~」


惟任殿が何をどう思ったのかは知らないけれど、清々しいという様に先程までの険しい顔ではなく、険の抜けた顔で笑われた。

惟任殿が変に拘り過ぎた自分のことと比較でもしたのかな?

う~ん・・・人の気持ちが読めんからよくは解らないが、何となくそんな気がした。

そして、スッと真面目な顔に戻り、俺に言う。


「では、拙者もお聞きしたい」

「何でしょう?」


まさか惟任殿から質問返しされるとは思わなかった。

だからか、少し驚いたけど、先に質問に答えて貰ったので、お答えしようではないか。


「貴方様が上様をお看取られたので?」


〇~~~~~~〇


さて、犯行理由を惟任日向守(明智光秀)が語りました。

この話でポイントは、勿論、「何故謀反した?」と言う事ですが、私のあくまでも考察ですが、怨恨と合理主義的な考え方からではないかな?と思っております。

怨恨と言うのは信長が光秀に対して行った数々のパワハラでしょう。

特に信長は光秀を重用しつつもネチネチと嫌がらせ紛いの事を行ったと云われます。

実際は光秀だけではなかったとも言われますが・・・

しかし、重用されたことで接することの多かった光秀は特に多大なパワハラ被害の被害者となっていたと思われます。

それに、合理主義者と言われる光秀が信長に対して見切りをつけ、天下統一事業を自分の手でと考えたとしても・・・

さて、もう一つ、ポイントとして、毛利元就がこの謀反を画策して立案していたとして、同じ位のチートの光秀がそれに乗っかるか?という疑問がありました。

そう考えると、元就が見抜いていてそれを利用しようと画策していたとして、それとは別に関係なく光秀がタイミング良く事を起こしたと考える方が面白いと思いました。

歴史と言うのは画策しつつも偶然の一致で事が成ったり事が成らなかったりとすることが実に面白いと私自身が思うからです。

出来事一つとっても一つ違えば立場がガラリと変わる事など多々ありますし、歴史的な出来事も偶然の一致が重なるから変に不可解に感じる部分も出て来て色々と考察できるのではと思っております。

真実と言うのは一つかもしれませんが・・・(どっかの心は大人な小学生も言っております。)

皆さまはどう思われるでしょうか?

さて、本当に偶然だとして、タイミング的に秀吉ってやはり強運ですよね~

画策など自分でしてないとしたらまさに天が導いたと思える様な運の良さ!!

この秀吉については又その内語りたいところですね~

さてさて、今回のこの話、実は重要な伏線忍ばせました!!

光秀とのやり取りで現状の主人公の気持ちも語られていますが、どう変わって行くのかがポイントですね。

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