第241話

俺たちは一路、ともから元来た場所へと舞い戻る。

毛利勢はまだ戦の後始末が終わっておらず、相変らず備中高松城を取り囲む様に陣を張り、周辺の後片付け中だ。

俺は目的の人物が居る陣を訪ねて、面会を取り付ける。

直ぐに会うという回答で待つこと暫し、目的の人物とのご対面だ。


「やあ、隆さん(小早川隆景)数日振り」

「またどうされたのですか?」

「いえ、少し気になる事があって鞆の将軍様にお会いしてからまた戻って来た次第ですよ」

「鞆・・・」


隆さんは警戒するように俺を見詰める。

特に隆さんに何かしようとは思わないので先にそれを伝え警戒を解いてもらうこととした。


「隆さんにそんなに見詰められても困りますよ。特に何か隆さんを害そうとかいう事ではなく、答え合わせしたいだけですよ」

「左様ですか・・・」


まだまだ警戒は解けないが、先程までの警戒より幾分かは収まったようだ。


「それで、何が聞きたいので?」


流石は隆さん、少し警戒しつつも落ち着いて相対して来る。


「隆さんの策ですか?」

「ふっ、私ではないですよ」

「ほ~隆さんだと踏んで会いに来たのですが・・・」


おかしいな~本能寺の変を伝えた時に伝えた3人の中で1人、驚くことも無く冷静に話を聞いていたからもしかしてと思った。

現将軍様(足利義昭)が惟任に何度もお手紙攻勢を仕掛けていたが毎回突っぱねていたようだけど、本能寺の変を改めて伝えて来た藤林の諜報伝達員から聞くに、本能寺の変の前日にも将軍様の手の者が惟任の所を訪ねたようだが、その際は追い返すでもない風だったという。

恐らくは手紙を受け取り何か思って信長さんに奇襲を仕掛けたのであろう。

流石は惟任さん、見事目的は達成された。

信長さんに謀反した者は多いが、見事に成功して害した者は彼一人なのだ。

お互いが沈黙を続けたことで静寂がその場を包む。


「父です」

「?」


不意に静寂を破り隆さんが語りだす。


「父(毛利元就)が生前に将来、織田殿と事を構えることもあろうから、内部を切り崩しておく様にと私にだけ遺言として伝え策を授けて逝かれました」

「元就公が・・・」

「はい、特に足利将軍家を京より追放する様な事があれば天下統一の野心ありと見てよいと・・・」

「そう言われましたか・・・」

「はい。そして、場合によっては将軍を囲い込み示唆させるようにと・・・」

「な、成程・・・」


うは~流石は毛利元就!!

先読みして自分の死んだ後々まで予想・・・いやこれは予言と言っていい位の事だ。

俺が驚いているのを見て隆さんの興が乗ったのか軽やかに語りだす。


「織田家では何度も裏切り者が出ましたよね?」

「え~と・・・」


確かに出た。

俺の知るのは荒木に・・・霜台爺さん(松永久秀)に・・・他は・・・考え込んでいると、先を話したいという様に名前を上げて行く隆さん。


「荒木に三好に松永、別所に・・・そうそう、内だけではなく外からの外圧も必要不可欠ですから、武田、本願寺等にもご協力頂けました」

「うは~」

「上杉は何処の誰かさんが織田に靡かせてしまわれて、残念ながら協力は得られませんでしたけどね」

「あ~それは申し訳ない」

「いえいえ、責めてはいませんよ。策は成りましたし・・・」

「惟任の謀反ですか?」

「はい」


隆さんはニッコリと微笑み、俺に「他に聞きたいことは御座いますか?」と言う。

俺は質問する。


「惟任殿が謀反するのは予想通りと?」

「さあ、知りません」

「え?」

「父の策を実行して裏で動いたは私ですが、結果は予想していませんでした」

「それは・・・」

「もしやすると、父ならこの結果を予想していたのやもしれませぬが・・・」

「幾ら元就公でも・・・」

「父曰く、織田殿の周りで惟任殿、徳川殿、羽柴殿等の周辺は隙が見え隠れしておると言っておりました」

「隙ですか?」

「はい、本人も可能性がありますが、家臣の者に織田殿の隙を突き事を起こす者も居ると言っておりました。私は公方様を介して誘っただけ・・・掣肘せいちゅう出来たは父の策にて御座る」


うは~流石は謀神だけど、その策を実行した隆さんも流石と言うか舌を巻く。


「元就公も隆さんも流石ですね」

「いえいえ、父の策有っての事ですよ」


謙遜してはにかむ隆さん。


「この事は御内密に」

「勿論、誰にも言いませんよ」

「何卒、宜しくお願い致します」


そう言って深々と首を垂れる隆さん。

俺は再度誓う。


「戦国の世です。食うか食われるか。織田殿は食われたのです。もし織田殿が健在ならば食われたは毛利でしょうし、戦国の世の習いを隆さんは行っただけ。隆さんが言うなと言うなら私の胸の内に留め、誰にも言いませんよ」


隆さんはジッと俺を見詰めた後、ニッコリと満面の笑みで深々と首を垂れた。


★~~~~~~★


高松城の始末の途中、長さん(丸目蔵人)が訪ねて来た。

「寄る所が有る」と言い、旅だったかと思えば又舞い戻って来て私に面会を求めて来た。

フラフラとしており、掴み所の無い、まるで雲のような方だ。


「やあ、隆さん(小早川隆景)数日振り」

「またどうされたのですか?」

「いえ、少し気になる事があって鞆の将軍様にお会いしてからまた戻って来た次第ですよ」

「鞆・・・」


何故、公方様を訪ねたのであろうか?

まさか・・・いや、父の策を読める者などこの世に居まい。

杞憂だと思うが己自身が長さんを警戒したことが解る。


「隆さんにそんなに見詰められても困りますよ。特に何か隆さんを害そうとかいう事ではなく、答え合わせしたいだけですよ」

「左様ですか・・・」


お茶らけた様な何時もの物言いで私に話し掛けて来る長さん。

警戒し過ぎだと改めて少し落ち着き話を転がす。


「それで、何が聞きたいので?」

「隆さんの策ですか?」


やはり策を読んだのか?

私の策謀だと判断して、いや、関わっていることは間違いないと踏んで聞いて来られたのであろう。

私は自分でないことを告げる。


「ふっ、私ではないですよ」

「ほ~隆さんだと踏んで会いに来たのですが・・・」


やはり・・・私と考えての行動か・・・

長さんはやはり鋭いな。

父が生前に「蔵人殿とは決して対立するな」と言っておられたのが改めて思い出される。


「父です」

「?」


長さんでも一瞬言われた事が理解できなかったようで、首を捻られる。

確かに父がまだ生きていた頃は織田殿との関係は良好そのものだった。

それを知っているから疑問が沸くのやもしれない。


「父が生前に将来、織田殿と事を構えることもあろうから、内部を切り崩しておく様にと私にだけ遺言として伝え策を授けて逝かれました」

「元就公が・・・」


目を真ん丸にして驚かれる長さん。

私も聞き及んだ当初は驚いた。


「はい、特に足利将軍家を京より追放する様な事があれば天下統一の野心ありと見てよいと・・・」

「そう言われましたか・・・」

「はい。そして、場合によっては将軍を囲い込み示唆させるようにと・・・」

「な、成程・・・」


納得した様にウンウンと頷かれる長さん。

やはりこれだけの言で全てを理解されたのやもしれぬ。

父が恐れたその智謀・・・やはり侮れぬなと改めて感じ入る。

既にばれて居るのだ、全てをつまびらかにしても問題無かろうと話を進める。



「織田家では何度も裏切り者が出ましたよね?」

「え~と・・・」


一瞬迷われたように言葉が詰まられた。

解っていても話を進める為にあえて知らぬふりで合の手を入れられておる?

まぁ話を進めよう。


「荒木に三好に松永、別所に・・・そうそう、内だけではなく外からの外圧も必要不可欠ですから、武田、本願寺等にもご協力頂けました」

「うは~」


流石に驚かれたようだ。

流石は父上じゃな、長さんの上を行くとは改めて父の偉大さを知る。


「上杉は何処の誰かさんが織田に靡かせてしまわれて、残念ながら協力は得られませんでしたけどね」

「あ~それは申し訳ない」


悪びれた様子もなく謝る長さん。

まぁそうだろう。


「いえいえ、責めてはいませんよ。策は成りましたし・・・」

「惟任の謀反ですか?」

「はい」


微笑んで策の成功を改めて噛み締める。

そうこうしておると、長さんが聞き返してきた。


「惟任殿が謀反するのは予想通りと?」

「さあ、知りません」

「え?」


意外にも驚かれたことに驚く。

確かに私も父上から聞きし時には驚いたな~と昔を振り返り、何だか嬉しくなる。

惟任に策を仕掛るのに驚いたのはもう昔のこと・・・


「父の策を実行して裏で動いたは私ですが、結果は予想していませんでした」

「それは・・・」


そう、父上ならば・・・あるいは・・・


「もしやすると、父ならこの結果を予想していたのやもしれませぬが・・・」

「幾ら元就公でも・・・」


少し訝しがられるが、無いとは言い切れぬと言う様な態度。


「父曰く、織田殿の周りで惟任殿、徳川殿、羽柴殿等の周辺は隙が見え隠れしておると言っておりました」

「隙ですか?」


私も父上から聞いた時に考えた。

本当に?と。

しかし、調べれば調べる程に父上の言が正しいと確信を持って事に当たったものだ。


「はい、本人も可能性がありますが、家臣の者に織田殿の隙を突き事を起こす者も居ると言っておりました。私は公方様を介して誘っただけ・・・掣肘せいちゅう出来たは父の策にて御座る」

「元就公も隆さんも流石ですね」

「いえいえ、父の策有っての事ですよ」


父上は流石と言えるが私はまだまだだ。

おっと、忘れぬ内に口止めは必要であろう。

長さんがペラペラと誰かに話すは想像できぬが、口約束でも口止めしておこう。


「この事は御内密に」

「勿論、誰にも言いませんよ」

「何卒、宜しくお願い致します」


私は深々と頭を下げ、懇願した。

長さんは「頭を上げてください」と言われ、私が姿勢を元に正すと長さんは語られる。


「戦国の世です。食うか食われるか。織田殿は食われたのです。もし織田殿が健在ならば食われたは毛利でしょうし、戦国の世の習いを隆さんは行っただけ。隆さんが言うなと言うなら私の胸の内に留め、誰にも言いませんよ」


何という至言!!

確かに戦国の世は食うか食われるかで、もしも織田殿が生きておられれば毛利は泡と消えたやもしれぬ。

しかし、策は成、織田殿が儚くなられた。

長さんの言葉を噛み締めて、再度首を垂れた。


〇~~~~~~〇


黒幕が明らかになりました!!

答えは献策者「謀神 毛利元就」、実行者「小早川隆景」です。

さて、信長があのタイミングでこの世を去って得をする者は毛利と長宗我部の二者です。

勿論、他にも沢山居ますが、最も切羽詰まっていたのがこの二家。

長宗我部元親も優秀で謀に長けた人物ですが、戦国時代の謀略家と言えば、「毛利元就」でしょう!!

本当はもっと掘り下げて書きたかったのですが、メインパーソンがブレるのでこの程度とさせて頂きました。

さて、皆様の予想はどうだったでしょうか?

「神」と予想した方も居ました!!

「謀神」ですから惜しいですね~

さて、実は書き始める前は毛利元就もメインパーソンにするか考えました。

しかし、あまり増やしても仕方ないな~と考え、松永久秀、豊臣秀吉、徳川家康の3人に絞って書いておりますが、実は石田三成とこの毛利元就もメインにしようか悩みました。

まぁ外しましたが・・・

今回はうんちく無しとさせて頂きます。

何となくうんちく語って濁したくないとこの話は思ったので・・・

次回からはまたうんちく入れますので宜しくです!!

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