第240話

お猿さんの軍勢が京に向うのを確認してから俺も目的地・備後のとも(広島県福山市)へと向かう。

先ず会いたい人物と言うのは将軍・足利義昭。

この地はかつて足利尊氏が光厳上皇より新田義貞追討の院宣を受けたという、足利将軍家にとっての由緒がある場所で、また、この地より第10代将軍・足利義稙が大内家の支援を受け、京都復帰を果たした場所である為、足利将軍家にとっては吉兆の地として知られている。

義昭さんも毛利家の後援を受けた際にその故事に倣いこの地に居を構え、現在はとも幕府等とも呼ばれている。

俺が義昭さんとの面会を希望すると即座に会うことが決まった。


「お久しぶりです」

「おお!!蔵人殿、久しいな~」


そう、彼と会うのは20年振り位?最後に会ったのは護衛任務の時なのでその位となる。

その当時は僧侶時代で30手前だった彼は、現在、50前となり、風格・・・いや、何かお公家さんみたい・・・

頭にも毛があり、面影はあるけど別人の様にも見える。


「態々、このともの地に麿を訪ねて来たはどんな用かな?」

「はい、少し訪ねたき事ありまして、ご訪問いたしました」

「ふむ、お聞き致そう」


そう、態々訪ねた理由と言うのは答え合わせだ。

本能寺の変の首謀者は彼だと睨んでいる。


「では、お聞きします」

「よいぞ」

「はい、織田殿(織田信長)が数日前に京の本能寺で亡くなりました」

「何と・・・しかし・・・おほほほほほ~そうか!!どの様な仕儀でそうなったのじゃ?」

「惟任殿(明智光秀)の謀反にて自害されました」

「ほう!十兵衛(明智光秀)がの~」


信長さんの死亡を口にすれば一瞬驚いた後に喜色を見せ。

惟任殿の謀反を口にすれば意味深にニヤリと笑っている様な態度を覗かせるように見える。

駆け引き苦手なのでストレートに聞こう。

いや、駆け引きが出来ないのではなく、なだけだよ。

決して出来ない訳では・・・おいこら!!脳筋だと言わない!!

いや、自分で言うのと人から言われるのは違うでしょ?


「して、惟任殿を何故示唆されたので?」

「おほほほほほ~何のことですかな?」

「いえ、惟任殿の屋敷にそちらの手の者が何度か出入りしていたことは解っております」

「ほう・・・そこまで知られておるとは・・・」

「「天下静謐」の為でしたかな?公方様は各勢力に頻繁にそのようなお手紙を送られていたようですが、惟任殿にも何か「天下静謐」の為と称して示唆された様で」


まぁ示唆した内容が謀反なのは言わずともと言うやつだ。

顔を半分扇で隠し、クックッと笑いを堪える様な仕草をする義昭さん。

バレても事が成った後なので隠す気はなさそう。


「おほほほほほほほほほ~~流石は蔵人殿、こちらの事はお見通しとは」


最高MAXのご機嫌状態でそう言って来た。

俺は冷静に言葉を返す。

まぁ駆け引きなぞ考えてないから素のまま話しているから冷静で居られるけどね。

駆け引きしながら感情コントロールとか無理無理!!


「いえ、見通しているのではなく、あくまでも考察しただけです」

「考察とな?」

「はい、考察したので気になって答え合わせにやって来ました」

「ふむ・・・確かに十兵衛(明智光秀)に隙を見て弾正忠(織田信長)を討てとは何度も御内書を送ったが・・・そうそう、そう言えば十日程前にも同じ様な内容で御内書を出したが?」


あ~情報通り。

一応は本能寺の変を警戒して惟任殿の近辺を張っていた。

その網に引っかかったから、今、俺はここに居る。


「それで、その内容はどの様なもので?」

「そうよな~四国の事、将軍就任の阻止、十兵衛への無体等を挙げ連ねたの~」


四国の事と言うのは長宗我部家に対しての信長さんのやりようだろう。

長宗我部家は確か惟任殿の家来の何とかさんが御親戚だったな。

信長さんとしては四国で力を蓄えた三好家が一時天下人だったんだから四国に巨大勢力が居るのは好まず、程々の大きさに抑えたいという狙いだったのかもしれないけど、長宗我部家にとってはいい迷惑、反抗したくはなるよね。

そこに親戚も絡むんだから状況は複雑。

惟任殿とその斎藤何某さんは板挟みで大変だっただろうね~

将軍就任阻止と言うのは、信長さんが征夷大将軍に任官される一歩手前だったと聞く。

目の前の将軍様がかじり付いていて将軍職を手放さないから近々信長さんが強硬手段に出るのではと囁かれていた。

まぁその事だろう。

惟任殿への無体とは、噂レベルなので実状は知らないけど、信長さんは惟任殿に対してパワハラをしていたとも聞く。

俺の前世の時代ではパワハラは社会問題となった程だ。

この戦国時代では「上司がパワハラするんです!!」なんて言っても取り合ってもらえない。

そもそもがトップ(織田信長)が行ったものは訴え出る場所も無い。

ああ無常、何時の世も中間管理職は大変だね~


「成程、そのような内容でしたか」

「そうじゃ」

「して、その情報は何処から獲られたので?」


そう、ここが重要。

惟任殿を示唆したのは目の前の将軍様で間違いないだろう。

タイミング良く惟任殿の琴線に触れ本能寺の変に繋がったとは思う。

しかし、ここから権威しかない将軍様が色々な情報を得るのは難しい筈だ。

確かに、この方とは僧侶時代に会い一緒に生活し地頭も良く出来る人物であるのは解っているが、本能寺の変を起こせる様な大掛かりな策謀とか描けるかと言わば疑問符が付く。

勿論、時が人を変えることもあるが、状況から考えて信長さんを今更誰かが倒してもこの方足利義昭に何のメリットも無い。

ああ、天下人打倒と言う前将軍様以来の宿願は達成されるかな?

もう天下が足利に微笑むことはないのは薄々感じているだろうし、自己満止まりではあるけど、今回は上手く事を成せたが、それを更に示唆し大絵図を描いた人物がまだ後ろに控えていると思っている。


「そうよな~〇〇〇〇はよく色々聞かせてくれるし、他の者たちからも色々と聞いおるからな・・・」


名前が出ると言う事は相当情報を流して誘導している可能性が高いし、その人物なら信長さんが死ぬことで最大のメリットを得る。

考察して予想はしていたけど・・・どうやらビンゴのようだ。

そして、俺はともの地を去り、本当の黒幕だと思う人物へ会いに行くこととした。


〇~~~~~~〇


本能寺の変には諸説あります。

羽柴秀吉が山崎の戦で惟任光秀(明智光秀)に勝利したことにより本能寺の変に関わった謀反人たちは多くが処罰され、真実は闇の中に葬られたとも云われます。

このことで、秀吉黒幕説などが囁かれます。

他にも色々な黒幕説があり、朝廷、徳川家康、足利義昭等々の黒幕説もある程に皆が皆それなりに信長を亡き者にしたい理由や動機があったようですが、未だ解明されていません。

他にも「怨恨説」や「ノイローゼ説」、「四国征伐回避説」、「神格化阻止説」、「野望説」等々があります。

あくまでも私の考察となりますが、光秀が謀反に至る過程を考えると、「ハイブリッド説」ではないかと思います。

織田軍の中でも最も頭脳明晰な光秀が一個の理由で動くというのは考えられないと思います。

問題が1個2個位なら解決出来たと思うのですが、多くの問題があり過ぎて収拾がつかないと考え、信長が天下人では解決無理と判断し、それならば自分が天下人となり解決するか~となっても驚かないですね。

勿論、数々の恨みもあったことからも、やろうと決めたのだろうな~と思うのでそれら色々なものを鑑みて本能寺の変を敢行したんだろうな~と考察しております。

さて、私の黒幕考察は次回として、実は本能寺の変の信長の最後は「敦盛あつもり」を舞、そして自害したと言われます。

この作品でもそれを取り入れるか迷いましたが、色々と主人公と話した上で舞いを舞う?時間的に余裕ぶっり過ぎてリアリティに欠けると判断し、泣く泣く舞わせることを諦めました。

炎の中で敦盛を舞う信長って絵になると思うので話に盛り込みたかったんですけどね・・・

では、その「敦盛あつもり」と言うのは如何いうのもか?

幸若舞の演目の一つで、作者などは不明のなのですがこの当時は人気の曲目だったようです。

今で言う結婚式で「高砂」を謡う様なものです!!

いやいや~いくら何でも「高砂」とか古過ぎとツッコミが聞こえますね・・・今風に言えば「愛をこめて花束を」Superflyとか「花束のかわりにメロディーを」清水翔太とか「Sugar 」 Maroon5とか「未来へ」Kiroro、辺りですかね?まぁ人によりますけど。

さて、話を戻し。

信長はこの「敦盛」を特に気に入っていた様でよく舞ったようです。

「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり、一度生を享け、滅せぬもののあるべきか」というフレーズが有名ですが、これは中段後半の一節にすぎません。

さて、この「敦盛」ですが、平敦盛と言う人物が中心の作品です。

何と人名なんですね~

敦盛は平清盛の甥で平経盛の子、若き笛の名手と知られた人物で、この人物を最も有名にしたエピソードを謡ったものです。

そのエピソードとは一ノ谷の戦いの際に起こった出来事なのですが、平敦盛は退却の際に愛用の漢竹の横笛を持ち出し忘れ、これを取りに戻ったため退却船に乗り遅れたそうです。

勿論、船に乗ろうと波際で馬を飛ばし船を追います。

そこを源氏方の熊谷直実と言う武士が見つけ、立派な甲冑を身に着けた敦盛を目にすると、平家の有力武将であろうと一騎討ちを挑みます。

敦盛は逃げる事を優先し一騎打ちに応じませんでした。

熊谷直実は一騎打ちに応じないなら兵に弓を射らせると脅し、一騎打ちを取り付けます。

若武者の敦盛は実戦経験が乏しかった為、難なく直実に組伏されます。

直実が首を落とそうと敦盛の顔をよく見れば、元服間もない若武者だと気が付き、名を尋ねてから初めて、数え年で16歳の平敦盛であることを知ります。

直実は自分にも同じ年の息子が居り、この戦いで討死したばかりで、同じ16歳の若武者を討つのを惜しんで躊躇います。

これを見ていた他の源氏方の他武士が、首を討とうとしない直実の姿を訝しみはじめ、「直実に二心あり。直実諸共討ち取れ」との声を上げ始めたので、仕方なく直実は敦盛の首を討ち取ったと云われます。

戦は終わり、この出来事から直実は世の無常を感じるようになり、出家を決意して世をはかなむというストーリーになります。

信長はここぞという時はよくこの「敦盛」を舞ったようで、桶狭間の戦い前夜に舞ったことでも有名な演目です。

次回、黒幕とご対面!!

そう言えば、皆さんの考える本能寺の変の黒幕っています?

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