第237話
俺が通された先にには隆さん(小早川隆景)以外には2名居た。
吉川さんはどうやら今回は居ない様なので締め出されたのかも?
会う度に俺に噛みつくからな~そろそろ締め出されるかも?とかも思っていたけど・・・ああ、無常、南無~と唱えておこう。
「お初にお目に掛る、丸目蔵人長恵と申す。朝廷より三位蔵人を賜わっております。」
早速、ご挨拶。
毛利家に長滞在したこともあるけど会う人なんて限られたいたし、お初の人も居るからね。
目の前の人物もお初の顔合わせ。
多分、毛利輝元であろう。
何となくそんな感じがする。
元就爺さんの面影が・・・え~と・・・目元が?鼻っ面が?・・・う~ん・・・よく解らん。
似てるかも?・・・いや・・・何処が似てるとか、聞くなし~
いや、きっと母親似なんだよ!!
それよりも、取り合えず交渉なので使える物は何でも使うという事で、官位も言ってみちゃいました。
こんな時位有効活用しないとね!!
「これはご丁寧に、某は毛利家当主、毛利右馬頭輝元と申す。お噂は又四郎叔父(小早川隆景)より聞いております」
やはり毛利輝元さんだったようだ。
しかし・・・え?何を聞いているかは怖くて聞けんな・・・
隆さん(小早川隆景)が俺の事を・・・変なこと言ってないよね?
割と好印象なので悪くはないはず!?
さて、もう一人は何処かで見た様な?・・・
「お久しゅう御座いますな。大友の件依頼ですな」
あ~こっちは少し敵意を感じるけど・・・誰だっけ?
大友の件?・・・おお!!そう言えば昔々のちょっと昔に大友と毛利の仲取り持ってあげたな~
まぁ犬猿過ぎてその後も暗闘繰り返していたけど・・・
取り合えず「あの時はお世話になりました」と言っておいたけど、渋い顔をされたよ。
確かにあの時に目の前の坊さんいたけど・・・名前など覚えてないわ~
あるよね~顔は解るけど名前の出てこない知り合い・・・今、まさにその状態。
「これ、
凄~く挑発的な態度だったことを当主の輝元さんに注意されている。
注意された
うん、俺に謝る気はないのだろうね。
さて、そんな事はどうでもいいけど、あ~このお坊さんがあの
確か毛利の外交坊主と言われる人物だな。
ニッコリと微笑んでいる様な顔だけど全然目が笑ってないよ。
まぁいいけどね~
輝元さんが話を進めたいという様に聞いて来た。
「それで、丸目殿はどの様な用件で?」
「はい、織田家の羽柴殿の依頼で、和睦の仲介にやって参りました」
「仲介ですか?」
「はい」
そう、俺の依頼されたのは和睦する為の土台作り。
条件とかはお互い担当者で話してくれよ。
俺はあくまでも中立の立場での仲立ちだよ。
「ほほ~仲介ですか」
「はい」
ネゴシエイターと言うものはどの時代もこんな人物なのだろうと思わせる。
さて、如何する?
「羽柴殿たちは急に和睦を考えるなぞ、何か織田家でありましたかな?」
「はい、ありましたね。だから急ぎ和睦したいから某が仲介役として伺った次第ですよ」
俺が駆け引き等無視して事実を言ったので三人とも驚いている。
いや~俺が駆け引き?・・・は~無理、無理!!
自他共に認める脳筋だよ?脳筋剣豪に駆け引き?それも、チート知将の隆さん(小早川隆景)と毛利の外交スーパー僧侶の
端から無理過ぎ。
勿論、オリンピック選手の様なアスリートでも政治家と政治討論できるほどの頭脳持ったスーパーアスリートは居ると思うけど、残念なことに俺は脳筋アスリート・・・自分で言ってて悲しくなるわ~
まぁそれはいい、取り合えずその事は遠くの彼方に放り投げて、それなら駆け引きなぞ考えずにゴリ押し一択でしょ!!と言う事で交渉やっちゃいましょう。
「所で・・・織田家で何があったのか・・・」
「え?知りたいので?」
「是非!!」
まぁそうだよね~知りたいよね~
羽柴勢としては、毛利に信長さんの死が伝わると不味いので隠したまま交渉する必要がある。
しかし、俺は特に条件を付けられていない。
あくまでも毛利との仲介がお仕事。
「本日、早朝に京の本能寺にて織田殿(織田信長)が自害しました」
「「・・・」」
当主と坊主が固まって目が点になっています。
脳が処理落ちしたんでしょうね~まぁよくある出来事。
そして、二人とも大きく目を見開き「誠(です)か?」と聞いて来る。
「はい、誠ですよ」
「自害とは何があったのですか?」
「謀反です」
「謀反?・・・誰が謀反を!!」
「惟任(明智光秀)の軍勢に本能寺は囲まれまして多勢に無勢で奮戦虚しく自害されました」
「何と・・・しかし、俄かには信じられませぬ・・・」
うん、驚きながらも
「あ~私も織田殿に加勢して戦いましたから」
「はぁ?戦った?京で?」
「はい」
まぁ京との距離考えると今日の朝に京に居たのに、今、夜も遅い時間といえど備中に居るのは時間と距離考えて無理があるよね~
新幹線も飛行機も、更には車も無い時代に物理的には難しい、いや、無理と行っていいのにここに俺が居る。
「丸目様・・・」
「何でしょうか恵瓊殿」
「京に朝方居られたのに、今、ここに居るのは不可能です」
「いえ、事実ここに居ますよ。他者や貴方が無理でも、某たちには可能なのです」
おう!美羽の飛行輸送能力を嘗めんなよ!!
まぁ信じるか信じないかは毛利家次第。
俺は事実を述べるのみ。
★~~~~~~★
左衛門佐様(小早川隆景)より右馬頭様(毛利輝元)の補佐に着く様にと言われ、右馬頭様のお側近くに控えて待つこと暫し。
左衛門佐様が丸目三位蔵人様を連れて右馬頭様の御前に来れれた。
「お久しゅう御座いますな。大友の件依頼ですな」
「あの時はお世話になりました」
嫌味を込めて言うと、笑顔で「世話になりました」などと
己の顔に張り付けている笑顔がつい崩れてしまった。
その様子を見ていた右馬頭様(毛利輝元)が拙僧を窘める様に物申された。
「これ、
「これは失礼しました」
失礼は承知であるが丸目様に頭を下げとうないという気持ちが沸き、本来は丸目様に向かって下げる頭を右馬頭様の方に向けた。
拙僧の失態を誤魔化す様に右馬頭様が丸目様に話し掛けられた。
「それで、丸目殿はどの様な用件で?」
そう、丸目殿は羽柴軍の陣営より来られたことは物見の者の知らせで知れておる。
来た所から考えるに降伏勧告でもしに来たか?
「はい、織田家の羽柴殿の依頼で、和睦の仲介にやって参りました」
「仲介ですか?」
「はい」
和睦?有利に事を進めておる羽柴勢が何故和睦を考える?
それに、仲介?交渉役として来たのでは無いのか?
全く解らぬ。
大友の時もそうじゃったが、人を食ったような方じゃ。
飄々としておるが侮れぬ。
「ほほ~仲介ですか」
「はい」
何がそんなに嬉しいのかと思う程の満面の笑みで答えられる
揺さぶりを掛ける為に質問すると
「羽柴殿たちは急に和睦を考えるなぞ、何か織田家でありましたかな?」
「はい、ありましたね。だから急ぎ和睦したいから某が仲介役として伺った次第ですよ」
まるで隠す気が無いように「是」と答える丸目様。
何じゃこの気持ち悪さは・・・ここは「否」と言うが普通であろうが!!
それならば聞いてやろう。
「所で・・・織田家で何があったのか・・・」
「え?知りたいので?」
「是非!!」
本当に飄々として人を食った態度・・・
言えるなら言って貰おうか!!
「本日、早朝に京の本能寺にて織田殿(織田信長)が自害しました」
「「・・・」」
理解が及ばないというのはこの事だろう。
言葉を失い固まってしもうた。
しかし、それは右馬頭様も同じだった様じゃ。
気になるのは左衛門佐様・・・驚いてはいるが、拙僧たちの驚きとはまた違ったご様子。
「誠(です)か?」
意識が戻るや否や言葉を発す。
主君(毛利輝元)に言葉を被せて丸目殿に聞いてしまった。
主に対して無礼ではあるが、今はそれどころではない。
しかし、右馬頭様が丸目様に御下問なので聞くに徹する。
「はい、誠ですよ」
「自害とは何があったのですか?」
「謀反です」
織田信長・・・何度か今は亡き元就公の使いで会ったことはある。
高転びすると思うておったが何という事じゃ。
毛利に神風が吹いた!!
「謀反?・・・誰が謀反を!!」
そう!誰が謀反を?
考えられるとすれば・・・徳川か?
「惟任(明智光秀)の軍勢に本能寺は囲まれまして多勢に無勢で奮戦虚しく自害されました」
「何と・・・しかし、俄かには信じられませぬ・・・」
惟任・・・まさか!・・・織田家で最も信任篤き者が裏切り?・・・
俄かには信じられぬ。
そう言えば、「本日、早朝」と丸目様は言われたな。
勘定が合わぬ事よ。
今日の朝に京で起こったというにこの備中にそれらしき知らせを届けるのには時間が足らぬ。
気持ちのままに信じられないことを告げれば、驚いたことを言われる。
「あ~私も織田殿に加勢して戦いましたから」
「はぁ?戦った?京で?」
「はい」
信憑性が失われるような気さえするが、丸目様は神仏と対話し、天狗の弟子じゃ。
信じられぬと思いつつも「丸目様なら」とも思えてしまうことが恐ろしい。
しかし、聞かずにはおれぬ。
「丸目様・・・」
「何でしょうか恵瓊殿」
「京に朝方居られたのに、今、ここに居るのは不可能です」
「いえ、事実ここに居ますよ。他者や貴方が無理でも、某たちには可能なのです」
信じるか信じないか大きな賭けじゃ。
この選択肢を間違えば・・・毛利家の先は暗いと感じた。
丸目様は最後に幾つか述べられて陣を去られた。
「和睦をする気があるなら羽柴殿の陣に使いを寄こしてください。おっと、毛利家は家訓で天下を狙わないのでしたな。それが本当なら今回の件で将来の天下人に貸しを作るのもありかもしれませぬよ。何にしても今回の件は大きな貸しとなりそうですしね。毛利家としても時が必要でしょ?」
将来の天下人・・・確かに主を討った謀反人を倒せれば織田家内で株は鰻上り。
天下人は言い過ぎであろうが、天下人に近い位置に行くのは間違いなかろう。
そんな人物に恩を売るのは確かに悪くないが・・・何とはなしに癪に障る・・・
毛利家に時が必要なのも事実・・・
言っていることは至極真っ当でぐうの音も出ない。
緻密に計算された流れでこちらをまるで手玉に取るように、また、煙に巻く様にも感じる仲介であったが、何も考えておらず感じるままに話しているだけにも感じる・・・
戦には殆ど出ておらず諸国を漫遊するのみとも言われるが・・・雲の様に掴み所は無い・・・実に人を食った様な飄々とした御仁じゃ。
御仏の手の上で踊らされている様なそんな感覚に陥る。
やはり拙僧はどうやらこの方を毛嫌いしておる様じゃ。
今、改めてそれを実感した。
〇~~~~~~〇
ネゴシエイト回でした。
さて、毛利家との和睦交渉ですが、安国寺恵瓊と黒田孝高(官兵衛)との間で行われたようです。
毛利家は備中・備後・美作・伯耆・出雲の五ヶ国割譲と城兵の生命保全を提示したと云われます。
それに対し羽柴側は五ヶ国割譲と城主の清水宗治の切腹を提示。
清水宗治の切腹と言うのがネックで一旦は交渉決裂しました。
しかし、元々が清水宗治の救援は不能だったので毛利側は清水宗治に秀吉に降伏するようにと伝えたようですが、清水宗治は「主家である毛利家と城内の兵の命が助かるなら自分の首はいとも安い」と述べたことにより交渉再開となります。
その頃、明智光秀から毛利方に送られた使者を秀吉方は捕らえた様で、毛利方に本能寺の変の情報は伝わらず交渉が再開されたようです。
まぁこの物語ではそれよりも早く本能寺の変を毛利方が知ることとなりましたけどね。
しかし、この密書を手にした秀吉たちも何時までも本能寺の変の事を隠し通すのは無理と判断し、和睦を急ぐという方針にしたようです。
秀吉たちにとっては後ろ盾の信長が既にこの世に居ない事実を毛利方に知られるリスクよりも早急に和睦して京に向かうことを最も重要に考えていたことと、毛利家は高松城城主の清水宗治が自ら切腹OKと言っているし、和睦して時を稼げるというメリットから判断しこちらも早急な和睦との意見となりここに和睦が成立しました。
城主の清水宗治は秀吉から贈られた酒と肴で別れの宴を行い、城内を清め身なりを整えて、秀吉から差し向けられた小舟に乗って秀吉の本陣まで漕ぎ、杯を交わしたと云われます。
そして、清水宗治は舞を踊った後、「浮世をば 今こそ渡れ
何か現代人の考えるThe武士と言う感じの自害ですね~
詠んだ辞世の句もストレートで捻りなど全く無いですけど、それがまた良いですね~
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