第236話

お猿さん(羽柴秀吉)の陣営は慌ただしい。

現在、毛利とガチ四つで組み合っている状態でこのままでは京に向かうなど出来ない。

やることは2つ。

1つは毛利と和睦。

しかも、毛利に信長さんの死が伝わると不味いので隠したまま交渉する必要がある。

でも、現在優勢な状態で和睦?・・・疑うよね~何かあるなと・・・

2つ目は中国大返しのプラン構築。


「長さん」

「お猿さん、落ち着いた様だな」

「ああ・・・それで、聞きたいことがある」

「何だ?」

「京に戻って惟任(明智光秀)を討てるかな?」


あ~俺の「神託」と巷で呼ばれる、本当は歴史を知る知識チートを宛にしているのであろう。

俺の知る歴史では討ってるね~しかし・・・

う~ん・・・討てるか討てないかじゃないと思うけど・・・

おし!俺の知る歴史の話ではなく、俺の熱い気持ちを伝いることとした!!

どうせ結果は決まっている事だろうしね~


「お猿さんよ~「討てるかな?」って?」

「いや、長さんなら先の世を見通せると聞いたことあるし・・・」

「おいおい、織田殿から「後は任せた」と言われたんだぞ?お前さんは。「討てるかな?」じゃなくて「」だろ?」

「お、おう、その通りじゃ!!

「その意気だ!!」


気合を入れ直してやれば「必ず討つから見とってちょ~よ」と言いながら去って行った。

鼻息が荒いから力み過ぎて失敗しないか心配だが、黒官(黒田官兵衛)も居るし、賊軍(明智勢)とぶつかる頃には良い塩梅になっていることを期待しよう。

今度は秀さん(羽柴長秀)がやって来て俺に話し掛けて来た。


「長さん」

「何?秀さん」

「長さんは毛利とも懇意にしておると聞いたのじゃが」

「まぁね~小早川殿とは文通しておるよ~」

「そこでお願いがあるのじゃが・・・」

「何かな?」

「丸目三位様に依頼致します。毛利との和睦を取り持って頂きたい!!」


真剣な顔で秀さんがそう言って来た。

深々と頭を下げて俺の回答を待つ。

今、毛利と和睦する上でこの場で最も確率が高い人物は俺かもと自分でも思うから依頼されたのなら引き受けても良い気がする。

史実でも和睦しているし、実績あるからね~楽な依頼だよね?

楽な依頼で報酬出るとか美味過ぎるわ~

それに、会いたい人物もいるしね。


「羽柴小一郎殿、そのご依頼承ろう」

「有難し、この件に関しては成功の暁にはその労に報いたいと存じまする」


うん、この時代の恩に報いるって基本は成功報酬なんだよね~

成功したのに報酬を渡さないとかして関係が拗れる。

また、失敗しても報酬を求める場合も関係が拗れる。

依頼して失敗しても苦労掛けた事に対しては事前に経費含めて依頼料渡すのが基本だから言わずともそれなりの依頼料が渡されるので求める必要もない。

依頼料をケチると言う事は失敗してもOKとみなされる。

と言う事で渡された金子は可成りのものだった事から和睦を期待しているのは間違いないようだ。

まぁここが正念場だしねケチるなぞないか~


★~~~~~~★


織田の軍勢が攻めて来た。

以前より何時かぶつかる事となるということは予想しておった。

先鋒の羽柴軍は中々の戦上手である。

手をこまねいて居れば、瞬く間に領地を蹂躙される事は必定。

現に播磨を平定後、因幡へと侵攻し、毛利家の勇将である小太郎殿(吉川経家)を自害に追いやり、今は長左衛門尉ながざえもんのじょう殿(清水宗治)の守る(備中)高松城にまで攻め入って来た。

高松城は平城ではあるが湿地帯を利用した難攻不落の城じゃ。

湿地は敵の侵攻を遅らせ、敵を疲弊させる。

そこに長左衛門尉ながざえもんのじょう殿率いる五千程の兵が守るのじゃ、落ちるにしても時間は相当に掛かろうし、敵の将兵にも多くの死傷者が出ると見込んでおった。

案の定、羽柴勢もそう見た様で、長左衛門尉ながざえもんのじょう殿に降伏の使者を送って寄越したそうじゃ。

「降伏すれば備中・備後二カ国を与える」と言う何とも豪儀な提案であったという。

忠義者の長左衛門尉ながざえもんのじょう殿は、勿論、この降伏勧告に首を縦に振らなかった。

織田殿の誓詞をそのまま主君である少輔太郎しょうたろう様(毛利輝元)に指し出して来た。

封すら切らずに届けられたそれを見た者たちはその忠義に賞賛の声を上げた程じゃ。

羽柴勢はそれを知り、城攻めを敢行する事を決めた様じゃ。

守は易く攻めるには難しい城である為、ここを攻め落とすにしても時間が掛かろうと思い色々と思案しておったが、羽柴軍は高松城を取り囲む様にせきを作り始めた。

何を考えておる事かと思えば水攻めをすると言うではないか。

探りを入れてみれば近くの村々の農民どもにも声掛けして急ぎ堤防を作っているという。

その作業の給金も破格であったことから多くの者が喜び勇んで協力して急速に完成したという。

探りの者もここに紛れ儲けたと騒いでおったと耳にしたが、聞かなかったことにしておいてやろう。

さて、勿論、長左衛門尉ながざえもんのじょう殿からは援軍要請が来た。

少輔太郎しょうたろう様(毛利輝元)に兄(吉川元春)と私(小早川隆景)も援軍として出陣した。

三万の軍勢で向かったので羽柴勢にひけは取るまいて。

少輔太郎しょうたろう様は猿掛城に布陣し、高松城に近い岩崎山(庚申山)に兄(吉川元春)、その南方の日差山に私(小早川隆景)が布陣して羽柴勢と睨み合う。

丁度、高松城を囲むような形での対峙となった。

眼下の高松城を見れば湖に城が浮かぶような形となっておる・・・陸の孤島と言うのはまさにこのような状態を言うのであろうと思える惨状だ。

時期は初夏、蒸し暑く城の中は湿気で大変な事になっておろう。


少輔太郎しょうたろう様、如何されますか?」

「うむ・・・」


主君・少輔太郎しょうたろう様は今は亡き兄(毛利隆元)の忘れ形見である。

私との関係は甥・叔父の関係となる。

昔から知っておるが、煮え切らぬ性格で、今も如何すべきか迷っておられる。


「高松の将兵は虫の息に御座いますぞ!!早うお決め頂きたい!!」

「うむ・・・」


兄(吉川元春)の叱責が飛ぶ。

それでもまだ決め兼ねられているようじゃ。

しかし・・・羽柴の調略はほとほと困らせられる。

今、我らが動けぬのもそれが影響。

特に水軍への調略が手痛かった。

少輔太郎しょうたろう様の迷われる気持ちは今回だけは解ると言うもの。


「急ぎ報告したき儀が御座います」

「申せ!!」

「はっ!、丸目蔵人様を名乗る方が訪ねて来られております」


伝言の兵の知らせでは羽柴よりの使者として長さんが訪ねて来たという。

そういえば、羽柴殿とも懇意にしておられたなと納得しておると、兄(吉川元春)が騒ぎ出す。


「な~に~?あの舌先だけの似非剣豪が何しに来た!!」


兄と長さんは反りが合わぬ・・・兄には申し訳ないがご退場頂こう・・・


「兄上・・・敵方の使者として来られたでしょうが、事を荒立てる訳にはいきませぬ」

「だから何じゃ?」

「失礼な態度で接せられるのなら・・・」

「何じゃ?」

「ご遠慮願いたい」


その後も吼える兄に言い募り何とか抑え込み、今回は私と少輔太郎しょうたろう様でお会いすることとした。


★~~~~~~★


秀さん(羽柴長秀)に依頼されて書状を認めようかと言われたが仲介だけでの予定なので先ずは向こうが和睦の意思があるかの確認に向うとだけ言って俺は毛利家本陣へと参上した。

既に羽柴軍と高松城を挟み対陣しているので目と鼻の先なのでお使い気分で向うこととした。


「そこの者!何様じゃ!!」

「あ~某、丸目蔵人と申す」

「え?丸目蔵人様?」

「はい、本日はお日柄も良く、羽柴殿の依頼にて和睦の使者として罷り越しました」

「え~と・・・暫くお待ち頂きたい・・・」


話し掛けた兵士さんは急ぎ報告に向かったようなので俺はボーと回答待ちで空を眺める。

少し待つとお迎えに隆さん(小早川隆景)がやって来た。


「やあ、隆さんお久しぶり」

「お久しぶりです」

「今日は羽柴のお猿さんの弟さんに頼まれて和睦の斡旋に来たよ~」

「さ、左様ですか・・・羽柴のお猿さん・・・プッ!・・・の弟殿の依頼ですか・・・」


隆さんはお猿さんという言葉がツボに入った様で笑いをこらえながら聞き返して来たので「そうだよ~」と答えておいた。

嘘偽りは無いしね~

さて、気を引き締めて、交渉の時間だ!!


〇~~~~~~〇


備中高松城の戦いに関与!!

さて、この戦いは羽柴軍が毛利家とガチ四つで組み合って対峙していた戦いですが、城自体は水没させられ陥落寸前の所を信長の援軍待ちで羽柴軍はのんびり戦っていたようです。

毛利家は援軍として毛利家当主の毛利輝元に両川こと吉川元春・小早川隆景の両名も出陣して来ました。

毛利家はここを天王山と考えての行動だったようです。

羽柴軍は堤防建造の土木工事で時間にある程度余裕があった様で調略にも手を加えていた様で、人たらし《羽柴秀吉》と腹黒黒田官兵衛の本領を発揮していたようです。

成果としては中々のもので、特に来島水軍や高畠水軍、塩飽水軍が離反し毛利水軍が機能不全を起こし制海権を失う程だったようです。

この影響で毛利家は援軍に駆け付けたはいいけど動くに動けなくなったと云われています。

何故動けなくなったかというと陸上輸送だけの輸送手段となった毛利軍は絶望的に物資不足に陥り、輝元の本陣でさえ物資不足であったと云われます。

さて、羽柴軍は高松城を眼下に捕らえる竜王山に布陣していたようです。

低湿地を利用した平城で山に囲まれた窪地で沼の様でもあった為、沼城等とも呼ばれたそうです。

城を守るのは賢将としても知られる清水宗治で3,000~5,000名程の兵で守っており、易には攻め落とせる状況ではないと判断し蜂須賀家政(蜂須賀正勝の息子)・黒田孝高(官兵衛)を使者として降伏勧告を行ったそうです。

その際には本文中でも書きましたが、「降伏すれば備中・備後二カ国を与える」という条件で、しかも信長からの誓詞だった様なのですが、そのまま主君である毛利輝元に届けて忠義を示したと云われています。

堤防は門前村(JR吉備線足守駅付近)~蛙ヶ鼻(石井山南麓)までの東南約4km、高さ8m、底部24m、上幅12mという途轍もない長堤を造り、足守川の水を堰き止めてその後流し込んで水攻めにしたそうです。

築堤奉行には蜂須賀正勝が任命され、兵士だけではなく近隣の村々に声を掛けて堤防工事を行いました。

土嚢を積み上げての堤防だったらしいのですが、その土嚢1俵に付き銭100文、米1升という当時としては非常に高額な報酬で人員募集した結果、多くの者が参加したようです。

作中では毛利が3万の兵士動員をしたことを書いておりますが、実際は1万程度だったとかも云われます。

また、毛利の兵士数は資料によっては5万だとか、「惟任退治記」という書物では8万だとか記載があるようですが、秀吉方の物なので盛に盛っているようです。

さてさて、そんな最中で京で本能寺の変と言うクーデターが起こります。

続きは次回!!

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