第231話
「上様!!て、敵襲です!!」
「何?・・・何処の手の者じゃ?」
「わ、解りませぬ・・・」
就寝前の出来事である。
外が騒がしいとのことで何処かの者が喧嘩でもしておるのかと思うたが気になって人をやり物見させると、ここが兵に囲まれていると言う。
物見の者は血相を変えて戻って各所に通達しつつ急ぎ儂に知らせに来たと言う。
その後直ぐに鬨の声が聞こえたのでもしやすると攻めかかって来たのであろう。
何者かの襲撃を受けたことをお蘭(森蘭丸)が儂に伝えて来た。
少しすると別の者が桔梗紋の旗印が見えたと追加で伝えて来た。
桔梗紋の旗物差しをした兵でこの場所に軍を送れる可能性がある者と言う事を考えるとキンカン頭(明智光秀)より他に考えられぬ。
「キンカン頭か・・・」
「惟任様(明智光秀)はお味方ですよ?」
お蘭は懐疑的なようじゃが、他に候補者はおらぬ。
本能寺の寺内は蜂の巣を突いた様な大騒ぎである。
儂が常宿の一つとした為、改修され堀を深く防御面は中々のものになっておるが・・・如何せん今は人が少ない・・・
明智軍は一万三千の兵を揃え出陣予定であったな・・・
毛利征伐前にキンカン頭の軍勢に激励の為に出迎える予定であったから報告で揃えた兵数は解ったおったが、その軍勢をこちらに向けて来たか?
何時から狙っておったのやら用意周到なキンカン頭のすることじゃ綿密に練られた計画であろう。
それにしても、一般の兵士たちですら本能寺が儂の寝所の一つであることは知っておろうが・・・謀反に皆が加担した?あり得んな・・・では如何にして皆を
そんな思案をしておると攻めて来た軍勢の情報を教える者が現れた。
「明智勢で間違いないですよ」
「是非に及ばず」
★~~~~~~★
急ぎ空を駆けて京に到着したのは陽も落ちて暗くなった時間帯だった。
見れば既に本能寺は明智勢に包囲されていたので上空から本能寺に直接降り立つ。
暗闇に乗じて降り立ったので誰も気が付くことはなかったようだ。
本能寺に降り立つた俺たちは先ず信長さんを探す事とした。
直ぐに蘭丸君の姿を見つけたのでそのまま着いて行くと、信長さんの寝所らしい場所に到着した。
隠形を使い気配を消して様子を窺うこととした。
登場と言うのはタイミング重要だからね!!
「上様!!て、敵襲です!!」
「何?・・・何処の手の者じゃ?」
「わ、解りませぬ・・・」
少しすると他の家来さんが追加情報をもってやって来た。
「上様!!桔梗紋の旗印が確認されました」
それを聞いた信長さんは少し考えて回答に行き着いた様だ。
「キンカン頭か・・・」
「惟任様(明智光秀)はお味方ですよ?」
やはりチート武将と言うのは頭の回転が速いね~何を根拠にそれを弾き出したのか、正解を導き出す。
俺とは大違いだと?・・・俺は脳筋武将・・・いや、脳筋剣豪です!!
おっと、自分で脳筋を認めてしまったよ・・・
何か信長さんが考え込んでいるけどタイミング良さそうなので声を掛ける。
「明智勢で間違いないですよ」
「是非に及ばず」
あ~正解を聞いても当たり前の様に言い、冷静ですね~
まぁ予想通りだからだろうね。
逆にその場にいる数人の小姓さんたちが「何奴!!」「怪しい奴め」「天狗!!」等々の大騒ぎ。
一応味方だから刀向けるなよ。
信長さんの「鎮まれ!!」の号令までは大騒ぎだったよ。
俺は徐に天狗面を外してご挨拶。
「夜分に申し訳ない。勝手にお邪魔させて頂きました」
「丸目殿か・・・竹千代(徳川家康)と一緒では無いのか?」
「忘れておったことを思い出して私はこちらに伺いましたが、家さ、徳川殿は畿内より退避頂くべく別行動です」
「そうか・・・して、明智勢で間違い御座らぬな?」
「はい、間違いないです」
そして、信長さんは家臣さんたちに命令した後は人払いして俺と話したいと言う。
蘭丸君がごねたけど「従え」との信長さんの一言で渋々とその場を出て行ったよ。
「さて、丸目殿は儂に何用かな?」
「いえ、知り合いを助けに来ました」
「わははははは~実にひょうげたことを言われる」
「いえ、織田殿一人くらいなら助け出せますよ?」
「家臣を捨てて一人逃げる等、大将とは呼べぬわ!!儂が死しても息子の奇妙(織田信忠)が居るし、キンカン頭の世にはなるまいて」
う~ん・・・確かに三日天下と呼ばれる位短かったと思うけど、確か息子さんも亡くなるから織田家大混乱したんじゃなかったっけ?
「え~と・・・」
「どうされた?」
「中将殿(織田信忠)も確か亡くなります」
「奇妙が?・・・それに、「確か亡くなります」とは?まるで先の世が分る様な言いようじゃな・・・あ!・・・松永が丸目殿は先が視通せる神の目を持つというておったな・・・何を馬鹿なと思うておったが・・・誠であったか・・・」
いや~視える訳ではなく少しだけカンニングしているだけなんですよ~と言いたいが、言っても意味無いから言わない!!
また思案に入ったようだ。
「
うん、何か自分と長男さんが亡くなった後の未来構想を始めたよ・・・やはりチート武将のそれも信長の様な英雄クラスは頭の構造から違うらしい・・・意外と先の出来事を言い当ててるよ。
信長さんと嫡男さんの死後にお家騒動で家が割れる。
次男三男の争いが元で織田家の力が落ちたと俺は見ている。
まぁ俺の様なへっぽこ武将の見立てなぞ見当はずれかもしれないけどね。
藤林の諜報にそれらしく言っておこうかな~・・・いや、起こるであろうことだけ簡潔に伝えよう・・・俺の考え入れると不味い気がする・・・
どうやら信長さんは自分で考えるのを止め
「おっと、済まぬな。して、儂の死後はどうなるので?」
信長さんは先の未来を聞いて来た。
俺は自分の知る先の未来を話す。
お猿さん(羽柴秀吉)が次の天下人となり、その次が家さんが天下人で300年程も続く幕府を立ち上げる事を告げた。
「わははははは~猿が天下人か!そして、竹千代もか!!猿が天下を取ると・・・悪くない」
何故か信長さんは大喜びです。
意外と信長さんの中でお猿さんの評価高そうだね~
まぁ明智光秀の次に出世頭だったみたいだし評価高いの当たり前か。
「それで、織田家は残りますかな?」
武士はやはり家が残るかどうかを気にする様なのでこの質問来ると思ったよ。
三好長慶すら気にしたことだし、信長さんが気にしないのは無いと思っていたからあらかじめ予想できた。
そう言う訳ですんなり回答。
俺は「残ります」と一言だけ伝えた。
そして、それを聞いた信長さんは「気が晴れた」と言い何とも清々しい顔をして立ち上がる。
「儂は最後の戦をしてまいります」
「では、我らも助太刀いたしましょう」
「良いので?」
「はい、少し位はお手伝いいたしましょう」
俺は天狗面を被り直し信長さんと共に戦いに赴く。
俺は俺で敵兵に斬り掛かった。
「天狗じゃ!」「天狗が出たぞ!!」等と敵兵大騒ぎの中、俺・美羽は斬りまくったよ。
鉄砲や弓も使われそうになって焦ったけど、千代が何らかの方法でそれらを撃退。
撃とうとした瞬間に慌てふためきあらぬ方向に攻撃するから幻術?でも行き成り倒れたりもするから他にも何かやっていそうだ。
戦いながらなので観察は中々難しいからよく解らんが、俺と美羽のサポートについてくれているから凄く助かる。
うん、この件が終わったら何やったか教えて貰おう。
時間が過ぎて行くと奮闘はしたけど多勢に無勢で追い込まれて来た。
空も少し白んで来た。
夜明け間近と言ったところか?
出来らば闇に乗じて逃げたいんだけどね~
そろそろ俺たちも逃げる算段をする時間まであと少しとなってきた。
「最早ここまで!!自害するから時を稼げ!!」
「「「「「はは~!!」」」」」
信長さんはもう駄目と思ったようでそう言った。
潮目を見ると言うのはこんな感じなんだろうね~絶妙のタイミングです!!
俺も逃げる事考え始めてたしね~判断が素晴らしいね。
そして、俺も退散のご挨拶に信長さんの許に行くと、俺に
最後の頼みだし無下にはしないよ。
助けられないのは残念だけど、信長さんの最期を看取ること誉としよう。
★~~~~~~★
「斎藤様!!天狗が現れたそうです」
「何を馬鹿な・・・神仏がそう易々と人に味方する訳なかろう!!」
「ただの見間違いか、天狗に化けた人じゃ!!敵方の攪乱じゃ!!それよりも、早く首を取るのじゃ!!」
殿(明智光秀)にお願いして先陣を承った。
何が何でも上様(織田信長)の首を取らねばならぬ。
首が取れるかどうかで今後の事が大きく変わる。
首が取れない場合は厳しい事となろう・・・
首が取れたとしても厳しいが、あるなしで大きく変わる。
それにしても多勢に無勢なのによく守っておるものよと感心する。
機会を狙っての事であったが、もう少し多くの将兵が敵方に居ればと考えるとゾッとする話じゃ。
しかし、中々落ちぬ・・・
報告で天狗と共に上様(織田信長)が戦っておると言う。
天狗と鴉天狗が無類の強さで、一騎当千とはまさにこの事と思えるほどの獅子奮迅振りと聞き前線に出て戦う様を見れば、恐ろしいまでに強い。
天狗は兵を一太刀の下に斬り殺しておる・・・鴉天狗は天すら駆けておる・・・
狐面の巫女も怪しき妖術の類の様な物を使って鉄砲隊や弓を翻弄していた。
本当に物の怪の類ではないかと疑う程じゃ。
時が経ち、追い詰めるまでに至った時、上様が叫ばれた。
「最早ここまで!!自害するから時を稼げ!!」
「「「「「はは~!!」」」」」
自害をするようじゃ。
是が非でも首を取らねばと思うたが、死兵は強い。
こちらに比べ少数ではあるが一進一退の攻防で時を稼がれておる。
そうこうしている内に時を稼がれた。
そして、上様の寝所としているであろう建物より火の手が上がった。
これは・・・拙いな・・・首は・・・取れぬかもしれぬ・・・
首が取れるかどうかを不安視しておる殿(明智光秀)に報告せねばなるまい・・・
〇~~~~~~〇
本能寺は信長の定宿の一つとする為に本堂や周辺の改築が施されたと言われております。
堀の幅が約2mから4mで深さが約1mの堀、0.8mの石垣にその上の土居が周囲にあり、防御面では城塞のような構えを持っていたと言われます。
まさに本能寺の変を想定したような要塞ですね。
何と以外にも2007年に行われた本能寺跡の発掘調査で確認されそうです。
「信長公記」によれば、信長や小姓衆は外の喧噪は最初下々の者の喧嘩だと思っていたようです。
その後に明智勢は鬨の声を上げて、御殿に鉄砲を撃ち込んできたことで信長たちは事態を知ります。
信長は直ぐに「多分これは謀反だな。誰の企てだ?」と周りの者に聞いたそうです。
本当にチート武将は勘が良いですね。
その時、小姓衆の一人であった森蘭丸が「明智の軍勢と見受けます」と答え、信長はそれを聞き、本能寺の変の名台詞の一つ「是非に及ばず」を言い放ったと言われております。
通説ではありますが、この言葉は、光秀の謀叛であると聞いた信長が、彼の性格や能力など状況判断をして落延びるのは不可能と悟ったから発せられた言葉だと解釈されています。
誰が聞いたんだろう?という不思議もありますね~まぁ誰かが聞いて落延びたんでしょう、知らんけど。
信長は初め弓を持ち戦っていましたが、何度も弓を変えましたが最後の弓もしばらくすると弦が切れたので、次に槍を取って敵を突き伏せて戦ったと言われます。
右の肘に槍傷を受けてしまい戦えそうになくなった為に内に退いたようです。
その時に死期を悟り女房衆に逃げるよう指示したのですが従わなかった為、三度警告し、避難を促したと云われます。
「是非に及ばず」を伝えたのはこの人たち?知らんけど。
その後、信長は殿中の奥深くに篭り、内側から納戸を締めて切腹したと云われます。
本能寺は火に包まれ明智勢は首を取れなかったようです。
同じく嫡男の信忠は妙覚寺に居り明智勢と戦いましたがこちらも敗れ、同じく自害したようですが、こちらの首も取れませんでした。
さて、首が取れなかったことが光秀のターニングポイントだったとも言われます。
信長親子の首が無かったことで織田家家臣団は生存しているとして行動したことで混乱は少なかったとも言われます。
偽物でも首を晒して居ればまた違った展開になっていたかもしれませんが、この事を最大限に利用したのが羽柴秀吉の軍でした。
「上様ならびに殿様いづれも御別儀なく御切り抜けなされ候。膳所が崎へ御退きなされ候」と将兵に伝え裏切りを防ぎつつ中国大返しとその後の光秀との戦いで勝利しました。
実際に信長親子がこの世にもう居ないと言う事は確定情報となってしまうと秀吉が幾ら鼓舞しても裏切りが出たでしょうし、光秀ももっと賛同者が得られたかもしれませんが、結果、三日天下と言われる散々たる事となりました。
実際は13日間、光秀の天下だったようです。
三日と言うのは「短い」と言う意味なので三日天下は極めて短い間しか権力や地位を保てないことの慣用句として使われるようになりました。
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