第230話

家さん(徳川家康)の饗応、穴山梅雪、そして、今、藤林の諜報の者からもたらされた情報幾つかの情報を基に俺の中のパズルが完成した。

情報の中に惟任日向守(明智光秀)が俺たちの饗応役を解任されたこともあったが、俺の中で重要な情報は、信長さんが竜様親子(近衛前久・信基)含む多くの公家や僧侶等々を招き茶会を開いたと言う事だ。

その場所は「」・・・そうあの歴史的に有名な場所だ。

それを聞いた瞬間に一瞬にして思い出された。

何故思い出せなかったのか・・・え?耄碌しした?・・・いやいや呆けるにはまだまだ大分早い!!何だと!若くしてアルツハイマーと言う病魔に罹ることもあるだろうと・・・無いとは言えんが、俺は違うぞ!!

じゃあ馬鹿なだけだと・・・否定は出来んのが辛い・・・

おっと、思い出したのは言うまでもないだろうが本能寺の変で、多分、今まさに起ころうとしているのではないかな?

遠い記憶過ぎて既に継ぎ接ぎだらけのものであるが・・・


「長門守!!日向守殿の動向は掴んでおるか!!」

「饗応役を降ろされた後、毛利攻めの援軍を命じられたと聞き及んでおります」

「そうか・・・皆、話がある」


間違いないだろう。

俺はこれから起こるであろう大事件に介入することとした。

面倒事はごめんであるが、信長さんにもそれなりには世話になっていると思うし、見捨てるには忍びないが、今更感が半端ない。

これを教訓に少し俺の知る未来?を少し精査しておく必要があるだろう。

そんな事を考えながら、俺は急ぎ人員を振り分け行動に移る。

時は一刻を争う。

今の段階では俺の知る歴史の流れが早いのか遅いのか・・・

しかし、そんなに誤差が無いのではと思うが実際はよく解らない。

一つ解っているのは本能寺の変が直ぐにでも起こる事だけだ。

先ずは家さんを畿内より逃がさないといけない。

歴史で語られる「神君家康の伊賀越え」と言うやつだ。

俺が介入して大分変化している伊賀を果たして越えられるか不安があるので介入一択だ。

家さんとは昨日堺に遊びに来たばかりではあるが、事は命に係わる。

史実の家さんが態々伊賀越えを選んだと言う事は、それだけ危険視したから通常ルートを避けたのだろうし、間違いなく家さんは狙われている。

何かで見たから恐らくそうだろうと俺の野生が囁く。

伊賀越えと言うからには長門守に任せるのが良いだろう。

そして、俺は美羽・千代を伴い、本能寺を目指すこととした。

それ以外の者たちは長門守のサポートをお願いする形となる。


「家さん、もしかすると大事件が起こったかもしれない」

「大事件ですか?」

「ああ、織田殿(織田信長)が討たれると思う」

「な!・・・だ、誰にですか?」

「日向守」


家さんは驚愕のあまり固まっている。

一応に皆驚いているし、「馬鹿な」「いやしかし・・・」と言う声が聞こえる。

饗応役解任等々のもしかしてと思える要素もあると思うが、信じられないと言うのが皆の意見であろう。

そんな中で家さんの家臣の一人がニヤついているように見えるが・・・気のせいか?

何にしても「長さんに従いますよ」と言う家さんの一言で、徳川家臣団もそれに従うことを了承したようだ。


「俺は織田殿に会いに行こうと思う」

「だ、大丈夫なのですか?」

「まぁ俺たちだし~」


ニヤリと笑いそう答えると、「長さんらしい。ご武運を」と家さんは言い、長門守と話し合いを始めたので念の為成功例でもある伊賀越えを提案しておいた。


「伊賀は我が庭で御座る。お任せあれ」


そう長門守が言うので安全安心だと思うよ。

そして、家さん一行には長門守含めた俺の配下の者をサポートに付け畿内離脱をしてもらおう。

伊賀は忍者絡みでそれなりに俺が援助している地域の一つだし、場合によっては伊賀に隠れることも出来るだろうし、何より長門守に任せれば安心だろう。

俺は何時もの天狗スタイルに身を包み、美羽・千代と空を駆けることとなる。


★~~~~~~★


使者殿より言われたことは一々もっともなことであった。

上様(織田信長)の最近の為さり様は確かに酷い。

我妻に対しての事もそうであったが、四国の事などは宮内少輔くないのしょう殿(長宗我部元親)に当初切り取り次第をお認めになったはずなのに、土佐一国と阿波南半国の領有のみお認めになった。

長宗我部家がこれ以上力を付けすぎる事を嫌ったのは間違いないが、まさか約束を反故にするとは・・・

勿論、宮内少輔殿はそれを良しとせず要求を拒否し現在は織田家と対立関係にある。

私も色々と苦心したが、家臣の内蔵助(斎藤利三)は宮内少輔殿と親族となったほどの力の入れようであったのに・・・

本当に身勝手なことよ。

今回も饗応に不手際ありと言われ解任、理由を聞けば多少は納得できるが、事前に何の相談もなくそのような事まで投げられれば少しの不備も生じようと言うものを・・・意を酌むのも限界はあると言う事をあの方は知らぬでも無かろうに・・・

それだけでも腹立たしいのに、今度は羽柴殿への援軍に向えと言われる。

出世を争っておった羽柴殿の下に着けということだ・・・

いや、これは見せしめであろう。

これで私が委縮でもすればとでも思っておられるのやもしれぬ。

外様の私がこれ以上力を得ることを嫌ったか?いや、それならばここまで上様が私を使うまい・・・

手綱でも着けようとでも思われたか?

そうであれば、本当に舐められたものよ。

家臣を何だと思っておるのか?犬畜生と同じに考えておるのであれば、一噛みしてその喉笛を食い破って見せてやろうか?

松永殿や荒木殿など何故に上様(織田信長)に逆らったのかと思うておったが、今を考えれば、少しは理解できる。

私怨と言われれば私怨かもしれぬが、我儘に振り回される事に不安と忍耐が持たなかったのではないだろうか。

私の忍耐の緒がブツリと切れた様な音を聞いた様な気がした。

家臣たちの説得時に今までの為さり様を改めて振り返り、御恩なぞ一瞬にして吹き飛んだ思いぞ。

大義名分?そんなものはもうどうでもよいわ!

私怨と呼ぶなら私怨と呼ぶがいいわ!!

そんな事を考えておる間に家臣たちの議論は熱を帯びて行く。


「殿!敵は本能寺にあります!!」


内蔵助が皆に言う。

内蔵助曰く、上様への謀反の時機を見定めていたのは自分たちだけではないと言う。

羽柴殿の配下の黒田(黒田官兵衛)や徳川殿の配下の本多(本多正信)などが機を狙っていたと思える節があると内蔵助は言う。

内蔵助は私も何時か事を起こすだろうと踏んでいたようだ。

それもそれで更ならる驚きを感じた。

そして、内蔵助が秘かに謀反を企んでいた事にも驚いた。


「殿!先ずは上様と中将様(織田信忠)を討たねばなりませぬ!!」


他の家臣たちも重々しく頷く。

そして、内蔵助は更に話を進める。


「次に丁度畿内に来ておる徳川殿を亡き者とし、各地の織田家臣団を切り崩して行くが寛容かと存じます」

「問題は羽柴と柴田か?」

「左様で」

「先ずは柴田がこちらに攻めかかって来るのではと予想します」


議論は白熱し、内蔵助以外の者たちも上様への謀反は当たり前と言う様に話す。

内蔵助は、最初、最もこの謀反に異を唱えたとは思えない程に計画的で実効性のある申し分ない程の献策をする。

恐らくは何時も考えていたのであろう。

内蔵助の恨みは深そうじゃ。

内蔵助も黒田や本多同様にこの様な機を狙っていたのやもしれぬが、機会が内蔵助に訪れたのであろう。

いや、機会を得たのは私か。


「では、各々方、明日決行いたす。この件は内密に」


そして、決行日となり、申の刻(14時頃)に城を発つ。

皆が揃ったが、どうやら裏切る者は居なかった様だ。

もしやすると裏切って上様に報告する者も出るかもしれぬと思うたが、計画を話した者の中に裏切り者は出なかった様じゃ。

促されて兵の前で口上を述べる。


「敵は本能寺にあり!!我が家が天下を握る時ぞ!!」

「「「「「おおーーーーー!!」」」」」


計画通りであるが、この謀反を知るは私を含め六名のみ、他の皆を騙しておるが天下を取ればそれもうやむやに出来よう。

口上後に場に鬨の声が響き渡り、一万三千の兵が一糸乱れず目的の地を目指した。

信長は本能寺にあり!!


★~~~~~~★


上様が討たれる?何を馬鹿な事を。

徳川殿と丸目三位殿が語られる内容を聞きながら儂は思案する。

現在の織田家は間違いなく天下を牛耳っていると言える。

このまま行けば十年以内には織田家が日ノ本全てを平らげ天下統一をするのは間違いないであろう。

しかも、上様の最も信任篤い惟任殿が裏切る?

何を言っておるのか皆目見当もつかぬ。

もしやすると、儂を討つ為の何か策か?

儂の目線の先には武田典厩がおり、ジッとこちらを睨んでおる。

今は元であったな。

今は式田と名乗っておるようじゃが、間違いなく武田典厩で間違いない。

彼は丸目三位殿の配下に加わったと聞く。

儂の事を間違いなく恨んでおる者じゃ、油断は出来ぬ。

もしやすると信濃で罠を儂が仕掛けていたことも知っておるのか?

いや、知っていたとしても今はまだ手出しは出来まい。

しかし、ここを離れ山中に分け入れば・・・それが狙いか!!

徳川殿もこの茶番を演じ儂を亡き者にする手立ての様じゃ。

信用して徳川殿と今までは行動を共にしておったが、ここは別れて行動することが吉であろう。

それに、儂は謀反なぞ信じぬぞ!!


〇~~~~~~〇


いよいよ本能寺の変が開幕!!

本能寺の変での各人の行動は不可解な物も多々あります。

家康の行動も不可解ですし、色々な勢力の動きも不可解な物があると言われます。

中でも惟任(明智光秀)の動きは不可解の極みです。

光秀は本能寺襲撃の際に本当に土壇場で配下の者たちに伝えたと言われています。

明智五人衆などと呼ばれる光秀の重臣たち明智秀満、明智光忠、斎藤利三(内蔵助)、藤田行政、溝尾茂朝に伝えた後、この5名には起請文を書かせ、人質を取ったと言われています。

その重臣たちの中でも斎藤利三は最も反対した人物などと呼ばれています。

しかし、私の考えとしては織田信長に最も憤りを感じていたのは斎藤利三ではないかと思っております。

斎藤利三は長宗我部元親と縁戚関係を結びました。

娘を元親の嫁に出し、義理の親父となっていることからも信長に対して物申したいことはあったと思います。

光秀や5人衆の誰かが計画を練ったものと思いますが、中々に凄いな~と思うことが多々ありますが、語られる中で最も上手いと思ったのは、一万三千の兵が何の違和感も無く信長への謀反に従ったことなのですが、実は兵たちには攻めているのが信長だと言う事は知らされていませんでした。

兵士たちには信長の命令で京に滞在中の家康を討つ為に今行動していると伝えられたようです。

その為、メインターゲットの信長・信忠親子だけではなく、家康も的とされたようですし、光秀にとっては家康は排除対象だったようです。

本能寺の変での名台詞の一つ、「敵は本能寺にあり」ですが、実際は定かではないようですが、江戸時代の前期に書かれたと言われる「明智軍記」には「敵は四条本能寺・二条城にあり」とされているようです。

何方に居か判らなかったと言うのがリアルに感じますね~

さて、大軍を京の市中に入れるのですから本来は色々と許可が必要ですが、ここでも上手い事やったと言われています。

信長の命令で毛利征伐の陣容検分を行う為として各セクションを通り抜けたとも言われます。

また、この変の軍勢の中には明智勢以外も紛れていたとも言われます。

中でも外国人や僧兵なども混じっていたなどとも言われますから各勢力がチャンスを狙っていたのかもしれませんね。

特に面白いのが、そんな明智勢と思えないような者たちが明智家の旗物差しを着けていたと言うのですからもしかすると綿密に練られた計画で、光秀は隠れ蓑だったのかも・・・

裏に隠れた大物がまだ居そうですね~

物語上、複雑にすると長々となってしまう為結構端折ります!!

さてさて、本能寺以外にも梅雪と豊長(武田信豊)の行動も気になる所ですね~

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