第218話

「この子、何か動物の顔した方に守護されているよ」

「え!?里子は解るのか?」


そう言った里子がコクンと頷く。

動物の顔?何者だろう。

勿論、俺にその姿を見る事は出来ないが、里子にはどうやら昔からそう言った類の物が見える様だ。


「名前はあるのか?」

「・・・」


その少年は困ったような顔をするばかりで答えない。

まぁ里子の奨めだし買うよ。

それに、神関連なら・・・うん、多分運命?


「旦那、そいつの名は「シンガ」と言いやす」

「ふ~ん、どんな意味?」

「え~と、災いの子とと呼ばれていたので呪いの子ってことでxingamentoシンガーメント(呪い)の語源から「シンガ」と名付けやした」


目の前の男が名を付けたらしい。

「シンガ」と名付けられた少年を見れば眉を顰め嫌そうだ。

まぁ呪いの「シンガ」何て名前を付けられて喜ぶのは中二病の重度患者位のものだろう。

後でこの子の名前を変える事としようと心のメモに書き込んでおいた。

今回は成人男性3名に女性2名、子供が男女合わせて5名の計10名の奴隷を購入した。

元女騎士の翡翠ひすいもその一人だ。

成人男性はジョン・ソン・ベンの三名で職人さん。

成人女性のアンはジョンの奥さんとの事、そしてその子供のホセ(兄)とマリア(妹)。

アリと言う少年とサラと言う少女でそのままの名で呼ぶこととした。

さて、そうなると「シンガ」少年の名前を早急に決める必要があるが、情報が外見から・・・う~ん、思いつかんので帰り着くまでに名を付けることを約束したよ。

「シンガ(仮名)」少年は期待していないようで何となく頷いていたよ・・・よし!良い名前を付けて喜んでもらおうかと言う気になったぞ!!


★~~~~~~★


あ~またもやこの空間にやって来た。

何回も来たのでもう慣れた。

振り向くと何時もの様に優雅にお茶をしながら摩利支天様が何方かとこちらを見ていた。

あ~里子の言う動物と言うのは、多分、この方なのだろう。


「またお会いしましたね」

「また知神ちじんに頼まれてな」

「知人?・・・あ!人ではなく神か・・・」


字が違ううんだな~とか思いそのままの思いを口に出した。

どうせ神は俺の頭の中も覗いているだろうしね。


「ふははははは~お前中々面白いな」

「そうですか?」

「うむ、摩利支天からは聞いておったが、実に愉快!!」


摩利支天様は俺の事を珍獣とでも思っているのか?

摩利支天様を見れば、気にした素振りも無く優雅にお茶を飲まれている。

それにしてもこの目の前の方は何者だろうか?


「お!名乗っておらなんだな。我はラーの子でセクメトと言う」

「セクメト様ですか・・・」


何処の神だ?それに、顔がライオンなので少し聞き取り辛いな。


「お!そうか?」


あ~思考を読んでいるのだろう。

セクメト様が一瞬ピカリと光ったかと思うと女性の顔となった。

頭に丸い何かを載せ、民族衣装のような格好は変わらないが、顔はあの少年を女性にした様な美しい顔で、頭部に可愛らしいケモミミを付けている。

多分、ライオンの耳なんだろうな~

里子が見たら喜びそうだ。

そう思っていると、摩利支天様が声を掛けられた。


「うふふふふふ~里子はケモミミが好きなのですか?」

「はい、弟(春)と妹(麗華)に神獣の隔世遺伝で狼の耳がありまして、その事を殊更に喜んでおりますれば」

「そうか、そうか、セクメトどうじゃ!こ奴は中々に面白かろう?」


そう言って摩利支天様はセクメト神に話を振る。

セクメト神は「うむ」と頷いて、話を続けた。


「我が末裔がお主の下に行ったでな」

「あ~もしかして「シンガ(仮名)」少年ですか?」

「そうじゃが、その名は好かぬ」

「はい、変える予定です」

「左様か、良い名を付けてやっておくれ」

「はい」


その後は何時もの様にお茶会に混ざり、セクメト神に色々聞いて名前の参考させて頂くこととした。

先ず最初に目に着くのがケモミミ・・・いや、頭の上の丸い円盤状のものだ。

何かと問えば、このセクメト神は太陽の灼熱の化身でもあるそうだ。

それを表した物らしい。

破壊の神で、復讐の権能があるそうだ・・・怖いわ~

そして、王の守護神でもあるそうだ。

更に、伝染病をもたらす・・・神・・・

名前を決めようかと言うのに不吉なもののオンパレード・・・


「歯に衣をとまでは言わぬがもそっと遠慮せい」

「あ~申し訳ありません」


そして、気になったので「シンガ(仮名)」少年の生い立ちを聞いた。

何でも先祖返り的に神の祝福を受けて生まれた子らしい。

しかし、余りにも強い力の為に普通の人間の妊婦には出産が堪えられず母親は産んだと同時に死亡。

その事で少年を無下に扱い神の怒りを買ったその一族は次々と死者を出したそうだ。

そして、祈祷師みたいな者がその家の親父に呼ばれ占うと少年には「災い」があると言い「手放せ」と言ったそうだ。

そして、奴隷となる。

見目が良いので最初は買った商人も喜んでいたが神の加護で守られている少年は中々売れないまま流れ流れて俺の下にと言う事らしい。

少年をぞんざいに扱った者たちは神罰が下されたと言う。

聞いている間に名前を決めたよ。

灼熱の神から取って「ほむら」と名付けよう。


「おお!中々良い名じゃな」


神が言うのだから間違いなし!!

そして、朝となり、少年に新しい名を与えた。


〇~~~~~~〇


又も神!!

セクメト神とは古代エジプトの一柱で、エジプト神話における太陽神のラー神の片目から生まれた神と言われたいます。

本文でも書いておりますが、ライオンの頭に頭頂に赤い円盤を載せた神で、太陽の灼熱を神格化した神と追われています。

父神ちちがみであるラー神はヘリオポリス九柱神の一柱で力のある神で隼の頭に頭頂に赤い円盤を載せた神として描かれます。

隼の目からライオン・・・何とも面白い構図です。

さて、セクメト神はラー神が自分を崇めない人間に復讐して殺戮させるために地上に送った神と言われています。

ラー神はオシリス神らの意見を聞いてセクメト神を送ったことを後悔したのですが、破壊神である彼女は止まりませんでした。

止める為に血に似せた赤い酒(ビールと言われています)を飲ませ宥めて止めたと言われています。

エジプトの砂漠が赤いのはこのせいだと言われています。

セクメト神は伝染病などを司る神で、病の風を吐く女神としても語られます。

その為、セクメト神を崇める神官たちは、伝染病を鎮める特殊な医師や呪術師でもあったようです。

そして、それが転じて無病息災の神としても崇められ、良き治世を行えば民健やかで王も長寿を得るだろうと言う事で王の守護神とも語られることもあるようです。

エジプト神話も中々に面白いですね。

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