第216話
奴隷となって大凡2年ほどの歳月が過ぎ去ったことだろうか?
流れ流れて異国の果ての国に私は連れて来られた。
(※ポルトガル語での会話となります。)
「おい!起きろ!!」
「何だ?」
「お前のご主人様になる方にお会いするんだ、失礼無いようにな」
「ふん!私より強い者にしか仕えぬと言うたであろう」
「ふはっ!がはははは~」
「?・・・何がおかしい?」
奴隷を管理する目の前の男が私の言葉に大笑いする。
奴隷と言っても人だ、人が人である以上はそぐわぬ事をされ不満に思うことは当たり前の事で、それに抗う事もまた奴隷だからと言って止める事は出来ぬと言うのに・・・
「何がおかしい?」
「いや、お前の望み通り、強い方なのでな」
「ふん!それならばよい」
「そうか、良かったな」
「ああ・・・」
奴隷が主人を選ぶなぞと思うかもしれないが、その条件で私は買われた。
私を買った商人は「貴方は奴隷に落ちた事は不幸かもしれませんが、私に買われこれから連れて行く所で売れれば、幸運となるかもしれませんね」と言った。
ふん!奴隷になったことは本当に不幸だが、買われた先が幸運?・・・この商人は何を言っているのか?
私が望むのは戦いの場だ。
戦奴として売られることを望んでいるはずがそうならなかったが、面白そうだとも感じている自分がいる。
「お~来た来た!丸目様、彼女が今回連れて来た中で一押しの者です」
「それで?彼女は何が出来るんだ?」
「はい、彼女は元騎士で、剣技など優れた腕前ですよ」
「ふ~ん・・・高いのか?」
「いえいえ、丸目様がお買い求めならばお安くさせて頂きますよ」
目の前の黒髪ののっぺりとした顔の男は何者なのか?
気配だけで強者の風格と言うか、ただ者では無い気配がビシビシと伝わって来る。
この国の言葉では無く、ポルトガル語を話せるようで、流暢に話し商人とやり取りをしている。
「それで君の名前は?」
「奴隷に名は無い・・・」
「そうか・・・」
そう言いながら黒人の女性に話しかける男。
(※丸目一家での会話は日本語です。)
「あ~そう言えば美羽たちも最初にそんなこと言っていたな」
「ふふふふふ~そうでしたね。長様に初めて会った時に名前を聞かれた私たちはそう言いましたね」
黒人の女性は元奴隷?
奴隷にしては身形も綺麗だし、何よりこの女性も出来る。
「父上!この方を手に入れるのですね?」
「おう!里子はどう思う?」
男を父と言うと言うことは親子か。
しかし、その子は金色の髪に金色の目。
不思議な親子だ。
「商人」
「はいはい、丸目様」
「腕試しは出来るか?」
「勿論!試して頂ければお買い得であることがご理解頂けると思いますよ。はい」
「えらく自信満々だな」
男と商人がそんな事を話している。
そして、男と立合うことになったのはいいが、何故か黒人の女性と子供とも立合う事となる。
奴隷管理の男より木剣を手渡され、買主の男と向き合う。
その男の持つ剣はただの木の棒?いえ、この国の武器を模った物なのだろう。
「準備は良いか?」
「何時でもいいわ」
そう答えると男はニッと笑い上段に構えた。
いや、上段斜めだな。
私は横に構える。
私は横薙ぎを得意とした、それがゆえにこの構えに行き着いたともいえる。
さて、お手並み拝見。
「お!横薙ぎを使うと言うことはバスターソードでも本来は使うのかい?」
「そ、そうよ・・・」
構えを見ただけで私の本来の獲物まで割り出すとは・・・やはり出来る。
彼は如何にも面白そうと言うように、構えを変え正面に構えた。
面白い!態々受けてくれるという事であろう。
「では、参る!!」
思いっきり手加減なしの横薙ぎを彼に放つ。
受けるかと思っていたが刃先に刃先を当てて軌道を逸らされた。
何だこれは!!
「な、何をした!?」
「ん?刃横の下面に刃先を当てて軌道を逸らしただけだが?」
「いや、それは解る・・・しかし、そんな事が可能なのか?」
「いや、今見せただろう?」
簡単に言ってくれるものだ。
渾身の横薙ぎを受けるではなく逸らす?刃横の下面に当てて?
達人としか言いようがない。
今まで見た来た剣士の中で間違いなく最高の人物であるのは間違いない。
「どうした?笑っているぞ」
「そ、そうか・・・笑っているか・・・」
どうやら私は笑っているらしい。
その後は何度も何度も攻撃を仕掛けるが、全ての攻撃をしのがれた。
気が付けば首元に彼の木剣が添えられていた。
そして、休んだ後に今度は黒人の女性と立合うが、こちらは全て躱されてしまう・・・
一瞬の隙を突かれ又も負けてしまった。
「参った・・・」
更に主の娘との試合でも負けてしまった。
確かに疲れてはいた・・・しかし、子供相手に負けるとは思わなかった。
「子供にすら負けるとは・・・」
「おう!家の里子は天才だからな~」
自信満々に主様は言う。
主様の前に跪いて首を垂れた。
自然と騎士の忠誠の儀の様な動作をしてしまったが、異国の者に理解されないと思った矢先、肩にこの国の剣が添えられた。
そして、肩を叩かれて私の忠誠は受け入れられたようだ。
「その忠誠受けた」
「私の忠誠は貴方様に」
何故に主様が異国の騎士の作法を知っていたかは疑問に感じたが、後々に我が主様はあのガブリエル様の直弟子で、多くの事を教えられた聖人と知る事となる。
我が忠誠は主様に捧げることを本心より誓おう。
〇~~~~~~〇
新キャラの女騎士目線の話でした。
次回は名付けを行う予定?
さて、今回のうんちくは騎士の叙勲式について。
中世頃の騎士の資格を授与する為の通過儀礼としての忠誠を誓う行為は、騎士の爵位を叙勲するための儀式でもありました。
これをアコレードと呼びます。
肩を剣の平らな面で軽く叩くだけでなく、首を抱くなど、さまざまな形があるようですが、フランスの初期には騎士の左頬にキスをしたそうです。
そして、面白いのがイングランドでしょうか?
初代イングランド王であるウィリアム1世が息子のヘンリー1世に爵位を授け、その栄誉を称える儀式を行った際に「殴打」をしたとの記録があるそうです。
それに倣い、本当に素手の拳で耳を殴るものだった様なのですが、その後、それは改められ、剣の平らな部分を首の横に当て、優しく撫でることで代用されるようになったと言われています。
騎士の剣で肩を叩くことをもって称号が授与されるたとみなされることが一般的になり、騎士だけではなく爵位を授かる際の儀式としてそれが採用されたと言われます。
「殴打」と言うのもある意味見てみたくはありますが、現在一般的なアコレードって何かカッコいいですよね~
さて、騎士になる為には「見習い」から入り忠誠心やマナー等々の騎士になる為に必要な知識を学びます。
そして、「従者」となり騎士に直接仕える立場となりつぶさに見たり功績を積んだりして行きます。
最終的にその中で選ばれた者が「騎士」となり領主や王に忠誠を誓い、直接仕えるようになります。
と言うこととなる為、封建社会においての「騎士」と言うのは特別なステイタスだったようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます